外見至上主義の彼が、どうして私だけを愛するのか

外見至上主義の彼が、どうして私だけを愛するのか

last update最終更新日 : 2026-08-11
作家:  YORたった今更新されました
言語: Japanese
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概要

強いヒロイン

ハッピーエンド

溺愛

CEO・社長・御曹司

独立

三角関係

オフィス

誤解

高校時代、幼馴染の海皇星桜生に容姿を侮辱されたトラウマをバネに、望月レナは自分を磨き上げ若手敏腕CEOとして成功を収める。だが美しく変貌した彼女の前に桜生が再び現れ、遅すぎた後悔と異常な独占欲で強引に迫ってくる。 さらに、最新技術(GPS)と財力で歪んだ愛を注ぐIT企業副社長・花川大成、身を挺して愚直に守ろうとするボディガードの山川眞。三人の男たちの執着が交錯する中、レナは経営者としての誇りを胸に戦う。 過去の傷と激しい愛憎劇の狭間で、彼女が最後に選ぶ真実のパートナーとは

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第1話

第1話:美しすぎるCEOの光と影

全国放送の生放送。

私の姿は今、この瞬間日本中へ流れている。

高校時代の私を知る人がこの光景を見たら、きっと目を疑うだろう。

地味で、芋くさくて、取り柄のない女。笑われ続けた私が、今こうして全国放送のスタジオでスポットライトを浴びているのだから。

……何より。

海皇星みおうせい桜生おうきは、どんな顔をしてこの放送を見ているのだろう。

「お前のような地味でセンスのない女に、そんな服が似合うわけがない」

「俺とは釣り合わない」

そう吐き捨てていたのだから。

そんなことを考えていると、

「――今、アパレル業界で最も注目を集める若手起業家、株式会社『Lénaレナ』代表の望月レナさんにお話を伺います」

スタジオに司会者のよく通る声が響いた。カメラの赤いランプが静かに点灯する。

私は軽く息を整え、インポート風セットアップの袖口をそっと整えた。

今日の特集は、日本を変える若き経営者たち。

その一人として私が選ばれた。

昔の私なら、人前に立つことさえ怖くて逃げ出していただろう。

でも、もう違う。

あの日、踏みにじられた涙も、否定され続けた悔しさも、全部、『Léna』の礎になった。

「よろしくお願いします」

「『Léna』がここまで多くの女性から支持される理由を、ご自身ではどうお考えですか?」

「秘訣というほどではありませんが……私はただ、『誰かの基準に合わせる服』ではなく、『自分が一番愛せる自分になれる服』を作りたかったからです」

「なるほど。だからこそ、多くの女性が共感しているのですね」

私は小さく微笑む。

本当の理由は口にしない。見返したい。ただ、その一心だった。

「この度は、特集に参加してくださり、ありがとうございます」

インタビュアーの感嘆の声を最後に、カメラの赤いランプが消えた。

***

――同じ頃、都心の高層ビルの一室。

デスクに向かっていた俺、海皇星桜生は、点けっぱなしにされていた壁掛けのテレビ画面へふと目を向けた。

画面に映し出されていたのは、全国放送で堂々とインタビューに答える若きアパレル会社代表の姿。

『自分が一番愛せる自分になれる服を作りたい』

凛とした声でそう語り、優雅に微笑む美しい女性。

その横顔を目にした瞬間、書類へサインを走らせていた桜生のペンがピタリと動きを止めた。

「……レナ……?」

かつて「地味でセンスがない」「俺とは釣り合わない」と吐き捨て、容赦なく切り捨てたはずの女。

目の前の画面で眩いスポットライトを浴びているのは、間違いなくあの望月レナだった。

俺は無意識のうちに息を呑み込む。

「桜生様が、かつてお気に入りだった女性では?」

秘書の鏡見かがみが、静かに問いかけてきた。

「ただの幼馴染だ。別に……執着していたわけではない」

「そうでしょうか。私から見れば、随分と未練を残されているように見えましたが」

