LOGIN無関心でコミュ力ゼロの王レオンは、部下の裏切りで殺された。 気づけば過去に戻っていたが、「今度こそ国を救う!」と意気込んでも、事態は前世と同じく悪化。 全ての元凶は自分の言動にあるなんて、まったく気づいていない。 一方、現実世界の主婦・由奈は、言葉足らずの旦那にイライラしつつ、ネット小説で現実逃避中。 ある日、新作『アルカディア王国戦記』を読んでいると、「この王様、うちの旦那そっくり!」とツッコミを入れた瞬間―― 『……お前、誰だ?』 小説の中の王様と声がつながってしまう。 噛み合わない二人が挑む外交修羅場、後宮バトル、そして暗殺フラグ! 王様の運命は、主婦のツッコミにかかっている!?
View More―――異世界・アルカディア王国―――
「陛下! 後ろ――――!」
宰相シグルの絶叫が石造りの謁見の間に響いたその時、レオンハルト・フォン・アルカディアの背中に剣が深々と突き刺さっていた。
「まさか……お前が……っ!」
振り返った王の視線の先にいたのは、最も信頼していた近衛騎士団長だった。
男の瞳に宿るのは憎悪と絶望。「陛下……いや、暴君レオンハルト。あなたには失望した」
その声は震え、剣より鋭い非難を帯びていた。
「民からの信頼を無くし、貴族は反乱を企て、隣国は侵攻の機会を窺っている。そして、大事な人までも私から奪った。全てはあなたの……」
レオンの意識はそこで途切れた。
最後に聞こえたのは、シグルの嗚咽だけだった。***
「——はっ!」
レオンハルトは跳ね起きた。
全身が汗まみれで、心臓が荒々しく脈打っている。 こうして息をするのがやっとだ。「……夢……か」
いや、夢ではない。
あれは確かに現実だった。 自分は確実に死んだのだ。ベッドから立ち上がり、窓に向かう。
外は明るい朝日が差し込んでいる。 暦を確認すると、暗殺される2年前の日付が刻まれていた。「二年前!? 過去に……戻った……のか?」
指先が震え、呼吸が荒くなる。
夢じゃない、本当に二年前?
なぜだ、どうやって?頭が追いつかない。
混乱と恐怖が渦巻きながらも、これは現実だと直感が告げていた。理由は不明。
しかし、これは千載一遇の機会。「今度は違う。今度こそ、この国を救ってみせる」
レオンの拳が握りしめられた。
前回の失敗を繰り返すつもりはない。だが、レオンの思考はこうだ。
(反乱分子は武力で排除する。隣国の野心はこの剣で叩き潰す。それで全て解決する)
平和を望んでいても、戦しか知らない男の結論は非常に単純だった。
全て力で排除すればいい。 ただそれだけだ。「陛下、隣国バルトーク公国の外交官がお見えです」
扉の向こうから従者の声が聞こえた。
「分かった。すぐに行く」
レオンは剣を腰に帯び、謁見の間へ向かった。
(今度は違う。今度こそ全てうまくいくはずだ。)
だが、その「うまく」の意味を、彼はまだ知らない。
***
「……バルトーク公国外交官、クラウス・ベルクマンです」
小柄で神経質そうな男が丁寧に礼をした。
非常に緊張しているようで、無表情且つやや足元が震えていた。「うむ」
レオンは玉座に腰を下ろし、無表情で見下ろした。
「して、何の用だ」
外交官の眉がかすかに跳ねた。
レオンは、その様子を見ながら過去を思い出していた。(以前はこの者の話をまったく聞かず、大事な交渉を蹴った扱いにされて戦端が開いたな……)
しかし今も全く興味はない。
出された条件も大して魅力的ではなく、話を聞かなかった前回のことを自分の落ち度とは微塵も思っていない。ただ結果だけ欲しい。
そんな本能が勝ってしまう。外交官は必死に言葉を並べる。
