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第4話

Auteur: 神崎琉美
里沙の目は虚ろで、感情の欠片も感じられなかった。

私たち全員の携帯は信号がなく、LINEも送信できず、メッセージは受信するだけだった。

12階の住人たちは次第に集まり、ここに住んでいる全員が抗議し始めた。もう一晩経ったのに、こんな大事件が放置されているからだ。

里沙はゆっくりと部屋のドアを閉め、冷徹な目で私たちを見つめた。

「大吾、どうして彼女が死んだってわかったの?」

大吾は眉をひそめて言った。「昨晩、椅子が倒れる音を聞いたんだけど、誰もそれを直さなかった。その後、上の階からは一切音がしなかった。今、ほぼ24時間経って、ようやく気づいたんだ。何か起こったんじゃないかって」

里沙は私を見つめた。「真帆、昨晩何か聞こえた?」

私は里沙を見返して答えた。「私はずっとライブ配信してたから、全然聞こえなかったよ」

里沙は考え込むようにうなずき、言った。「私は管理会社に報告する。みんな、自分の部屋に戻って調査を受ける準備をして」

「全員、部屋から出ないでください」

「何だと!小澤里沙、それがあなたたち管理会社の対処法なの?何の権限で……」

人々はますます集まり、騒がしくなったが、里沙は微動だにせず、ただ命令を繰り返し続けた。

「全員、部屋から出ないで、調査を受ける準備をしてください」

「全員、部屋から出ないで、調査を受ける準備をしてください」

「全員、部屋から出ないで、調査を受ける準備をしてください」

その時、20代の男が飛び出し、腕を振り上げてマンションから出ようとした。

私はふと気づいた。その男が率いる人たちの袖口に、ボタンがチラッと見えた。

しかしあれは青いボタンだった。

その瞬間、私は口を開こうとしたが、あの男はすでにその仲間たちを引き連れてエレベーターに乗り込んで下降し始めた。

エレベーターの扉が閉まる直前、ぼんやりとその男が私に向かって笑ったように見えた。

その笑顔は、非常に不気味で、口角が上がった幅が異常に大きかった。

私は確信していた。彼はそばにいる人に向かって笑っていたのではない。

私、緒方真帆に向けてその笑顔を見せたのだ。

私は何かが起こる予感がした。

「リン——リン——リン——」

私の携帯の深夜0時のアラームが鳴り響いた。

誰かがエレベーターの下行きボタンを押しながら、「このエレベーター、なんかおかしいぞ!」と言った。

私はエレベーターの表示画面を見ていると、数字が激しく点滅し始めた。

3、7、12、1……

約2秒も経たないうちに、ドーン!

爆発のような大きな音がした。

エレベーターが落下したのだ。

みんなが混乱している隙に、私は美織の赤い封筒をポケットに忍ばせた。

エレベーターが再び12階で止まり、扉が開いた瞬間、私の足は重く感じた。

エレベーター内に掲示された「エレベーター利用ルール」の看板には血が飛び散っていたが、文字は依然として鮮明だった。

「エレベーター利用ルール」

「一、尊敬する住人の皆様、もしこのメッセージをお読みの際に危険な状況に直面している場合、慌てずに冷静に行動してください。このルールはあなたの命を守ります」

「二、エレベーターは上下階の移動のみに使用してください」

「三、エレベーターの数字が点滅したり、急に下降したりした場合は、慌てずにルール二を守れば、エレベーターは無事です」このルールの後には括弧があり、(必要ない場合は安全通路を利用しないでください)と書いてある。

「四、エレベーター広告を破壊しないでください」

大吾は何度もその言葉を繰り返した。「上下階の移動にのみ使用してください」

どうやら、ここにいる人たちは逃げようとしたから、エレベーターが落下したのだろう。

中にいる全員の袖口にあった青いボタンは、すべて血に染まって赤くなっていた。
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