目覚めたとき、そこには“何も”なかった。 白い――いや、“白いように感じる”だけの空間。 上下も左右も曖昧で、足元もなければ重力すらない。 ただ漂うように、俺はそこにいた。 「やあ、初めまして。……ああ、君にとっては、最期の相手かもしれないな。」 聞き慣れない声が背後から降ってきた。 振り返るという感覚すら不明瞭なまま、視界に映ったのは一人の男だった。 黒いスーツ、銀縁の眼鏡。無表情で、手には分厚いファイルを抱えている。 葬儀屋か? いや、死神? それとも―― 「僕は“神”と呼ばれることもあるよ。ただし、崇める必要はない。仕事だからね。」 神様はさらりと言った。まるで保険の勧誘みたいな口調だった。 「君、バスの事故でね……うん、ぐしゃっと潰れて。よく魂が残ってたものだ。今は現実世界の病院で昏睡中。家族が泣いてるよ。可哀想に。」 淡々とした説明に、怒りも悲しみも湧かない。 この空間が、感情というものすら吸い取っていくようだった。 「だけど――チャンスをあげよう。」 指を鳴らす音が響いた。 周囲の白が、黒へと染まる。 映し出されたのは、どこか異様な光景だった。 燃え落ちる都市。空を覆う禍々しい影。 牙と爪の化け物が、建物を喰い、人を引き裂いている。 その中に、“人間の形をした武器”が現れ、応戦していた。 「これは“魔界”と呼ばれてる。人の理が届かない場所。……そこを滅ぼしてくれれば、君の身体と魂を元に戻してあげるよ。」 あまりに唐突すぎる。だが、拒否する術も、黙る勇気もなかった。 「もちろん、君一人じゃ無理だ。仲間を集めなさい。“君と同じように死にかけた者たち”が、武器としてこの世界に転生している。彼らを見つけ、使い手と巡り合えば、君にも“撃てる理由”が生まれる。」 撃てる理由――? 「また会おう。次は“銃”として、だ。」 言葉と同時に、意識が深く沈んだ。 次に目覚めたとき、俺は、引き金の存在を感じていた。 感覚のすべてが変わっていた。 血も肉もなく、誰かの手に握られることでしか存在できない―― そう、俺は“神の銃”として生まれ変わっていた。 それが、すべての始まりだった。 神殿の祭壇に置かれ、静寂の中にただ置かれていた。 そして、彼女が現れた―― 透き通るほど白い肌、スラム街で煤けたドレス、片
Last Updated : 2025-06-25 Read more