「は、はいっ! ええと、本日は貿易協定の件で……その、両国の繁栄と友好のためにこのような機会を賜り……」
「無駄に長い挨拶はやめろ」
レオンの手が冷ややかに上がる。
「要点だけ言え。時間を無駄にするな」
外交官の顔色が青ざめ、さらに必死に言葉を重ねる。
極度の緊張のあまり、同じような内容を口にしていた。「お、恐れながら、陛下! わ、わが国は陛下との友好を何より大切に……今回の協定の詳細を聞いていただき、ぜひ円満に……!」
だがレオンはその声を聞き流し、内心では(長い……要点だけでいい)と苛立っていた。
無表情のまま視線は外交官を通り過ぎ、頭の中は「どう切り上げるか」ばかりを考えている。 焦る外交官の声だけが虚しく広間に響いた。 家臣たちもざわつき始める。「へ、陛下……我々は誠意を――」
「誠意? そんなもの知らん。条件を述べよ。まったく! 無駄話が長い奴の内容など、たかが知れてる。呑めぬならさっさと帰れ」
その時――
『うっわ! その高圧な発言で炎上するやつ!』
脳内に響く、女性の声。
「……何だ、今の声は?」
耳鳴りかと思ったが、違う。
はっきりと女性の声だった。 視線を左右に走らせるが、家臣も外交官も困惑しているだけで、誰も口を開いていない。 胸の奥に冷たいものが落ちる。幻聴か? 疲れか? それとも――
「……陛下?」
外交官が不安げに問いかける。
目は怒りと恐怖で震えていた。これは――まずい。
自分の動揺したという情けない姿を他の者に見せるなどあってはならない。
「……申し訳ない」
レオンは手をあげ、軽く頭を下げた。
「疲労で言葉が足りなかった。バルトークとの友好は重要だ。改めてよく来てくれた」
「!?」
(あの暴君と言われる陛下が謝り、しかも頭を下げただと……? い、いや、これはいい機会が巡ってきたようだ……!)
外交官の表情が驚愕から安堵に変わった。
「か! 感謝いたします、陛下」
家臣たちのざわめきが収束していく。
だが、レオンの混乱は深まるばかりだった。(今の声……誰だ?)
―――異世界・アルカディア王国――― レオンハルトは玉座に腰を下ろし、眼前に立ち並ぶ三人の女性を見渡した。 背筋を伸ばし、王としての威厳を保つ。 それが彼にとっての正しいと思われる姿勢だ。 広間の中央に並ぶ彼女たちは、それぞれがまったく異なる顔を持っていた。 リディア・フォル・ノルトハウゼン。 北方の大国から送られてきた王女。 氷を彫刻したような整った顔立ちに、冷ややかな眼差し。 その美貌は誰もが息を呑むほどだが、同時にとても近寄りがたい。 彼女の瞳には、常に値踏みの色が浮かんでいる。(さあ、この方はどんな言葉で私を試すのかしら) リディアは内心、冷めた目でレオンを観察していた。 政略結婚の駒として送り込まれた自分を、この若き王がどう扱うのか。 それが全てだ。 セレス・アルティナ。 神殿出身の聖女。 柔らかな微笑みと、ふわりと漂う優しげな雰囲気。 だがその瞳の奥には、どこか掴みどころのない影が揺れている。 セレスは困ったように視線を伏せた。(噂通りこの方も、我が神を信じてはいらっしゃらないのでしょう) 彼女が背負うのは聖女という名の重圧。 そして神殿という巨大組織の意向だ。 王が人々の信仰を軽んじれば、それは即座に民衆の不信へと繋がると不安視していた。 カリナ・ヴァルニール。 近衛騎士団長の妹にして、自らも剣の腕は一流。 軍装姿のまま広間に立ち、真っ直ぐに王を見据える。(私には、一体どんな命が下されるのだろうか) カリナの表情は静かだが、その目には僅かな警戒が宿っていた。 直属の兄の話によると王からの命令は、大分無謀なものばかり。 その内容によく兄は愚痴をこぼしていた。 レオンは一拍の間を置いてから、口を開いた。「よく来てくれた、お前たち。感謝しよう」 その言葉は、一見すれば丁寧だ。 だが。 温度がまるでない。 まるで書類に判を押すように、事務的で心のこもらない響き。(この私に向かってお前とは……) リディアの眉がピクリと動いた。 胸中に広がる呆れを、表情には出さない。 セレスは困ったように視線を下げた。 真心のこもらぬ言葉だ、と内心でそっとため息をつく。(私はともかく、他のご令嬢にはもう少し言葉を
