LOGINこれは僕が、人とは異なる「何か」に変わる、一年間の物語 異人:人間の姿形をしながら、人間とは決定的に異なった体質や性質をもつ異端の存在。 主人公の大学生:荒木 誠 は、ゴールデンウィークのとある一件を境に、そういう存在である彼女たちと、一年間という時間の中で、様々な関係を築くことになる。 吸血鬼の異人:佐柳 琴音 殺人鬼の異人:柊 小夜 旅人の異人:若桐 薫 狼の異人:花影 沙織 雪女の異人:柳 凍子 そんな彼女達と織り成す、あまりにも異質なキャンパスライフ これはそんな大学生活で、滑稽にも青年が、青年然としようとする物語
View Moreそんな風に、話しながらなんとなく歩いた先には、大学の近くでも見る様なコンビニが見えたので、朝食も食べていない僕達は、何も相談することはなく店内へと吸い込まれた。 そしてそれぞれ買い物をして数分後、そのコンビニから少しばかり歩いた先に置かれていたベンチに二人並んで腰掛けて、おにぎりとかサンドイッチとか、そういうモノを口にする。 口にしながら、柊は僕に言う。「荒木君って、男の子の割にはかなり食が細いわよね?そんな調子で大丈なの?」 その柊の台詞は、僕の手元にある小さなおにぎり向けられていた。 もっとも僕が、食べ物はそれぐらいしか購入していないから、そんな台詞が出たのだろう。 手元のおにぎりを平らげて、僕は言う。「男の割にって……そういう言い方は今のご時世的にはどうなんだ?まぁもともと太い方ではないけれど、この体質になってからは尚更かな……」「尚更って……不死身になったらさらに食が細くなるの?どういう理屈?」「どういう理屈なんだろうねぇ……相模さんは曰く、今の僕の身体は、全体の約八割が異人で、残り二割が人間という組成らしくて……そしてそれ故に、人間的な欲求が薄れているということらしい。だから食欲とかも昔よりさらに減少したっていう……まぁでも、この身体にそんな理屈が、どれほど当てはまるのかも、正直なところわからない」そう言い切って、購入していたお茶に口を付ける。流れ込む液体は、人間の時に感じていたモノと変わらない。食事ではないけれど、それに付随するからなのだろうか。コンビニ売られているペットボトル飲料の緑茶の味、そのモノである。 なのに、やはり、どうしても……人間の時に飲んでいたモノよりも幾分、美味しさを感じづらくなっているように思えるのだ。口を話して、僕は言葉を続ける。「まぁ僕の場合は、本来の異人とは違って、成り方が特殊らしいくてさ……なんて言うのかな、異人に成り果てた切っ掛けが、あまりにも直接的過ぎるって……」 そこまで話して、思い出したのは、やはり琴音のことだった。拳銃を突き付けた時の彼女の表情と、その後に落下した彼女を抱き止めた光景と、それと……「気持ち悪い顔しているわよ、荒木君。まるで初めてのキスでも思い出している様な顔をしているわ」 言いながら柊は、自分が食べていたサンドイッチの最後の一口を食べ終える。 そして僕は
それなりの時間を費やして歩いた先に見えた景色は、昨日と同様の海だった。 しかし早朝というだけあって、さすがに観光地とは言え、昨日程は人が居ない。 故に昨日よりも、海や砂浜が、幾分広く思えるのだ。 そんな景色を視界に映して、ゆったりとした歩幅で歩きながら、少しだけ前を歩く柊に、声を掛ける。「悪くないなぁ……散歩……」 そう言うと柊は、僕の方を振り向いて、言葉を返す。「そうでしょ。でも今日は特別よ、場所がいいわ」「あぁ、まぁそうだろうなぁ……横浜駅の辺りは散歩していても、こんな気持ちにはならないだろうし……」「えぇ……あんな所の早朝なんて、見るに堪えないから……」「……」 彼女が言葉を返した後に、また数分ほど、僕と柊は無言で歩く。 例えとして出した場所が、良くなかった。 僕が挿された場所を、琴音が殺した場所を、彼女の兄が殺された場所を、例えにするべきではなかったのだ。 ただ単に、大学近辺に住む奴に話すのとは違うのだ。 そんな風に考えていると、柊は再びコチラを振り返り、僕に言う「口にした後に、後悔しても遅いわよ」「……あぁ、ごめん」 そう言いながら、僕は彼女から視線を外す。「……そんな風にされたら、私も気まずいわ。