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第 22 話

Author: 燈ちゃん
そもそも、英治が自分を敵視している理由は明らかだ。

真也と結婚したことで、真也は会社の株式を無事に手に入れ、英治を経営の中心から追いやった。その恨みを、未だに抱えているのだ。

けれど――

こんな言葉なら、もう何度も聞いてきた。今さら凛の心を傷つけるほどの力はない。

凛は表情を一切変えず、穏やかな笑みを浮かべた。「叔父さん、生まれた環境は自分では選べません。でも、大切な人にどれだけ心を尽くせるかは、自分で決められることです」

そして、英一へ視線を向ける。「私にとって一番大切なのは、家族である皆様に誠意を尽くすことです。桐生家が大切にしているものも、肩書きや家柄だけではないのでしょう?」

英治は鼻で笑った。「じゃあ肩書きや家柄がどうでもいいっていうのか?家柄という強い後ろ盾がない妻は、どうやって夫を支える?お茶を出したり、身の回りのことをするだけなら、家政婦でもできる」

あまりにも露骨な嫌味だ。

その瞬間、凛は妙に納得した。

――なるほど。桐生家の今の当主が英一である理由が、少し分かった気がする。

英治には、相手を貶めることしか考えていないのだ。

凛はゆっくり顔を上げた。声は柔らかいままだが、一つ一つの言葉には揺るぎない意思があった。

「叔父さんのおっしゃる通り、夫の力になれることは大切だと思います」そう言って、隣にいる真也へ視線を向ける。「ですが……私の夫は、私が支えなければ何もできないような人ではありません。一人で会社を背負えるほどの力を持っています。お義父さんが悩み抜いて選んだ後継者ですから」

英一は満足そうに笑い、お茶を一口飲んでから言った。「凛の言う通りだ。桐生家にとって大切なのは、家柄や肩書きなどではない。真也の実力も、誰もが認めている」

英治の顔がわずかに強張る。

凛はそんな彼をまっすぐ見つめた。「本当に誰かの支えになれる人というのは、仕事の場で華やかな成果を上げる人だけではないと思います。家族や年長者に対して、最後まで誠意を尽くせることも、大切なことではないでしょうか」

その言葉に、周囲の空気がわずかに変わった。

口には出さなかったが、皆が思い出していた。

先代の葬儀の時、英治が一度も顔を見せなかったことを。

以前の凛なら、こんな言葉を口にすることはなかった。誰かの機嫌を損ねれば、真也に迷惑がかかる。そう考えて、どんな嫌味も、どんな屈辱も黙って受け入れてきた。

けれど今は違う。むしろ――

誰かに離婚を勧められたほうが助かる。

英治の顔はすっかり険しくなった。

今までの凛は何を言われても反論しない、扱いやすい相手だったはずだ。それが、たった数年でここまで変わるとは。

「真也」英治は不機嫌そうに声を落とす。「嫁の躾けがなってないぞ。目上の人に対して、口答えをするもんじゃない」

つまり、「お前の妻は礼儀知らずだ」と遠回しに言っているのだ。

だが、真也は聞く耳を持たなかった。さっきからずっと、彼の視線は凛に向いたままだった。その目に浮かんでいるのは、隠しきれないほどの驚きと賞賛。

これまで何年も、自分の前では決して見せなかった強さ。それを今、真也は初めて目にしていた。

しかも、英治の言葉に乗る理由などなかった。もともと英治との関係は良くない。たとえ真也が凛を大切に思っていなかったとしても、英治の思惑通りに話を合わせるつもりはなかった。

「俺は、凛の言ったことが正しいと思います」真也は淡々と答えた。「叔父さんは、少し気にしすぎじゃないですか」

「……」

英治の顔が怒りで赤く染まり、反論の一言さえ出なかった。

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