異世界はつらいよ

異世界はつらいよ

last updateDernière mise à jour : 2026-08-12
Par:  琉斗六Mis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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◎あらすじ 「お前の存在自体が経費の無駄」 そんな暴言を浴びせられ、接待の下見に向かった風車虎七郎(37歳・社畜)は、不運にも川に転落した。 目を覚ますとそこは、獣人たちが暮らす異世界だった── 気がつけば手足を縛られ、奴隷として売られそうになるも、行商人ポム=ヴェールとの契約により、彼の〝商売の手伝い〟をすることに。 壊れた車軸を前に「森の小人」を絶唱しながら、手足が勝手に踊りだす。 光るコビトさんと一緒に、体力の限りをつくしてフォークダンスを舞う。 公衆の面前で37歳がおゆうぎをする羞恥プレイも、ブラック企業のパワハラよりはマシ! ……なのか?

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Chapitre 1

1-1:それを言っちゃあ、おしまいよ

 唐突に接待の日程を伝えられ、「今から現場の下見に行ってこい!」と上司に怒鳴られたのが、数時間前。

「どうせオマエなんか、社内にいたって役に立たないんだから」

 との、ありがたいお言葉を背に、俺こと風車かざぐるま虎七郎とらしちろうは、自腹で谷川岳へと向かっていた。

 なぜ接待の下見が谷川岳なのかと言うと、〝先方のご家族を招いたオートキャンプ場でのバーベキュー〟だからである。

 こんな仕事、SEにやらせるなよ……と思いつつも、自分の仕事に手落ちがあるのは許せない。

 駐車場の位置。

 当日の混雑予想。

 予約の可否──

 そんなことを調べ、最後に俺は湯檜曽ゆびそ川の河原を見に行った。

「ご家族の招待なんだから、子どもが遊べる場所があるかチェックしとけ!」

 という無茶な〝ご要望〟があったからだ。

 川遊びってのは、実に楽しいイベントだが、色々と危険も孕んでいる。

 バーベキューに興じる保護者の方々が、目を離した一瞬に事故でもあったら目も当てられない。

 だから俺は、スーツの裾をまくりあげて、川の中に入っていった。

 子供でも楽に立てそうな水深。

 石垣が組んであって、そこだけは飛び込み可だと、観光案内に書いてあった。

「うわ……、結構冷たいな」

 バシャバシャ水しぶきを上げて歩く。

 川底の石がコロコロしていて、裸足の足裏に気持ちいい。

「あ〜、あの上司の顔を見ないでいると、気分が晴れやかだなぁ」

 なんとなく空を見上げて、そんなことを呟いていたら。

 ズルっと足が滑った。

「うわっ!」

 川の流れは、思いのほか速い。

 腕を伸ばしたところで、掴めるのは水かもしくは石ころだけだ。

 立ち上がれば膝上ぐらいの水深のはずだが、足場を確保する前に体がどんどん流される。

 焦ってなにも分からない状況なのに、妙に冷静に水面に反射するキラキラした光の粒を〝あ、綺麗だな〟なんて思った。

 独身歴37年。

 長かったようで短かった人生で、心残りと言えば、女っ気が全くなかったことだけかもしれない……と、遠のく意識の中でぼんやりと考えていた。

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1-1:それを言っちゃあ、おしまいよ
 唐突に接待の日程を伝えられ、「今から現場の下見に行ってこい!」と上司に怒鳴られたのが、数時間前。「どうせオマエなんか、社内にいたって役に立たないんだから」 との、ありがたいお言葉を背に、俺こと風車虎七郎は、自腹で谷川岳へと向かっていた。 なぜ接待の下見が谷川岳なのかと言うと、〝先方のご家族を招いたオートキャンプ場でのバーベキュー〟だからである。 こんな仕事、SEにやらせるなよ……と思いつつも、自分の仕事に手落ちがあるのは許せない。 駐車場の位置。 当日の混雑予想。 予約の可否── そんなことを調べ、最後に俺は湯檜曽川の河原を見に行った。「ご家族の招待なんだから、子どもが遊べる場所があるかチェックしとけ!」 