― アフターバンパクシティ
2025年の大阪万博終了後、地下跡地へと新しく作られた、最新AIで駆動している地下都市。あらゆる都市機能の超高度化・効率化したものの導入を目指し、全てAIによって賄われているそうだ。
1ヵ月前くらいから開業したんだっけか。動画で予習してきたから、どの辺に何があるかは何となく分かる。このまま真っすぐ歩いて、突き当たりを左、その次の突き当りを右だ。まぁ、マップ開けば分かる話なんだけど。 ここの面白いところは、特定の壁に近付くと、その壁へ小さくマップ表示できるようになっているところ。他にもいろんなアクションが施され、どんな人でも散策できるようになっている。 大阪万博で人気だったパビリオンの一部紹介も行われており、一日中歩き回ってる人がいるのも頷ける、食い物とかも安いし。 それにしてもデカい。地下でこんな都会があるなんて、暇しないだろうな。 「あ、見えてきたよ! ザイ!」― 竜星天守閣
その名の通り、屋根から竜の顔が数体飛び出し、星のように輝いている。派手な近未来城の見た目から、離れていてもすぐに気付く外観。こんな場所にこんなの、よく作ろうと思ったな⋯⋯
今日はここで≪急催R.E.D.//SUMMIT≫の一つ、"L.S.専用ARゲームのLast Twilight 4"の対戦イベントが行われる。そして、一番最後には、AI総理のスペシャル対談が控えている。他にも竜星天守閣外では、最新AIの体験や展示会やゲームイベントがあり、これらを一括りにしたのが、この≪急催R.E.D.//SUMMIT≫。 メインはAI総理の対談だけど、それに負けないくらいに盛り上げたい。これ目当てに見に来てる人だって、いるはずだから。 「意外と近かったね」 「ここに入って5分くらいか」 「ね。これなら皆も来やすくていいね」 既に何人も入っていってる。このエリアは今日から解禁だから、何があるのか分かっていない。 入った瞬間、変なロボットがこっちに向かってやってきた。左が猫耳で右が兎耳の、謎なマスコットキャラのようなのが。 『喜志可ザイ様、白神楽スア様、お待ちしておりましたウニャ! この"ウサネッコ"に付いて来てもらえますかウニャ!』 ぺこりと一礼した後、この小さなマスコットキャラは、テンション高そうにまた二足歩行し始めた。 「可愛いね、ウサネッコだって」 付いていくスアは、愛でるように"アレ"を見ている。可愛いとは思うが⋯⋯コンセプト謎すぎないか⋯⋯? 奥の招待者専用エリアへと入ったところで、ウサネッコは足を止めた。 『ザイ様の楽屋は4番! スア様の楽屋は8番! となっておりますウニャ! 1~4が男性専用、5~8が女性専用室となっておりますので、注意するウニャ! それでは始まるまで、ご自由にどうぞウニャ! 城内を好きに回ってもいいウニャ!』 ⋯⋯ウニャってなんだ、シュールすぎだろ そして俺とスアは一旦別れ、4の部屋へ入ろうとした時だった。 「お、"偽プロ"じゃん」 3の部屋から、ツーブロックヘアーの悪そうなのが現れた。 「⋯⋯」 「冗談ですやん。効くなよ、そんくらいで」 "八花(はっか)ケン"は鬱陶しいが、見た目ほど悪いヤツじゃない。たまにチームを組んでやるくらいの仲ではある。 「なぁ、調子はどうよ?」 「⋯⋯まぁまぁ」 「ふ~ん。トーナメントとカジュアル対戦を交互にやっていくんだからよ、気を抜かねぇようにしねぇとだ」 そう。この対戦イベント、交互に行われていく。ガチ大会と来場者含むエンジョイバトルと。 ちなみに、呼ばれたプロは16名ほどだそうで、全員大阪出身者。そこでトーナメント、ダブルエリミネ―ション方式で行われていく。つまり、負けてもLOSERSトーナメントから這い上がる事が出来る。 エンジョイの方はというと、来場者とプロがタイマン。一定のハンデがあり、来場者が勝てば、ここ限定の豪華プレゼントが待ってるだとか。 ケンと適当に話し終わり、楽屋を確認すると、運の悪い事に相部屋は"秘桜アマ"らしい。 これ、俺が大人しそうだからって理由でここに突っ込んだだろ、話した事無いけど。ファンがめっちゃうるさいんだよな、コイツのところは。 楽屋内では、さらに二つの部屋に区別されていた。 これは会う事すら少なそう。人間関係で衝突が起きないようにまで、考慮されているのかも。 さて、せっかくだから空き時間は、この"竜星天守閣"を見て回ってみようかな。なんたって、解禁されたばかりの場所。写真もいっぱい撮っておこう。 そう思い、4の部屋から出た瞬間、 「あ! ちょうど出てきたぁ!」 右奥にスアと、もう一人"清楚ギャル?"の女の子が立っていた。 「ういっす。