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3. 謎卵≪Ovoid≫

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-07-27 15:46:12

 今日は招待された≪急催R.E.D.//SUMMIT≫に出演する日。

 俺以外にも数人の"AR e-Sportsプロ"がやってくる。今回はそういった現実感に特化したゲームのイベントが一部あり、土日の二日間で競って総得点で優勝者を決める。

 このイベント、今年から始まる世界大会の"World AR E-Sports Championship"、通称"WAREC(ワレク)"への参加権を賭けたポイントも入るため、他も勝ちに来ると思われる。

 だからこそ、"昨日のあの事"ばかり気にしてはいられない。昨日は昨日、今日は今日で切り替えないと⋯⋯

 少し考えていると、上からスアが降りて来た。

「よぉ。体調はどう?」

「結構寝たら治った。ごめんね、私のせいで大学内あまり見られなくて⋯⋯」

「そんくらい気にすんな。どうせ今日の事で、あまり長く回れなかっただろうし」

 今一瞬、「それにあんなの見たらなぁ」と口から出そうになり、喉元寸前で止めた。

 この話はしたらダメだ、スアがまた思い出して崩れるかもしれない。

「ザイは朝ご飯食べた?」

「いや、行きで適当に食おうかなって」

「なら、夢洲駅に新しく出来た回転寿司行かない? 限定の"サーモンマグロ"、まだあるみたいよ」

「おぉ、いいね」

 支度が整ったスアと出発し、俺たちは大阪駅へと向かった。

 相変わらず"白神楽家(しろかぐらけ)"は居心地がいい。昔から世話になってるのもあるが、俺のもう一つの実家と勝手に思ってる。

 スアの両親は夜遅くまで"白神楽病院"にいるのもあって、好きにしていいと言われているのは、よっぽど信頼してくれているのだろう。それか、もう一人の息子と思ってくれてたりして。

「ザイ、今日はいけそう?」

「どうだろう。自信があるって言えば嘘になるかもなぁ」

「珍しいじゃん、ザイがそんな事言うなんて。いつも自信満々なくせに」

「今日は"アイツ"がいるからなぁ。最近当たって無かったからラッキーだったんだけど」

「あー、"秘桜(ひおう)君"?」

「相性悪いんだよ。直近だと1勝5敗っていう⋯⋯嫌いだわ、アイツ」

「あの"人外カウンター"、凄いよねぇ。どうやってるのか誰も分かってないもん」

 "秘桜アマ"とやるのは毎回しんどい。アイツだけが使える"フェイズバウンド"というカウンター技術が、俺とあまりに相性が悪い。

 弾丸の直撃時の軌道位相(フェイズ)をずらすように操作し、反発(バウンド)させて不規則軌道で返す人外行動。その名の通り、"人外カウンター"という異名が付いている。

 銃を使ってる連中全員がアマを嫌っているに違いない。あんなのチート使ってるだろ絶対。

 土曜という事もあって、とにかく人が多かった。その中で、特に人だかりが出来ている場所があった。

「ねぇ、なんだろう"アレ"

 スアの視線の先、"青と赤が交差する卵?"のような物が、駅前にぽつりと置かれていた。

「ほっとけ、どうせまた変なオブジェでも作ったんだろ」

 スルーして電車へ向かい、夢洲行きへと乗る。2か月ほど前にAI総理になってからというもの、電車は画期的なデザインになった。3階建てへと一新され、主要駅では簡易エスカレーターが3階から現れる。さらには高い防音性の個室も多く用意され、プライベートも確保されるようになった。

 これまであった、他人との隣り合わせや、対面座りはほぼ無くなり、非常に利便性の高いものとなっている。最初出て来た時は、AI総理よくやったという声が多く、あれから一気に人気を得た。

