異人青年譚

異人青年譚

last updateLast Updated : 2025-07-24
By:  kumotakeUpdated just now
Language: Japanese
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これは僕が、人とは異なる「何か」に変わる、一年間の物語 異人:人間の姿形をしながら、人間とは決定的に異なった体質や性質をもつ異端の存在。 主人公の大学生:荒木 誠 は、ゴールデンウィークのとある一件を境に、そういう存在である彼女たちと、一年間という時間の中で、様々な関係を築くことになる。 吸血鬼の異人:佐柳 琴音 殺人鬼の異人:柊 小夜 旅人の異人:若桐 薫 狼の異人:花影 沙織 雪女の異人:柳 凍子 そんな彼女達と織り成す、あまりにも異質なキャンパスライフ これはそんな大学生活で、滑稽にも青年が、青年然としようとする物語

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プロローグ
『異人』 人間と同じ姿形をしていながら、人間とは明らかに異なった体質や性質を持ち合わせた、異端の存在。 この物語の主軸であり、中心であり、中枢を担っているこの言葉を、僕(荒木 誠)はこの春に、故郷である九州から、大学がある神奈川の横浜に来て、初めて知った。『人間とは異なる』というのだから、この言葉が、人間ではない何かに対して誂われた言葉であることは、なんとなく、初めて知る人にも、理解できるかもしれない。 実際、僕自身も、最初のうちはこの言葉の字面だけを理解していた。 字面だけを理解して、全てを理解した気になっていた。 そう、たったこれだけの説明では、どうしたってこれを理解するには...... 完全に理解するには、あまりにも短すぎるのだ。 そしてそうなると、やはりどうしても、字面だけの、上辺だけを救い上げて理解するような、そういうモノになってしまう。 いや......これでは『理解した』ではなく、ただ『知った』だけなのだろう。 ただ見聞を広めて、言葉を知った。 まるで小さな幼子が、はじめてその言葉を覚える様な...... まだ意味も真意も意図さえも知らぬまま、言葉だけを覚えてしまっている様な...... そういう感覚になってしまうのだ。 けれどもし、この『異人』という言葉の意味が、本当にあの短い説明だけで理解できてしまえるようなモノならば、これから語られるこの物語は、そもそも語り始める前に終わってしまう。 それでは物語として、成立しない。 語らずして終わる物語など、成立する筈がないのだ。  それにこれは、その人間とは明らかに異なった異端の者達が、人間だった筈の僕を巻き込んだ、僕が語り部となって語る御話で...... だからこれは、僕が大学生になった、この一年を通して起きた出来事の、謂わば経験談のようなモノだ。 いや、もっと端的に、『思い出』とでも言ってしまおうか...... それにもしも、これから語る、この数十万の文字で紡がれる思い出を、例えばたった数十文字に要約したならば、きっとこうだろう......『最初は吸血鬼に奪われて、次は殺人鬼と過ごした後に、旅人と追い求めて、その後は狼に悪戯をされて、結局のところ、雪女に損失させられる』 そういう御話なのだ。 やっぱり、これではあまりにも、要領を得ない......  わ
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅰ
時刻は真夜中の三時頃だろうか...... 草木が眠る丑三つ時というだけあって、普段は大勢の人間が出入りするこの大学という施設も、日が出るにはまだ少しだけ時間がある今に至っては、僕一人しか居ない状況だった。 しかしながら僕は、真夜中の大学に忍び込んだわけではない。 そもそも大学という施設は、敷地内に入るだけなら、こんな夜中であろうとも普通に出入りができるのだ。 特にこの大学に関していえば、神奈川の横浜近くの某所にキャンパスを構える立地の良さと、そこまで高くない偏差値(まぁそれは学部学科によるが)のおかげで、約一万七千人の学生が在籍している、日本屈指のマンモス校である。 そんな大学だからかもしれないが、住宅街にキャンパスを構える割には、かなり広い敷地面積を誇っているのだ。 