Chapter: 不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅴ_04「どうしたの、珍しく眠そうじゃない」「あぁ、おはよう......いや、なんだろうな......寝ていたはずなのに、ずっと眠い......」「あなた、それ病気なんじゃないの?」「へっ?」「稀有な体質の貴方に、こんなことを言って、どれだけ当てはまるかは知らないけれど、あるらしいわよ?寝ても眠気がとれなくて、疲れがずっと溜まり続ける病気......」「へぇーそうなんだ。けれどまぁ、それはないだろうな......」「あら?どうして?」「そりゃあ......僕はお前が言うところの、稀有な体質なんだ。もうこれ自体が、病気みたいなモノだろ?」「べつに、病気にかかるのは、一人一つというわけでもないでしょ?」「それ、合併症ってこと......?」「さぁ、どうなのかしらね......」「あの......」「はい?」「荒木......君......ですよね......?」「えっ......あぁ......はい。荒木です」「よかった~会えた~」「はい?えっとあなたは......」「あぁ、この恰好だと流石に、憶えていないか」「どこかで、会いましたか......?」「まぁ......そうなるよね......印象深い関りは、加寿さんに取られたからね......」
Last Updated: 2026-04-27
Chapter: 不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅴ_03「さて、そろそろ帰ろうか」「もう帰るのか?まだ来て、そこまで時間、経ってないだろ?」「いや、もう帰らないとダメだよ。もうそろそろ、この姿じゃなくなる。そうなると帰るのが大変になる」「そっか......そりゃあヤバイ。帰ろう」「あのさ......」「ん?」「いや、来るときはいきなりだったから、何も思わなかった......っというより、そんなことを考える余裕がなかったけれど、僕が背中に乗ることに、お前は何も思うことはないのか?」「無いよ......そんなことを思う様に、ボクはできていない」「そんな言い方......まるで自分が、誰かに作られた様な言い方をするんだな」「似た様なモノでしょ?生き物みんな、作ってくれた親が居るんだから」「いや......そうだけれど......」「けれど......?」「今の言い方だと、生き物のそれとは明らかに違うニュアンスになっている気がするからさ......」「そうかな?あんまりそういうつもりはなかったけれど」「まぁ、いいや。そろそろ本当に、行かないとね」「あぁ、頼んだ」「ところでさ」「ん?」「乗り心地とかってどうなの?」「えっ?」「いや、自分だとわからないモノだからさ」「まぁ、それなりだよ......」
Last Updated: 2026-04-21
Chapter: 不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅴ_02「どこだろ......小田原......いや、箱根かな......これたぶん、蘆ノ湖だし」「車かよ......そこまで時間かかっていなかったろ......」「いや~そんな褒められても」「べつに褒めてねぇよ......」「暗くてよくわからないな......来たこともないから、なおさら......」「そうなんだ、ボクはよくココに来るよ」「......ココに来ると、少しだけ、気持ちが整理できるから......」「それは、どういう意味......?」「......色々あるんだよ」「そりゃあ、そうだろう。そんな姿になるくらいなんだ。色々あるだろうさ......」「......嫌味だな。でも、その通りだから仕方ない」「僕が言えた義理でも、ないけれどね......」「そりゃあ、そうだろね。そんな身体になるくらいなんだ。色々あるだろうさ......」「......イヤミだな。まぁ、その通りだけれどさ......」「人生、いろいろだよね......」「もう人ですら無いような気がするけれど......」「じゃあなんて言うのさ」「えっ......」「人生って言えないなら、ボク等の今生きているこの現状。名前を付けるなら、なんて言うべき?」「さぁ......なんだろうね......」
Last Updated: 2026-04-20