そっちはどうすんだ? 空き時間の間」 「お店もたくさんあるし、モアちゃんも呼んで行こうかなって! ザイも、もちろん来てくれるよね?」 「いや行くけどさ。その言い草、元から俺を呼ぶ予定だっただろ」 「そりゃそうだよ~。ザイがいないと、変なのに絡まれたら面倒だもん」 「⋯⋯よろしく⋯⋯お願いします」 スアの隣の清楚ギャルが、軽く一礼してきた。 胸元を大きく開けている彼女からは、グレーの下着が⋯⋯ 「あ、あぁ、よろしく。そのー⋯⋯今の角度で礼はしない方が⋯⋯」 「?」 そんな疑問を浮かべた顔で首傾げられても⋯⋯いや言い辛すぎだろ! いや、狙ってるやってるかもだ、下手に触れない方が賢明か⋯⋯! 「モアちゃんね、私たちの1個下なんだって! 可愛いからって手を出しちゃダメだよ?」 何も気付いていない様子のスア。これは⋯⋯黙っておこう。 「⋯⋯しねぇよ、んな事。それじゃ行くか」 「あ、あああ、あのー!」 行こうとした時、不意にモアが叫んだ。 「サ、サイン⋯⋯貰えませんか⋯⋯?」 「⋯⋯え、俺の?」 「はい⋯⋯。ファン⋯⋯なので」 頬を染めながら彼女が呟く。 聞くに、俺と"三船コーチ"の訓練動画や大会配信を見ているそうで、銃の使い方がかっこよくて好きだそうだ。 「このユニフォームに、お願いします⋯⋯!」 まさかの彼女は選手ユニフォームを出してきた。そこには、様々な企業スポンサーや、事務所名"Hanged Girl Gaming"のロゴが大きく載っている。 「いや、いやいやいや、それはやめた方が」 「大丈夫です! 事前に確認はしてますので⋯⋯! スポンサー名に被らなければ、好きにしていいと言われてますので⋯⋯!」 強引に彼女に押され、仕方なくユニフォームの端っこに小さく書く事にした。これならあまり目立たないだろう。 「後で俺、怒られないかな⋯⋯」 「あたしの父が経営してる事務所なので、そんな事はありえません! もしそんな事があったら、すぐあたしに言ってください、"HGG"やめるので」 「モアちゃんやめたらお父さん泣いちゃうよ~。看板娘でしかも一番強いんだから~」 「でも、ザイ先輩に迷惑かけるくらいだったら⋯⋯」 んー⋯⋯経営してる親が言ってるなら大丈夫そうか。 一悶着が落ち着いた所で、改めて三人で竜星天守閣内を回る事にした。「それで、何があったの?」 対面に座るエンナ先輩が心配そうに言う。 「学園内にヤツが入って来たんです。人型AIの"ProtoNeLT"が」 「それって昨日言ってた話だよね? ごめん、途中から眠くなっちゃってたんだよね⋯⋯また一から教えて貰えるかな?」 先輩、風呂入ってからふにゃふにゃしてたもんな⋯⋯ 俺はヤツに対して知ってる情報全てを、改めて車内で話した。 「ほ、本当なの!? "頭を食べて人間になるAI"がいるなんて⋯⋯」 「はい。俺らが殺されそうになったのも、ソイツが原因なんです。最初は警備員になったアイツが突然現れて、急に"銃殺されるのは好きか"とか言い始めて⋯⋯」 「よくそんなホテルの50階から逃げて来られたね⋯⋯。さすが喜志可くんとスアちゃん、私だったら絶対絶対ぜ~~~~ったい無理だよ⋯⋯」 その後、秘桜アマがなんでここにいたのかの話に切り替わった。 「それで、なんでお前はあんなとこにいたんだよ。アフターバンパクシティの病院にいたはずだろ?」 「昨日の最後にあったAI総理と日岡知事の対談後から、院内の雰囲気が妙におかしくなったのを感じて、抜け出してきたんだ。症状も一時的なものだったから、身体は動かしやすかったからね。きっと君たちも逃げただろうと思い、大会も無くなる可能性が高いと想定した。それで、登校日に設定されているこの日曜、転校の視察で急遽入れさせてもらったんだ」 「転校? 親の都合とかで、か?」 「いいや。喜志可ザイ、君に興味を持ったからだ。普段の生活でどういった事をすれば、あんな強さに辿り着いたのか、参考にさせてもらおうと思ってね。さっきも使っていた"波が連なる銃"、それを手に入れた過程も知りたい」 ⋯⋯え、俺に興味持っただけでわざわざ転校しようとしてんの⋯⋯? 三船コーチは一旦諦め、俺を観察する事に徹底したいというコイツ。 なんか変なのが来ようとしてるんだが⋯⋯ 「だとして何もわざわざ、夏休みの登校日に来る必要無かっただろうに」 「自分の中に衝動が走ったんだ、すぐ見に行った方がいいと。思い立ったら吉日と言うだろ? 夏休み明けから行くための、いいイメージにもなるじゃないか。それほど、僕の中に"あの天井の深海からの巨大銃"が響いたのさ」 謎にドヤ顔で言っているんだが⋯⋯ 「で、ちょうどこのヤバい状