だから割と簡単に、夜中に敷地内に入るだけなら、誰でも出来る。 けれどまぁ、ここまで自分が通う大学のことを語っている僕だけど...... わざわざ夜中に、自分が通う大学の敷地内に入っている僕だけど...... 別にそこまで、大学という場所が好きであるとか、そういうコトではない。 そもそもまだ、入学して一ヶ月ちょっとしか時間が経っていない今では、嫌いになることもないけれど、好きになることはもっとないのだ。 それでも、わざわざ故郷である九州から、こんな関東の海沿いの街に遥々来て、一人暮らしをしているのだから、嫌でもそのうち、思い出深い場所にはなるのだろう。 そんな風に、僕は大学の施設には入らずに、敷地内をただ散歩していた。『どうしてそんなことをしていた?』かと聴かれれば、その答えはあまりにも単純で明瞭だ。 要は、『眠れなかった』だけなのだ。 眠れないから、自分が住んでいるアパートの近くを散歩していた。 その散歩のコースに、たまたま大学があっただけなのだ。 まぁ、家から徒歩十分のところに大学があるのだから、そういうこともあるだろう。 だからまぁ、特に何も考えずに、ただ気の向くまま、耳元にはイヤホンで、流行りの音楽を流しながら、歩いていた。 けれど多分、今思い返してみても、それが良くなかったのだ。 気の向くまま歩いた先に、普段使用している八階建ての大学施設があったからか、はたまた耳元に、イヤホンで流行りの音楽を流していたからか...... いや、きっとそれらの状況がた
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅱ
 大学からほど近い、『目の前』と表現するのが妥当なくらいの立地で存在するこのコンビニは、朝から夜まで休みなく、閉店することなく、二十四時間営業し続けているようだった。 まぁ、こんな目の前に大学があるのなら、昼も夜も、それこそ丑三つ時の様な夜中も、学生をはじめとする多くの人が利用するのだろう。 そんな誰もが利用するコンビニで、僕はサンドイッチを二個と、ペットボトルの飲み物を二本買って、店の外に出た。 外に出ると、流石にあの薄着の格好ではない、その上から白い大きめのパーカーを、ワンピースのように着ている女の子。 あの綺麗な深紅髪の、得体の知れない女の子。 『佐柳』と呼ばれていた少女が、待っていたのだ「あの......」「......」 店の窓に貼られている、『バイト募集』のチラシを見ながら。「佐柳さん?」「えっ......?あぁごめんごめん。ありがとね、買って来てくれて......」「あぁ、うん。それはいいんだけどさ......」「ん?」 そのあとに続く言葉を、続ける筈だった言葉を、僕は少しだけ考えて、飲み込んだ。「......いや、やっぱいい......」 そう言いながら僕は、足を前に動かした。 そしてそうすると、何かを言い掛けてやめた僕のことを不思議そうに見ながら、彼女は僕の横を歩く。 僕はそれを、なるべく気にしないようにしていた。 彼女が一体、どういう存在なのか...... その時はそういうことを、なんとなく、今は本人に聞いてはいけないように思えたのだ。「やぁ遅かったね。待ちくたびれたよ~」 そう言いながら、『専門家』の男は机に座って、もう一つ別の机には、自分が買ってきたのであろう菓子パンと珈琲を置いていた。 どうやら僕等二人が買い出しから帰ってくるのを、彼は待っていたようだ。 しかしそんな彼を見て、少女は辛辣に言い放つ。「別に、もう消えてくれててもよかったのに......」 その彼女の言葉に、男はまた、のらりとした口調で言葉を返す。「まぁそう言うなよ、食事は皆でした方が楽しいじゃないか~」 そしてその言葉の最後に、男は僕の方を見て言った。「君もそう思うだろ? 荒木 誠  君」「えっ......」 男はたしかに、そう言った。「ん?」 教えていないはずの僕の名前を、寸分の狂いもなく、躊躇いもなく、まる
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅲ
