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第64話

Author: 花朔
「やばいやばい......」

弁護士は慌てて書類を拾い集めた。

どれが上でどれが下だったかも覚えておらず、とりあえずきちんと積み重ねて机の上に戻し、まるで悪事がばれるのを恐れるかのように、そそくさと退室した。

その際、他の書類の下敷きになっていた離婚協議書の端が少し見えており、そこには紗夜の署名がはっきりと記されていた。

......

文翔はアクセルを踏み込み、あっという間に長沢家へと戻ってきた。

執事はすぐに笑顔で出迎えた。

「旦那様、今日はずいぶんお早いお帰りですね」

文翔は軽く頷き、上着を渡しながら何気なく尋ねた。

「彼女は家にいるか?」

執事は、文翔の言う「彼女」が紗夜のことだとすぐに察し、頷いた。

「奥様も今日は早めにお帰りでした。ただ......」

言い淀んだ後、正直に伝えた。

「ご体調があまり良くなくて......リビングで倒れられました」

「倒れた?」

文翔の眉がぴくりと動いた。

「病気か?」

「はい。すでにかかりつけの医師に診てもらっております......」

執事の説明が終わる前に、文翔はすでに長い脚で階段を上がっていた。

......

紗夜は医師からもらった解熱剤を飲んで、熱は多少下がっていたが、体にはまだ力が入らなかった。

「お母さん......」

傍らの理久は心配そうに紗夜を見つめていた。

近づきたいのに、どうしても躊躇してしまう。

自分がお母さんの手を引っ張らなければ、お母さんは転ばずにすんだのかもしれない――そう思うと、胸が痛んだ。

傷つけたかったわけじゃない。

ただ、お母さんが最近あまり自分に構ってくれなくなった気がして、どうにか注目を引きたかっただけ。

でも、そのたびに事態は悪化してばかりだった。

だから今回は、頭を下げて、しっかり謝った。

「お母さん、本当に、ごめんなさい」

紗夜はその言葉に、かすかに唇を動かして答えた。

「大丈夫よ」

実は彼女は階段を上がる前からすでにふらついていて、手すりにしがみつきながら身体を支えようとしたが、眩暈には勝てず、意識を失ってしまった。

だから、今回の件は理久のせいではなかった。

彼女ももう、子供に対して執着するような心はなかった。

謝ろうが謝らなかろうが、どうでもよかった。

理久は紗夜の心の内など知らず、ただ彼女に許されたと思
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