FAZER LOGINスカーレットが去って、ポムはため息を吐きながら、散らかってしまった物を片付け始める。
それをブランシュ嬢が手伝い始めたので、俺も習って物を拾って回った。「あーあ、今月もギリギリだぁ〜!」
「悪いわね、ポム」「別にいーよ。それに、姉さんだって仕立物やら、すごく頑張ってくれてるじゃん」話の流れに疑問が湧いた。
「なあ、ポムは借金の返済、ブランシュさんに手伝ってもらってんの?」
直にブランシュ嬢に話しかけるのは恥ずかしいので、ボソボソっとポムに言う。
が、ロップイヤーがピクッと動いて、慌てて否定された。「違うの。元は私の借金なの。ポムが肩代わりしてくれているのよっ!」
「えっ! 意外に男気じゃんか、ポム!」「意外は余計でしょ〜。てか、そもそも理不尽な話なんだよ。姉さんが仕立物を届けたら、その仕立てたドレスに針が残ってて、どっかの令嬢の玉の肌に傷がついたから、慰謝料を払えって言われたんだ」なんだその、時代劇で鉄板な庶民を陥
今日は、ブランシュが結婚をして、長屋を出ていく日だ。 ブランシュのお相手であるシエルは、空色の髪をしたイケメンうさぎだった。 自分が商人として一人前になり、ブランシュを嫁に迎えたいと子供の頃から思っていたと言う。 そのために、子供の頃から熱心に辺境伯の蔵書閲覧に通い、独学で読み書き計算を学んでいたらしい。 ポムが読み書き計算が出来るのは、このシエルに教わったからだと言う。 クロワールが捕まったことで、色々混乱が起こるかと思ったが、さすがはシゴデキの辺境伯、文官を何人も派遣して、商会が行っていた仕事の整理を、あっという間にやってしまった。 お陰で街は風通しがよくなり、シエルの商売もクロワールに阻まれていた案件が片付いて、これからどんどん伸びていくって話だ。 そんな関係なのか、はたまた単なる息抜きなのか、結婚式にはなぜかお忍びで辺境伯も顔を出していた。 すっきりとシンプルな、白いドレスに身を包んだブランシュの美しさは、正にどっかの王妃様みたいだった。「やっぱり、俺……」 目にいっぱい涙をためたスカーレットが、ぎゅうっと拳を握り、前傾した。「おいおい、新郎を殴る気か?」「違う。最後に、ブランシュに一言、俺の気持ちを告白するっ! あの細っこいのがだめだったら、俺のところに来いって……っ!」「やめろって」 俺はスカーレットの背中を引っ張った。「なんでだよっ! てか、ホントはタイガだってブランシュが好きだったんだろ」「えっ……。なんで知って……」 カアッと、顔が赤くなるのを感じる。 スカーレットは、なんだか憐れんだみたいな顔で、俺の肩をぽむぽむと叩いた。「なら、オマエも一緒に告白しにいこうぜ」「バカ! やめろって!」「なんでっ?」「そんな独りよがりの勝手な告白、される方が迷惑だからだよ!」 俺の説得に、スカーレットが更にブワッと涙を溢れさせる。
壁の隠し金庫の中には、借用証文やら、奴隷関係の誓約書やら、とにかくクロワールの仕事関係の書類がどっさり入っていた。 魔法によって、双方が合意で取り交わされた証文ばかりだから、本来なら問題のない書類……なのだが。 今回の一件で、辺境伯が〝大事な客人〟と認定していた俺を、半殺しにするような脅迫をした……って事実が露見した。 つまり、双方の合意が強制によってなされた可能性が、否定できない状況になったって訳だ。 クロワールのあくどいやり口に、度々訴えがあったが、はっきりした証拠が掴めず、取り締まれずにいたのだ……と、家宅捜索に来ていた騎士の一人が教えてくれた。 だが、こうして証拠が上がったのだから、あのヤリ手のサドール辺境伯が後はなんとか〝きちんと〟片付けてくれることだろう。「僕らもだけど。クロワールと交わした借金はなかったことになったよ! それに追々、金も返してくれるって!」「やっぱり、最初の針の時から、嘘だったのか?」「うん。姉さんは、肌に傷がついた令嬢がいなくて良かったって、喜んでいたよ」 うん、うん。 ブランシュ嬢なら、クロワールに腹を立てるよりも、そういう考え方をするよな!