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不死身青年と旅人童女の追憶Ⅶ

Author: kumotake
last update Last Updated: 2025-08-15 15:22:46

 泊まっていた宿がある熱海市から、数キロほど離れた所にある三島市には、雄大な景色を見渡すことができる観光地が存在する。

 その場所のメインは日本最長の大きな吊り橋で、その橋を渡りながら眺める光景は、まるで空の上を散歩しているかの様な感覚を味わえることから、『三島スカイウォーク』と呼ばれている。

 もちろん僕も、そのくらいの観光地があることくらいは、この旅行がある前から知っていた。

 しかしまさか、自分がその場所に来ることになるとは正直思っていなくて、端的に言ってしまえば、あまり心の準備をしていなかったのだ。

 だって、まぁ......

 いくら車で数十分の所にあるからと言っても、それでもやはり、目的地の場所からはズレた所にあるわけだから、行くはずがないだろうと、そう思っていたのだ。

 そしてそうなると、どうなるか......

「いやいやいや、高い高い高い、怖い怖い怖い」

 そう、こうなるのだ。

 吊り橋の中央でしゃがみ込み、足を震わせて、しかし両手で、尋常ではない程の力で手すりを掴む、そんな僕の情けない姿を見て、柊はうんざりとした表情でこちらを見る。

「あの......荒木君、いくらこういう場所が好きだからと言っても、あまり変に騒ぎすぎると、周りのお客さんにも迷惑だから、その、静かにしてくれるかしら」

「どう見たらそう見えるんだよ!!普通に怖いよ!!」

「えっ、だって荒木君でしょ?煙と荒木君は高い所が好きなんじゃないの?」

「さては柊、僕のことバカだと思っているな!」

「ちがうの?」

「もういっそのことそう言ってくれ!!」

 そう言いながら、風で揺れる吊り橋に怯えながら、僕は足元を見る。

「まさかここまで高くて下が丸見えだとは思わないだろ!?ダメなんだよ僕、こういう高い所で、尚且つ安全が保障されていない所!!」

「騒ぎ過ぎよ......いや本当に......そんなに古い吊り橋でもないし、むしろ安全面はかなり配慮されている方なのよ?それともなに?高い所が苦手で乗り物酔いもするなら、いっそのことあの山の麓にある遊園地にでも行く??」

 そう言いながら柊は、僕が必死で掴んでいる方の手すりから見える、日本一高い山を指さす。

 そんな柊からの、嫌がらせ以外の何者でもない様なその言葉に、僕は必死に対抗する。

「どんな嫌がらせだ!!そのまま確実に廃人になるわ!!」

 そう言うと
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