Chapter: 不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅴ_01「この時間ってさ......人とは会わないわけだろ?」「うん、そうだよ。こんな姿じゃ会えないしね~」「それなら普段、何してるの?」「......あーそうだなーまぁ、時間の潰し方は色々あるけれど......そうだねーとりあえずはひたすらに、散歩かな~」「散歩って......案外普通なんだな......」「そう思う......」「へっ......?」「いや、いやいやいや......おいおいおいおいおい......なんだよ、コレ......」「ハハッ......散歩だよ、散歩。案外普通なんだろ?」「いやいやいやいや、無理無理無理無理、怖い怖い怖い、速い速い速い」「イイねぇ~友達と散歩するのは、普段よりずっと楽しいよ」「......そう......それは......よかった......」「えっと~大丈夫?」「大丈夫だと思うか?下手したらバイクより速かったよね?あんなのをヘルメット無しでとか......どうかしているよ......」「......ホント、寿命が縮んだ...」「面白いね、それは不死身ジョーク?」「本心だよ......いつもあんなことしているとか......っていうかココどこ......?」
Last Updated: 2026-04-16
Chapter: 不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅳ_06「......ところでさ」「ん?」「なんでそんな格好しているの?コスプレってわけでもないんだろ?」「......あぁ......まぁ......さぁ、よくわからない。気が付いたら、夜中はこの姿だった......」「気が付いたらって......困るだろ?人と会う時とか......」「ハハッ......いやいや、昼間から零時くらいまでは普通だよ。たぶん......この姿になるのは.....大体二時か三時くらいかな......そんな時間に会う人なんて、そもそもボクにはいないよ......」「あぁ......そう......でも」「......それにこの姿、結構楽しいんだ。文字通り人間離れしているせいで、凄く軽いし丈夫なんだよ」「軽いし丈夫ッて......そんな道具みたいに......」「まぁ、実際そうだしね......」「......ボクのこの身体は、昼間や人と会う時以外の代物だから、記憶は保たれないし、多分人格も違うんだろうね......だからさ、次の日になると、憶えてないんだ......」「憶えていないって......でも、僕のことはわかっていたじゃないか、この前会った時も、僕がお前のことを無視したと、そう言っていたし......」「あぁ......うん。憶えているのは、それだけ......」「えっ......」「この姿以外の時のことは、ボクの記憶には存在しない。それと同じように、きっとボクが人の姿になっている時は、この姿の時の記憶はない......言っただろ、人格が違うって......」「それに、いつも気が付いたら、深夜のこの時間だからね......だからボクは、この時間しか知らないんだよ......」
Last Updated: 2026-04-15
Chapter: 不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅳ_05「それで、何しに来たんだよ......」「こういう時は、普通酒じゃないの?」「いいだろ、コーラでも。それで......」「ん?」「この間から会っているだろ......たぶん......」「たぶんって......ほんとうにヒドイ奴だな、お前は......遊んだこと忘れるなんて......」「いや......正直まったく記憶にないんだけれど......でも不自然なくらいに、その部分だけすっぽりと、まるで何かで切り取られているみたいに思い出せなかったら、さすがにわかる......」「......おまえ、何者なんだ......?」「......いやいや、それは僕の台詞だろ、今の流れで、どうして僕がそんなことを尋ねられるんだ?」「今みたいな流れになったからさ......普通の人間なら、今みたいに推察したりしない。こんな夜中に、ボクのことを待って、公園で話そうとか考えないだろ?」「それは......わからないだろ......?」「さすがのボクでも、それくらいはわかるよ......それで、何者なんだよ......」「......ただの、大学生だよ......少しだけ特異的な体質をしているだけの......不死身なだけの大学生さ......」「ハハッ、なんだよ、それ......ハハッ......不死身って、そんなファンタジーな......」「いやそれ、お前が言うのか......」
Last Updated: 2026-04-14
