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第2話

Author: アイビー
電話を切った後、私は迷うことなく荷造りを始めた。去ると決めた以上、ここには何も残すつもりはない。

翌朝、アレクサンダーはエレナを伴って屋敷に戻ると、そのまま地下の私設武器庫へと向かった。

「エレナを射撃場に連れて行く。彼女には護身用の武器が必要だからな」

荷造りをする私を見て、アレクサンダーはどうでもよさそうに言い訳をした。その声には相変わらず傲慢さが滲んでいた。

「まだそんなことをしているのか?一体どこへ引っ越すつもりだ?」

私は彼を無視し、服を畳んでスーツケースに詰め続けた。

しかし、エレナは真っ直ぐディスプレイ棚へ向かい、特注の純金製ベレッタの拳銃を手に取った。

それは去年、アレクサンダーが私の誕生日に贈ってくれたもので、私が射撃の練習に使っていた銃だ。

「わあ、この銃、すごく素敵」

エレナは銃をもてあそび、銃口をわざと私の額をかすめるように揺らしながら、作り笑いを浮かべた。

「あら、ごめんなさいアイビー。手が滑っちゃった。ドンが射撃を教えてくださるから、これ、少し借りてもいいわよね?」

自分に向けられた黒い銃口を見ても、私は怒るどころか微笑んだ。

次の瞬間、私は彼女の手首を掴み、基本的な武装解除の技術で彼女のホールドを崩し、拳銃を奪い取って彼女の額に突きつけた。

流れるような、あまりにも速い動作だった。

エレナは悲鳴を上げ、すぐに怯えた表情を作ると、震えながらアレクサンダーにすがりついた。

「ドン!助けて!アイビーが私を殺そうとしてる!」

アレクサンダーの顔色が変わった。彼は私の手首を掴み、力ずくで銃を取り上げた。

震えるエレナを背後にかばい、私を睨みつける。

「アイビー!正気か?彼女はちょっとふざけただけなのに、本気で傷つける気だったのか?嫉妬はわかるが、限度というものがあるぞ!」

私は痛む手首をさすりながら、冷ややかな視線を返した。

「銃はおもちゃじゃないわ。持ち方も知らないようだから、教えてあげただけよ」

アレクサンダーの目は険しく、完全に私が理不尽な振る舞いをしていると思い込んでいた。

彼は部屋の隅にある廃棄ボックスを漁り、錆びついたリボルバーを取り出すと、私の足元に放り投げた。

「そんなに銃遊びが好きなら、こいつを持っていけ」

それはスミス&ウェッソンM10だった。

私は凍りついた。

2年前、私は敵対するファミリーに拉致された。彼らはまさにこの型のリボルバーを私の頭に突きつけ、ロシアンルーレットを強要したのだ。

それは私の人生における最大の悪夢だった。アレクサンダーもそのことを知っている。彼は私を守り抜き、二度と同じような銃は見させないと誓ってくれたはずだった。

しかし今、彼は怯える愛人を慰めるためだけに、私の悪夢を足元に投げ捨てた。

「もう騒ぐのはやめて、エレナにその金の銃を譲ってやれ」

彼は苛立たしげに言った。

「彼女は私の命の恩人だ。最高のものを持つ資格がある」

床に転がるリボルバーを見つめるうち、私の心に残っていた最後の愛情の火種が完全に消え去った。

私は身をかがめ、その銃を拾い上げた。

アレクサンダーは私が折れたと思ったのだろう。彼が何か言いかけた瞬間、私は暖炉へと歩み寄り、燃え盛る炎の中へ銃を放り投げた。

「アイビー!」

アレクサンダーは激怒した。単なる銃の問題ではない。私がドンとしての彼の権威に泥を塗ったのだ。

「私の厚意を燃やしただと?もう一度だけチャンスをやる。拾え!」

暖炉の炎が、私の落ち着き払った顔を照らし出す。私はアレクサンダーを見据え、はっきりと告げた。

「ゴミを拾わない。腐った愛情も同じことよ。アレクサンダー、あなたには反吐が出るわ」

彼に対してこれほどの言葉を使ったのは、おそらくこれが初めてだった。

アレクサンダーは怒りのあまり笑い出し、その青い瞳には嵐が渦巻いていた。

「いいだろう、アイビー。お前がそこまで強情を張るなら、私が冷酷だなどと責めるなよ。

逃げ道を与えてやったのに、お前はそれを選ばなかった。行き止まりにぶつかってから泣きついてきても遅いからな」

そう言い捨てると、彼は私を一瞥もせずに武器庫を出て行った。

エレナはすぐには彼を追わなかった。

彼女は階段の上から私を見下ろし、冷笑を浮かべた。先ほどの哀れな態度は消え失せ、代わりに歪んだ優越感が顔を出していた。

「アイビー、あなたは本当に自分の立場がわかってないのね」

彼女はアレクサンダーから与えられたばかりの金の銃を撫でた。

「妻だからって何?ドンが毎晩誰のベッドで寝ているか、みんな知ってるわよ。あなたみたいに色褪せた女が、私に勝てるわけないじゃない」

私は冷ややかに彼女を見た。

「弾除けになって這い上がっただけの秘書が、永遠に愛されるとでも思ってるの?」

エレナの表情が一瞬変わり、やがて異様な笑みを浮かべた。

「永遠なんて必要ないわ」

そう言うと、彼女は体を後ろに倒し、自ら階段を転げ落ちていったのだ。

「ああーっ!助けて!ドン!!」

血の凍るような悲鳴が屋敷中に響き渡る。

玄関に到達したばかりのアレクサンダーがその音を聞きつけ、狂乱したように駆け戻ってきた。

階段の下で頭から血を流して倒れているエレナを見て、彼は全身を震わせた。

「エレナ!」

彼は彼女を抱き起こし、階段の上に立つ私を見上げた。その目はあまりにも冷酷だった。

「アイビー……どうしてそこまで悪魔になれるんだ?ただの嫉妬で、私の命の恩人を殺そうとしたのか?!」

私は高みから、この滑稽な三文芝居を見下ろしていた。ただただ、その馬鹿馬鹿しさに呆れるばかりだ。

「私は突き落としてないわ」と、無関心に答える。

しかし彼の目には、私のその冷静さこそが、反省の色がない傲慢さの証拠として映った。

エレナは弱々しく彼の襟首を掴み、涙を流した。

「アイビーを責めないで……私が足を踏み外しただけなの……ドン、私のためにアイビーと喧嘩しないで……」

見事なほどの追い打ちだった。

アレクサンダーの目に宿っていた失望は、完全な憎悪へと変わった。

「黙れ。この女のために庇い立てする必要はない」

彼はエレナを抱き上げた。私を通り過ぎる際、彼は冷酷に宣告した。

「今夜の年次マフィア舞踏会、私のパートナーはエレナだ。

お前がマダムとしての器を持たないのなら、それにふさわしい女を見つけるまでだ」

そう言い残し、彼はエレナを抱いたまま、二度と振り返ることなく去っていった。

私はそこに立ち尽くし、遠ざかる車のエンジン音を聞きながら、心の中にあった最後の波紋が静寂へと沈んでいくのを感じていた。

もうどうでもいい、アレクサンダー。

だって、あなたの背中を見送るのは、これが最後になるのだから。

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