共有

第8話

作者: ザクロ姫
スマホから聞こえるツーツーという音を聞きながら、杏奈はしばらく呆然としていた。

父はずっと自分のことが好きではなかった。そして真奈美が実家に戻ってきてからは、ますます自分のことを目の敵にするようになった。

父は心の底から、自分は竜也にふさわしくないと思っているのだろう。多分本当は実の娘である真奈美に嫁がせたかったはずだ。

しかし、中川家に取り入るためには、自分を利用するしかなかった。

しばらくためらったが、杏奈は意を決して竜也に電話をかけた。

コールが2回鳴っただけで電話はつながった。竜也の声は少し冷たかった。「また何の用だ?」

杏奈はその氷のような声に一瞬たじろいだが、すぐに言った。「明後日はお父さんの誕生日パーティーなの。あなたも……浩を連れてきてくれない?」

竜也は眉をひそめた。その瞳の奥に、ある感情が一瞬だけきらめいた。

やはり耐えきれなくなって、自分から電話をかけてきたか。

しかし、その手口はあまりに姑息だ。

​こんな風に騒ぎ立てるのも、自分と離婚したくないからだろう。

それで、自分の気を引きたいだけなのだ。

まっ、自分の機嫌を取ろうとする心遣いがあるなら、少し姑息でも目をつぶってやれなくもない。

だが、その口ぶりが、どうにも気に障った。

「お前から離婚を切り出したんだ。俺がお前の夫としての役目を果たす義理はないだろう」竜也は冷たく言い放った。「それが、復縁を願う人間の態度なのか?」

「復縁したいわけじゃない」杏奈はぐっとこらえ、深く息を吸い込んで言った。「お父さんが、浩に会いたがっているの」

そう言いながら、彼女は心の中で自嘲した。

自分が刑務所に入るまでは、あんなに良い夫を演じていたのに。今になってようやく本性を現したというわけね。

竜也は眉をひそめた。その瞳は冷たく、心にじりじりとした苛立ちが広がっていく。

ただ、彼女が父親に浩を会わせたいだけだと?

理由は自分でもよく分からないが、彼のイライラは更に募っていった。

杏奈はいつも、こういう手口を使う。

こんなのは、どうせ自分に会うための口実にすぎない。結局、自分から離れられないくせに。

「ずいぶんと下手な言い訳だな」竜也は声を押し殺し、顔に苛立ちをにじませた。「どこでそんな三文芝居を覚えてきた?」

そう言われ、杏奈の胸はその一言一言に深く突き刺されるようだった。

しかし、杏奈はもう麻痺してしまったかのようで、痛みを感じなかった。

彼女は再び深く息を吸い込んで、喉まで出かかった皮肉をぐっと飲み込んだ。

どうせあと三ヶ月の辛抱だ。そうすれば、もう二度と竜也の顔を見なくてもすむのだから。

そう思っていると電話の向こうで、浩がスマホを竜也から取って言ってきた。「もう僕のママじゃないって言ったくせに!なんで電話なんかしてくるんだよ!もうかけてこないでよ!」

その言葉を聞いて、今までそれほど痛まなかった杏奈は胸を抉られるような痛みを感じた。

そして、彼女はフッと自嘲の笑みを漏らした。

これが自分が十月十日お腹を痛めて産んだ、なんて「良い子」なのかしら。

いつの間にか、こんなろくでもない子に育ってしまっていたなんて、まったく気づかなかった。

「明後日は、おじいさんの誕生日パーティーなの。おじいさんがあなたに会いたがってるのよ、わかった?」

杏奈の冷ややかな声が、スマホのスピーカーを通して中川家のリビングに響き渡った。そして、その華やかな顔つきはいつになく冷たかった。

「もうあなたのママじゃないと言ったんだから、その考えを変える気はないから。言うことが聞けないなら。勝手にして」

杏奈が言い終わると、電話の向こうはしばらく沈黙に包まれた。

突然、あっけらかんとした女の声が聞こえてきた。「もうそんなピリピリしないでよ。ねぇ、竜也さん!この服どう?お姉さんより似合ってると思わない?」

それはよく聞き覚えがある声だった。

真奈美。

杏奈の胸に苦いものがこみ上げてきた。真奈美がカラカラと笑い、電話に向かって話しかけるのが聞こえる。「お姉さん、怒らないでよ。ちょっと頻繁に来すぎかもしれないけど、私たちと竜也さんが親友だっていうことは変わらないから。ただ、あなたがいない間、私が竜也さんの家のことを手伝ってあげようと思っただけよ、いいでしょ?」