鏡見のその言葉に、桜生はかすかに指先を震わせ、力任せにリモコンを握りしめた。

強がりとは裏腹に、画面の中で誇り高く輝くレナから、もうどうしても目を逸らすことができなくなっていた。

「……鏡見。車を出せ。レナのいるスタジオへ向かう」

「かしこまりました。……ずいぶんと急なお目覚めですね、桜生様」

そう言って深く頭を下げた鏡見の口元には、どこかすべてを見透かしたような笑みが浮かんでいた。

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第1話:美しすぎるCEOの光と影
全国放送の生放送。 私の姿は今、この瞬間日本中へ流れている。 高校時代の私を知る人がこの光景を見たら、きっと目を疑うだろう。 地味で、芋くさくて、取り柄のない女。笑われ続けた私が、今こうして全国放送のスタジオでスポットライトを浴びているのだから。 ……何より。 海皇星桜生は、どんな顔をしてこの放送を見ているのだろう。 「お前のような地味でセンスのない女に、そんな服が似合うわけがない」 「俺とは釣り合わない」 そう吐き捨てていたのだから。 そんなことを考えていると、 「――今、アパレル業界で最も注目を集める若手起業家、株式会社『Léna』代表の望月レナさんにお話を伺います」 スタジオに司会者のよく通る声が響いた。カメラの赤いランプが静かに点灯する。 私は軽く息を整え、インポート風セットアップの袖口をそっと整えた。 今日の特集は、日本を変える若き経営者たち。 その一人として私が選ばれた。 昔の私なら、人前に立つことさえ怖くて逃げ出していただろう。 でも、もう違う。 あの日、踏みにじられた涙も、否定され続けた悔しさも、全部、『Léna』の礎になった。 「よろしくお願いします」 「『Léna』がここまで多くの女性から支持される理由を、ご自身ではどうお考えですか?」 「秘訣というほどではありませんが……私はただ、『誰かの基準に合わせる服』ではなく、『自分が一番愛せる自分になれる服』を作りたかったからです」 「なるほど。だからこそ、多くの女性が共感しているのですね」 私は小さく微笑む。 本当の理由は口にしない。見返したい。ただ、その一心だった。 「この度は、特集に参加してくださり、ありがとうございます」 インタビュアーの感嘆の声を最後に、カメラの赤いランプが消えた。 *** ――同じ頃、都心の高層ビルの一室。 デスクに向かっていた俺、海皇星桜生は、点けっぱなしにされていた壁掛けのテレビ画面へふと目を向けた。 画面に映し出されていたのは、全国放送で堂々とインタビューに答える若きアパレル会社代表の姿。 『自分が一番愛せる自分になれる服を作りたい』 凛とした声でそう語り、優雅に微笑む美しい女性。 その横顔を目にした瞬間
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第2話
「お疲れさまでしたー!」 スタジオ全体にスタッフの明るい声と拍手が響き渡った。 私はふっと息を吐き出して優雅に一礼した。 パチパチパチと拍手をする音がスタジオ内に響く。 「レナ、お疲れ。今日は一段と綺麗だ」 振り向くと、花川大成が柔らかな笑みを浮かべて立っていた。 「大成さん、見に来てくださっていたのですね」 「今日は、レナに渡したいものがあって」 「何かしら?」 「新開発のGPS付き指輪だ」 大成さんは私の右手を取ると、その指輪をはめた。 「素敵ですね。ありがとうございます」 シンプルなデザインなのに、身につけた瞬間、不思議と安心感が広がった。 忙しいはずなのに、自ら足を運んでくれた大成さんの真意は分からないけれど、少なくとも今の私には都合がよかった。少し前に、旧型の感知不良が原因であわやストーカーに連れ去られかけるという事件があった。いつも肌身離さず身につけられる指輪型であれば、二度とあんな恐怖を味あわずにすむ。 「我が社の最新技術ですから、僕がいなくともしっかりレナを守れるでしょう」 「さすが花川コンピューターですね。