ログイン「あの......」「ん?」「いや......佳寿さんの名前を知っているってことは、その......専門家の人......ですよね?」「うん、そうだよ......まだ思い出せない?」「えぇ......その......相模さん......あっ、佳寿さんじゃない方の......」「あー宗助《そうすけ》くんのことね」「はい......その人と佳寿さんと......すみません、その人達の印象が強すぎて......」「そりゃあそうよ。あんなにキャラが濃い姉弟に絡まれている君には、さすがに同情するわ」「......そうだなぁ......自分が見ている世界を、必ずしも他人が見てくれているわけではないから、それだけは、気を付けてねって言葉の意味は、ちゃんと理解してくれたかしら?」「えっ......」「短い時間ではあったけれど、私は楽しかったわよ?夜のドライブ」「夜の......あっ......」「......思い出してくれた?」「はい......その......すみませんでした。あの日、宿まで送ってくれたのに......」「......よかった。べつにいいのよ、思い出してくれただけでも、嬉しいから......」「あの......」「ん?どうしたの、荒木誠君」
「どうしたの、珍しく眠そうじゃない」「あぁ、おはよう......いや、なんだろうな......寝ていたはずなのに、ずっと眠い......」「あなた、それ病気なんじゃないの?」「へっ?」「稀有な体質の貴方に、こんなことを言って、どれだけ当てはまるかは知らないけれど、あるらしいわよ?寝ても眠気がとれなくて、疲れがずっと溜まり続ける病気......」「へぇーそうなんだ。けれどまぁ、それはないだろうな......」「あら?どうして?」「そりゃあ......僕はお前が言うところの、稀有な体質なんだ。もうこれ自体が、病気みたいなモノだろ?」「べつに、病気にかかるのは、一人一つというわけでもないでしょ?」「それ、合併症ってこと......?」「さぁ、どうなのかしらね......」「あの......」「はい?」「荒木......君......ですよね......?」「えっ......あぁ......はい。荒木です」「よかった~会えた~」「はい?えっとあなたは......」「あぁ、この恰好だと流石に、憶えていないか」「どこかで、会いましたか......?」「まぁ......そうなるよね......印象深い関りは、加寿さんに取られたからね......」
「さて、そろそろ帰ろうか」「もう帰るのか?まだ来て、そこまで時間、経ってないだろ?」「いや、もう帰らないとダメだよ。もうそろそろ、この姿じゃなくなる。そうなると帰るのが大変になる」「そっか......そりゃあヤバイ。帰ろう」「あのさ......」「ん?」「いや、来るときはいきなりだったから、何も思わなかった......っというより、そんなことを考える余裕がなかったけれど、僕が背中に乗ることに、お前は何も思うことはないのか?」「無いよ......そんなことを思う様に、ボクはできていない」「そんな言い方......まるで自分が、誰かに作られた様な言い方をするんだな」「似た様なモノでしょ?生き物みんな、作ってくれた親が居るんだから」「いや......そうだけれど......」「けれど......?」「今の言い方だと、生き物のそれとは明らかに違うニュアンスになっている気がするからさ......」「そうかな?あんまりそういうつもりはなかったけれど」「まぁ、いいや。そろそろ本当に、行かないとね」「あぁ、頼んだ」「ところでさ」「ん?」「乗り心地とかってどうなの?」「えっ?」「いや、自分だとわからないモノだからさ」「まぁ、それなりだよ......」
「どこだろ......小田原......いや、箱根かな......これたぶん、蘆ノ湖だし」「車かよ......そこまで時間かかっていなかったろ......」「いや~そんな褒められても」「べつに褒めてねぇよ......」「暗くてよくわからないな......来たこともないから、なおさら......」「そうなんだ、ボクはよくココに来るよ」「......ココに来ると、少しだけ、気持ちが整理できるから......」「それは、どういう意味......?」「......色々あるんだよ」「そりゃあ、そうだろう。そんな姿になるくらいなんだ。色々あるだろうさ......」「......嫌味だな。でも、その通りだから仕方ない」「僕が言えた義理でも、ないけれどね......」「そりゃあ、そうだろね。そんな身体になるくらいなんだ。色々あるだろうさ......」「......イヤミだな。まぁ、その通りだけれどさ......」「人生、いろいろだよね......」「もう人ですら無いような気がするけれど......」「じゃあなんて言うのさ」「えっ......」「人生って言えないなら、ボク等の今生きているこの現状。名前を付けるなら、なんて言うべき?」「さぁ......なんだろうね......」