もう全部、済んでしまったことなのだから……仕方ないわよ」 そう言いながら、視線を外している僕の方に向けて、いつも通りの声色で彼女は言う。 ほんとうにいつも通りで、冷たい温度を孕ませて…… だから僕も、いつもの様に言葉を紡いだ。「仕方ない……のかもしれないけれど……それでも僕は、やっぱり柊に、ちゃんと謝るべきだ。僕があのとき刺されなければ、柊の家族は死なずに済んだのかもしれないし、少なくともこんなおかしな、異人なんかに関わる様なことには、ならなかっただろう。そう考えると結局、僕が切っ掛けで、柊をこんなおかしな所に連れてきてしまった様な、そんな風に思えて仕方ないんだ……だから……」 そこまで話して、後は最後に『ごめん』と付け足すだけだった。しかし柊は、そんな僕の言葉を待たずに、返答するのだ。「あら、つまりアナタは、自分のせいで私がおかしくなったって、だから責任を感じているって、勝手にそこまで思い詰めていて……けれどそこまで思い詰めはしたけれど、反省の仕方が思いつかないから、とりあえずは謝罪の言葉を述べようと……そ
明朝、耳元に届いた冷たい声は、些か怪訝さを含んでいた。「荒木君……」 しかしその声が、あまりに分かりやすいそれだったから、僕は眠気眼の状態で、声の主に返事をする。「ん……あぁ、あれ……柊、おはよう……」「おはよう……って、あなた……どうしてこんな所で熟睡しているの?」「っ……あぁ、まぁ……色々あって……」 言いながら、身体をゆっくりと動かすと、寝ていた状態が良くなかったのだろうか、はたまたこんなフロントのソファなんかで寝るべきではなかったのだろうか、鈍く重い痛みが身体を襲う。 悲しいことに、そんな痛みが原因で、上手いこと身体を起こすことが出来ないのが現状である。 そしてそんな状態の僕を見ながら、わざわざ視線を合わせるためにしゃがみこんで、柊は僕に言葉を返す。「色々って……ほんと、よく通報されなかったモノね……」「えっ、僕通報されるの?」「されるでしょ、少なくとも私が従業員ならしているわ」「ひどくない?」「深夜に部屋じゃなくフロントのソファで寝ている不審者が居れば、誰だって通報するのは当然じゃないかしら?」 そう言いながら柊は、身体を起こそうとしている僕なんかよりも早い動きで立ち上がり、手をコチラに差し出す。「一応客なんだがなぁ……しかしそう言われると、何も言い返せない気がする」 そう言って、僕は柊のその手を取って、無理矢理身体を起き上がらせた。 起き上がりながら視界に入ったフロントの時計の時刻は、六時を指していた。「それにしても、早くないか?」 その声に対して、柊も時計の方に視線を送って、言葉を返す。「いつもこの時間に目が覚めるのよ……せっかくだから散歩でもしようかと思って、外に出たの」「あぁ、だからそんな……」 そう言い掛けた所で、僕は口を噤んだ。 いつもより明らかに、外に出るには無頓着な格好をしている彼女の装いに対して、危うく口を滑らすところだった。 しかしそんな僕を見て、彼女は言う。「賢明よ、荒木君。それ以上口を滑らせていたら、うっかり殺していたかもしれないわ」 そう言いながら、コチラに視線を送った後に、彼女は外に向かって歩き出した。「だから何も言っていないだろ。うっかり殺されるのは納得がいかない」 そう言いながら僕も、彼女の後を追う様にして、ゆっくりと歩き出す。 どうせ起きてしまったわけだから、同
大浴場での入浴を終えた後、部屋に戻ると、既に灯は消されていた。まぁ旅行初日に、あそこまで予想外な展開になったのだから、それも仕方ない。きっとしばらくしたら、僕も他の奴等と同様、すぐに意識を失って、意図も簡単に眠りにつけるのだろう。「……」 あーまぁ、そうだよね。 この身体になってから、食欲とか性欲とか睡眠欲とか……いわゆる人間の三大欲求が薄れているわけなのだから…… だからまぁ、こうなることは、想像に難くない。「……眠れないなぁ」 天井に向けて呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。 しかしその独り言が、少しばかりうるさかったのだろうか、隣に眠る奴等が、同時に寝返りを打つ。 右隣には柊、左隣には琴音……「……?」 アレ?なんだこの状況? 部屋に戻った段階では、どちらも真ん中には背を向けて寝ていた。 