Chapter: アンビリカルワールド この病院に配属されて、もうすぐ一年近くになる。 研修医として、目が回る様な思いをしながら熟す仕事に、少しずつ慣れてきた。 幸いなことに、同じ患者さんを担当する先輩は、仕事が出来て、その上性格もいい。 だから仕事のことで相談した内容に関しては、いつでも適格な助言をくれるのだ。 しかし今日に限っては、僕も先輩も、初めて対応するこの患者さん達に、やはり戸惑いは隠せない。 僕と先輩の目の前に居る患者さんたちは、様々だった。 明らかな未成年も居れば、若い青年、中年や老人。 それでいて男女関係なく、同じ病室のベットで横になっている。 その光景を見ながら、僕は横に立つ先輩に向けて、静かに口にする。「年齢はともかく、男女同じ病室なんて、初めて見ました......」 その光景を見ながら、先輩も同じように、口にする。「そうだな、この病院では俺も初めて見たよ」「えっ、前の所では普通だったんですか?」 そう俺が先輩に尋ねると、先輩は何かを言い掛けようとする。 しかしそのタイミングで後ろから、僕等二人に話し掛ける人がいた。「いや~ほんと、ヘルプ助かるよ。急に申し訳ないねぇ......」 声がする方向に振り向くと、立って居たのは、中年の医者だった。「お疲れさまです。あの先生、この患者さん方って......」 そう僕が言い掛けたところで、先生は僕が、一体何を訊きたいのかを察した様で、先生は言葉を返す。「あぁ、この人達は皆同じ症状だよ。どこにも異常はない。ただ眠っているだけだ。強いていうなら、ずっと長く夢を見ている」「えっ、それって......」 そう僕が言い掛けた所で、看護婦の方が先生を呼んでしまう。 そして先生は、ゆっくりとした足取りで、その看護婦の方へ行く。 その姿を見送りながら、僕は訊きたかったことを、飲み込んだ。 しかし隣の先輩は、そんな僕に向けて言う。「とりあえず、点滴チェックと体温だな。反対側から任せていいか?」「えっ、あぁ......はい」 どうやら先輩は、勝手を知っているようだった。 体温と点滴のチェックを終えた後、僕と先輩は自販機で飲み物を買って、少しの休憩をとっていた。 口を飲み物から離した後に、先輩は僕に尋ねる。「お前、ゲームはする方?」 唐突に尋ねられたその言葉に、僕は少しだけ考えながら、返答した。「えぇ
Last Updated: 2025-07-19
Chapter: 砂城の言葉、新堂の選択「......しかし僕は、思うんだ。この国の人間は本当に、人としての本懐を、遂げているのだろうかと......」 そう言いながら、俺から視線を逸らして、辺りを見回す。 新人の身体を借りながら砂城は、まるで何かを探す様にしながら、しかしその泳いでいた視線は、少し経てば俺の所に、戻ってくる。 その彼の姿を見て、俺は砂城に言う。「そんな風に話を明後日の方向に持って行って、お前は一体、何がしたいんだ?」 その俺の問い掛けに、砂城は答える。「べつに......ただ単にこういう話を君と楽しみたい。それだけだよ......」 言いながら砂城は、俺を見る。 口元に余裕を添えて、俺を見る。 そんな砂城に、俺はまた、言葉を紡ぐ。「雑談がしたいなら、もっと他の方法があった筈だ......わざわざ他人の身体に潜り込んで、意識をすり替えて、やりたいことがただの雑談なら、それは馬鹿げている......異常だ......」 そう俺が言うと、砂城は視線を下げて、小さく笑う。「フフッ......」「なんだよ......?」「いいや、こんな姿になっても君は、僕のことをそうやって、正常な誰かに当てはめようとしてくれるんだね......こんなことをしている時点で、こんなことになっている時点で、もう既に、僕は異常だよ......」「......そんなこと、とっくに知っている......」「......」「だが、わからないこともある......」「何がだい?」「どうしてわざわざ、潜り込む対象のバイタルデータを消すような、そんな危険な行為をした?」「......」「今お前がしている様に、そんなことをしなくてもお前は、その対象者の意識に潜り込めるんだろ?」「それは、この子のバイタルデータは消えていないと、そう断言出来てから出る言葉だよ......そんなのはまだ、わからないんじゃないのかい......?」「いや......わかるんだよ。だってそいつは、昨日の店主の様な、ただのアウトローな国民とは違う。正真正銘、行政府の人間。管理している側の人間だ。そんな奴のバイタルデータが消えたら、俺等の端末には間違いなく、それらについての連絡が来るはずだ......だが今は、それはない......」 そう言いながら、核心的なことをそのまま、俺は砂城に言うつもりでいた。 しかし砂
Last Updated: 2025-07-19