「ブランシュらしいなぁ!」 一緒に長屋で祝杯をあげていたスカーレットが、ニコニコしながら言った。「これで姉さん、ようやく嫁に行けるよ」 ポムの発言に、俺はびっくりした。 が、同じように驚いたらしいスカーレットが、飲んでいたエールを吹き出す。「きったないなぁ!」「嫁って、なんだあっ!」 ポムはささっと生活魔法を使って、スカーレットに掛けられたエールを綺麗にしている。「なにって、嫁は嫁だよ。結婚するの」「誰とっ?」「シエル兄さん。姉さんと年齡の近い、同じ孤児院出身のヒトだよ。子供の頃から相思相愛で、結婚しようって言ってた矢先に借金ができちゃって。姉さんは結婚を諦めたんだ。だけど、シエル兄さんは、まだ待ってくれているから」
部屋で、俺はクロワールがやっていたように、絵画を外した。 壁にはなにもない。 クロワールが絵画を外してすぐのところを、俺は見てなかった。「おかしいな、ココにタッチパネルみたいのがあったんだけど……」 壁をペタペタ触って確認しても、なにもない。「ここがなにか?」「秘密の隠し扉を開く、パスコードを入力するタッチパネルがあったんだけど……」「なんでそんなこと、タイガが知ってんだよ?」 ついてきていたスカーレットが言った。「下っ端のスカには、教えてくれなかったんじゃん?」 即座にポムがツッコミを入れる。「タイガ殿は、監禁された時に見たんですか?」「うん、まぁ、そんな感じ」 幽体離脱してて見た……と言ったら、あんまり信じてもらえそうもないなと思ったので、そのへんはうやむやな返事をしておく。「おい、マルリーを呼んでこい」 指揮官が言うと、一緒に部屋までぞろぞろついてきていた騎士の一人が、外に走っていった。 さほどもしないうちに、甲冑のデザインが少し違う騎士が部屋に入ってくる。「お呼びでしょうか?」「この壁に、隠蔽の魔法が施されているかを調べてくれ」「わかりました」 騎士は、おもむろに手袋──いや、騎士だから籠手? を外し始める。 ああ、素手で触って調べるのかぁ〜……と思っていたら、次に鉄靴とすね当ても脱ぎ始めた。 一体、なにが始まったんだ? と思っている間に、騎士は鎧も、その下に付けていた鎖帷子も脱ぎ、最後にリネンシャツまで脱ぎ捨て、どう見てもステテコ一丁となる。「あれ、なにしてんだ?」 俺はこそっと、ポムに訊ねた。 騎士は、壁に全身でべったり張り付いて、目を閉じたまま、じわじわ壁沿いに移動している。「隠蔽の魔法を看破してるの」「そうなの?」「そう…&hel
体が凍えて身動きがままならない俺は、その後もなにも出来ずに床に転がっていた。 だが、しばらくすると、部屋にどやどやっと足音が近づいてきた。「タイガっ!」 部屋に駆け込んできたのは、ポムとスカーレット。 それに、甲冑を着込んだ騎士が一人。「うわっ! 冷てえ! 生きてんのか?」「息はあります。今、救護班がきますので……」 騎士が〝救護班〟を呼びに行ったのか、部屋から出ていく。 ポムは、俺を抱きしめておんおん泣いているし、スカーレットも心配そうにこちらを見ていた。「ごめん! ごめんね、タイガっ! やっぱり待って、一緒に帰ればよかったっ!」 俺は、大丈夫と言おうとしたが、やっぱり喉がこわばっていて「うう……」とか「おおう……」とか、変な音しか出ない。「こっちだ! 辺境伯様の大事な客人とのことだから、念入りにな」「はっ!」 救護班なる者は、ポムが抱えている俺の傍に寄ると、なにやら呪文を唱え始める。 驚いたことに、彼らが呪文を唱えると、俺の体の凍えが溶けて、だんだんポカポカ暖かくなってきた。「ポム……、俺は大丈夫だから……。それよっか……、クロワールは……?」「一応、騎士団に連行されたけど……」 この様子だと、なんか適当な言い逃れをして、さほどの罪に問われない可能性があるのかな?「辺境伯様のお客人を、拘束監禁してますから、なんらかの罪には問えるかと……」「でも以前。クロワールの店で横暴なめに合わされたって奴が訴えたら、そいつが店で暴れたからって訴え返されて、負けた奴もいたしなぁ……」 取り立ての仕事をしていたスカーレットは、そういう話を知っているっぽい。 ポムは、はあっとため息を吐いた。
