ダイヤモンドは泣かない 〜可愛い顔したあの子に、もう奪わせない〜

ダイヤモンドは泣かない 〜可愛い顔したあの子に、もう奪わせない〜

last updateÚltima actualización : 2026-10-17
Por:  藍沢咲良Actualizado ahora
Idioma: Japanese
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製薬会社に勤める25歳の時國深月は、恋人の裏切りを知ったその場で証拠を残し、自分の部屋の鍵を取り返し、関係を終わらせた。 翌日も仕事へ行き、貸した金は一括請求。 新しい暮らしを始めるため、深月は引っ越しを決める。 泣いて立ち止まるより、先にやるべきことを片づけてしまう。 そんな彼女のそばにあるのは、祖母から受け継いだ一粒のダイヤモンド。 透明で、美しくて、強い光を宿したその石には、どうやら秘密があるらしい。 そして新しい生活の先で、深月は一人の男性と出会う。 一人でも立てる。 けれど、一人で立ち続けなくてもいい。 これは、傷ついても自分の人生を手放さなかった女性が、誰かを信じ、愛されることを受け入れていく物語。

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Prologue〜肝油ドロップ缶〜
「深月《みづき》ちゃん。これ、あげる」 祖母は私に、白いビニール袋に入った昭和レトロな飴の缶をくれた。 白いビニール袋の上からうっすらと見えた文字は……「肝油ドロップ」 ──何故? 「いらない」って言葉が喉元まで出かかった。 だめだめ、ここは孫として、”おばあちゃんの謎の贈り物”を受け取るのよ。 本当にいらなかったら、家でこっそり捨てればいい。 「ありがとう」 営業スマイル的な孫娘の笑顔、装着。 ちゃんと微笑んで受け取りましたよ? 一人暮らしのアパートの、私の部屋。 お風呂場に干していた洗濯物を片付けた頃、祖母から貰った謎の肝油ドロップ缶の存在を思い出した。 白いビニール袋から取り出す。 うわ。 ガムテープついてんじゃん。 開封済み。 うんやっぱいらない。 申し訳程度に一個ぐらい食べようか。 ──蓋を開けると、ベルベットの青い箱と白い紙が二つ折りになって入っていた。 ベルベットの箱を開ける。 うわ。 箱の中には、直径1㎝はあるだろう大きなダイヤモンドが、ごついプラチナの台座に鎮座していた。 喧嘩するときに装着したら相当強そうな、痛そうなプラチナのリング。 試しに指に着けてみる。 ……うん、ごつい。 そして重い。 何これ指の筋トレ? 白い紙は、カレンダーの裏紙だった。 『困ったときに使ってネ。黒瀬栄子』 黒瀬栄子。 私の祖母の名前だ。 黒瀬は母方の実家の名字。 私の名字は時國《ときくに》。 時國深月。 それが、私の名前だ。 ……おばあちゃん。 私、今、困ってる。 このダイヤをどうしたらいいのよ⁈静かにベルベットの箱に戻す。そっ閉じってやつ。カレンダーの裏に書かれたメッセージも折りたたんで、肝油ドロップの缶に入れた。ガムテープ付きの蓋は……まあ、いいか。このままにしておこう。白いビニール袋はもう捨てていいよね。どうすんのこれ。とりあえず見なかったことにするべき?せっかく直径1cm超えなのに。こんなゴツい台座じゃ、どう考えても着けられない。肝油ドロップの缶にしまう。クローゼットの中の、引き出しになっている衣装ケースの一番奥に入れてみた。どうすんのこれ。現実逃避に昨日読み終わった漫画でも
last updateÚltima actualización : 2026-08-29
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疫病神①
