ログイン高校時代、幼馴染の海皇星桜生に容姿を侮辱されたトラウマをバネに、望月レナは自分を磨き上げ若手敏腕CEOとして成功を収める。だが美しく変貌した彼女の前に桜生が再び現れ、遅すぎた後悔と異常な独占欲で強引に迫ってくる。 さらに、最新技術(GPS)と財力で歪んだ愛を注ぐIT企業副社長・花川大成、身を挺して愚直に守ろうとするボディガードの山川眞。三人の男たちの執着が交錯する中、レナは経営者としての誇りを胸に戦う。 過去の傷と激しい愛憎劇の狭間で、彼女が最後に選ぶ真実のパートナーとは
もっと見る全国放送の生放送。
私の姿は今、この瞬間日本中へ流れている。 高校時代の私を知る人がこの光景を見たら、きっと目を疑うだろう。 地味で、芋くさくて、取り柄のない女。笑われ続けた私が、今こうして全国放送のスタジオでスポットライトを浴びているのだから。 ……何より。私はやれやれと心の中で息をついた。 桜生は相変わらずだ。大成さんが去ったからといって、すぐに空気が和むわけではなく、大成さんの背中をジッと睨みつけていた。 このままでは、また余計な言い合いになってしまう。 私は頭を切り替えるように、少し冷たく桜生に告げた。 「桜生。私たちの新しい企画書、ちゃんと目を通してくれる?」 「見る必要はない」 桜生と一緒に幼稚園へ通っていた頃から、桜生はいつもそんな調子だった。 他の子たちと桜生の違いといえば、御曹司という立場くらいだったはずだ。本人が望んで師弟関係を築いているわけではないだろうけれど、周囲の大人たちから放たれる、 『桜生くん、とても素晴らしい絵ですわね』 『お父様譲りの才能があるのですね』 『お母様に似て容姿端麗で』といった言葉の数々が、少しずつ桜生を歪めてしまったのかもしれない。 もっとも、私の家柄だってそれほど悪くはない。 だからこそ、海皇星家のご両親が、私の両親に向かって『レナちゃんを将来のお嫁さんに……』と微笑ましげに語りかけている場面も、子どもの頃から何度も目にしていた。 「代表っ!」 慌てた様子でこちらに向かって走ってくる、真紀子の声が聞こえた。 真紀子は私の頭から足先までしっかり見ていた。 「黒川さん。どうされました?」 「代表、『どうされましたか?』じゃないですよ。花川様から『連れ出してくれ』と言われましたから、何かされたのかと思いました」 真紀子はそう言って、桜生へ鋭い視線を投げた。 「海皇星様。いくら何でも、強引過ぎます」 真紀子はそう言いながら、右手人差し指を突き出して桜生へ問い詰めだした。 「私たちの資料も確認せず、契約するなど言い出しますし。勝手に代表の手を引いて……」 真紀子に問い詰められている、桜生はどんどん壁へ押されていた。 「これは、完全に誘拐ですから」 ここまで言い終えた真紀子は、そのままの勢いで細めた目を私へ向けた。 「黒川さん。桜生とは特に何もないですよ」 眉を下げ両手を広げ『降参です』と言わんばかりに、真紀子へ伝えたのだけれど、気がおさまらないようで、次は私に人差し指を突き出して迫ってきた。 「代表。とにかく、隠し事はよしてください」 真紀子がそう言い終えると、私の手首
大成さんが私の手を引き、その場から連れ去ろうと力を込めた。 「待って、大成さん。離して……」 私が慌てて腕を引き戻すと、大成さんは振り返り、以前の大成さんからは想像もつかないほど険しい顔で私を見据えた。 「いいや、離すわけにはいかない」 「大成さん。何か勘違いをされているようですが、桜生とは、仕事の打ち合わせをしていただけです。だから、落ち着いてください」 大成さんの耳には届いていない。さっきよりも強い力で私の腕を握っている。 傷みが走り、顔が歪みそうだ。 桜生が大成さんの身体を突き押した。 そのはずみで、私の身体は大成さんの胸板に引き寄せられた。 「レナもレナだな。男なら誰でもいいのか!」 桜生が大成さんを押したせいだと言うのに、どうして私がそんなことを言われなければいけないのか。 (どこかで同じようなことがあった) 私と桜生が中学生の頃だ。 ペア戦の作戦を部活の先輩男子と話していただけで、桜生はその先輩を突き飛ばした。地面に倒れた先輩の元へ駆け寄ろうとした私を、桜生は背中から強く押した。そのせいで、私は倒れた先輩の胸板へ覆いかぶせるような格好になった。 『その男とキスでもしたかったのか』 似たような言葉を浴びせられたのだ。 大成さんの胸板に顔を預けたまま、顔を横に向け、鋭い視線を桜生に向けた。 「……桜生、いい加減にして」 「お前に隙があるからだ」 「違うでしょう……! いつも、あなたがこういう状況を作っているんでしょ」 幼馴染だからこそ分かる。この男は、わざと周囲を混乱させ、私を追い詰めて楽しんでいる。 桜生は苛立ったように眉を寄せると、私の肩を強引に掴み、自分の方へ引き剥がそうと腕に力を込めた。 それよりも早く、大成さんの大きな手が私の背中を優しく、絶対に離さないという強い意志を込めて包み込んでいた。 桜生の手が空を切るように、空振りした。 「……レナに、これ以上触るな」 大成さんの腕に阻まれ、私は桜生の方へ引き戻されることはなかった。 「今、この時間は俺とレナのものだ。返してもらおう」 頭に血が昇っていた私は、桜生の言葉を聞きこの状況を変えなければと、話を元に戻す。 「桜生。大成さんは私が何度も連れ去られそうになっていることを知っているから」