凄い技術ですね」 「これも、レナのお陰だ」 「大成様、もうそろそろお時間が……」 土門純は一瞬、私へ視線を向けてから、大成さんへ告げていた。 「土門、ランチする時間くらいあるだろう」 「三時間ほどなら」 大成さんも忙しいのだろうと思い、軽く一礼をする。 「私たちはこれで失礼しますね。大成さん」 振り返ろうとした瞬間、大成さんが私の手を掴んだ。 「レナ。ランチでもどうだ」 私は黒川真紀子へ視線を投げる。 「黒川さん、午後のスケジュールに影響はないかしら?」 「はい。二時間程でしたら、問題ありません」 「大成さん。それでは、お互いの次の仕事に影響しない場所でランチをしませんか?」 私がそう言うと、大成さんは頷いた。 「僕は、表参道に用がある。レナは?」 「奇遇ですね。私たちも、次の仕事の打ち合わせで表参道に向かうところよ」 「レナは、僕の車に乗って」 大成さんが迷いのない声音でそう言った。 すかさず真紀子が私の前に一歩踏み出す。 「花川様。申し訳ございませんが、代表はつい先ほど全国放送に出演したばかりです。今、ス
last update最終更新日 : 2026-08-07
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第3話
「大成さんの噂ですか?」 私は足を止めて、山川へそう問い返す。 山川は後部座席のドアを自然と開けた。 「レナ代表、先にお乗りください」 私は、車に乗り込む。シートベルトを締めた瞬間に山川は口を開く。 「花川様は、欲しいと思ったものを諦めない人だと聞いています」 その直後、車のエンジンをかけた音が耳に入った。 後部座席から少し身体を傾け、山川へ視線を投げる。 「それは、誰しもそうではありませんか? 大成さんはそれが強いだけですよ」 「花川様のレナ代表を見る目も好きではありません。女性関係も派手だと聞きます」 私は車の外を見ながら口を開く。 「噂は噂です。私は、自分の目で見たものを信じます」 「……代表らしいですね」 山川は小さく息を吐いた。 「でも、僕と黒川さんの心配する気持ちも少しは、分かってくださいよ」 山川はそう言って、車を走らせた。 「まぁ、レナ代表に何かあったら、僕が必ず助けますけど」 続けてそう山川は言った。いつも冷静な山川が、ここまで警戒するのは珍しいこと。 やはり、花川大成と少し距離を置くべきなのか、一瞬だけ考えた。けれど、私と大成さんの関係はあくまでビジネス。そう思いながら、先ほど指にはめてくれた指輪を見つめた。 「そうそう、山川さん」 「黒川さん、何ですか急に」 「文句じゃありませんよ。山川さん、代表の右手を後でちゃんと見てください」 「……?」 山川は無言だった。 「きっと、山川さんも驚きますから」 車内に、二人のやり取りが響き、私は思わず小さく笑った。 「山川さん、黒川さん。また始まりましたね」 「代表は呑気すぎるんですよ」 山川は前を向いたまま、そう言った。 「花川様のこと、本当に信用しているんですか?」 「信用していますよ。少なくとも、私が見てきた大成さんは、何度も助けてくれた人ですから」 私は窓の外へ視線を向けた。 流れていく街並み、行き交う人々、その中には、私のことなど知らない人もたくさんいる。 数年前まで、私もその一人だった。誰かの視線を気にして、自分を隠すことばかり考えていた。鏡を見ることさえ嫌だった時期もある。『Léna』というブランドを背負い、たくさんの人の前に立っている。 「だからこそ、心配な
last update最終更新日 : 2026-08-07
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第4話:ランチの待ち合わせと突然の告白