合鍵、返して欲しいな。 環と日菜ちゃんに口揃えて「別れたほうがいい」認定した人が、私の家の鍵を持ち続けているのは絶対良くない。 今日は司の部屋に行く約束はしてない。 ……行ってみよう。 司が忙しくても構わない。 鍵さえ返してもらえれば、それでいい。 面と向かって「部屋の合鍵返して」って話したって、すんなり返してもらえるとは思っていない。 「大家さんがセキュリティを強化する為、鍵を変えるらしい。管理会社に渡さないといけない」とでも言えば、返してもらえるだろう。 司は第三者が介入すると、急に大人しくなる。 今回は、それを使わせてもらおう。 司の部屋は、3階建てのコーポ佐々木。 その、3階の角部屋。 インターホンを押す。 出ない。 駐車場に車、あったけどな。 司の部屋の合鍵で解錠する。 チェーンはかかっていない。 出かけてるかな。 玄関に、司のスニーカーと、私の物ではないベージュのパンプス。 ……え? 足音を立てずに靴を脱ぐ。 「……っ!……はあっ……つ、かさ、くん……」 廊下から部屋に続くドアを開けてもいないのに響き渡る、女の声。 それも、この声。 私、聞き覚えがある。 肩に掛けてあったトートバッグを静かに玄関の床に置いた。 スマホ、動画モードオン。 笑っちゃう。 私、どれだけ冷静なの?泣きながら入った方がいいのかな。びっくりするぐらい、涙が出て来ない。そうか。私。とっくに司に冷めていたんだ。動画開始の音がポン……と廊下に響いた。「理紗ちゃん……ああ、いいよ……」キモ。私の元彼、キモキモ・オブザイヤー受賞です。おめでとうございます。……じゃなくて。本当に吐き気がしてきた。嘔吐する前に、証拠、撮るよ!動画撮影画面の時計は進んでる。よし、撮れてるね。勢いよくドアを……開けるのはやめた。開けた瞬間に下手な言い訳しながら逆ギレされるかもしれないもんね。そっとドアを開けた。ドアの隙間から、全裸のふたりがベッドの上で布団も毛布も使わず絡み合ってる。「あんっ……つ、かさ、くん……っ!それ、だめえっ……!」「理紗、ちゃん……最高だよ……」「あああああっ……!」うん、これだけ撮れ高あれば問題無し。データ削除対策のため、クラウ
last updateÚltima actualización : 2026-08-29
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疫病神②
「司。鍵」 「へ?」 変わらず全裸の司が間の抜けた顔をする。 「私の部屋の合鍵。返して」 「な、何でだよ!」 「いやあなた全裸。挿入してたところまで私ばっちり見ちゃったんですけど?」 「か、勝手に入ってくるからだろ!不法侵入だ!」 「合鍵で入るのって不法侵入になるのかしらね?まあいいや。さっきのはちゃんと証拠としてクラウドに上げたし」 股間のそれを揺らしながら私に掴み掛かろうとした司は、証拠と聞いて動きが止まった。 司のキーケース。 いつもと同じ、カレンダーの下のトレイに入っていた。 キーケースから私の鍵を外して、私のキーケースへ。 私のキーケースから司の、この部屋の合鍵を外してベッドの上に鍵とキーケースを投げた。 そのキーケースは、私が誕生日にあげたものだ。 「これで、私と司は他人。もう、彼氏でも彼女でも何でもない。大原さん、欲しいならあげる。ただこの人、浮気する上に財布の中身まで手をつけるから気をつけて」 「お、俺は別れるなんて」 「往生際が悪過ぎ。そのぷらぷらしたもの、そろそろ隠してよ気持ち悪い」 「……っ!」 「さようなら。もう二度と、私に声掛けないでね」 玄関の床に置いたトートバッグにキーケースを投げ入れる。 落ち着いてパンプスを履いて外に出た。 うん、終わった。 司とは。 問題は。 大原理紗が明日も同じ職場にいることだ。「おはようございまあす」「おはよう。今日も理紗ちゃん、可愛いねえ」「ええ、そんな。合ってますけどお?うふふ」始業時間は9時。現在8時58分。大原理紗はいつも遅刻ぎりぎりの出勤。裏で重役出勤とも言われている。裏で語る皆さん、感覚は私と同じようで安心する。「おはようございまあす」「おはようございます」聞きたくもない、この甘ったるい声。おじさん達のウケMAXの声の持ち主、大原理紗。昨日司の部屋で全裸でいるところを私に証拠動画を撮られているこの人。きっとこの人、クロセ製薬で五本の指に入る図太さの持ち主。図々しい人ともいう。    始業時間になった。私は30分前から整えていた企画書の続きをプリントアウトしようと立ち上がった。大原理紗のデスクが視界に入る。パソコンに、電源すら入れていない。ランプが赤にも緑にもなっていない。当の本人は、デスクに置いてあ
