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砕けて咲け、再生の華

砕けて咲け、再生の華

By:  カレン・WCompleted
Language: Japanese
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私はニューヨークのマフィア王――エリオット・グレイヴスの妻になり、今日で八年目だ。 なのに、結婚記念日の朝に届いたのは、プレゼントでも花でもなく――一枚の写真だった。 エリオットと、私の親友ライラが、夫婦のようにグラスを合わせて笑っている。しかも、ライラの腕の中には――私の息子、オーウェンがいた。 私は写真から目を離さず、返した言葉はたった二文字。 「完璧」 その三十分後。 玄関のドアが乱暴に開く音。廊下に響く怒鳴り声。エリオットが顔を真っ赤にして、靴も揃えずに踏み込んできた。 「なんでいつもそんなに悪態をつくんだ?いつも誰かを皮肉り、自分以外の全員を責めて……反省などしない!」 私は動かないし、答える気にもならない。 ――そのとき。 オーウェンが私の脚をぐいっと押し、睨みつけた。 「悪いママ。ライラさんが本当のママだったらよかったのに」 胸がきゅっと潰される感覚に襲われるはずなのに、痛みはもう驚きにすらならなかった。何度も何度も、同じ場所が削れて、感覚が麻痺してしまったみたいに。 私は静かに引き出しへ向かい、ずっと用意していた書類の束を取り出す。きちんと揃えた、逃げ道のための紙。 そして、迷いなくテーブルに叩きつけた。 「そう」声は自分でも驚くほど冷めたかった。「全部、私が悪かったわ……これで、出ていっていい?」

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Chapter 1

第1話

結婚八周年の記念日。親友が私にくれたのは――とある「プレゼント」だった。

一枚の写真。

ライラはソファにだらりと身体を預け、グラスを片手に、あたかも世界を丸ごと手に入れたみたいな笑みを浮かべている。

その横に、私の息子・オーウェンが小さく丸まって寄り添っていた。そして反対側には夫のエリオット・グレイヴス――彼の手は、あまりにも自然にライラの太ももの上に置かれていた。