私たち三人は、大成さんと待ち合わせたカフェに到着した。 カフェのドアを開けると同時に、土門純が私たちの前へ歩み寄った。 「望月様、こちらへ」 私たちは土門純の後をついて行く。 「こちらの席へ」 土門純はそう言って、椅子を引いた。 私が着席すると同時に、土門純はこう言う。 「では、山川さんと黒川さんは僕と一緒に着いてきてください」 その言葉に私は思わず、首を横に向けた。 「土門さん。それはどうしてです? 一緒にお食事を楽しむ方がよろしいかと」 私がそう言うと、土門純は大成さんが座る席へ視線を向けた。 「土門、レナがそう言っている。皆で楽しもう」 「かしこまりました」 土門純が静かに一礼した。 山川、真紀子も含めて全員が同じテーブルを囲むことになった。 私はこの土門純に嫌われているのだろうか。私に対する視線はいつも鋭い。 そう思いながら私は、そっとメニュー表を広げた。 「レナの好きなBLサンドとサラダ、ブラックコーヒーを注文してある」 大成さんはそう言った。 「ありがとうございます、大成さん」 本当は各自で好きなものを選びながら、他愛のない会話を楽しむ予定だった。だけど、大成さんと私の価値観の違い。固定概念の強さを感じる。 笑ってみせたけれど、テーブルの向こうで山川がわずかにコップを握る手に力を込めたのが見えた。 「……さすが、花川様はレナ代表の好みには詳しいのですね」 山川の声音には、あからさまなトゲが混じっているようだった。 (私の好み、か……) ふと、右手薬指の冷たい感触が蘇る。大成さんの優しさと、そこに見え隠れする逃れられない独占欲。その狭間で、私は曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。 *** 「一体、レナたちはどこに向かっているんだ」 後部座席に座っている俺は、苛立ちを抑えきれずに前方の車を睨みつけた。ハンドルを握る鏡見が、バックミラー越しに冷静な目を向けてくる。 「この方角からすると、表参道のようですね」 「表参道……?」 眉間を寄せる俺に、鏡見は淡々と告げた。 「今日レナ様が『別の企業』と会う予定を入れていた場所です」 鏡見は淡々とアクセルを踏み込みながら言った。 「鏡見、よく調べたな」 「レナ様は打ち合わせ等ある
last update最終更新日 : 2026-08-07
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第5話
しばらくすると、運ばれてきた料理に私たちは目を向けた。 案の定、私の手元に置かれたのは大成さんが勝手に決めたBLサンドとサラダ、そしてブラックコーヒー。それだけでなく、花川自身の前にも全く同じメニューが並べられていた。 偶然の一致ではない。大成さんの中では、私と行動や嗜好を一緒にすることが親密さの証明なのだろうか。 ふと、小さな違和感があった。私自身、経営者としてスタッフをまとめる立場にあるけれど、自分のこだわりや好みを部下に無言で強要したり、立場を利用して不自然な格差をつけたりするような真似事は絶対にしない。たとえ好意や気遣いのつもりだとしても、相手の選択肢を奪うようなやり方は、ビジネスとしても人間関係としてもどこか歪んでいるのではないかと思っている。 山川や真紀子、そして土門純の前に置かれたのは、それぞれが自由に選んだランチ限定メニューだった。彼らの手元と、私と大成さんのメニューを見比べながら、私は自分たちの間に横たわる価値観の決定的なズレを痛感せずにはいられなかった。 この異様な空気感に私は何を話したらいいのかわからず、ひたすら口へ食べ物を運ぶことしかできなかった。 「花川様」 そんな私の気持ちを察してか、山川が口を開いた。 「何だ?」 「レナ代表に渡された、GPS付きの指輪の件ですが」 山川がそう言って、ロールパンを皿に置いた。 「レナ代表の安全管理上、私たちボディーガードにも位置情報を分かるように共有していただけませんでしょうか?」 山川はそう言った。 大成さんは隠し通すか、それとも怒るか。私がわずかに息を詰まらせた。 大成さんはふっと優雅な笑みを浮かべた。 「あぁ、それはもちろんです」 大成さんは当然のようにジャケットのポケットからスマートフォンを取りだす。 「君たちの言う通り、レナの安全が第一だ。隠すようなことじゃない。……さあ、君たち二人もスマホを出して。今すぐリンクを送る」 「花川様。そんなにあっさり教える理由、ありますよね?」 「レナのボディーガードは、手厳しいな」 大成さんはそう言ってはにかんだ。 「理由なんて必要か? 山川さんは、どんな理由でレナのボディーガードをしている?」 山川は大成さんにそう問われて、一瞬、私へ視線を送った。 しばらくの沈黙が続く