という無茶な〝ご要望〟があったからだ。 川遊びってのは、実に楽しいイベントだが、色々と危険も孕んでいる。 バーベキューに興じる保護者の方々が、目を離した一瞬に事故でもあったら目も当てられない。 だから俺は、スーツの裾をまくりあげて、川の中に入っていった。 子供でも楽に立てそうな水深。 石垣が組んであって、そこだけは飛び込み可だと、観光案内に書いてあった。「うわ……、結構冷たいな」 バシャバシャ水しぶきを上げて歩く。 川底の石がコロコロしていて、裸足の足裏に気持ちいい。「あ〜、あの上司の顔を見ないでいると、気分が晴れやかだなぁ」 なんとなく空を見上げて、そんなことを呟いていたら。 ズルっと足が滑った。「うわっ!」 川の流れは、思いのほか速い。 腕を伸ばしたところで、掴めるのは水かもしくは石ころだけだ。 立ち上がれば膝上ぐらいの水深のはずだが、足場を確保する前に体がどんどん流される。 焦ってなにも分からない状況なのに、妙に冷静に水面に反射するキラキラした光の粒を〝あ、綺麗だな〟なんて思った。 独身歴37年。 長かったようで短かった人生で、心残りと言えば、女っ気が全くなかったことだけかもしれない……と、遠のく意識の中でぼんやりと考えていた。
last updateDernière mise à jour : 2026-08-09
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1-2
 ハッと気付くと、俺は薄暗い場所に横たわっていた。 一瞬、寝起き? 陽が高い! 遅刻っ?! とか思ったが、直ぐに自分が河原でコケて、川ポチャしたことを思い出した。 その割には服が濡れてないな……なんて思いつつ、起き上がろうとしたのだが、身動きがほぼ出来なかった。「なんだっ……?」 焦ってキョロキョロすると、なんだか周りは木箱みたいな物に囲まれている。 手足の感覚はあるが、動かない。 というか、動かすと痛い。 怪我でもしてるのかと思ったが、そうじゃない。 俺の両手と両足は、荒縄のようなもので縛られてた。「あ〜、目が覚めた〜?」 聞こえた声は明らかに日本語以外の言語なのだが、なぜかすんなりと意味が理解できた。 そちらに顔を向けるが、逆光で相手の顔はよく見えない。 ただ光で縁取られた髪の色が、哺乳類的にアリエナイ、アップルグリーンをしていて、しかも頭部にひどい寝癖があるのか、シルエットがちょっと変だ。 コミュ障で、初対面の人間と話をするのは苦手だが、今はそんなことを言っている場合ではない。「あの……、俺はどうして、縛られてるの……?」「う〜ん、キミさぁ、道端に倒れてたんだよねぇ」「はっ?」 川で溺れたはずなのに、なにゆえ道端? と混乱する。 が、相手は俺の混乱なんてまるっと無視して、言葉を続けた。「イカイジンかぶれでイタい感じだけど、顔は結構可愛いし。それにその服も、素材は上等そうじゃない。辺境伯様のところに連れてけば、高く買ってもらえるかな〜? って思って」「えっ? はっ? ……ええ〜っ?!」 アップルグリーンの発言に、俺は更に混乱する。「ちょ……、人身売買って違法だろ!」「なーに言ってんの。市民権のない野蛮人なんて、問題ナシでしょ〜?」「いや、いやいやいや! 上等そうな服着てるヤツが、野蛮人って発想が変だろっ!」「市民権、あんの?」「えっ? ちょっと、俺の、俺の財布の中に、免許証があるからっ!」 アップルグリーンは、ちょっと面倒くさそうな顔をしてから、荷車を止めると荷台に入ってきた。 そうして、改めて傍にきた様子に、俺は更にパニックになる。 なぜならそいつの容姿が、アニメのコスプレみたいだったからだ。 髪色は光の加減ではなく、根本からアップルグリーンだし。 シルエットが変だったのは、頭の上にキタキツネの耳
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2-1:森の木陰でコロブチカ