 流石に朝起きたままの格好で、みなとみらいのオシャレなパンケーキ屋に行くわけにはいかないということになったので、各々一度家に戻り、シャワーを浴びて、再び大学から一番近い駅に集合することになった。 しかしまぁ、急転直下とは、まさしく今日のような日を言うのだろう。 朝目覚めたら、入った覚えのない大学の教室で、見知らぬ少女とおっさんが居て、そして人間であるはずの僕は、異人とかいう化け物になっていて...... まったく、一夜にして色々なことが起き過ぎている。 女子とパンケーキ屋に行くという、今までにないことを経験できると考えれば、この状況も案外そこまで悪くないのかもしれないけれど、それでも流石に、『もう君は人間ではない』と、そんな風に言われるこの状況は、明らかに異常な筈である。 そう、異常なのだ。 それなのに......「どうして僕は、こんなにも落ち着いているのだろう......」 ポツリと、シャワーを浴び終えた僕は問い掛ける。 しかしそれに応える声は、なにもない。 当たり前だ。 だって完全に、それは僕が一人だけの空間で言い放ったモノなのだから。 いわゆる自問自答。 端的に言えば『独り言』 身支度をしながら、僕は考える。 昨日の状況を聞いてみても、僕に落ち度があるようには思えなかった。 強いて言うなら、夜中に大学の敷地内に入ったくらいで、それ以外は何もない。 何もないのに、殺された。 要はそういうことだ。 今の僕はココに居るけれど、人間としての僕は、あまりにも理不尽な形でこの世を去ったらしい。 それなのに...... それなのにどうして僕は、それをなんとなく、納得してしまっているのだろうか...... 納得して、受け入れて、理解しようとしているのだろうか...... わからない。 どんなに考えてみても、それに的確な答えを出すことは出来なかった。 っというよりも、最初から出せるわけがなかった。 だって今の僕は、自分が殺されたことも、自分が一度死んだことも、自分が人間ではなくなったことも、自分が異人という化け物になったことさえも、それら何一つに、実感が持てないでいるのだから。 そんな状態で、答えなんて出せるわけがないだろう。「考えるだけ、時間の無駄だな......」 そんな風に、身支度を一通り終えた僕は、また独り言を
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅳ
 パンケーキを食べに行った次の日 ゴールデンウィーク二日目である今日は、朝からあまり天気が良くなく、一日中雨が降り続く予報が、テレビから聞こえていた。 時間の節目になり、番組が変わる。 そしてまたその番組では、前の番組でも報道していたことを、報道する。 特に見ているわけでもないテレビ、朝起きて身支度をするときの時計代わりである。 これはこれで案外便利だ。 こちらの要望に関係なく、今イチオシのスイーツだったり、芸能人の不倫疑惑や、新しい映画の完成披露試写会、政治家の汚職、ゴールデンウィークにおすすめのテーマパークの情報、通り魔の事件や強盗、交通事故、その他諸々。 そんなモノばかりがひっきりなしに、テレビから流れ込んでくる。 そして僕はそれらの大半に、まったくと言っていい程に興味が持てないから、身支度に集中出来るのだ。 それにしても...... 昨日琴音さんからされたあの話が、まだ自分の心の中に引っ掛かっている。 琴音さんの説明通りなら、僕は現状、半分ほど人間ではなくて、人間の生き血を吸いながら生きる、吸血鬼になってしまっているのだ。 それでも、琴音さんは生き血を吸うことはないと言っていたから、大丈夫だと言っていたから、きっと大丈夫なのだろう。 なにか根拠があるわけでも、信頼とかがあるわけでも、そういう目には見えない大切なモノは、正直言ってないけれど...... それでも、少なくとも僕をこんな風にしたのは彼女なのだから、こんなことを話せるのは、彼女だけなのだから...... 僕はどうなってしまっても、あの吸血鬼の異人の少女 佐柳琴音 を信じるしかないのだろう。 そんな風に考えながら自分の顔を洗っていると、傍に置いていた携帯電話にメッセージが届いていた。 画面を確認すると、そこには昨日、連絡先を交換したばかりの彼女の名前があった。 彼女とはそう、佐柳琴音 その人である(人ではないけれど......)。『今日見に行きたい映画があるんだけれど、一緒に来てくれない?』 なんだか遠慮がなくなったように思える送られたそのメッセージの文面からは、肯定以外の返事が出来そうにない雰囲気が漂っていた。 まぁ実際、僕はそれを断れないのだけれど...... このゴールデンウィークの期間中は、外出の時は琴音さんと行動を共にするように、あの専門家から言