しばらくすると、ドタドタと慌てた足音が聞こえ、部屋の扉が激しくノックされる。「なんだっ! 騒々しい!」「ボス! イカイジンかぶれの奴、息してませんっ!」 うん。 そりゃまぁ、中身がお出かけしてりゃ、肉体が息ぐらいしてないこともあるかもなぁ……。『えっ! 息してないのっ?!』 それが自分の身体だってことを思い出して、俺は叫んだ。『なんなの、これ? 全然危機感とか、湧いてこないんだけどっ!』 言ってから、そういえばそもそも〝肉体の外側に魂が出ちゃった〟時点から、そういうのがなかったことに気付く。『あれ? もしかして、感覚が精霊よりになってきてる……?』 これが長く続くと、そのうち自我もなくなって、なんとなくこの時間の概念が無いふわふわした光の粒になっちゃうのかな? と考えたら。 さくらさんは、単に自分が何者かがわからなくなっただけで、この粒のどれかなんじゃないか? なんて、思ったりした。『いやいや。悠長にそんなこと、考える場合じゃないし。……やべえ、もしかして俺、体に戻れなくなった?』『かえるの?』『かえろう!』『かえって、あそぼー!』 わあっ! と光の粒が盛り上がると、俺の魂はそれまでのたゆたうような状態から、なにかに腕を掴まれ、強引に引き戻されるような感じになった。 景色が新幹線の車窓より早く流れ、ズドンッ! となにかに押し込められるような感覚がした……と、思ったら。 手足を拘束されたまま、冷蔵庫から引っ張り出されて床に投げ出されていた。「ふざけんなっ! 生きてるじゃねぇかっ!」 ドスの効いた大平透な声が、それでもかなり焦った声音で、部下をどやしつけている。 怒りのあまり、耳がバッサバッサと羽ばたいていた。「だって、さっきまで息してませんでしたよ?」「タイガさん。聞いたでしょ? このままだと、息が止まるって話だし、ぼちぼち諦め
防音の魔道具のシャボン玉をすり抜けたぐらいだから、精霊たちには壁も床も関係がない。 そして、魂だけの俺もまた、するっと壁を抜けて隣の部屋へと進めた。 扉のところに見張りっぽい奴らがいて、カードゲームに興じている。 こんなキラキラの粒が大量に飛んでいて気にならないのかな? と思ったが。 そもそも精霊の存在を感知するには、なんらかの能力が必要みたいだから、むしろフォークダンスの時に彼らが見えることの方がおかしいんだろう。 俺が精霊に『右! 右!』とか言ってる声も聞こえないらしく、なんなく通り過ぎることが出来た。『あれ、なーにー?』『そっちじゃなくて、右だって!』 最初から指示に従う気なんてミジンコもない精霊たちは、好奇心次第で好き勝手に動き回る。 なだめすかしてみたり、即興で左右の歌を歌ってみたりして、かなりふらふらしつつ、俺はクロワールの居る部屋にたどり着いた。「ボス。あの倉庫のイカイジンかぶれ、どうするんですか?」「アレは、使い道次第で金になる。もうじき音を上げて、契約に同意するだろう。手こずらせた分、ただの奴隷じゃなく、肉奴隷の契約にしておくか」 いや、若くてピチピチのオネエチャンならまだしも、37のおっさんを弄んで、何が楽しいんだ? と思ったが。 そういえば、さくらさんの日記に「ひどく子ども扱いされて困る」と書いてあったのを思い出す。 曰く「彼らは獣の身体能力を持ち、体格も大きいためか、体力が少なく体格が小さい自分を、最初は10歳かそこらの子どもだと思っていた」と。 つまり、俺がどんなに「37だ!」と訴えても、誰もまともにとりあわなかったのは、彼らが相手の年齢を見定めるポイントが、こっちの基準とまるで違うからだったのだ。 スカーレットが俺を〝お稚児さん〟と呼んでいたのも、かなり本気だったのだと考えると、クロワールの発言は、本気なんだろう。「あのイカイジンかぶれを取り上げりゃ、ポムとブランシュも、直ぐに返済に行き詰まる。ブランシュを借金奴隷に落としたら、自分で飼うのもいいが、王都の貴族に売るのもいいかもな」