 結局、アップルグリーンは俺の縄をほどいてはくれず、御者台に戻ってしまった。「ごめんね〜。僕もこんな奴隷商人みたいなことはしたくないんだけど。背に腹は代えられないんだ」「奴隷商人〝みたい〟じゃなくて、そのものじゃねーか」「そっかぁ……。確かに、そのものだねぇ」「ちゅーか、本業はなんなんだよ?」「本業は、ご覧の通りの行商人。その木箱の中に……」 突然、ガクンと衝撃がきて、荷車が止まった。「なんだ?」 アップルグリーンは荷車を降りる。 荷台には幌がついているので、俺からアップルグリーンの姿は視認出来なくなった。 が、物音からどうやら止まった原因を調べているらしい。「参ったなぁ」「おい、どうした?」「車軸が折れてる。これじゃ、動かないよ!」「そう言われても、俺は手足を拘束されてて、手伝いも出来ないし……」「ええ〜……」 アップルグリーンはぐるっと回って、荷台の後ろ側から顔を出す。 こころなし、頭部の耳が困った感情を表すように、ヘニャっとしていた。「僕さぁ、マジで金に困ってるから、アンタに逃げられたくないんだよね」「でも、車軸が壊れてたら、カネコマ以上にこっから動けないんだろ? 木箱の中身がなんだか知らんが、野ざらしになってて大丈夫なのかよ?」 しばし悩んだのち、アップルグリーンは仕方ないって顔で俺の縄を解く。 同じ姿勢を強制されていた所為か、手足の感覚がおかしい。 これじゃあ、走って逃げるどころか、普通に歩くのさえしばらくは無理だろう。 そうして、少し感覚が戻ってきたところで、俺はよろめきながら荷台を降りた。「なんだ、ここ……」 確かに俺は、谷川岳にいた。 谷川岳なんて、自然に溢れた場所だが、しかし一応キャンプ場までは道が整備されていたはずだ。 だが、俺の立っている地面はどう見ても土が丸出し。 振り返って見ると、荷車は幌こそついてはいるが、昔見た米国ドラマの──西部開拓時代に使われていた、サスペンションもついてない幌馬車みたいな木製だ。 とはいえ、一概に〝幌馬車〟とは言い難い。 なぜなら、荷車の前に繋がれているのは馬ではなく、某RPGに出てきたチョコ某に似た、ダチョウの親戚みたいな生き物だからだ。「ほら、ここがさぁ〜」 周囲の異変におろおろしている俺に、アップルグリーンが声を掛けてきた。「えっ……と」 
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2-2
「それって……、なんの儀式?」アップルグリーンの問いは、そのまま俺の疑問なのだが……。しかし、俺がなんらかの返事をする前に、道の両脇に生えている木々から、細かい光の粒みたいなものがブワッと出てきて、荷車を中心に輪を作る。「えっ? なになに? 何が始まったの?」アップルグリーンが戸惑っているが、俺だって何がなんだかわからない。そもそも説明以前に、俺は俺の意思で喋ることが出来ないので、そう問われても返事が出来ないのだ。光の粒はみるみるうちに集まって、ふわっとヒトのような形を作る。だが、その光のヒトガタは背丈が120センチぐらいしかなく、なんだか小学生の中に一人、おっさんが紛れ込んだような違和感があった。その光のコビトさんは、荷車を背にして立った俺の向かい側に現れた……と思ったのだが。よく見ると、荷車を囲むように俺と光のコビトさんが二重に輪を作っている。「ツー、スリー、フォー!」どこのロックのライブだよ? と思うような掛け声の後、俺はそこで鼻歌風に〝コロブチカ〟のメロディを口ずさむ。「ねえ、それ、なんなの……?」呆然としているアップルグリーンを置いてきぼりにして、光のコビトさんと俺はそこで一渡りフォークダンスを踊った。そりゃあもう、向かい合って手拍子をする時に「ヘイッ!」とか勝手な掛け声が入ってるぐらい、その光のコビトさんはノリノリだし、コロブチカ特有のだんだんスピードが上がる感じも盛り上がりまくりで、顔もわからないのに光のコビトさんたちが楽しそうなのが伝わってくる。最後に、向かい合った光のコビトさんが一礼をすると、ヒトガタが崩れて光の粒はふわっと森の中へと戻っていった。「ああー! 直ってるぅ!」「えっ?」振り返ると、アップルグリーンが先刻と同じ姿勢で荷車の下を覗き込んでいる。俺も同じように覗き込むと、見るからに二つに折れていた車軸が、何事もなかったみたいに、真っ直ぐ車輪を支えていた。「な……なんじゃこりゃー!」と、俺は、昔見た刑事ドラマの名台詞を叫んだ。「なんじゃもなにも、アンタがやったんじゃないの?」「知るかー! てか、なにがどんじゃらほいだよ! お歌小ムシかよ!」「オウタコムシって、なに? まぁ、これさえ直れば旅は続けられるよ! ありがとう! ありがとう! あー、ヨカッタヨカッタ!」アップルグリーンは鼻歌まじりに俺