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅴ
「......でも、琴音さんは別に、人間を襲うわけじゃないんでしょ?」 そう言った僕の声は、自分でも驚く程に小さくて、弱々しかった。 まるで、さっき相模さんが言ったようなことに、彼女が含まれていないことを確認するような言葉を選んでいて、それでいて声は明らかに、僕自身が言った台詞が、相模さんに肯定されることを願っているような...... 何かに縋っているような、そういう物言いを、僕はしていたのだ。 しかしそんな僕の気持ちとは裏腹に、相模さんはそれを、真っ向から否定する。「いいや、それは彼女も例外ではないよ。少なくとも吸血鬼の異人である彼女にとって、人間は······だ」「でも......琴音さんは......」 「『人間の生き血を吸ってはいない』って、そう言われたのかい?たしかに彼女は、生きている人間から直接吸血を行ったことは一度もない」「それならまだ琴音さんは、人間をそういう風には、見ていないんじゃないんですか......?それにもし仮に、琴音さんが人間をそういう風に見ているのだとしても、それは琴音さんのせいではないでしょう......」 僕の言葉を聞いた後に、相模さんはゆったりと、言葉を返す。「でもね荒木君、彼女が二十年弱、吸血鬼の異人として生きている間に、人間の血液を栄養源として生きていたという事実は確実だ。もっとも、それは彼女のような、人間の血液以外を栄養源に出来ないで生きる、吸血鬼を含めた様々な異人が、摂取しやすいように加工されたモノだけれどね」 そう言いながら相模さんは、また一口、今度はほうれん草のソテーを口に運んで、しばらく咀嚼した後に、それを飲み込んだ。 そして飲み込んだ後に、彼はそのまま続きを話す。「けれどどんなに形を変えようと、どんな事情があろうと、していることの根本は同じなのさ。それにさっき君が言ったように、彼女がそういう体質で、そういう性質なのは、たしかに彼女のせいではないのかもしれないけれど、それでも、自分がそのまま生きることを選んでいるのだから、彼女はそれに対して、少なくとも自覚的であるべきだ」 そう言って彼は、今度はお茶を一口飲んで、そして意図的に間を空ける。 しかしそんな彼の言葉に、理屈に、僕は未だに納得できていなかった。 だってそれでは、あまりにも理不尽ではないか。 生まれる境遇も、姿も、形
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅵ
 矛盾が生じてしまう恐れがあるので、予め言っておくと、僕は彼女のことを、とても綺麗で特別な存在だと、それは間違いなく、今でも思っているのだけれど...... なんだろう、それはなんとなく、そう理解しているに過ぎないのだ。 欲求だとか、下心だとか、色気だとか、そういうモノをまだ、微かになんとなく感じることが出来る筈なのに...... それなのに、ただ綺麗なモノを、綺麗だなって...... 僕は彼女に対して、そういう風な気持ちにしか、ならないのだ。「ねぇ......」「えっ?」 考え込んでいたところに、不意に声を掛けられたから、一瞬だけ思考が鈍くなる。「誠、私に話があるって言ってたでしょ?何の話?」「あぁ、うん......」 一拍置いて、少しだけ言葉を考えて、話し出す。「昨日さ、あのあと相模さんに会ったんだ......」「えっ、アイツに会ってたの?」 そう言いながら、彼女の視線は厳しく、冷たく、鋭さを増す。「あっ......」 言葉選び大失敗。 彼女にとっては、名前を出すべきではない人の名前を、僕は真っ先に言ってしまったのだから...... しかしこの話は、やはりあの専門家である相模さんの名前を出さない事には始まらない。 だから僕は、その彼女の視線に臆せずに、そのまま話を続ける。「うん、昨日あの後の帰り道、偶然会って、そのあとファミレスで少しだけ話をしたんだ」「偶然?へぇーそれで?」 明らかに不機嫌な態度をとる彼女に、やはり僕はそのまま話を続ける。