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第二十一章:氷を照らす灯火

Author: fuu
last update Last Updated: 2025-07-01 12:00:00

雪と氷に閉ざされた都市――〈グラシエルム〉。

そこは氷河の裂け目に広がる街で、常に零下を下回る過酷な環境にさらされていた。

だが、その中心には一つの光があった。

それは、神の武器――カンテラ。

穏やかな明かりは寒気を払い、街を暖め、魔物を遠ざけ、人々の生活を守っていた。

「……この灯を、持ち出す? とんでもない。」

若い男が、強い口調で言った。名をセイヤ。

この街で育ち、灯火を守る使い手である。

「私は、ここに残る。皆を守るのが私の役目だ。」

「それも正義の形だろうけどねえ……少し、思考が硬すぎるよ。」

カンテラの中から響く声は、どこかのんびりとした男の声だった。

「私は“先生”と呼ばれていたんだ。学校で教えてた。教え子が大事でね、あんたみたいな真面目な子には、柔軟な発想が必要だと思うんだが」

「……無理です。俺はこの灯を、誰にも渡せません。」

セイヤの拒絶に、先生はふう、とため息をついた。

しかし、その夜。

凍てつく風とともに、黒い影が街を襲った。

氷の裂け目から這い上がってきたのは、冷気を纏った魔物たち。群れをなして押し寄せる。

セイヤは、即座にカンテラを手に取った。

「光よ、照らせ……!」

カンテラの明かりが揺れ、その中から放たれたのは、白く輝く魔法。

吹雪の中で炎のように揺れる光線が、魔物を焼き払っていく。

それでも、敵の数は減らない。

その中で、リィナたちが現れた。ナギの銃声、ルークの剣、アマネの術、ライナのハンマー――各々の力が交錯し、街の守りに加わる。

セイヤは、彼らの連携と、その強さを目の当たりにした。

「このまま、ここに留まり続けて……本当に、守り切れるのか……?」

戦いの後、村人たちは集まり、セイヤに言った。

「私たちは、ついていける。新しい土地でだって、あなたとなら……生きていける。」

「あなたが光を持って歩くなら、私たちもそのあとを歩きます。」

セイヤは目を見開いた。

そして、カンテラの中の“先生”が優しく語りかける。

「君が守ってるのは“場所”じゃなく、“人”なんだよ。灯火は、誰かの手の中でも、ちゃんと輝くさ。」

雪は止んでいた。だが、セイヤの心には、別の火が灯り始めていた――

その夜、旅団の一角では声が荒れていた。

「覚醒は必要だって言ってるだろう!」

カイルが叫ぶ。

「ち、違う……! ぼ、僕は、そんなの……カイルに壊れてほしくないだけなんだ……っ。」

ショウの声は震えていた。

「……でも俺は、お前を返したいんだ。どんな代償を払ってでも、また笑ってほしいんだ。」

優しさと想いが、すれ違いの果てにぶつかる。

しかしその衝突は、やがて静かな理解へと変わった。

「……お前って、本当にバカだよな。」

「お、お互い様だよ……。」

カイルとショウは、火のそばで笑い合った。

そのころ、夜空の下。

フィアとコウジは、星を背にして空を舞っていた。

「おまえ、ほんと、すごいな。」

「ふふ、コウジだって、十分すごいじゃない。」

「……あたし、覚醒っての、怖いけど、やってみてもいいかなって思ってる。」

「俺も。壊れるかもしれない。でも、なんか、やれる気がする。」

「その“やれる気”が、一番強いんだと思う。」

二人は風に乗って、笑い合った。

その笑顔には、不思議と根拠のある“信頼”が宿っていた。

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