まるで、幸せな三人家族みたいに。

私は写真から目を離さず、返した言葉はたった二文字。

【完璧】

その三十分後。

玄関のドアが乱暴に開く音。廊下に響く怒鳴り声。エリオットが顔を真っ赤にして、靴も揃えずに踏み込んできた。

「なんでいつもそんなに悪態をつくんだ?いつも誰かを皮肉り、自分以外の全員を責めて……反省などしない!」

私は動かないし、答える気にもならない。

――そのとき。

オーウェンが私の脚をぐいっと押し、睨みつけた。

「悪いママ。ライラさんが本当のママだったらよかったのに」

胸がきゅっと潰される感覚に襲われるはずなのに、痛みはもう驚きにすらならなかった。何度も何度も、同じ場所が削れて、感覚が麻痺してしまったみたいに。

私は静かに引き出しへ向かい、ずっと用意していた書類の束を取り出す。きちんと揃えた、逃げ道のための紙。

そして、迷いなくテーブルに叩きつけた。

「そう」声は自分でも驚くほど冷めたかった。「全部、私が悪かったわ……これで、出ていっていい?」

……

離婚届。引き出しの奥に隠したまま、どれくらい経ったのか覚えていない。

念のため。ただそれだけ。

エリオットを愛していないからじゃない。もうこの家庭を守りたくないからでもない。

私だってそこまで愚かじゃない。兆しなんて、ずっと前からあった。どんどん遠ざかっていくエリオットとの距離。彼のスマホを長く見つめる目。説明もなく突然空く予定。

それでも――少なくともオーウェンにとっては、エリオットはずっといい父親だった。それに昔は、私にも優しかった。

だから許してきた。一度目、二度目……三度目さえ。

今日は結婚八周年の記念日だ。私は自分に言い聞かせた。もう一回だけ待ってみよう、と。彼がどうするのか。果たして、私たちを選ぶのか。

エリオットは言っていた。「早めにオーウェンを迎えに行って、そのまま帰る」

だから私は台所に立って、彼の大好物――得意のローストビーフを焼いた。オーウェンの大好きなアイスクリームケーキも買ってきた。

だがしかし、日付が変わり、十二時を過ぎた――

料理は冷えきり、ケーキは溶けてぐずぐずになっただけだった。

そして届いた、あの写真。

祝っているみたいに笑っているのはライラだった。眩しいほどに輝いて、勝ち誇った顔で。

その瞬間、私は引き出しの前に立って、書類を引っ張り出していた。

やがてエリオットがふらふらと帰ってくる。テーブルの上の書類を見た瞬間、さすがに固まった。

「俺がオーウェンを連れてライラに会いに行ったくらいで、離婚するっていうのか?」

顎の筋肉がぴくりと動く。

「彼女の両親が銃撃戦で死んでから、どれだけ辛い思いしてきたか、お前だって知ってるだろ。今日は顔を出すって言ったはずだ」

「言ってないわ」

私の声は冷たかった。

「都合よく忘れただけでしょ……それか、ライラと一緒にいるのが楽しくて、私のことなんて頭から消えてたか」

エリオットは途端に声を柔らかくする。いつもの芝居が始まった。

「分かったよ。俺が悪かった。時間、忘れてた。だけどさ……ライラに会っただけでそう騒ぐなよ」

彼はテーブルの皿をちらりと見て、指でつまむように一口だけ口に運ぶ。

「……分かった。お前は休め。明日、お前の好きな店に連れて行く」

まただ。

消えて、忘れて、甘い言葉と練習済みの謝罪を持って帰ってくる。何もなかったみたいに「いい夫」を演じる。

私は何年も、それを許してきた。

でも今夜は――違った。

揺るがない。和らがない。笑って「分かった、次は忘れないでね」なんて言わない。

私はただそこに立ったまま、静かに告げる。

「最後のページには、もうサインした。文句があるなら、私の弁護士が連絡する」

エリオットは駄々をこねる子どもみたいに皿を床へ叩きつけた。陶器の割れる音が、やけに大きく響く。

「もういい加減にしろ!」声が鋭くなる。「お前は周りの人間をみんな苦しめないと気が済まないのか?いつも被害者面して、結局自分のことしか考えてない!」

私は床に散らばった破片を見下ろした。

「どう思うかは勝手にすれば」私は言う。「でも、私はもうこんな日々はいらない」

エリオットは鼻で笑った。

「俺が会いに行ったのが悪いって言うのか?忘れたのか――ライラがああなったのは、お前のせいだろ。俺とオーウェンは……お前の代わりに償ってやってるだけだ」

代わりに償う?

私はゆっくり瞬きをした。

いったい私が、何を償うべきだというの?

……

昔、私はライラを本当の親友だと思っていた。

私たちは一緒に育った。最初は私たち二人だけで、いつもべったりで離れることはなかった。

私がエリオットと付き合い始めてから、三人になった。

同じ地下の世界。違う片隅で生まれた三人。

うちの家族、ブルックス家はカジノを支配していた。エリオットの家族は麻薬を扱っていた。そしてライラの両親は――そのすべてを支える「武器」を供給していた。

何年も前。ライラの家族が、うちのカジノで秘密の会合を開いた。子どもに見せるような取引じゃない。

でも当時の私たちは若くて、無鉄砲で、好奇心だけは人一倍だった。

ライラが「お父さんとお母さんと一緒にカジノ行きたい」と言い出して、私は深く考えずに頷いた。

私たちは一般の休憩スペースにいて、ソーダを飲みながらくだらない話で笑っていた。理由なんてなくて、ただそれだけで楽しかった。

途中で母が私を呼んだ。離れるとき、私は一度だけ振り返った。ライラはまだそこにいて、ベルベットのソファの端で足をぶらぶらさせていた。

戻ったときには、彼女はいなかった。

両親と帰ったんだろうと、ただそう思った。挨拶せずに帰ってしまうことぐらいだと。

でも翌日。

エリオットの拳が、うちの玄関を揺らすほどに叩きつけられた。何度も何度も。私が開けた瞬間、彼の顔は怒りで歪んでいた。

「お前、どうしてそんなことができるんだ!」

怒鳴り声が刺さる。

「ライラをあの悪党どもに差し出したのか?お前のカジノにいる女みたいに扱ったのか?あいつは、お前の親友だろ!」

私は固まった。何を言われているのか分からなくて、頭が真っ白になった。

ライラに……何かあった?

そのあと両親が私を脇へ引き寄せ、重い声で告げた。

ライラはどういう経緯か、VIPルームに入り込んでしまったのだ。権力と金を持つ危険な連中のための部屋。その中の男が彼女を襲い、辱めた。

ライラの両親は復讐しようとしたが――死んでしまった。対峙しに行った相手のギャングのボスに殺されたのだと。

でも私は、何も知らなかった。別の部屋で、取るに足らない用事を片付けていただけ。私が離れていたその時間に、何が起きたのか――本当に知らなかった。

なのに、ライラはみんなに「別の話」をした。

私がわざと彼女を誘導した。あの男に取り入るために、私が自分の手で彼女を差し出した。全部私が計画したこと。彼女をゴミみたいに売ったのだ、と。

私は必死に説明した。必死に、自分を守ろうとした。

でも監視カメラはない。証拠もない。

あるのは、私の言葉と、彼女の言葉。真っ向からぶつかり合うだけ。

そして――この世界ではいつだって、被害者の物語のほうが信じられる。

そういう世界だった。

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