last updateÚltima actualización : 2026-08-29
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疫病神③
「ほんと……深月、本気出せばできる子だよね」 昼休み。 大原理紗もいるかもしれない会社の食堂で、司の部屋に乗り込んだ話と債権回収の話を環と日菜ちゃんにした。 「深月先輩……そういうところですよ。だから後輩女子達からのバレンタインチョコが山のように」 「すごかったよね。紙袋3つ分だったっけ?」 「4つだよ。持ち帰るの大変だった」 今年の2月、バレンタイン。 どういうわけか私のデスクには、私が席を離れる度にラッピング済みのチョコレートが積まれていた。 おじさん達から向けられる視線には、苦笑いと冷たいものが入り混じっていた。 「しっかし。一括とは思い切ったよね」 「深月先輩にはその権利ありますよ。手持ちが無いならサラ金行くなり、大原さ……っと」 環が慌てて日菜ちゃんに向けて人差し指を唇に立てる。 「日菜ちゃん。私達、悪いこと何ひとつしてないけど、一応気をつけて」 「はあい」 日菜ちゃん真っ直ぐだからな。 素直で良い子なんだけど、たまに危なっかしい。 「……で。深月さん」 「どした環」 「その、証拠の動画ってさ……」 「このスマホの中にございましてよ。クラウド上にもね」 「食事中だから動画はちょっと……音声だけ、さ」 環の悪い顔。 嫌いじゃない。 むしろめっちゃ好き。「……イヤホン、あるよ?」「持ち歩いてんの?さすが深月」「私も聴きたいです!」アダルトビデオみたいな音声を聴きながらA定食の冷やし中華を食べようとする環と日菜ちゃん。女傑って言葉があるけど、このふたりにだいぶ相応しいよね。Bluetoothをスマホと繋いでいた、そのときだった。「……ね、あれ。黒瀬専務じゃない?」声を潜める環の視線の先には、食堂の入り口に立つ黒瀬《くろせ》悠《はるか》専務。現社長の弟、という血筋は社内で知られている。ちょっと訳ありの血筋であることは公開されていない。言う必要も無い。そう、言う必要が無いから誰にも言ってないけど。黒瀬悠専務は、年離れた私の従兄だ。私の母、時國真紀は、現会長の年離れた妹。現社長と黒瀬悠専務は、私の年離れた従兄達ということになる。私にダイヤをくれた祖母、黒瀬栄子は現会長と私の母の母親にあたる。特別扱いされたくないから、黒瀬の家の人たちには、私の出自について社内では伏せてもらっている。…
last updateÚltima actualización : 2026-09-02
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心機一転!引越をしよう。①
午後の会議って本来なら眠い。 例の喘ぎ声音声のおかげか。 私も環も日菜ちゃんも起きていられた。 大原さん、フリスクより効果あるじゃん。 今後ルーティンに入れようかな。 会議が終わった私達3人は給湯室に向かった。 「合鍵、取り返したんだっけ」 環が私のマグカップを渡してくれる。 「うん。当然」 「その合鍵、大丈夫ですか?」 日菜ちゃんは自分のマグカップに抹茶オレの粉末を入れながら私を見た。 「大丈夫、というと?」 「複製、されてない?鍵」 環が声を潜めた。 「そうですよ。財布からお札抜く人ですよ?」 鍵の複製。 考えもしなかった。 「可能性はゼロでは無いと思うよ」 「引越。