FAZER LOGIN3年間、若葉凛(わかば りん)は完璧な妻であり続けた。 桐生真也(きりゅう しんや)の力を借りて父の病気を治すために、わがままを言わず、出しゃばらず、自分のすべてを抑えてきた。 それでも彼女が手にしたのは――父の死亡診断書だった。 結局、真也が選んだのは、凛ではなかったのだ。 「まずあいつの父親を助けないと」 あまりにも軽い一言が、凛が守り続けてきた3年間をあっけなく壊した。 自分を救ってくれると信じていた人が、実は自分を追い詰める存在だったのだと気づいた瞬間、凛の心は静かに冷めていった。 父の葬儀を終えた日、凛は離婚届に署名し、何も持たずに家を出た。 もう、彼のために傷つく人生は終わりにする。 だが、誰もが敬う桐生家の跡継ぎ。何一つ不自由をしたことのない、誇り高き男。 そんな桐生真也が、初めて彼女の前で涙を浮かべ、声を震わせた。 「行かないでくれ」 凛は鼻で笑った。 ――父を見殺しにした時、真也はこんな日が訪れるなんて予想できていたのだろうか。 「失礼ですが、桐生社長」凛は淡々と続けた。「そこをどいてください。あなたがいると……邪魔なので」
Ver mais――信之は、妻を失ったことで息子を憎むようになったのではないか。だからこそ、何人もの養子を迎え入れた。そして、彼らを使って実の息子を追い詰めているのではないか、と。様々な憶測が飛び交った。けれど、誰一人として、信之の本当の思惑を知る者はいなかった。麻美が言ったように、表向きの理由は「後継者を鍛えるため」。だが――本当に、それだけだったのだろうか。陸は、何も答えなかった。窓の外の景色を見ていた黒い瞳が、ゆっくりと麻美へ向けられる。口元だけが、わずかに緩んだ。「なんだ、緒方家の財産を分けてもらいたくなったのか?」目の前の女――麻美もまた、信之が迎え入れた数多くの養子の一人だった。
「A区画31番、若葉賢治さんのご家族の方でしょうか?」警備員に声をかけられ、凛は足を止めた。「はい。私が娘の若葉凛です」そう答えると、警備員は「ああ、やっぱりか」と頭を下げた。「数日前にもご家族の方がお参りに来られたようで、墓前に落とし物をしたんです。清掃員が拾って届けてくれたので、今お渡ししますね」凛は、きっと墓前に花を供えていた人のものだろうと思った。警備員が小さな紙袋を差し出す。「何なのかは私もよく分からなかったんですが、見るからに高そうだったので……無くしたら困るんじゃないかって」凛は袋を受け取り、開けた。中から出てきたのは、金属製で爪ほどの大きさのものだった。隣にいた明
もちろん、陸が自分にとって大切な存在であることに変わりはない。ただ、それはあくまで家族としての大切さだ。越えてはいけない境界を、凛は越えるつもりはなかった。陸ほど人の感情に敏い人なら、自分の気持ちにもきっと気づいているはずだと思っている。陸の話をすれば、自然と真也の話にもなる。そして真也の話になれば、今度は凛の父親の話へと繋がっていった。明穂は以前から、帰国したら一度墓参りに行きたいと思っていたらしい。ちょうどその話になったため、2人は途中で必要なものを買い、そのまま一緒に霊園へ向かうことにした。山道を登りながら、凛は父が入院していた頃のことを明穂に話した。以前訪れた時と比べると、
明穂の乗った飛行機が到着するのは、午後2時半。凛はその1時間半前には家を出ていた。耳にはワイヤレスイヤホンをつけ、片手でハンドルを握りながら、顧客とオーダーメイドの細かな要望について話している。本来なら、凛が直接やり取りをする必要はなかった。けれど茜から、「どうしても凛さん本人に対応してほしいというお客様がいる」と頼まれたのだ。その女性は、以前のSNS騒動をきっかけに凛へ強い好感を持ったらしい。周囲から何を言われても自分の信念を貫いた姿に惹かれ、ファンとしてわざわざ港市から訪ねてきたのだという。【一か八かの勝負に出る勇気がすごいと思ったんです】褒め言葉のつもりなのは分かっている。けれ
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