LOGIN◎あらすじ 「お前の存在自体が経費の無駄」 そんな暴言を浴びせられ、接待の下見に向かった風車虎七郎(37歳・社畜)は、不運にも川に転落した。 目を覚ますとそこは、獣人たちが暮らす異世界だった── 気がつけば手足を縛られ、奴隷として売られそうになるも、行商人ポム=ヴェールとの契約により、彼の〝商売の手伝い〟をすることに。 壊れた車軸を前に「森の小人」を絶唱しながら、手足が勝手に踊りだす。 光るコビトさんと一緒に、体力の限りをつくしてフォークダンスを舞う。 公衆の面前で37歳がおゆうぎをする羞恥プレイも、ブラック企業のパワハラよりはマシ! ……なのか?
View More唐突に接待の日程を伝えられ、「今から現場の下見に行ってこい!」と上司に怒鳴られたのが、数時間前。
「どうせオマエなんか、社内にいたって役に立たないんだから」
との、ありがたいお言葉を背に、俺こと
駐車場の位置。
当日の混雑予想。 予約の可否── そんなことを調べ、最後に俺は「ご家族の招待なんだから、子どもが遊べる場所があるかチェックしとけ!」
という無茶な〝ご要望〟があったからだ。
川遊びってのは、実に楽しいイベントだが、色々と危険も孕んでいる。 バーベキューに興じる保護者の方々が、目を離した一瞬に事故でもあったら目も当てられない。 だから俺は、スーツの裾をまくりあげて、川の中に入っていった。子供でも楽に立てそうな水深。
石垣が組んであって、そこだけは飛び込み可だと、観光案内に書いてあった。「うわ……、結構冷たいな」
バシャバシャ水しぶきを上げて歩く。
川底の石がコロコロしていて、裸足の足裏に気持ちいい。「あ〜、あの上司の顔を見ないでいると、気分が晴れやかだなぁ」
なんとなく空を見上げて、そんなことを呟いていたら。
ズルっと足が滑った。「うわっ!」
川の流れは、思いのほか速い。
腕を伸ばしたところで、掴めるのは水かもしくは石ころだけだ。 立ち上がれば膝上ぐらいの水深のはずだが、足場を確保する前に体がどんどん流される。 焦ってなにも分からない状況なのに、妙に冷静に水面に反射するキラキラした光の粒を〝あ、綺麗だな〟なんて思った。独身歴37年。
長かったようで短かった人生で、心残りと言えば、女っ気が全くなかったことだけかもしれない……と、遠のく意識の中でぼんやりと考えていた。今日は、ブランシュが結婚をして、長屋を出ていく日だ。 ブランシュのお相手であるシエルは、空色の髪をしたイケメンうさぎだった。 自分が商人として一人前になり、ブランシュを嫁に迎えたいと子供の頃から思っていたと言う。 そのために、子供の頃から熱心に辺境伯の蔵書閲覧に通い、独学で読み書き計算を学んでいたらしい。 ポムが読み書き計算が出来るのは、このシエルに教わったからだと言う。 クロワールが捕まったことで、色々混乱が起こるかと思ったが、さすがはシゴデキの辺境伯、文官を何人も派遣して、商会が行っていた仕事の整理を、あっという間にやってしまった。 お陰で街は風通しがよくなり、シエルの商売もクロワールに阻まれていた案件が片付いて、これからどんどん伸びていくって話だ。 そんな関係なのか、はたまた単なる息抜きなのか、結婚式にはなぜかお忍びで辺境伯も顔を出していた。 すっきりとシンプルな、白いドレスに身を包んだブランシュの美しさは、正にどっかの王妃様みたいだった。「やっぱり、俺……」 目にいっぱい涙をためたスカーレットが、ぎゅうっと拳を握り、前傾した。「おいおい、新郎を殴る気か?」「違う。最後に、ブランシュに一言、俺の気持ちを告白するっ! あの細っこいのがだめだったら、俺のところに来いって……っ!」「やめろって」 俺はスカーレットの背中を引っ張った。「なんでだよっ! てか、ホントはタイガだってブランシュが好きだったんだろ」「えっ……。なんで知って……」 カアッと、顔が赤くなるのを感じる。 スカーレットは、なんだか憐れんだみたいな顔で、俺の肩をぽむぽむと叩いた。「なら、オマエも一緒に告白しにいこうぜ」「バカ! やめろって!」「なんでっ?」「そんな独りよがりの勝手な告白、される方が迷惑だからだよ!」 俺の説得に、スカーレットが更にブワッと涙を溢れさせる。