last update最終更新日 : 2026-08-07
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第6話:微風の裏側に潜む
その言葉は、疑問形ではなく決定事項として私に突きつけられた。 断るという選択肢が最初から存在しないかのように、大成さんは満足げに微笑んだまま私の肩を抱いた腕を緩めない。 テーブルの向こうで、山川がゆっくりとコップを置いた。その微かな音が不気味に響く。 「花川様! ディナー・セレモニー、ですか」 山川は驚いたようにそう言った。 「花川様、申し訳ございません。今夜は別件の案件が入っておりますので、今夜は難しいかと」 大成さんの急な予定について、真紀子も黙ってはいられなかったようだ。 「そうですね。私もこの後、午後のプロジェクトの打ち合わせがありますし、ディナー・セレモニーまでに間に合うかどうか……」 私も思わず、口を挟んだ。いいえ、挟まないでいるわけにはいきません。 「レナ。スケジュールなんて、どうとでも調整できるだろう」 大成さんはそう言って、テーブルの向こうに座る山川へ視線を向けて言った。 「いえいえ、大成さん。私のスケジュール管理は黒川さんにお願いしています。次の案件をお断りするとなると、会社の存続にも影響が……」 私は一度、言葉を区切った。冷静にと心の中で思いながら、コップのお水を口に含み飲み込む。 「それに、いくら大成さんでも、これは社交的ではないかと存じます」 私が言い終えると、大成さんは抱いたままの肩を強く握った。 「レナの会社の未来を左右する大切な夜だ。僕のパートナーとして、当然隣にいてもらう。……ねぇ、レナ?」 (私の意思は? 私の会社は……! 大成さんは何を考えているの?) 胸の奥で反発心が激しく渦巻いた。けれど、横にいる大成さんの言葉は、絶対的な支配のようだった。 「代表のため、ですか? 具体的に……」 真紀子がそう言った直後、私は言葉を遮るようにこう言う。 「黒川さん、もういいわ」 私がそう言うと、真紀子は『でも……』と口を開きかけた。それでも、私はその言葉すらも遮る。 「大成さん、わかりました。参加します」 私がそう答えると、大成さんは私のこめかみに親指を軽く這わせた。 真紀子がわずかに顔を伏せ、土門純が無表情のまま私の様子を観察している。そして、山川は、燃え盛るような真っ赤な顔で怒りを表現しているようだった。 「大成さん。申し訳ございませんが
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第7話
後部座席に滑り込み、重いドアが閉まった瞬間、車内の張り詰めた空気がようやく少しだけ緩んだ。 「それにしても、今日の花川様。何だか、いつもと様子が違いましたね」 助手席に座った真紀子が、バックミラー越しに心配そうな目を向けて言った。 「そうね。急に『初恋の人』だなんて言い出したり、今夜のディナー・セレモニーに強制参加させられたり……」 「そうですよ。それに、代表の好きな食べ物を勝手に注文して、しかも自分の前にも全く同じものを並べるなんて……これまではあんな露骨な真似、しませんでしたよね?」 真紀子の指摘に、私は後部座席の背もたれに頭を預けた。小さくため息を吐き出す。確かに、これまでの大成さんはスマートな理解者だと思っていた。対等なビジネスの親友のように私は接していた。けれど、そう接していたのは私だけだった。 「あの人、完全に一線を越えてきましたね」 運転をしている山川がそう言った。 「山川さん、今は午後からの打ち合わせに集中して。大成さんがどうであれ、私たちの仕事の成果を落とすわけにはいかないですからね」 私自身も困惑しているけれども、経営者としてのプライドを奮い立たせた。 「レナ代表。承知していますよ。だけど今夜のセレモニーには自分らも同行しますからね」 山川の口調は、強かった。だけど、どうにかしたいと思っているようにも感じた。 