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3-1:誤変換と魔法の契約
 〝手足拘束で荷台に転がされていた男〟だった俺は、〝奴隷の男〟に昇格することになった。  と言っても、それは未だ、アップルグリーンが宣言しただけの話……なのだが。  改めて隣に立つと、実は俺よりずっとでかい。  俺は180センチと、平均より身長はある方だ。  だが、向かいに立ったアップルグリーンの顔は、見上げないと視線が合わない。  軽く見積もっても2メートル以上はありそうだ。「ん〜、じゃあ、まずは名前教えて」 「風車虎七郎」 「ウィンドミル・タイガー・セブン? なんだよ〜、野蛮人なのに貴族みたいじゃん」 「か・ざ・ぐ・る・ま・と・ら・し・ち・ろ・うっ!」 「だからぁ、ウィンドミル・タイガー・セブンでしょ。ちゃんと聞き取れてるよ」 「聞き取れてねーしっ!」 ここまで、明らかに日本語以外の言語で喋るアップルグリーンと、絶対に日本語以外は喋ってない俺が、なぜか言葉通じていたのも変なのだが。  いままでなんのストレスもなく通訳されていたはずなのに、なぜか名前だけは誤変換されるらしい。  とはいえ、俺は自分のシワシワネームがさほど好きだった訳でもない。  拘る必要もないな……と思ったら、我を張るのも莫迦莫迦しくなった。「じゃあもう、タイガでいーよ!」 「ええ〜、せっかくお貴族様みたいな名前なのに、そこまで短くする〜?」 「そんなお貴族様みたいな名前で、呼ばれたくないし! 名乗りたくないし!」 「わかった〜。そんじゃあ、ここに手を置いて」 「なにこれ?」 アップルグリーンが出してきたのは、紙のようだが手触りが明らかに紙とは違う〝紙状のナニカ〟だ。  ベージュ色をしていて、表面には変な柄が描かれている。「契約用の魔法陣。ほら、手を置いて」 俺は、ちょっとだけ尻込みをした。  魔法陣ってことは、この世界には魔法が存在するってことだ。  もっとも、既に正体不明な光のコビトさんとコロブチカを踊り狂い、明らかに折れていた車軸が直った時点で、魔法は存在している。  ということは、冷
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3-2
「タイガの目ってさぁ、どうやってそんな色にしてるの?」 「はっ?」 「変身の魔法でも、そこまで綺麗に瞳を黒くする方法はないじゃん。イカイジンかぶれの連中にやり方を売ったら、一儲けできそうだし」 「イカイ……異界……? 異界人って、フツーにいるのか?」 そういえば、最初に俺を売っぱらうとか言っていた時も、そんな言葉を言っていたような気がする。  もしかして、異世界から転移してくるのが、常識な世界なのか?  と思ったのだが。「やだな〜、いるわけないでしょ。ってか、イカイジンかぶれがワカンナイの? どんな田舎からきたの〜?」 ポムは、アッハッハッと笑った。  その声音と様子から、イカイジンという言葉は、そのまま〝中二病〟って意味だってことが、なんとなく察せられる。  なんだか、ひどく拍子抜けした。「黒目……って珍しいの?」 「なにを今更。フツーはいないからイカレた連中がやりたがるんじゃない」 更にアッハッハッとか笑っているが、キツネのような糸目のアップルグリーンの目が何色なのか、俺にはわからない。  このままこの話題を続けるのは、いろいろ都合が悪くなりそうだ……と考えた俺は、話をそらすことにした。「この鳥は、なんだ?」 「なにって、駝鳥を知らないの?」 「知らん。ちゅーか、なんだその名前……」 見た目のダチョウと、チョコ某を混ぜたようなひどい名称だと思ったが……。  そもそも〝チョコ某〟がなんだかわからないだろうポムに、言っても意味はないだろう。 ダチョコの引く荷駝車は穏やかな森の道をゆったりと進み、やがてちいさな村が見えてきた。  住民の頭には、ポム同様にケモノ耳が生えている。  どうやらこの世界では、獣人が一般的らしい。  その割に、俺の容姿……というか、耳の付き位置にツッコミがないな……と思ったのだが。  村人の中には、猿っぽい容姿の者もチラホラ見かけたので、それ系の種族と思われたようだ。 というか、問題はむしろそこじゃない。