 この新デバイスL.S.だって、なんと全員に無料配布が行われ、絶大な支持を受けている。もうスマートフォンやスマートウォッチ等、使っている人を見かけた事が無い。

 血流の動きで自然充電され、残りのバッテリー量を全く気にしなくてていい。さらには、懸念点だった発熱を起こさない新バッテリーが採用されているとの事。そのバッテリーが何なのかは、未だ判明しておらず、多くの研究施設で解明中となっている。

「ふぅ。ほんと今の電車って、新幹線と変わらないくらいに感じるよね」

「気楽になったよな、乗るのが。全部AIで造ったってのがヤバいわ」

「だよね。総理がAIなんてどうなのって最初は思ったけどさ、正解だったよね。こんなに人間に親身になってくれて、しかもまだ就任して2か月ちょっとなのが凄いよ」

「今や、車も自動運転が当たり前、タクシーも格安無人自動運転、店舗も無人AIだらけ、これが日本で起きてんだもんなぁ」

 スアと話しながら、トレンドに上がっていた"さっきの謎卵"についても調べていた。

 あんなのスルー出来る訳が無い、"昨日のアレ"と関連してそうな匂いしかしないのに。おそらくスアも気付いているだろうけど、わざと話題を逸らしている感じがする。

 ⋯⋯SNSで調べても調べても、適当な感想しか流れていない

 ダメだ、やめよう。これ以上触れて大会に影響するのもよくない。今はとにかくやるべき事に集中しよう。スアだって、触れないようにしてるんだから。

 一息吐く頃には、夢洲駅へと着いていた。

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    「なぁ、行ってから何分経ったんだ?」  時刻を確認すると、≪2030/08/20(水) PM 19:04≫となっている。 「⋯⋯40分くらいか?」  俺が時間を教えると、落ち着かずにうろうろし始めるケン。 「さすがに遅すぎやしねぇか⋯⋯? なんか通話もメッセージも、この訳分かんねぇ城内だけ"圏外"になってるしよぉ。ウサネッコの野郎、しっかりやってんだろうな⋯⋯」  だが、俺たちに出来る事は無く、とにかく待つしかない。  "女性限定"の表記のままで、自動ドアは開かないのだから。 「まぁ冷静になりなよ、ケン君。焦る気持ちも分からなくもないけど、プロの世界でもそういうのが命取りだっただろう? リアルでも同じで、見えなくなった者から"ヤツら"に成り代わっていく。現に、水生さんとウサネッコ以外は"かいじゅう"を持ってる、対抗手段としては最高なはずさ」  アマはどこまでも冷静だ。  いや、今回に限っては最初に入ったが故、少し責任を感じているのかもしれない。  だって、普段かかない手汗をちょっとかいてる。  「分かってっけどよぉ⋯⋯"あべのハルカスの時"が過(よぎ)んだろ。いきなり足元が動いたと思ったら、エレベーターみたいなもんで違う階へ連れてかれるし、何が起こるか分かんねぇんだッ!」  ケンが話し続ける中、ふと1階の様子を見ると、5人ほどの客が入って来ていた。  男が3人、女が2人のグループだ。  その人らは俺たちを見つけると、すぐにこちらへと上がってくる。 「ねぇ君たち、高校生か大学生くらいだよね? ここが何する店か、分かって入ったんだよね⋯⋯?」  一番左のお姉さんが怪訝そうな顔で言ってくる。 「いや⋯⋯分かってないですけど」  そう言うと、彼らは顔を見合わせ始める。 「ここさ、聞いた話なんだけど、"AIとの新感覚な性交体験専門店"とか聞いたよ。ほら、今ってどこも危ないでしょ? もし妊娠なんかしたらって思ってさ、知ってる人は誰も入らないようにしてるんだよね」 「⋯⋯"性交体験"? それってつまり⋯⋯」  さっきから話してくれているお姉さんは、はっきりと"セックス"と言った。  そう、どう見たって分かり易くはっきりと。 「おい、おいおいおい⋯⋯! 俺の言ってたの当たってたんじゃねぇかよ!? やっぱこいつはラブホをテーマにしてんだっ

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