した方がいいと思います」 「引越……んん、でも。いくら何でもそんな」 そこまではしないでしょ。 司の為に引っ越すなんて癪だ。 「深月。安全の方が大事だよ。元彼のせいで引っ越すのが癪だとか思ってるでしょ」 「環。エスパー?」 「深月先輩。念には念を押しましょう」 「おっつかれさまー。ん?何の話?」 強めの香水が給湯室内を支配した。 大原理紗だ。 「午後の会議だったけど、そんなに眠くならなかったねって」 「そう?私ずっと寝てたけど」 確かに大原理紗は思いっきり寝てた。 それを堂々と口にするのかこの人は。 「何か引越とか聞こえたけど。時國さん引越するの?」 聞こえてたんじゃん。 にこにこしてるつもりなんだろうけど。 右だけ口角上がってんの、バレてますけど?「さ、戻ろうか」環が完成したカフェ・オ・レを手に給湯室を出た。話を強制終了してくれたんだろう。できる女。さすが。日菜ちゃんもそれに続いて出た。「ね、時國さん」振り向きたくない。でもこれたぶん、振り向かないといけないやつ。振り向かないと「無視された」って言われるやつ。大原理紗の顔を見た。「司くんのこと、ごめんね?何か、司くんね、時國さんにとっても不満があったみたいでぇ……」それを首を傾げて言うのが、この人。「……お財布には気をつけて」渾身の氷点下。なのに出てくる言葉が危機管理のアドバイス。私、どれっだけいい人過ぎるのよ!あー、後で環に絶対怒られるやつ……。「敵に塩送ってどうすん
last updateÚltima actualización : 2026-09-03
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心機一転!引越をしよう。②
「ふーん。いくら?」 「20万」 「ソッカー。ジャ、オサキシツレイシマス」 勝ち誇った顔をする大原理紗。 棒読みでその場を去る私。 視線を逸らして肩を振るわせる環。 頬をひくひくさせながら掲示物を見る日菜ちゃん。 早く!立ち去るのよ! 表情が崩れるその前に! ああダメ!口角が上がる! 耐えろ!私の表情筋! エレベーターに駆け込む。 大きく息を吐く。 他に人がいなくて良かった。 環と日菜ちゃんとのグループLINEに通知が入った。 『……深月さん、ちょ、さっきの給湯室さw』 『なに』 『絶対ちょっと狙ったでしょ。お財布には気をつけてってw』 『…………うっすら?』 『うっすらどころじゃないですって。大原さん、一瞬固まってましたよ!』 『でも持ち直したね。元彼が会社?作るって?』 『そう。司が独立だってよw』 『20万て……wその4分の3、深月先輩に来るやつですよw』 『引越資金キタねw』 『ありがたい限りです』 『腹筋崩壊し過ぎて仕事進みません(泣)』 『がんばれ日菜ちゃん!キミならできる!』 再び表情筋崩壊。 腹筋も絶賛崩壊中。 いかんいかん、顔、戻さなきゃ。 エレベーターが1階に到着。 ドアの向こうには、昼休みにはる兄ぃと一緒にいた久世さんがいた。 私が「ビズ・デブ……?」って言ってたのは聞こえてないはず……! あの時こっちを見た気がするけど、きっと気のせい、大丈夫! 「おつかれさまです」 「おつかれさまです」 営業スマイルで久世さんの横を通り抜けた。アオバ賃貸パートナーズの看板のあるビル。その1階の店舗の前で、私は立ち止まった。来店予約ってしないといけないのかな?スマホの店だと最近必須だけど、不動産屋はどうなんだろう?いいや。ダメならダメと言われるだろう。さあ、いざ!私の新居よ、出でよ!ガラス戸の自動ドアが開いた。涼しげな冷房の空気に包まれる。視界の先には、芸能人でもおかしくない美男美女がカウンターやデスクで仕事をしていた。何この店舗。本社ビルの店舗だから?顔採用とかあるのかなこの店。どちらにしろ、目の保養!大原理紗と出来損ないの課長にやられたメンタルが回復していくのがよくわかる。うん、この店来て良かった!「いらっしゃいませ。お部屋、お探しですか?