―――現代・日本―――「……すごい。本当にリアルタイムで話してる」 由奈はスマホを持つ手をギュッと握りしめていた。 手のひらに汗が滲み、心臓が、ドク、ドク、と早鐘を打っている。「間違いなく王様に私の声が届いてる」 誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟いた。 信じられない。 けれど、事実だ。 自分の声が、画面の向こうの王様に届いている。 しかし由奈は混乱していた。 小説の中の人物とリアルタイムで会話している? そんなことがあり得るのか? これは夢なのか? それとも、何か別の現象なのか? 由奈は、もう一度ページを読み返した。 指が震わせながら、画面をスクロールする。 そこには、『謎の声』というワードと共に、自分のセリフを彷彿とさせる文言が追加されていた。 「説明・共感・感謝」 確かに自分が言った言葉だ。 そして、王様も自分の助言を実行してくれた。 シグルに、ちゃんと説明し、感謝を伝えた。 由奈は、そのままコメント欄をスクロールした。 そこには、読者たちの反応が並んでいる。《謎の声のキャラ好き!》 《導き手ポジ面白い》 《正体誰!?》 《この声の主、絶対重要キャラだよね》 《次回が楽しみすぎる》(や、やっぱり……これ、私だよね!?) 由奈の胸が高鳴る。 自分の言葉が、物語の一部になっている。 そして読者たちが、自分の存在を楽しみにしている。 現実ではあり得ない、奇妙な感覚に少しだけ嬉しかった。 さらに本文では、レオンが「名前は——」と尋ねかけていた。 そこで、シグルが戻ってきて、言葉が途切れている。 けれど、次があるならば、確実に自分の名前を聞かれるだろう。 そこを読んだ瞬間、由奈の心臓がドクンと跳ねる。(もし次に名前を聞かれたら……どうするの!?) 由奈は考えた。 現実の名前を出すのはむずがゆいし、身バレでもしたら厄介だ。 でも、匿名っぽい呼び名は必要だろう。 何か、それっぽい名前が欲しい。「……じゃあ、家族の頭文字から取ろうかな」 AKIRA、YUNA、KANAME、ASUKA その中から、彼女は「AYKA」を並べ替えて、「KAYA」という名前を決めた。(よし、今度聞かれたら……『カヤ』って答えよう) そう決めた瞬間、由奈は妙
―――異世界・アルカディア王国―――「陛下、昨日の外交はお見事でした」 執務室に入ってきた宰相シグルの表情は、珍しく柔らかかった。 普段は穏やかで、あまり感情を表に出さない彼が、今日は違う。 その顔には、明らかな安堵と、わずかな驚きが浮かんでいた。「最初はどうなることかと思いましたが、途中の発言で完全に関係を修復されました。さすがです! 条件もこちらにとって、とてもいいものでしたね」 シグルの声には、純粋な賞賛が込められていた。「……うむ」 レオンは書類を捲りながら、わずかに頷く。 その動作は、いつもの無愛想なものだったが、胸の奥では小さな安堵が渦巻いていた。 書類の文字を追いながら、昨日のことを思い返す。(確かにあのまま最後まで聞かず、あの者を返していたら、また戦争だったな……) 謎の声がなければ、前世と同じ道をなぞっていた。 