私たちは午後のプロジェクトの打ち合わせ場所であるクライアントのオフィスへと車を走らせた。 数分車を走らせると、目的地の表参道のオープンカフェに着いた。 「代表。到着しました。デザインの最終確認ですから、お忘れなく」 私の誇りであるブランド『Léna』その未来を左右する大切な新規プロジェクトだ。今は、大成さんのことは忘れよう。 車から降りると、今の私の心を吹き飛ばしてくれるような心地よい風が吹き抜けた。 表参道のオープンカフェは、木漏れ日がテラスのウッドデッキに細やかな模様を描いている。 「何て、素敵なカフェなの?」 私の口から思わず、声が漏れた。 「代表、最高ですよね。新規プロジェクトの最終デザインを詰めるのにぴったりのロケーションですよね」 真紀子はそう言って、私の顔を覗き込んで続ける。 「事前のリサーチ通り、客層の雰囲気も『Léna』のターゲット層と完
last update最終更新日 : 2026-08-07
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第8話
「……レナ?」 突然私の名前を呼ばれた。 忘れたくても忘れられなかった幼馴染の海皇星桜生。 (どうしてここに?) 私の頭は混乱した。目の前にいる海皇星桜生は、高校の頃よりもさらに身長も伸び、スーツのラインも、視線の強さも以前よりも数倍は磨きかけられている。 スペックの塊みたいな誰もが惹かれるような眩しい男に。 (神様はどうして、何でも桜生にだけ磨きをかけさせるの?) 「レイナが、あの『Léna』の会社だったんだな」 桜生はそう言って、テーブルの向こう側の席に座った。 「レナ……本当に、俺の知っているレナだよな?」 桜生は何度も、私が望月レナなのか確認するかのように言葉にしてはじろじろと上半身から顔へと往復しながら見ていた。 「久しぶりね、桜生」 取引先相手が桜生でなければ、言葉すら交わすことはないと思っていた。だけど、これが現実だ。これから先、Lénaにとってはかなり重要な取引先。失礼のないように、公私混同しないように、対話する必要がある。だけど、私の心はそう簡単に従ってはくれなかった。 口角を上げているはずなのだけど、どこか奥歯を噛みしめたような言い方になっていた。 「桜生様、取引先のレナ代表ですから、無礼のないように」 その隣に座った、秘書らしき男性がそう言った。 「あぁ。それで、レナ。こいつは俺の秘書で、鏡見一郎だ」 桜生が紹介した鏡見一郎は、静かに一礼をした。 「鏡見と申します。……お噂はかねがね、レナ様」 その涼しげな瞳の奥に、どこか値踏みするような視線を向けられた。鏡見はそれ以上余計な言葉を発さず、隣に座る桜生へ視線を送った。 「で、本題だが」 桜生がテーブルに身体を預ける。 「海星インターナショナルとして、『Léna』の新しいプロジェクトに手を貸すよ」 桜生のその傲慢な一言。昔と変わらずだった。 「……は?」 私は思わず声を漏らした。隣に座る真紀子も、息を呑んで硬直している。 「手を貸す、って……何を言っているの? まだ私たちのプロジェクトの案件資料にも目を通していないはずよ」 私は怒りを押し殺し、震える声を必死にコントロールした。 「この新規プロジェクトのために、私たちがどれだけの時間をかけたと思っているの。何ヶ月も
last update最終更新日 : 2026-08-07
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第9話
「ちょっと、桜生」 そう言った瞬間、私は背中を冷たい壁に打ち付けられていた。逃げようとする間も無く、私の両脇を塞ぐように、桜生が大きな腕で壁へドンと、手を突いた。 (……近い) カフェの奥まった化粧室の前、人通りは途絶えている。 逃げ場のない閉塞感の中で、私は息を呑んだ。高校の頃よりもさらに鍛え上げられた身体から放たれる、男性的で強い圧迫感。以前にも同様のことがあった。あの時は、私の顔へ桜生が近づけた。だから、私は思いっきり頬を叩いて逃げた。 今回も、頬を叩こうとした。けれど、私の右手をしっかり桜生は掴んでいる。 「……離してよ。