そのまるで自分がその家の女主人でもあるかのようなその態度に、杏奈は思わず嘲笑いを漏らした。

自分が家を出た途端、真奈美は堂々とその家に出入りするようになったようだ。

だが、もう関わりたくもなかったし、どうでもいいのだ。

この親子のために、これ以上自分の時間を無駄にしたくはない。
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

最新チャプター

  • あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!   第10話

    いよいよ翔平の誕生日当日、ついに竜也と浩が杏奈に電話をしてくることはなかった。しかも、彼女のほうからかけてみても、すぐに切られてしまっていた。杏奈はしばらく呆然としていたが、仕方なくプレゼントを持ってタクシーで久保家へ向かった。家のドアを開けた途端、母親の久保椿(くぼ つばき)の嫌味な声が聞こえてきた。「あら、これはどなた様かしら?もう来ないのかと思ったよ。こんな時間にやっとのお出ましなんて、自分が主役だとでも思ってるの?」そう言いながら、杏奈の手足に残る傷を見て、椿は少し気まずそうな顔をした。「真奈美からは、あなたの怪我はもうほとんど治ったって聞いたけど。そんな格好して、わざと心配させようとしてるの?」杏奈は唇を引き結び、胸がズキズキと痛んだ。母はもともと、自分にとても優しかった。でも、真奈美が帰ってきたあの日から、全てが変わってしまった。母は、自分が実の娘の幸せを奪ったと憎んでいた。でも、家の評判を気にして、自分をここに置くしかなかったのだ。久保家での生活は、息が詰まるようだった。そんな自分を救ってくれたのが、竜也だった。あの頃は、それが救いだと信じていた。でも、実際はもっと深い地獄に落ちただけだった。「でも後遺症で……もうメスは握れないし、ダンスもできなくなったの」杏奈の声はかすかに震えていた。彼女は、椿の顔色をじっとうかがった。椿は一瞬、気まずそうな表情を見せた。でもすぐに、「どうせあなたの踊りなんて、真奈美に比べたらたいしたことないじゃない。うちにダンサーは一人だけで十分よ」と言い放った。椿の気まずそうな表情を見て、杏奈の心はすうっと冷たくなっていった。ふと、杏奈は思った。自分が真奈美の身代わりになったこと、両親はどこまで知っているんだろう?そして、どこまで関わっていたんだろう?杏奈は唇を引き結んだまま、何も言わなかった。その顔は青白く、とても弱々しく見えた。「口がきけなくなったの?」そんな杏奈を見て、椿は気まずさを紛れようと怒鳴りつけた。「私が何年も育ててやった恩も忘れて、ちょっと叱っただけでそんな不機嫌な態度をとるわけ?」「もういい!」そう言うと翔平が、厳めしい顔で階段を降りてきた。そして椿の言葉を遮った。「やかましいぞ、みっともない」翔平はソファに腰掛けると、杏奈に目をや

  • あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!   第9話

    そう思って、杏奈は目を伏せ、返事もせずに電話を切った。一方で、中川家。ツー、ツー、という音を聞きながら、竜也は胸にぽっかりと穴が空いたような気持ちになった。彼は眉をひそめ、思わずかけ直そうとした。しかし、その手は真奈美に止められた。「女の扱いなら私に任せて。ああいう態度の時こそ、優しくしちゃダメ。じゃないと、どんどんつけあがってくるから」真奈美はニヤリと笑った。「女のことは、女が一番よくわかってるものよ。お姉さんみたいなタイプは、少し放っておくくらいがいいの。そうすれば、あなたに夢中になるから」その言葉を聞き、竜也も納得をしたかのようにスマホの画面を消してポケットにしまった。真奈美の言うことにも、たしかに一理あると彼は思ったのだ。これまで杏奈に優しくしすぎたせいで、甘やかしてしまったのかもしれない。甘やかしすぎたせいで、彼女は世間知らずになってしまった。だから離婚なんて言葉も平気で口にするんだ。自分から離れて、一人で生きていけるとでも思っているのだろうか?今は、しばらく彼女を放っておくのがいいだろう。世間の厳しさを思い知らせてやる必要がある。あの二人と話したせいで、杏奈はすっかり気力を使い果たしていた。足と手の傷も、ズキズキと痛んだ。彼女はソファに座り、スマホを見ていた。すると、ある絵画展の情報が目に留まった。その瞬間、ふと心が動いた。ダンスを始める前、自分も実は絵を描くのが好きだった。足はもう治らないかもしれない。でも、この手でまだ筆は握れる。ソファに座っていた杏奈は、ふと笑みをこぼした。その瞳は、新たな目標を見出しことに確かな輝きが宿った。生きている限り、夢も好きなことも絶対に諦めない。だから、ただ困難に囚われているだけじゃなくて、新しい人生を始めるんだ。...次の日、また健吾が杏奈の部屋のドアをノックした。彼は相変わらず口元に笑みを浮かべ、何かを手にぶら下げていた。そして、また彼女の部屋に入ってきた。「はい、お見舞いに来たよ」そのさりげない口調には相変わらず、なぜか逆らえない雰囲気があった。テーブルに並べられた色とりどりの料理を前にして、杏奈の胸はまた温かいもので満たされた。彼女は声を詰まらせながら目を伏せた。頬にかかった髪をそのままに、言った。「本当に

  • あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!   第8話

    スマホから聞こえるツーツーという音を聞きながら、杏奈はしばらく呆然としていた。父はずっと自分のことが好きではなかった。そして真奈美が実家に戻ってきてからは、ますます自分のことを目の敵にするようになった。父は心の底から、自分は竜也にふさわしくないと思っているのだろう。多分本当は実の娘である真奈美に嫁がせたかったはずだ。しかし、中川家に取り入るためには、自分を利用するしかなかった。しばらくためらったが、杏奈は意を決して竜也に電話をかけた。コールが2回鳴っただけで電話はつながった。竜也の声は少し冷たかった。「また何の用だ?」杏奈はその氷のような声に一瞬たじろいだが、すぐに言った。「明後日はお父さんの誕生日パーティーなの。あなたも……浩を連れてきてくれない?」竜也は眉をひそめた。その瞳の奥に、ある感情が一瞬だけきらめいた。やはり耐えきれなくなって、自分から電話をかけてきたか。しかし、その手口はあまりに姑息だ。​こんな風に騒ぎ立てるのも、自分と離婚したくないからだろう。それで、自分の気を引きたいだけなのだ。まっ、自分の機嫌を取ろうとする心遣いがあるなら、少し姑息でも目をつぶってやれなくもない。だが、その口ぶりが、どうにも気に障った。「お前から離婚を切り出したんだ。俺がお前の夫としての役目を果たす義理はないだろう」竜也は冷たく言い放った。「それが、復縁を願う人間の態度なのか?」「復縁したいわけじゃない」杏奈はぐっとこらえ、深く息を吸い込んで言った。「お父さんが、浩に会いたがっているの」そう言いながら、彼女は心の中で自嘲した。自分が刑務所に入るまでは、あんなに良い夫を演じていたのに。今になってようやく本性を現したというわけね。竜也は眉をひそめた。その瞳は冷たく、心にじりじりとした苛立ちが広がっていく。ただ、彼女が父親に浩を会わせたいだけだと?理由は自分でもよく分からないが、彼のイライラは更に募っていった。杏奈はいつも、こういう手口を使う。こんなのは、どうせ自分に会うための口実にすぎない。結局、自分から離れられないくせに。「ずいぶんと下手な言い訳だな」竜也は声を押し殺し、顔に苛立ちをにじませた。「どこでそんな三文芝居を覚えてきた?」そう言われ、杏奈の胸はその一言一言に深く突き刺されるよう

  • あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!   第7話

    一方で、日が暮れて部屋の中が次第に暗くなるにつれ、杏奈は電気をつけた。久しぶりの静けさを、彼女はゆっくりと味わっていた。中川家にいた頃は、家の中がいつも騒がしかった。浩はわがままで遊び好きだったから、宿題をさせようとしても、何かにつけては、いつも大声で騒ぎ立てるのだ。竜也は、自分が家で子供の面倒を見ているのは、楽なことだと思っていた。でも、実際のところ杏奈にとって家では片時も心が休まる時間なんてなかったのだ。杏奈は壁の時計が時を刻む音を聞きながら、複雑な感情が込み上げてきて、そしてただ泣きたいほど切ない気持ちになった。ピリリリーン――けたたましい着信音が、彼女の思考を中断させた。スマホを手に取って見ると、相手は竜也だった。すると杏奈は迷うことなく、通話を切った。それでも竜也は懲りずに何度もかけてきた。その音で頭が痛くなり、仕方なく電話に出た。男の冷たい声が聞こえる。「杏奈、こんなに遅いのに帰ってこないのか?どこにいる?」彼の声にはまだ抑えきれない怒りがにじんでいたが、なんとか平静を保とうとしているようだった。杏奈は呆れて鼻で笑うと、心に皮肉がよぎった。昔から、二人が喧嘩するといつもこうだった。竜也は二日ほど自分を無視した後、何事もなかったかのように振る舞って、問題をうやむやにするのだ。「竜也、私、離婚するって言ったの。忘れた?」彼女の声は静かで、どこか冷たかった。それを聞いて竜也の表情が、とたんに険しくなり、スマホを握る指が白くなるほど力がこもるようになっていった。「杏奈、また癇癪を起こしているのか。そんなことを言ってなんの意味があるんだ?」「癇癪?」杏奈は冷たく笑った。「はっきり言わないとわからない?離婚したいの。本気よ、離婚届をだすから、あなたもちゃんと役所に来てよね!」すると、電話の向こうから、浩のあどけない子供の声が聞こえてきた。「なんで機嫌なんてとるの?パパ、ママは今ただすねてるだけだよ。パパが優しくすればするほど、ママはわがままばっかり言うから!いっそ帰ってこなきゃいいのに」浩の声は憤りに満ちていた。「僕だって、ママなんかいらないもん!」その言葉に杏奈の心は、何かがチクリと刺さったようだった。彼女は指先をきゅっと丸め、目を伏せた。「もう帰らないから。ここ何日かで離

  • あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!   第6話

    杏奈は、指先をわずかに丸めた。その男の甘い目元と銀色の髪を見つめ、彼女はしばらくして、やっと愛想笑いを浮かべた。「健吾さん?」目の前の男の顔が、記憶の中の姿と重なった。血まみれなのに、ナイフを突きつけてきた、あの陰の姿と。あの頃と比べて、今の男は当時の冷たい雰囲気が消えていた。もっと穏やかで物静かな印象だ。でも、どこか人を威圧するような、権力者独特の空気をまとっていた。「俺のこと、覚えててくれたんだ」橋本健吾(はしもと けんご)は一瞬動きを止め、甘い目元を細めたが、その漆黒な瞳には、冷たい笑みが浮かんでいた。久しぶりだね……杏奈も少し驚いた。結婚する前、自分は医学を学ぶために、しばらく留学していたことがあった。その時、銃で撃たれて怪我をしていた健吾に出会った。同じ国の人だということもあって、彼を助けたのだ。でも、目を覚ました健吾は、なんと真っ先に自分の首にナイフを突きつけたのだ。当時の健吾は、妖艶な顔立ちに反して、全身から殺伐とした雰囲気を放っていた。冷たくて暗い影を背負う彼を見て、自分は思わず憐れみを感じてしまった。ただ、真奈美が帰ってきてからのごたごたで、その気持ちはいつの間にか薄れていった。その後、自分は急いで帰国し、すぐに結婚した。あの時、確か健吾からも結婚おめでとうというメールが届いた。まさか、再会した彼が、穏やかで上品な、まるで別人のような姿になっているなんて、少し予想外だった。「乗っていく?」健吾の声は、低くて魅力的だった。杏奈を見つめながら、彼のたずねるような口調には、なぜか有無を言わせない響きがあった。そ言われ杏奈の視線は、やっとその車に向けられた。それは一台のロールスロイスだった。彼女は一瞬ためらったが、それでもうつむいて車に乗り込んだ。海外で会った時、健吾はまだ貧しい留学生だった。貧しさから道端で倒れていたけど、その甘い目元に自分は同情心をかきたてられたのだ。だから、彼をかくまった。まさか、時が経って、今度は自分がこんなみじめな姿になるなんて。杏奈は後部座席に座り、ふっと笑って健吾をからかった。「ここ数年、羽振りが良くなったね。もしかして、事業が成功したの?」健吾は少し間を置いて、甘い目をきらめかせ、軽く笑って言った。「レンタルだよ」

  • あざとい女に夫も息子も夢中!兄たちが出動!   第5話

    それを聞いて竜也の表情は一気に冷え込んだ。彼は杏奈が再び松葉杖をつき、足を引きずりながら自分から離れていくのをじっと見ていた。そして心にイライラがよぎった。竜也からしてみたら、杏奈は刑務所から出てきてからますます扱いにくくなったように感じた。せっかくこれから、うまくやっていこうと思っていたのに。「杏奈、何を馬鹿なことを言ってるんだ?」竜也は眉をひそめ、相変わらず見下したような表情だ。「たかがペンダントじゃないか。そんなんで騒ぐなんて、お前は本当にどうかしているぞ」だが、杏奈は冷ややかに彼を見つめ、心底これまでの愛情が冷え切って行くのを感じた。竜也は最初からこのペンダントの意味を知っていた。それでも、大したことじゃないと思っているのだ。つまり、自分のことはどうでもいいと思っているのだろう。でも、もういい。どうせ三ヶ月後には、ここを出ていくのだから。彼の気持ちなんて、もうどうでもよかった。「ママ、もうわがまま言うのやめてよ」浩は父親の真似をして眉をひそめた。「なんだかヒステリックで怖いよ。他のママみたいに優しくないから嫌だよ」それを聞いて杏奈は怒りのあまり笑えてきた。彼女は問い返した。「母親だから、優しくなきゃいけないの?自分の気持ちを持っちゃいけないの?」それには浩も言葉に詰まり、意地を張ってそっぽを向いた。その瞳には、杏奈への愛情はほとんどなく、むしろ警戒心ばかりが浮かんでいた。「まだそんなこと言うなら、もうママだなんて思わないからね」浩はフンと鼻を鳴らして言った。彼は真奈美の手を握る。「真奈美おばさんをママにする。真奈美おばさんは大学も出てるし、ちゃんとした教育も受けてるんだ。ママみたいな専業主婦とは違うんだよ!」杏奈は冷たい目で浩をじっと見つめた。もし中川家に嫁いで浩を産んでいなければ、自分は今頃、博士課程に進んでいただろう。自分は子育てに専念するために、大学院へ進むのを諦めたのだ。それなのに今、息子は学がないから母親にふさわしくない、と言っているのか?杏奈は、すべてが馬鹿馬鹿しく思えた。十月十日お腹を痛めて産んだ息子は、結局、竜也の冷たい人間性を受け継いでしまったようだ。彼女は皮肉っぽく笑った。「あなたの言う通りね。私には、あなたのママになる資格なんてないね」それを聞いて竜也の表情

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status