「ちょっと、桜生」 そう言った瞬間、私は背中を冷たい壁に打ち付けられていた。逃げようとする間も無く、私の両脇を塞ぐように、桜生が大きな腕で壁へドンと、手を突いた。 (……近い) カフェの奥まった化粧室の前、人通りは途絶えている。 逃げ場のない閉塞感の中で、私は息を呑んだ。高校の頃よりもさらに鍛え上げられた身体から放たれる、男性的で強い圧迫感。以前にも同様のことがあった。あの時は、私の顔へ桜生が近づけた。だから、私は思いっきり頬を叩いて逃げた。 今回も、頬を叩こうとした。けれど、私の右手をしっかり桜生は掴んでいる。 「……離してよ。私に関わらないで」 私は震える声を必死に抑えつけながら、睨みつけるように桜生を見上げた。 けれど、桜生の瞳は以前のように平凡な私を嘲笑うものではなかった。その黒い瞳は、私を穴が開くほどじっと見つめ、熱い眼差しのようだった。 (違う。……昔の桜生と、何かが違う) 脳裏に蘇る、悪夢のような記憶。 『いいか、レナ。お前は色気もない女なんだ』 『俺くらいだ。お前と遊んでやるのは』 私の自信を粉々に砕いた言葉たち。その記憶が、現在の桜生の顔と重なる。大人になっても、その恐怖が身体中を駆け巡る。 「……どうして、今さら現れたの。私からまた奪うつもり?」 私がそう呟いた瞬間、桜生はフッと不敵な笑みを浮かべた。 そして、私の耳元に顔を寄せ、甘く、それでいて逃げ場のない低い声で囁いた。 「奪う? ……いいや、逆だよ」 桜生はそのまま、私の顎を指先でくいっと持ち上げた。 「レナ、お前が這い上がってきたこのブランド、そして今回のプロジェクト。……俺が、すべて手に入れてやる」 「どうして? 私の会社は最近、上昇したばかり。桜生が投資するほどの価値はないはず」 私は桜生を睨みながら、何か企んでいると思いながらそう告げた。 「俺が、お前ごと、投資するんだ」 桜生の言葉は、ビジネスの提案というよりも、所有権の宣言に聞こえた。 (意味が分からない。私以外にも綺麗な女性はたくさんいるのに、どうして……) この男の歪んだ執着が、今の私には理解できない。 「ごめんなさい。桜生、今回のプロジェクトは……」 私が言葉を切り出そうとした、その時だった。 「――レナ!」
「……レナ?」 突然私の名前を呼ばれた。 忘れたくても忘れられなかった幼馴染の海皇星桜生。 (どうしてここに?) 私の頭は混乱した。目の前にいる海皇星桜生は、高校の頃よりもさらに身長も伸び、スーツのラインも、視線の強さも以前よりも数倍は磨きかけられている。 スペックの塊みたいな誰もが惹かれるような眩しい男に。 (神様はどうして、何でも桜生にだけ磨きをかけさせるの?) 「レイナが、あの『Léna』の会社だったんだな」 桜生はそう言って、テーブルの向こう側の席に座った。 「レナ……本当に、俺の知っているレナだよな?」 桜生は何度も、私が望月レナなのか確認するかのように言葉にしてはじろじろと上半身から顔へと往復しながら見ていた。 「久しぶりね、桜生」 取引先相手が桜生でなければ、言葉すら交わすことはないと思っていた。だけど、これが現実だ。これから先、Lénaにとってはかなり重要な取引先。失礼のないように、公私混同しないように、対話する必要がある。だけど、私の心はそう簡単に従ってはくれなかった。 口角を上げているはずなのだけど、どこか奥歯を噛みしめたような言い方になっていた。 「桜生様、取引先のレナ代表ですから、無礼のないように」 その隣に座った、秘書らしき男性がそう言った。 「あぁ。それで、レナ。こいつは俺の秘書で、鏡見一郎だ」 桜生が紹介した鏡見一郎は、静かに一礼をした。 「鏡見と申します。……お噂はかねがね、レナ様」 その涼しげな瞳の奥に、どこか値踏みするような視線を向けられた。鏡見はそれ以上余計な言葉を発さず、隣に座る桜生へ視線を送った。 「で、本題だが」 桜生がテーブルに身体を預ける。 「海星インターナショナルとして、『Léna』の新しいプロジェクトに手を貸すよ」 桜生のその傲慢な一言。昔と変わらずだった。 「……は?」 私は思わず声を漏らした。隣に座る真紀子も、息を呑んで硬直している。 「手を貸す、って……何を言っているの? まだ私たちのプロジェクトの案件資料にも目を通していないはずよ」 私は怒りを押し殺し、震える声を必死にコントロールした。 「この新規プロジェクトのために、私たちがどれだけの時間をかけたと思っているの。何ヶ月も