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last update Last Updated: 2025-12-06 11:57:01

 怪我は徐々に回復して、計画決行の日が近づいてくる。

 決行の前々日の夜、私たちはリビングの暖炉の前にいた。

 大きなソファに隣り合って座る。私は湊さんの肩に頭を預けていた。彼の体温と、落ち着いた呼吸が伝わってくる。温かさに心が安らぐ一方で、この人を騙しているという罪悪感が胸に刺さった。

 湊さんは静かな声で、古い詩集を読んでくれていた。そんな穏やかな時間に、私は最後の偵察を仕掛ける。

「湊さん、ごめんなさい。少し、窓から冷たい風が入ってくるような気がして」

 本を読んでいた彼の声を、私はささやくようにさえぎった。

「それはいけませんね。体が冷えてしまう」

 彼はそう言うと、本を置いて立ち上がる。リビングの分厚いベルベットのカーテンを、隙間なくきっちりと締めてくれた。

(カーテンの留め具は、なかなか頑丈そう)

 彼の背中越しに、カーテンレールを固定している真鍮の留め具の形状を、しっかりと見る。

 湊さんがソファに戻る。今度は私が痛む足を引きずるふりをしながら、立ち上がった。

「私も、何かお手伝いさせてください。火が少し、弱くなってきたみたいですから」

「僕がやりますよ。夏帆さんは座っていて」

「いえ。私もやってみたいんです」

 暖炉のそばまでやって来た。ツールスタンドに立てかけられた鉄製の火かき棒を、ごく自然な動きで手に取る。ずっしりと腕に伝わる、鉄の重さ。先端は鉤爪のように曲がっている。

 私は、燃える薪の位置を直すふりをした。頭の中では、火かき棒の先端の鉤爪の角度と、カーテンレールの留め具の位置を、重ね合わせていた。

(これなら、テコの原理で、留め具を壁から引き剥がせる!)

 私は何食わぬ顔で火かき棒を元に戻した。再び彼の隣に座る。それから、彼の腕に安心しきったように身を寄せた。

「火の加減は、あんな感じかしら?」

「ありがとう。でも、無理はしないでくださいね」

 湊さんはそんな私の髪を優しく撫でる。

 ふと、指先が頬に触れた。

 至近距離で見上げる先に、彼の揺れる瞳がある
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