それで僕が眠るのは、もう真ん中のスペースしか見当たらなかった。 だからそのスペースに身を任せて仰向けになった。 うん、大丈夫、ここまでは至って普通の行動である。 しかしそこから数分後、今の様な状況になるわけなのだが…… これはあれか?ん?あっ、そうか……寝返りを打ったのか?「……フゥ」 今度は上を向いたまま、小さく息を吐く。 不幸中の幸いなのは、先に述べたように、今の僕は不死身の異人であるが故に、人間の三大欲求が通常よりも薄れているという点で、異人というモノは、人間とは異なるが故に、人間らしい欲求からは遠ざかっている……らしい…… いや、コレはたぶん、今までの経験からも、そうであると言える筈だ。 ゴールデンウィークの時に、琴音とラブホに行った時も、夏休み前に、柊を家に泊めた時もそうだった。 だからまぁ、この様な状況になったとしても、僕は特に、何も思わない。 そんな風に考えていると、両隣からどういうわけか、薄っすらと異なる甘い匂いが、同じタイミングで鼻に届く。 ほんとうにどういうわけなのだろうか……皆同じシャンプーだろうに…… あぁ、ダメだ、コレはいくらなんでも、たとえ人間でなくても……コレはよくない。「……っ」 僕は静かに身体を起こし、部屋を出た。 出た所で、行く宛などはないけれど、しかしあのままあの状態で、ずっと横になり続けても、眠れるわけがない。 ならいっそ、少しばかりホテルの廊下を歩いて、ロビーでジュース
矛盾が生じてしまう恐れがあるので、予め言っておくと、僕は彼女のことを、とても綺麗で特別な存在だと、それは間違いなく、今でも思っているのだけれど...... なんだろう、それはなんとなく、そう理解しているに過ぎないのだ。 欲求だとか、下心だとか、色気だとか、そういうモノをまだ、微かになんとなく感じることが出来る筈なのに...... それなのに、ただ綺麗なモノを、綺麗だなって...... 僕は彼女に対して、そういう風な気持ちにしか、ならないのだ。「ねぇ......」「えっ?」 考え込んでいたところに、不意に声を掛けられたから、一瞬だけ思考が鈍くなる。「誠、私に話があるって言ってた
気がかりだった着替えの件は、近くのコンビニに売られている物を使うということになり、それを買いに行くときは一人でいいから家に居ろと、そう言って彼女は再び僕の家を出ていった。 僕の家から徒歩数分のところに、一軒だけコンビニがあるから、おそらくそこに向かったのだろう。 出て行ってから三十分と経たない間に、柊は部屋に戻ってきた。 そして部屋に入るなり、彼女は言う。「汗をかいたから、シャワーを浴びたいわ」 そう言いながら僕の方を見つめる彼女は、数秒のわざとらしい沈黙の後に、睨みが利いていない無表情な顔で言い放つ。「覗いたら殺すわよ?」「誰が覗くか!」 そういうのはもう少し、表情
携帯電話のアラームを止めて、時間を確認する。 時刻は午前10時過ぎ......「......っ」 僕の隣で寝ている柊を起こさないように、眠気でけだるい身体をゆっくりと起こして、そしてその動きのまま、台所に足を運び、コップに一口分の水を入れて、それを口に含む。 そしてそのまま数秒程うがいをした後水を吐き出し、歯ブラシに歯磨き粉をつけて、それを口の中に入れ歯を磨く。 別に毎朝必ず最初に行うわけではないが、僕は起き抜けの口の中の不快感は、なるべく早く取り除きたいと思う方だし、それに今日はいつもと違って宿泊客がいるモノだから、家主ではあるけれど、彼女より先に起きることが出来た僕は、なるべ
現時点での時刻は、おおよそ十六時頃だろうか...... 「......っ」「......」 いや、もしかしたらもう既に、そこから一時間程経過して、十七時になってしまっているのかもしれない。 なぜなら、今いるこの場所を訪れた時よりも、少しだけ周りの人間の数が、多くなって居るからだ。 しかしまぁ、今僕達が居るこの場所を思えば、この時間帯にこれだけ人が集まる現象は、実はそこまで珍しい事柄でもない。 なぜならこの場所は......「......あ、あのさ......」「なに?」「いや......とりあえず、何か頼まないか?」 大学から程近い、所謂ファミリーレストランと言われる