私に関わらないで」 私は震える声を必死に抑えつけながら、睨みつけるように桜生を見上げた。 けれど、桜生の瞳は以前のように平凡な私を嘲笑うものではなかった。その黒い瞳は、私を穴が開くほどじっと見つめ、熱い眼差しのようだった。 (違う。……昔の桜生と、何かが違う) 脳裏に蘇る、悪夢のような記憶。 『いいか、レナ。お前は色気もない女なんだ』 『俺くらいだ。お前と遊んでやるのは』 私の自信を粉々に砕いた言葉たち。その記憶が、現在の桜生の顔と重なる。大人になっても、その恐怖が身体中を駆け巡る。 「……どうして、今さら現れたの。私からまた奪うつもり?」 私がそう呟いた瞬間、桜生はフッと不敵な笑みを浮かべた。 そして、私の耳元に顔を寄せ、甘く、それでいて逃げ場のない低い声で囁いた。 「奪う? ……いいや、逆だよ」 桜生はそのまま、私の顎を指先でくいっと持ち上げた。 「レナ、お前が這い上がってきたこのブランド、そして今回のプロジェクト。……俺が、すべて手に入れてやる」 「どうして? 私の会社は最近、上昇したばかり。桜生が投資するほどの価値はないはず」 私は桜生を睨みながら、何か企んでいると思いながらそう告げた。 「俺が、お前ごと、投資するんだ」 桜生の言葉は、ビジネスの提案というよりも、所有権の宣言に聞こえた。 (意味が分からない。私以外にも綺麗な女性はたくさんいるのに、どうして……) この男の歪んだ執着が、今の私には理解できない。 「ごめんなさい。桜生、今回のプロジェクトは……」 私が言葉を切り出そうとした、その時だった。 「――レナ!」
last update最終更新日 : 2026-08-07
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第10話
大成さんが私の手を引き、その場から連れ去ろうと力を込めた。 「待って、大成さん。離して……」 私が慌てて腕を引き戻すと、大成さんは振り返り、以前の大成さんからは想像もつかないほど険しい顔で私を見据えた。 「いいや、離すわけにはいかない」 「大成さん。何か勘違いをされているようですが、桜生とは、仕事の打ち合わせをしていただけです。だから、落ち着いてください」 大成さんの耳には届いていない。さっきよりも強い力で私の腕を握っている。 傷みが走り、顔が歪みそうだ。 桜生が大成さんの身体を突き押した。 そのはずみで、私の身体は大成さんの胸板に引き寄せられた。 「レナもレナだな。男なら誰でもいいのか!」 桜生が大成さんを押したせいだと言うのに、どうして私がそんなことを言われなければいけないのか。 (どこかで同じようなことがあった) 私と桜生が中学生の頃だ。 ペア戦の作戦を部活の先輩男子と話していただけで、桜生はその先輩を突き飛ばした。地面に倒れた先輩の元へ駆け寄ろうとした私を、桜生は背中から強く押した。そのせいで、私は倒れた先輩の胸板へ覆いかぶせるような格好になった。 『その男とキスでもしたかったのか』 似たような言葉を浴びせられたのだ。 大成さんの胸板に顔を預けたまま、顔を横に向け、鋭い視線を桜生に向けた。 「……桜生、いい加減にして」 「お前に隙があるからだ」 「違うでしょう……! いつも、あなたがこういう状況を作っているんでしょ」 幼馴染だからこそ分かる。この男は、わざと周囲を混乱させ、私を追い詰めて楽しんでいる。 桜生は苛立ったように眉を寄せると、私の肩を強引に掴み、自分の方へ引き剥がそうと腕に力を込めた。 それよりも早く、大成さんの大きな手が私の背中を優しく、絶対に離さないという強い意志を込めて包み込んでいた。 桜生の手が空を切るように、空振りした。 「……レナに、これ以上触るな」 大成さんの腕に阻まれ、私は桜生の方へ引き戻されることはなかった。 「今、この時間は俺とレナのものだ。返してもらおう」 頭に血が昇っていた私は、桜生の言葉を聞きこの状況を変えなければと、話を元に戻す。 「桜生。大成さんは私が何度も連れ去られそうになっていることを知っているから」
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