last updateÚltima actualización : 2026-09-04
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心機一転!引越をしよう。③
「あ、そうだ。築浅で、独立洗面台で、バス・トイレ別で。変な間取りでなければいいかなって」 速水さんの顔が若干固まった。 目がめっちゃ優しい。 口を真一文字にしてるのはなぜ? 「んん……少々お待ちください」 速水さんが立ち上がった。 おっ。これは。 何かプリントアウトしてる。 探せばあるんじゃん。 やっぱイケメンは仕事できるのね。 「こちら、いかがでしょう」 「うーん……徒歩8分。遠いなあ」 「自転車を使うという手もあるかと。駅までの間にスーパーとコンビニがございます」 自転車ねえ。ちょっと面倒だな。 やっぱなるべく駅に近い方がいいよね。 「他には?」 「こちら、即日入居可、オートロックもございます」 「でも1階かあ……」 オートロックがあっても1階じゃあねえ。 「あともう一件。こちら、2ヶ月後のご入居でしたら……」 「でも鍵複製されちゃって」 「失礼します、お客様」 速水さんのすぐ隣に、さっきまで難しい顔をしてPCのキーボードを叩いていた人が座った。 おお。こっちもイケメン。 イケメンというより最早麗しい。 「氷室と申します。お客様、現在のお住まいの鍵に、問題が……?」 「はい。元彼氏に鍵を複製されている可能性があって」 「お客様の条件をすべて満たすお部屋を、本日中にご紹介するのは難しいかもしれません。まずは、今のお住まいの鍵交換について、管理会社へ相談しましょう。連絡先は分かりますか。必要でしたら、ここで一緒に確認します」──新しい部屋は見つからなかった。でも、今日の20時に鍵交換の業者と管理会社が同時に来てくれることになった。「複製の可能性があると伝えてください。防犯上、緊急性があります」ってあの麗しい人が言ってくれたのが効いたのかもね。不動産屋を出たのが19時ちょっと前。急いで帰らないと。鍵交換の作業は、あっという間に終わった。「こちら、新しい鍵、2本です。本数をご確認の上、サインをお願いします」「はい」さらさらのさらっ。これで私、新しい鍵で眠れる。司、大原理紗、さようなら。……大原理紗が月曜朝に私の隣のデスクに遅刻ぎりぎりでいるであろう現実は、一旦さよなら。遅い晩御飯を終えて、ひと息ついた。鍵は交換した。少なくとも、司が勝手に入ってくる心配はなくなった。でもな。司に家を
last updateÚltima actualización : 2026-09-04
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BizDevって何なのさ①
「えっと……くせ、さ……」 久世さんって言おうとして止まった。 私は久世さんを知ってるけど、久世さんは私を認識していないかもしれない。 白いTシャツにインディゴのジーンズをラフに合わせたその人は、黒縁眼鏡の奥で目を見開いた。 「時國さん、ですね」 「はい。黒瀬製薬の」 「久世です」 「はい。存じております」 先日私が食堂で「ビズ・デブ」って言っちゃったのは聞こえてないな。うん、聞こえてない。よし。 自転車に視線を下げ、私の背後のコーポ黒瀬に視線を戻すと、納得したように眉を上げた。 「そちらに、お住まいなんですね」 「さっき引っ越しが終わったばかりで。冷蔵庫が空っぽだからスーパーに行くところだったんです」 「そうですか」 「では、失礼します」 軽く頭を下げて自転車の向きを変える。 久世さん、微笑みを浮かべていたけど、あんまり読めない人だな。 環の情報によると、久世さんは企業の仕組みを最適化する会社の代表らしい。 本当に会社の仕組みを最適化してくれるんだったら、大原理紗とあの課長のタッグを何とかしてくれればいいのに。 先日出した企画書は採用されていた。 どうしてだか、企画の立案者の名前が大原理紗になっていた。 もう、何度目だろうか。 課長に抗議したことはある。 でも返ってくる言葉は同じ。 「大原さんの方が適任だから」環も何度か被害を受けていた。商品開発部への異動の希望を出しているのは、そのせいだ。「配属されたからには営業で頑張りたかったけどさ。こんなに成果を搾取されるんじゃやってられない。商品開発部はね、みんなでオープンに力を合わせて開発していくからこんな搾取は不可能なんだって」理系出身の環は少し寂しそうに笑った。でも、商品開発部の話をする声はどこか弾んでいた。似合うと思う。白衣を着た環が、薬品の開発にチームで携わる。文系出身の私にはできない仕事。高校のときに覚えた元素記号、すいへいリーベすら、もうあやしい。つまり私は、商品開発部に異動希望を出すことすらできない。でも企画を考えるのは好きだった。そうじゃなきゃ、1ヶ月にいくつも企画出したりなんかしない。……ただ、ことごとく成果は奪われるんだけど。まさかのチーム長に大原
last updateÚltima actualización : 2026-09-05