壁の隠し金庫の中には、借用証文やら、奴隷関係の誓約書やら、とにかくクロワールの仕事関係の書類がどっさり入っていた。 魔法によって、双方が合意で取り交わされた証文ばかりだから、本来なら問題のない書類……なのだが。 今回の一件で、辺境伯が〝大事な客人〟と認定していた俺を、半殺しにするような脅迫をした……って事実が露見した。 つまり、双方の合意が強制によってなされた可能性が、否定できない状況になったって訳だ。 クロワールのあくどいやり口に、度々訴えがあったが、はっきりした証拠が掴めず、取り締まれずにいたのだ……と、家宅捜索に来ていた騎士の一人が教えてくれた。 だが、こうして証拠が上がったのだから、あのヤリ手のサドール辺境伯が後はなんとか〝きちんと〟片付けてくれることだろう。「僕らもだけど。クロワールと交わした借金はなかったことになったよ! それに追々、金も返してくれるって!」「やっぱり、最初の針の時から、嘘だったのか?」「うん。姉さんは、肌に傷がついた令嬢がいなくて良かったって、喜んでいたよ」 うん、うん。 ブランシュ嬢なら、クロワールに腹を立てるよりも、そういう考え方をするよな!「ブランシュらしいなぁ!」 一緒に長屋で祝杯をあげていたスカーレットが、ニコニコしながら言った。「これで姉さん、ようやく嫁に行けるよ」 ポムの発言に、俺はびっくりした。 が、同じように驚いたらしいスカーレットが、飲んでいたエールを吹き出す。「きったないなぁ!」「嫁って、なんだあっ!」 ポムはささっと生活魔法を使って、スカーレットに掛けられたエールを綺麗にしている。「なにって、嫁は嫁だよ。結婚するの」「誰とっ?」「シエル兄さん。姉さんと年齡の近い、同じ孤児院出身のヒトだよ。子供の頃から相思相愛で、結婚しようって言ってた矢先に借金ができちゃって。姉さんは結婚を諦めたんだ。だけど、シエル兄さんは、まだ待ってくれているから」
部屋で、俺はクロワールがやっていたように、絵画を外した。 壁にはなにもない。 クロワールが絵画を外してすぐのところを、俺は見てなかった。「おかしいな、ココにタッチパネルみたいのがあったんだけど……」 壁をペタペタ触って確認しても、なにもない。「ここがなにか?」「秘密の隠し扉を開く、パスコードを入力するタッチパネルがあったんだけど……」「なんでそんなこと、タイガが知ってんだよ?」 ついてきていたスカーレットが言った。「下っ端のスカには、教えてくれなかったんじゃん?」 即座にポムがツッコミを入れる。「タイガ殿は、監禁された時に見たんですか?」「うん、まぁ、そんな感じ」 幽体離脱してて見た……と言ったら、あんまり信じてもらえそうもないなと思ったので、そのへんはうやむやな返事をしておく。「おい、マルリーを呼んでこい」 指揮官が言うと、一緒に部屋までぞろぞろついてきていた騎士の一人が、外に走っていった。 さほどもしないうちに、甲冑のデザインが少し違う騎士が部屋に入ってくる。「お呼びでしょうか?」「この壁に、隠蔽の魔法が施されているかを調べてくれ」「わかりました」 騎士は、おもむろに手袋──いや、騎士だから籠手? を外し始める。 ああ、素手で触って調べるのかぁ〜……と思っていたら、次に鉄靴とすね当ても脱ぎ始めた。 一体、なにが始まったんだ? と思っている間に、騎士は鎧も、その下に付けていた鎖帷子も脱ぎ、最後にリネンシャツまで脱ぎ捨て、どう見てもステテコ一丁となる。「あれ、なにしてんだ?」 俺はこそっと、ポムに訊ねた。 騎士は、壁に全身でべったり張り付いて、目を閉じたまま、じわじわ壁沿いに移動している。「隠蔽の魔法を看破してるの」「そうなの?」「そう…&hel
体が凍えて身動きがままならない俺は、その後もなにも出来ずに床に転がっていた。 だが、しばらくすると、部屋にどやどやっと足音が近づいてきた。「タイガっ!」 部屋に駆け込んできたのは、ポムとスカーレット。 それに、甲冑を着込んだ騎士が一人。「うわっ! 冷てえ! 生きてんのか?」「息はあります。今、救護班がきますので……」 騎士が〝救護班〟を呼びに行ったのか、部屋から出ていく。 ポムは、俺を抱きしめておんおん泣いているし、スカーレットも心配そうにこちらを見ていた。「ごめん! ごめんね、タイガっ! やっぱり待って、一緒に帰ればよかったっ!」 俺は、大丈夫と言おうとしたが、やっぱり喉がこわばっていて「うう……」とか「おおう……」とか、変な音しか出ない。「こっちだ! 辺境伯様の大事な客人とのことだから、念入りにな」「はっ!」 救護班なる者は、ポムが抱えている俺の傍に寄ると、なにやら呪文を唱え始める。 驚いたことに、彼らが呪文を唱えると、俺の体の凍えが溶けて、だんだんポカポカ暖かくなってきた。「ポム……、俺は大丈夫だから……。それよっか……、クロワールは……?」「一応、騎士団に連行されたけど……」 この様子だと、なんか適当な言い逃れをして、さほどの罪に問われない可能性があるのかな?「辺境伯様のお客人を、拘束監禁してますから、なんらかの罪には問えるかと……」「でも以前。クロワールの店で横暴なめに合わされたって奴が訴えたら、そいつが店で暴れたからって訴え返されて、負けた奴もいたしなぁ……」 取り立ての仕事をしていたスカーレットは、そういう話を知っているっぽい。 ポムは、はあっとため息を吐いた。