だが、あの声が自分を止め、道を変えさせた。「……シグル」「はい」 シグルは姿勢を正した。 主君に向けたその目には、いつもの忠誠が宿っている。「もし……俺に助言をする謎の声があるとしたら、お前はどう思う?」「……は?」 シグルの表情が、一瞬だけ固まった。「例えば、だ。姿なき誰かが、俺の行動を正そうとしているとしたら?」 レオンは、シグルをまっすぐ見た。 その目は冗談ではなく、本気で聞いている。 シグルの顔には、困惑と心配が浮かんでいた。 彼は慎重に言葉を選び、口を開く。「陛下……。それはつまり……日々の疲労またはご病気では?」 シグルの目が、心配に揺れる。 その声には、主を案じる気持ちが滲んでいた。 レオンはその言葉に、ぴくりと眉を動かした。「そんなわけがあるか」 短く、鋭い否定。 声のトーンに苛立ちが混じっていた。 レオンの目が、わずかに細くなる。(病気? この俺がありえん。それより……あの声が俺の行動を止めようとしている。この不可解さ、不快感……。俺を諌めるなど、許せん) その時。『だから幻聴扱いされるって言ったじゃん!』 まただ。 今度はさらに鮮明な、怒った女性の声。 まるで、すぐ隣で誰かが話しているかのように、はっきりと耳の奥で響く。「——!?」 レオンはその声に思わず目を見開き、頭を抱えた。 両手で頭を押さ
―――現代 日本――― 翌朝、由奈は昨夜の小説のことが頭から離れなかった。 「ママ、水筒忘れてる」「あ、ごめん要」「ママ、体操着どこー? みつからないよー!」「待って、明日香! ここにあるから!」 慌てて息子の水筒をカバンに入れる。 下の娘にも体操着の入った手提げ袋を持たせる。 だが由奈の脳内は完全に『異世界モード』だった。 夫の態度に似た王様。 あの高圧的な王様がどうなるか。 昨夜スマホの向こう側で起きたことが、本当だったのか。 それとも疲れによる目の錯覚だったのか。 その問いが由奈の頭の中をぐるぐる回っている。「いってきまーす」 元気に飛び出していく子どもたちを見送りながら、由奈は思う。(……一番変わってほしいのは、無言で出ていく夫よ) 「いってらっしゃい」と声をかけても、晃は顔を上げずに靴を履き、そのまま玄関を閉めた。 これといった返事もなく、挨拶もそっけない。 いつものことだ、と言い聞かせても、寂しさは消えない。 静かになったリビングで、ふう、と溜息をつく。 洗濯機を回し、朝食の食器を片付ける。 その手つきは機械的だ。「……ほんと、うちの旦那と王様って似てるよね……」 由奈は苦笑した。 どちらも不器用で、言葉が足りなくて、相手を傷つけていることに気づいていない。 その違いは、王様には側近たちがいるということだけ。 晃の場合は、指摘する相手が由奈だけなのだ。 だからこそ、あの王様への苛立ちがひとしおなのだろう。 自分の家庭の映し鏡を見ているような、そんな気がしてならない。 家事を片付けながら、由奈は昨日の作品について考え込んでいた。 洗濯機を回しながら、頭の中では作家分析が始まっている。『聖剣の継承者と地獄の門』 『魔導学院の落ちこぼれが大魔法使いになりました』 『竜騎士と天使の誓い』 どれも面白かったが、共通するパターンがある。 由奈は、その作者の癖を知っていた。 何度も読み返した痕跡が、脳裏に刻まれている。「そうそう! この作者さん、いつも序盤で主人公が致命的なミスをするのよね」 由奈は洗濯物を干しながら呟いた。 ハンガーに服をかけながら、脳内では過去作のシーンが次々と蘇る。「で、第3話あたりで必ず恋愛関係の修羅場が来る。主人公が複数のヒ