Chapter: 砂城の理想、現実の世界 店の中は、こうだった...... 言葉を一つ残して、男は立ち去った。 誰もいない、死体だけが一つ転がる店に、俺は置き去りにされたのだ。 店には誰も居なかった。 もともとあの男しか、この店には居なかった。 しかしカクテルを飲んでから、意識を飛ばした後、気がつくと一人増えていた。 ヒトが一人、増えていた。 その女は、今日行方を追っていたヒトだった。 三枝箕郷という、若い女だ。 しかしその女は、喋りながら正常に狂い始めて、その果てに意識をすり替えられて、最後は自殺した。 女は死体になった。 狂った女は、死体になった。 しかしその後に、今度は初めから店に居た男が、狂い始めた。 狂った男は、異常な酒の飲み方をしながら、ゆっくり俺と会話をした。 会話をしながら、次第に熱を帯びる男の思想は、俺を睨みつけた。 睨みつけられた俺は、その男に銃口を向けていた。 銃口を向けながら、俺と男はまた、会話を続けた。 男が考えていることの詳細を......いや、もしかしたら概要を、俺は彼から告げられた。 告げられた俺は、それらを理解出来なかった。 しかし理解できない俺に対して、男はさらに、思想を語った。 頭に銃口を突き付けられている筈の男は、その銃口に額を着けて、思想を語った。 一頻り話した後に、最後に言い残していた言葉を言い切って、男は俺の前から、姿を消したのだ。 そして今、やはり俺はこの店に、一人で置き去りにされている。 しばらくその場に立ち尽くして、さっきまでの出来事を粗方、思い出す。 そしてその後に、他の誰でもない自分に言い聞かせる様にして、俺は自分の足をゆっくりと、扉の方へ進ませる。「あぁ......帰らない......とな......」 誰もいない、死体だけが転がる店を、俺は出て行った。 そこから先の記憶は、正直なところ、朧気だった。 意識を失ったわけではなく、ちゃんと自分の足で歩いて、その店から立ち去ったが、歩いている最中も、頭の中には、最後に砂城に言われた台詞が貼り着いて、離れない。 傲慢という、そういう言葉を使いながら、俺達の居る世界を一括りに否定した彼の台詞が、どうしても...... どうしても離れては、くれない。 その足取りのまま、俺は自宅への帰路についた。 上司への報告は、明日でいいだろう。 なんて
Last Updated: 2025-07-19
Chapter: 被害者の行方、関係者達の心証 やりたくない仕事を、しなくてはならない日というのは、呆気なく来てしまうモノである。 今日がその一日目。 一人目の国民は、若い女性だった。 国民番号:三千四十八番 三枝 箕郷(さえぐさ みさと) 二十歳 昼間は大学に通いながら、夜はアルバイトとして飲食店で働いている。 それ以外には、コレと言った特徴があるわけでもない。 いたって普通の学生である彼女のことを、在籍している大学の事務に尋ねてみたりもしたが、二ヶ月程前から、講義に出席していないという情報以外、手掛かりらしいそれらは、残念ながら得ることは出来なかった。 だから俺は、彼女がアルバイトとして在籍している飲食店へ、足を運ぶことにした。 時刻は二十時を少し回った辺り。 店の住所を見て、少しばかり覚悟はしていた。 煌びやかな灯りが彩る表の通りを、少しばかり外れて、しかしそこから深く路地裏の方へと続く道を、しばらく歩いて数十分。「ココか......」 目の前に現れたその店は、飲食店というよりも、廃墟の様な風貌だった。 周りの景色も相まってか、少しばかり空気が重い。 一見すると、その建物が店をやっているのかわからなくなるような、そういう佇まいだ。 ほんとうに、ココであってるのだろうか...... そう思いながら、やはりすぐには尋ねる気になれなくて、その建物の前で少しばかり、立ち往生してしまう。 そして、しばらく経ったくらいだろうか......「あんた、入らないのかい?」「えっ......」 振り返ると、そこには背の高くて線の細い男が立っていた。 いつからそこに居たのかは、わからないけれど...... 男は俺の方を見て、溜め息混じりに言い放つ。「客じゃないなら、悪いけれど帰ってくれないか?いつも大して客が居るわけでもないが、今日は特に酷いんだ......」 そう言いながら、男は俺から視線を逸らして、店の中に入ろうと、すぐ近くを歩く。 けれどそんな男に向かって、俺はさらに尋ねる。「失礼ですが、アナタは......?」「俺はココの店主だよ。そういうアンタこそ一体何者なんだい?いつもこんな所に来る様な人には見えないけれど?もしかして......行政の人間かい?」 言い当てられて、俺は些か、動揺してしまう。 そしてその動揺を隠せないまま、俺は返答する。「......はい
Last Updated: 2025-07-19