「この時間ってさ......人とは会わないわけだろ?」「うん、そうだよ。こんな姿じゃ会えないしね~」「それなら普段、何してるの?」「......あーそうだなーまぁ、時間の潰し方は色々あるけれど......そうだねーとりあえずはひたすらに、散歩かな~」「散歩って......案外普通なんだな......」「そう思う......」「へっ......?」「いや、いやいやいや......おいおいおいおいおい......なんだよ、コレ......」「ハハッ......散歩だよ、散歩。案外普通なんだろ?」「いやいやいやいや、無理無理無理無理、怖い怖い怖い、速い速い速い」「イイねぇ~友達と散歩するのは、普段よりずっと楽しいよ」「......そう......それは......よかった......」「えっと~大丈夫?」「大丈夫だと思うか?下手したらバイクより速かったよね?あんなのをヘルメット無しでとか......どうかしているよ......」「......ホント、寿命が縮んだ...」「面白いね、それは不死身ジョーク?」「本心だよ......いつもあんなことしているとか......っていうかココどこ......?」
「......ところでさ」「ん?」「なんでそんな格好しているの?コスプレってわけでもないんだろ?」「......あぁ......まぁ......さぁ、よくわからない。気が付いたら、夜中はこの姿だった......」「気が付いたらって......困るだろ?人と会う時とか......」「ハハッ......いやいや、昼間から零時くらいまでは普通だよ。たぶん......この姿になるのは.....大体二時か三時くらいかな......そんな時間に会う人なんて、そもそもボクにはいないよ......」「あぁ......そう......でも」「......それにこの姿、結構楽しいんだ。文字通り人間離れしているせいで、凄く軽いし丈夫なんだよ」「軽いし丈夫ッて......そんな道具みたいに......」「まぁ、実際そうだしね......」「......ボクのこの身体は、昼間や人と会う時以外の代物だから、記憶は保たれないし、多分人格も違うんだろうね......だからさ、次の日になると、憶えてないんだ......」「憶えていないって......でも、僕のことはわかっていたじゃないか、この前会った時も、僕がお前のことを無視したと、そう言っていたし......」「あぁ......うん。憶えているのは、それだけ......」「えっ......」「この姿以外の時のことは、ボクの記憶には存在しない。それと同じように、きっとボクが人の姿になっている時は、この姿の時の記憶はない......言っただろ、人格が違うって......」「それに、いつも気が付いたら、深夜のこの時間だからね......だからボクは、この時間しか知らないんだよ......」
柊はそう言いかけて、口を噤んだ。「……柊?」「……っ」 正確に言えば、口を噤んだというよりも、開いた口が塞がらない様な、そんな表情だった様に、僕には見えた。 そしてその彼女の視線が捉えている景色は、一向に変わらない。 ただ単に正面を、真っ直ぐと、見つめていた。 そしてそんな風にしているモノだから、僕も自然と、柊の視線を追いかけて、彼女と同じ方を見る。 大学の構内は人が多く、それでいて混雑している。 だからきっと、普段の僕なら、わかるはずはなかっただろう。 しかしながら、どういうわけか……この時ばかりは、柊が見据えている先に居る人物が誰なのか、わかってしまったのだ。 名前
気がかりだった着替えの件は、近くのコンビニに売られている物を使うということになり、それを買いに行くときは一人でいいから家に居ろと、そう言って彼女は再び僕の家を出ていった。 僕の家から徒歩数分のところに、一軒だけコンビニがあるから、おそらくそこに向かったのだろう。 出て行ってから三十分と経たない間に、柊は部屋に戻ってきた。 そして部屋に入るなり、彼女は言う。「汗をかいたから、シャワーを浴びたいわ」 そう言いながら僕の方を見つめる彼女は、数秒のわざとらしい沈黙の後に、睨みが利いていない無表情な顔で言い放つ。「覗いたら殺すわよ?」「誰が覗くか!」 そういうのはもう少し、表情
昼食もそこそこに、なんならそれなりに話をして、お互いの名前だとか、出身地とか、そういう自己紹介的な情報交換もそこそこに、どういう話の経緯だったか忘れたが...... どんな話をして、どういう流れでそうなったかは忘れたが...... 僕と琴音と、そして浴衣姿の小さな女の子である、若桐 薫は...... 今現在、熱海城に続くロープウェイに乗っている。 少しだけ気まずそうな笑みを浮かべながら、右隣に座る若桐は、僕に小声で語り掛ける。「やっぱり、アレですね......他のお客さんも入ると、少し狭いですね......」 そしてその言葉に対して、僕も彼女と同じように、小
携帯電話のアラームを止めて、時間を確認する。 時刻は午前10時過ぎ......「......っ」 僕の隣で寝ている柊を起こさないように、眠気でけだるい身体をゆっくりと起こして、そしてその動きのまま、台所に足を運び、コップに一口分の水を入れて、それを口に含む。 そしてそのまま数秒程うがいをした後水を吐き出し、歯ブラシに歯磨き粉をつけて、それを口の中に入れ歯を磨く。 別に毎朝必ず最初に行うわけではないが、僕は起き抜けの口の中の不快感は、なるべく早く取り除きたいと思う方だし、それに今日はいつもと違って宿泊客がいるモノだから、家主ではあるけれど、彼女より先に起きることが出来た僕は、なるべ