「うん、吸血鬼の異人がどういう存在で、そしてこれから先、琴音さんや僕が、どういう風になってしまう恐れがあるのかも、多分全部ではないけれど、粗方訊いたんだ」 そう言うと、彼女は少しだけ表情を真剣なそれにして、口を開く。「そう......それで、誠はそれを訊いて、怖くなっちゃったの?」 その彼女の言葉に、僕は何故か、とても素直に返事をした。「......うん、そうだね。怖くなった......」 そう言いながら、僕は彼女の視線を見つめる。 その見つめた視線に、彼女が合わせながら話してくれる。「そっか......そりゃそうだよね......」「うん......まだ全然、自分が人間ではなくなったなんてこと、ちゃんと自覚はしていないけれど、でも......それでも緩やかに、けれ
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅶ
 相模さんが僕に手渡した紙切れは、新聞紙だった。 そしてそれが新聞紙であるならば、おのずとそれには、必然的に記事の内容が書かれていたのだ。 もっとも、このとき相模さんが僕に手渡した紙切れが、本当にただの、何も書かれていない白紙の新聞紙なら話は別だが、しかしそこには、見出しであるのだろう、色彩に富んだ大きな文字で、こう書かれていたのだ。『横浜の夜、吸血鬼あらわる!!連続通り魔を殺害か!?』 その紙切れを見て、そして相模さんの言葉を訊いて、僕は数秒、おそらく本当の意味で、息を吞んだ。「これって......」 そう言いながら、言葉を失う僕に向けて、相模さんは淡々とした口調で言葉を紡いで、僕に事の顛末を説明してくれた。 あのあと、僕が殺された直後に、相手の通り魔の男性は首を吹き飛ばされてしまったらしい、しかしそれを見た周囲の人間は、あまりにも起きたことが異端すぎて、あまりもその光景が異常過ぎていて、まるでそれが、映画か何かの撮影だと思い込んだ人間の方が多くて、すぐに警察や救急車を呼ぶことを判断できた者は、ほとんど居なかったらしいのだ。 しかしそれでも、誰が見ても明らかな首無し死体と、不意を突かれて刺された僕の醜態と、通り魔の首を吹き飛ばした吸血鬼の異人である琴音さんが、その場にそんなモノが三つも居れば、それこそ必然的に、その場はパニックの中心になり果てる。 そしてその場がパニックになった直後、琴音さんはその場から、人間では考えられないような身体能力を駆使して、姿を消したのだ。 そしてその結果が、この新聞記事である。 昨日のことを一通り話した相模さんは、その口調のまま僕に言う。「琴音ちゃんの状態は、謂わばバランスを保っていて、どちらにも倒れない天秤のような状態だった」「天秤......ですか......」「あぁ......片方には君から吸い取った人間性、そしてもう片方には、元からあった、吸血鬼の異人としての異人性だ。けれど君が刺されて殺された現場を、一番近くで目撃した彼女は、そのときの君の血液を、一番近くで目の当たりにした彼女は、彼女の中にあったその半分の吸血鬼の異人性を、一気に膨れ上がらせて、暴走したんだ」「......」 無言で俯いている僕は、そのときの彼の言葉でようやく、相模さんが言っていた、『自覚的であるべきだ』という言葉の意味を、言
last updateLast Updated : 2025-07-21
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大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅷ
この場所は、あまりにも寒かった。 時刻はとっくに、深夜を通り過ぎて朝日が昇る手前の時間だ。 これは相模さんからのアドバイスである。『家に帰り、夕食を済ませたら、布団で寝て、そして朝日が昇る直前に、それを持って、この場所に行けばいい、そうすれば君は、彼女に会える。そして彼女に会って、それを使って、君が決めたことを、やればいいさ』 そう言いながら渡された、新聞紙に包まれた物と一緒に渡された小さな紙切れには、ある場所が記されていた。 こんな所に、こんな時間に、女の子が一人で居るのは、それはあまりにもおかしなことだと、普通では考えられないことだと、そう思った。 けれど...... もしもその女の子が『吸血鬼の異人』という存在ならば、きっとそれは異常なまでに、正常な光景なのだろう。 