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BizDevって何なのさ②
お問い合わせ窓口は店の公式LINEだった。 公式LINEから顧客用のLINEへと誘導された。 LINEの担当者とはトントン拍子で話が進んだ。 ネックレスへのリフォーム、プラチナの下取り、鑑定書の作成について相談する形で、 『あのダイヤ、ネックレスにリフォームしようと思う。でも黒瀬家の絡んだダイヤだから、念の為お母さんにも立ち会って欲しい』 母にLINEすると、すぐにOKの返事が来た。 ──その宝飾店は、商業ビルの最上階にあった。 エスカレーターから降りてすぐのその店は、奥で店員さんが作業していたり、接客していたりしていた。 ベテランの空気を纏う女性スタッフと目が合った。 「13時予約の、時國です」 「時國様、お待ちしておりました」 すぐに席に案内された。 この女性スタッフの安藤さんは、ダイヤの指輪を見ると、やはりカラットの大きさに驚いていた。 「指輪の内側に1.52ct.と刻印がありますね。おじいちゃま、当時相当お金を出されたのでは……」 「地下街の宝飾店で買ってました」 母が口を挟んだ。 このダイヤを購入した当時、母は小学生だった。 その宝飾店に母はついて行っていたらしい。 「うーん……浅野屋さんですか?」 「そう!よくわかりましたね」 「その当時で地下街で宝飾店。そしてこのレベルのダイヤを取り扱っているなら浅野屋さんかと」 警戒しているときは無口な傾向のある母。 安藤さんのこのひと言で、すっかり警戒を解いたらしい。 うん、この宝飾店。 当たりっぽい。「今日はお見積もりだけでも……」「いえ、決めます。デザインもこれで大丈夫です」この店の安全性は、母のこの反応で実証済み。引っかかるのは、チェーンのお値段だ。「これだけ大きいダイヤですと……ある程度の強度のあるプラチナのチェーンがよろしいかと」うむむ……。「指輪のプラチナを買取していただくと、どれくらいに……?」「プラチナのチェーン、ダイヤを指輪から外す作業料、鑑定書、ネックレスの加工代……。ここから今日のプラチナ価格で買取致しますと、96,800円ですね」ぐはっ……。プラチナの買取で何とかなるかと思ってたけど……!プラチナのチェーンだけで9万超えるってどういうことよ。泣ける。「他のチェーンだと……」「お手持ちのチェーンでも問題ありません。ただ
last updateÚltima actualización : 2026-09-06
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BizDevって何なのさ③
「久しぶり、ダイヤさん」 母が小さい声でダイヤに声をかけた。 「オ、カア、サン……?」 母は素早く唇に人差し指を立てた。 「後で話すから」 後で話すって、何を⁈ いやいやいやいやいや! お母さん、今、ダイヤに向かって「久しぶり」とか言ったよね⁈ 「これはいいダイヤですよ。浅野屋さんやるなあ……。これはもう、家宝にするべきダイヤです」 この店専属の鑑定士さんが嬉しそうにダイヤを忙しく調べる。手元のメモがどんどん増えていた。 「こちら、鑑定の機関に出して、規定の鑑定書を出してもらいます。お時間は、ネックレスの加工もありますので目安は1ヶ月となります」 安藤さんが伝票の控えを手渡してくれる。 「お渡しできるようになりましたら、またお店のLINEでご連絡致します」 「よろしくお願いします」 母と揃って宝飾店を出た。 すぐ近くのエスカレーターに乗った途端、さっきのことを私は尋ねたくてしょうがなくなった。 「お母さん、さっき」 「あのダイヤね、喋るんだよ」 「……?喋る、とは」 「おばあちゃんにも、私にも、ダイヤさんの声が聞こえる。深月もさっき」 「うん、聞こえた」 「……着いた。降りるよ。ちょっと喫茶店入ろう。道端でする話じゃない」 商業ビルの1階にあるスターバックス。 母は私が注文したものと同じフラペチーノを飲んでいる。 「昔、黒瀬の家にいた人たちは、だいたい聞こえてたよ。お父さんだけ聞こえなかったみたいだけど」 「じゃあ、はや兄ぃとはる兄ぃも?」 「そう。ダイヤさんによくつっこまれてたよ」 はや兄ぃはクロセ製薬現社長、黒瀬隼のことだ。ダイヤさん(黒瀬の家ではあのダイヤをダイヤさんと敬称込みで呼んでいるらしい)を宝飾店に預けてしばらく経った。もうそろそろ連絡来ないかな?とそわそわしていた。人事部の松川さんが第一営業課にやってきた。「高瀬さん。今よろしいですか?」よろしいですか?って尋ねる割には有無を言わせぬ雰囲気が漂っていた。課長、わかりやすく動揺するのやめてくれないかな。「はい。大丈夫です」「第一会議室へ」静かに環が立ち上がった。残された第一営業課、ざわざわと話しだす。「何かあったかな」「高瀬さん、何かやらかした?」「でも高瀬さんだよ?褒められることはあってもさ
last updateÚltima actualización : 2026-09-06
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