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4:壊れた井戸とマイマイマイ
 しばらくすると、ポムがこちらに戻ってきた。「商才の勘とやらは、当たってたのか?」 「井戸が壊れたんだって」 そう言ったポムは、糸目をますます細くしてニヤ〜っと笑った。「なんだよ?」 「車軸が元通りになったんだから、井戸も元通りに出来るんじゃない?」 「はあっ? 俺は、井戸なんて直せないって!」 「見るだけでいいから!」 「いやだっ!」 もし直せたとしても、村人がてんこもり集まってる真ん中で、どんじゃらほいだのコロブチカだの、やりたくないに決まってる。「ええ〜、じゃあそのランチ代、払ってよ〜」 「むむっ!」 俺は財布を取り出し、中から硬貨を取り出した。  少なくとも、札は通用しないと思ったからだ。「なに、これ、銀色してるけど、銀じゃないじゃん。ニセモノ禁止!」 百円硬貨は、あっけなく突き返された。  仕方なく、俺はポムに連れられて、広場の中央に設置されている井戸に向かう。  周りには村人が全員集まってるんじゃないか……ってぐらい、人垣が出来ている。「はーい、どいてどいて〜」 人垣をかき分けて、俺たちは井戸に近づいた。  俺も知識としては知っているツルベ式の井戸だが、覗き込むと水面が見えない。「随分、深いんだな」 「いつもは、見えるとこに水面があるんだけど。水がなくなったらしいよ」 横から、ポムが言う。「待て、それは壊れたんじゃなくて、枯れたんじゃないのか?」 「水を汲むトコで、水が汲めなくなったんだから、壊れてんじゃん」 これは、翻訳がおかしいのか、ポムの感性が変なのか、ワカラン事案だ……とか、俺が判断に迷っていると。  不意に体の自由が効かなくなって……、というか──  頭頂部になにかピリッとしたものを感じたかと思うと、俺の体はすすすっと井戸から離れ、ピタッと件の変なポーズをとった。  そして──「もりのこかげでどんじゃらほいっ!」 村人が見守る中で、一人おゆ
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5:イカイジンと精霊魔法
 ポムは、村人からもらった礼金を数えながら、嬉しそうだ。 一方の俺は、コロブチカとマイム・マイムの全力ダンスで体力が底をついていた。 そもそもSEなんて、日がな一日コンピューターの前に座り、画面を見つめて作業をする、頭脳労働がメインの仕事だ。 加えて、37歳って年齢も微妙で、体力には人一倍自信が無い。 そこに持ってきて、大衆の前での一人おゆうぎ会という羞恥プレイと、向こうの井戸で子供が「どんじゃらほい!」と叫びながらマイム・マイムを踊るという、追い打ちまでかけられている。 肉体的にも精神的にも、疲労困憊……というか、ブラックなパワハラ上司に余計な雑用をおっつけられて、そこに嫌味の波状攻撃を食らった時より、もっとしんどい。「いや〜、やっぱ僕の予想どーりになったよねぇ!」「予想……って、オマエはこの現象がなんなのか、分かってんのかよ?」 俺の問いに、ポムは糸目をますます細くし、耳をピルピルっと嬉しそうに動かした。「そんなのワカッテルよ! 金が儲かるってことだろ!」「ホントーに分かってないのか、分かってんのに説明しないののどっちだよ?」 返答いかんでは、いっそ逃げるのもアリなんじゃ? と思いつつ、俺は聞いた。「やーだなぁ! タイガってば、せっかくの可愛い顔が台無しだよ〜?」「37のおっさん相手に、可愛いとかって言葉でごまかせると思ってんのかっ!」「わかった、わかった、説明するから」 ポムは、子猫が逆毛立ててるのをからかってるみたいな声音で言った。「僕も詳しいワケじゃないんだけど〜、それって多分、精霊魔法とかゆーのだと思うよ〜」「えっ? 俺って魔法つかえんのっ?」「やだなぁ。誰だって、生活魔法ぐらいならフツーに使えるでしょ〜?」 言ってから、ポムは改めて俺の様子をしげしげと見る。「ねえ〜、タイガってイカイジンかぶれの割に、なんも知らなすぎない? てか、ホントにその目の色、どうやってるか教えてよ」 こうなっては仕方がない。
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