月の姿は見えなくとも、空の冷たい空気と、彼女の姿があまりにも、それがあまりにも、似合い過ぎているのだから...... だからきっと、今彼女はこの場所に居て、然るべきなのかもしれない。 そう思いながら、階段を登り終えた先に視線を移すと、やはり彼女はそこに、風を感じるようにして立って居た。 そして僕は、そんな彼女に声を掛けた。「琴音さん、こんな所で何をしているの?」 その僕の声に気付いた彼女は、振り返り、少し驚いた表情をした後に、言葉を紡ぐ。「なんで......なんで君が、ココに居るの......?」「そんなの、決まっているでしょ?琴音さんを探しに来たんだよ......だからさ......」 そう言いながら、僕は彼女に一歩近づく。 しかしそうすると、彼女は二歩程退いて、僕が近づくことすら拒む。「ダメだよ......来ないで......」「どうして......?」「どうしてって......もう知っているでしょ?私は、人を殺したんだよ......」「うん、知っているよ......僕を刺した通り魔を、あの場で、殺したんでしょ?」 そう僕が言うと、彼女はまた二歩程後ろに退いて、そして僕とは視線を合わせずに、弱々しい声で言う。「そうだよ......殺したんだよ......今まではちゃんと、上手くやっていたのに、それなのに、それなのに私は、あの一瞬だけはどうしても......どうしても抑えられなかった......」「それはどうして......?」「......わ
last updateLast Updated : 2025-07-21
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不死身青年と殺人鬼少女の青春Ⅰ
  殺人鬼...... 僕はこの言葉の意味を、もういつだったかも、どうしてだったかも忘れてしまったけれど、辞書か何かで調べたことがあって、そしてそこには、『むやみに人を殺す鬼のような悪人』と、書かれていたのだ。 まぁ人間の社会では、殺人というモノが最も重く、最も罪深い行為として認識されている以上、それをむやみに行うような輩は、鬼のような悪人と例えられても、そう言われたとしても、仕方がないのだろう。 人は殺せば息絶える...... そんな当たり前の現象が存在する以上、殺人と言われる罪がなくなることは、決してないのだろう。 しかしながらあくまで、それは『鬼のような悪人』と書かれていたのだ。 それはつまり、殺人鬼という言葉が、その殺人という行為をむやみに行う輩が、鬼のようなその輩が、あくまで人間であるという定義の上で、この言葉は成り立っているということになる。   まぁ、それもそうだろう...... 考えなくても当たり前のことだ。 今ここでこんなことを語っている世界には、人間以上に知識が発達した生き物は存在しないのだから、そんな生き物である人間は、逆に言えば、この世界で『罪』を犯すことができる、唯一の生き物なのだ。 しかしそうなると今度は、そもそも『罪』というモノが何なのかという話にもなってしまう。 もしもそれらが、善と悪の隔たりを決めることが出来る人間が、自らを戒めるために作った様なモノだとしたら...... 果たしてそれらは、明らかに人間とは特異的な違いを持つ者に対しても、当てはまるのだろうか...... 自らのその行為を罪と捉えることが、果たして出来るのだろうか...... あぁ、ダメだ...... こういう言い方をしてしまうと、自らの行いを罪だと自覚できる生き物は、後にも先にも人間だけだという話に、行き着いてしまう。 行き着いて、収束してしまう。 ゴールデンウィークの、急転直下な、あの黄金色の数日間を経て、人間とは程遠い『不死身』という体質になってしまった僕にとって、そういう収束の仕方はあまりにも、都合が悪い。 だからきっと...... これからするこの御話は、そういう都合が悪いモノを捻じ曲げて、引き裂いて、流血を流しに流して、殺されながら前に進む。 痛くて、苦しくて、重くて、辛い...... むせかえる程に酷い血まみ
last updateLast Updated : 2025-07-22
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