LOGIN【毎週火曜日は公開お休みします】今年33歳になる石口 優希(いしぐち ゆうき )は、年下の夫に甘く愛され幸せだった。 しかし徐々に夫に他の女の影がチラつき出した。それは夫の秘書で、彼女の名目上の妹だった。目の前で絡み合う2人の姿に崩れ落ちた優希は、自分が妹の代わりだったと知る。そして夫が彼女と結婚した理由は、幼い頃の彼女の犯した罪への復讐だったことも。夫からの仕打ちに耐えられなくなった彼女は、死を偽装し自由を手に入れた。2年後、夫は長年の愛をようやく認め後悔した。
View More「…時間がある時にでも、三滝社長とゆっくり話をしたらどうかしら。彼も離れていた間のことをゆうちゃんから聞きたいと思うの。」 老夫人の提案にそうだろうかと不安に思うも、とりあえず頷き車に乗った。 手を振る老夫人の横で、老人も優希に軽く頭を下げるとすぐに老夫人に視線を向け、彼女の肩にストールをかけた。 (今、おじいさんにとって1番気にかかってることはおばあさんなのね。) あからさまな老人の態度に思わず優希の口元に笑みが浮かぶ。 そこまで気にかけてもらえる老夫人が羨ましく思うと同時に、今や自分と暁春ではその未来像が浮かばなくなっていることに気づき、優希の胸に悲しみが滲む。 車が本邸の門から出る時、玄関から暁春が出てくるのが見えた。 その傍らに有美がいるのも見え、優希は目を逸らして前を向く。 遠目で見た2人は最初に見た時に感じた通り、お互い揃えたように服装のバランスが取れていた。 まるでカップルがパーティのドレスを合わせるように、デートでペアルックを楽しむように。 優希は息苦しさを感じて窓を開けた。 春の夜風が顔を撫で、どこか懐かしい匂いが鼻腔に触れる。 (…人がずっと覚えているのは嗅覚だったかしら。) 夜の少し湿った匂いは子供の頃に嗅いだものだったか、それとも昼は外出出来ないからとたまに暁春としていた夜の散歩の時だったか。 思い出せないが、とても懐かしい気持ちになるのは、この匂いを嗅いでいた当時の彼女はとても幸せを感じていたのだろう。 優希は背もたれに体を預けて目を閉じると、自然と体の力が抜け、今日1日緊張していたことを思い出した。 あの2人を見た時の嫌な気持ちは、懐かしい匂
優希が振り返ると、沈痛な面持ちの老夫人が立っていた。 眉毛を下げて視線を落とし、肩も落とした姿は桃子に退去を命じていた時の毅然とした姿と真逆だった。 「桃子と桜が本当にごめんなさい。あの馬鹿な2人が台無しにしてしまった…。」 頭を下げる老夫人に優希が慌てて肩を支える。 「謝らないでください!おばあさんが謝ることじゃありません!」 「あの2人は私が育てたの、私の育て方が間違っていたのよ…。本当に申し訳ない…。申し訳ない…。」 顔を下げたまま声を震わせる老夫人から少し離れた所に老人が立っている。 その表情は怒りなのか悲しみなのか、優希には判断がつかないもので、ただ分かるのは、老夫人を心配しているようだということだった。 優希は、顔をあげない老夫人の背中を優しく撫でながら話しかける。 「おばあさんとおじいさんが味方でいてくれたので大丈夫です。…お父さんも、たぶん庇ってくれたんだと思います。それだけで十分ですよ。」 ちょうどダイニングから見えなくなった隆一の背中に目を向け、優希は落ち着いた声で言った。 「だから顔を上げてください。結果的に妊娠を伝えることは出来ましたし、桃子さんに笑われる原因を作ったのも私ですから…この後のことは、帰ったら暁春と話します。」 老夫人は顔を上げると優希の手を握る。 「もしあの子が馬鹿なことを言ってきたら…、必ずおばあさんに連絡を頂戴。」 その言葉に優希の表情が固まった。 考えないよう
「細工、しましたね。」 優希が反応をしないと、暁春は誰に言っているのか知らすように口調を変えた。 優希がそろりと目線をあげると、先ほどの睨みは和らいだが、それでも凍りつきそうな視線でまっすぐ見てくる暁春と目が合う。 その目には老人の言う通り喜びは無く、優希は歯を噛み締めた。 「え?何のこと?」 桜は戸惑った声をあげるが、桃子は察したのか大きく吹き出した。 隆一が嫌そうな顔をするも桃子は気付かず、今までで1番蔑んだ目で優希を見て言った。 「優希ちゃん、地味なくせに案外行動派なのね。あはっ、コンドームに細工するなんて!」 大きな声で言われ優希は耳まで真っ赤にして俯いた。 隆一はますます眉を寄せて桃子を睨みつける。 「どうやったの?やっぱり穴を開けたのかしら?」 静かなダイニングには桃子の楽しそうな声だけが響き、優希は居た堪れず、さらに顔を俯かせた。 俯くことはより自分を惨めに見せるだけだとわかっていても、暁春が笑うならまだしも、桃子から笑われることに優希は顔を上げて耐えることができなかった。 - 既に妊娠を知っていた老人は密かに暁春と有美の反応を見ていた。
「本気で言ってますか?」 沈黙は桜の冷たい声で破られた。 有美に向けていた笑顔の欠片も見えない表情は、顔立ちは違えど暁春と似ており、2人は兄妹なのだと改めて思わされる。 「本当よ。今6週目になるわ。」 優希は桜をまっすぐ見て頷いた。 ようやく言えた達成感から少し気分が軽くなったように感じるが、目の端にぼんやりと見える暁春を直視することは出来ずにいた。 「有り得ません。お兄ちゃんはいつも避妊をしていました。何故妊娠が可能なんですか?」 桜の言葉に優希は眉を寄せた。 (桃子さんと桜ちゃんが何故知ってるの…?) 先ほどの桃子の発言でも感じたが、夫婦生活のことを何故2人が知っているのか…、優希 は暁春と有美を見る。 暁春は何か考え事をしているようで、グラスを握ったままテーブルの上をぼんやり見ており、その隣の有美は呆然とした表情で優希を見ていた。 「嘘か、野良の種か…どっちかしらね。」 桃子が懲りずに愉快そうな顔でテーブルに乗り出し言った。 不倫を言われていることに気づいた優希が顔を青くさせる。 彼女はコンドームへの細工の説明ばかりに気を取られて、他の男性の存在を疑われたり、そもそも妊娠自体を疑われる可能性を失念していたのだ。 「野良なんてっ…お腹の子は正真正銘暁春の子供です!」 「ふーん?まず妊娠が本当ならエコー写真見せて欲しいわね。」 優希の焦った声に桃子の眉毛が上がる。 「持ってきていないので、今はお見せできません…。ですが、井竜中央病院に記録があります。」 「そう。まぁ、妊娠が事実だとしても、暁春の子供かどうかの疑問は残るけどね。」 「うちの病院の産科で優希ちゃんの元カレが働いてるらしいじゃない。…その元カレの子供だったり
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