Chapter: 死角の住人、鈍色の思想「失礼します」と言いながら足を踏み入れた会議室には、普通なら絶対に、御目に掛かることが出来ないであろう偉いさん方達が、会議室の席の約八割を占めていた。 そして残った二割は、俺と上司の二人が座るために空席となっていて、そんな普段の会議では有り得ない様な異質の情景が、息苦しさに似た空気感を作り上げていた。 そしてそんな空気の中、俺達が座り、会議が始まるや否や、向かいに座る一人の偉いさんが、コチラ側に尋ねるべきことを、淡々と口にした。「さて、早速本題に入るが......突如としてバイタルデータが消去されるなど、前代未聞のこの状況を、君達はどう対処するつもりかね......?」 言いながら、コチラ側をジッと見つめるその人の視線は、気持ちの良いモノではなかった。 そして、そんな視線に耐えかねたのか、それとも単に、その言葉に対しての答えを、予め持ち合わせていたのだろうか......もしくは、その両方か...... 俺の隣に座る上司は、前に座るその人に対して、言葉を返す。「はい、その件につきましては、担当者である彼に直接、そのバイタルデータの持ち主の所に行ってもらい、現地調査してもらいます」 そう言いながら上司は、一度コチラの方にチラリと視線を向け、さらにその勢いのまま、言葉を続ける。「またそれと並行して、今回起きた事象についての原因究明を、私自ら主導して、行います」 その続けた言葉に対して、もう一人のお偉いさんが口を挟む。「ほぅ......具体的には、一体どうするつもりかね......?」「まずは一度、一週間分のCORDの全ログを洗い出します。この作業自体は、そこまで時間が掛からないでしょう。二、三日程度で行えます。その後は、必要であるなら、システム管理課と共同で、CORDの再調整を行いたいと考えております」 そう上司が言い切ったところで、数人の偉いさん方は、一瞬だけ動揺した。 そしてその動揺した偉いさんの一人が、上司に対して言う。「再調整を行うということは、君は一時的なCORDの運用停止をも視野に入れていると、そういうことかね......?」「はい、そのつもりです」 その肯定の上司の返答に、また会議室内は、先程と同様か、それ以上に重苦しい空気に飲み込まれた。 そしてその空気の中、先程上司に質問を投げ掛けたお偉いさんが、ため息交じり吐き出す
Last Updated: 2025-07-19
Chapter: 消えた国民、隠された事実 事務室に入り、午後の業務のためにPCを起動する。 そして隣に座っている新人も、業務を行うために、同じ動きでPCの電源を入れて、さっきと同じ様な口調で、しかしさっきとはまるで別の話題を「あっ、そういえば新堂さん」という言葉を皮切りに、俺に促す。 そしてそこからは、本当にただの雑談だ。 休日に昔ながらのカフェやバーに行くことを趣味にしているこの新人は、そこで食べた料理や飲み物、その店の雰囲気や、そこで会った初対面の|女性《ヒト》と過ごした一夜なんかも、よく話題にして俺に話す。 まったく...... 無駄に顔が良い新人のその話題は、後半の方は特に、危うい気もするのだが...... 休日は家に居ることが多い俺にとっては、週初めの月曜日に話されるその話題が、些か鬱陶しいと思う反面、自分だとそういう所には出向かないし、もちろん初対面の|女性《ヒト》なんかとも、そういうことになることはない。 だから彼のそんな話は、聞いている分には、まるでチープな深夜ドラマでも見ている様な、そういう感覚になって、少しだけ面白かったりする。 だからまぁ飽きもせず、毎週そんな話を、俺は彼から聞いている。 矛盾していると、自分でも思いながら。「さぁ、そろそろ仕事をしよう」 そう言うと、新人は少しだけ、不満そうな表情をする。 どうせまた明日も、同じ話をする癖に。 そんな風に思いながら、PCの画面を確認して、そして午後の業務を行う。「......えっ?」「ん?どうしたんですか、新堂さん」 そう言いながら、新人は俺のPCの画面を覗き込む。 そしてその画面を見て、新人も俺と同じような、表情になる。「これ......どういう、状態ですか......?」「いや、俺もわからん......」 そう......そこに映されているのは、モニタリングされたデータと、そのデータの対象とされている国民の顔写真と名前が、細かく列記されていた。 ある数名を除いて......「こんなの、はじめて見ましたよ。モニタリングされたデータだけが、綺麗に空白にされているなんて......何かのバグ......ですかね......?」 そう言いながら、俺の方を見る新人に、言葉を返す。「どうなんだろうな......もしバグなら、お前の方でも、同じことが起きているんじゃないのか......?」「そ
Last Updated: 2025-07-19