俺は即座にハイスマートグラスを銃のように構え、海銃へと成り変えた。 「⋯⋯ッ!」 撃った瞬間に色彩が輝き、小波(さざなみ)に包まれた弾丸がヤツの身体へと直撃する。 「な⋯⋯ッ!」 しかし、なんと"ヤツの真っ赤になった身体"にはびくともせず、何度撃っても効かないまま⋯⋯。 こっちを見向きもせず、ヤツは突き刺した生徒の頭を食い散らかし、ソイツの姿へと変異した。 『⋯⋯あれェ? 僕の首が無くなってるゥ? 僕は、僕は、"これからの存在"ってのに、ナレタッテコトォォォォォ???』 「きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!?!??」 阿鼻叫喚に包まれたクラスからは、6ヵ所ある出口へとそれぞれが走って逃げていく。 残った俺たちの前に、目を360度回転させて狂っているアイツ。もはやクラスメイトの面影を一つも感じない。ただ姿が同じだけの、"壊れた何か"がそこにいるだけだった。 「⋯⋯ッ! スアッ! 俺たちも逃げるぞッ!! こいつにはこれが効かないッ!!」 「ザ⋯⋯ザイ⋯⋯足が⋯⋯足が動かなくて⋯⋯」 「は!?」 緊急事態に身体が強張ったのか、どうにも出来ないようだった。 「行って⋯⋯一人で行って⋯⋯」 「⋯⋯なにいって⋯⋯」 「早くッ!! 次のも来てるからッ!!」 スアの視線の先の出口には、"違うヤツ"がさらに来ているのが、見えているようだった。 どうやってもヤツを止める方法はない。あのホテルでは助けられたのに⋯⋯ ⋯⋯スアを見捨てる⋯⋯しかない⋯⋯? こんなに一緒に、どんな時も一緒に、これからも一緒に生きていきたいのに⋯⋯? スアを⋯⋯スアを⋯⋯俺は⋯⋯ 考える隙など無く、ヤツは"ハンマーのような大きな鈍器"を取り出し、なぜか俺の方へと向いて振りかぶった。 標的はスアではなく、俺だったのだ。 ダメだ⋯⋯俺が逃げればスアに⋯⋯ 「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」 クラスに響く大きな叫び。その声の正体は俺ではない。 彼女が激しく叫んだ後、ピンクのハイスマートグラスを銃のように構えた。 刹那、あのハイスマートグラスから、"ピンクの鏡のような羽が4枚"生え始め、中央からは"新型人工衛星のような姿"が現れた。 放たれた一発がアイツに当たると、途端に赤色が剥がれていき、白色へと変わって動きを止めた。 ⋯⋯もしかして、今
まさかこんな事が出来る日が来るなんて⋯⋯ リムジンに乗って登校なんて、2次元でしか見た事が無い。 ってか、このリムジンってエンナ先輩のものなのかよ⋯⋯。俺はてっきり親のだと思ってたんだけど。 高校卒業祝いで新車になったこれを貰ったそうで、親はまた別の車を使っているらしい。 このリムジンはあまり使わないようにしているようで、やっぱり自分で何でも出来るようにしたいそうだ。 高校の時、エンナ先輩はいつも電車通学だったっけ。電車が止まったりした時だけリムジンで来てたんだっけか。 もちろん無人自動運転の最新型で、タッチパネルから選んで食べ物や飲み物までサービスしてくれる。これの面白いところは、ちょっと時間は掛かってしまうが、AIが目の前でライブキッチンのパフォーマンスなんてものまであるところだ。 もちろん、天王寺駅前から大阪都波裏学園なんて、車移動で20分もかからないため、使いたいなんて我儘は言わない。 「朝食は何でも遠慮せず選んでいいからね」 黒鮭定食を頼みながら、先輩は俺とスアに囁く。 「俺も黒鮭定食にしていいですか?」 「私も!」 「どうぞ~。美味しいわよ、黒鮭。私のおすすめ!」 数分で用意された黒鮭は焼きたてで、香ばしい匂いが漂ってくる。こんな良い鮭、食べた事ないぞ⋯⋯。 それに並ぶように置かれた白米と味噌汁と納豆は、どれも輝いている。 「ん~! 良い匂い! ずっと嗅いでられる~!」 スアは幸せそうな顔。 これは味わって食べたい⋯⋯けど、時間が無いからなぁ。 「「⋯⋯いただきます!」」 俺とスアはシンクロするように、黒鮭を一口。 ⋯⋯なんじゃこりゃぁ⋯⋯! 表面は炭火で焼いたようなカリっと深い味わい、そこから中に行くほど濃い旨味がぎっしり詰まっている。すぐに甘味もドンと口全体を覆ってきた。 ⋯⋯ダメだ、白米が止まらない! ⋯⋯美味すぎる! 「ふふ、気に入ったみたいね」 「先輩、この黒鮭とサーモンマグロが毎日欲しいです」 「え~、じゃぁ私と結婚しないとだね」 「ごほっごほっごほっ」 「き、喜志可くん!? 大丈夫!?」 「変な事、急に言わないでくださいよ⋯⋯!」 「(⋯⋯あながち、変な事でもないんだな~)」 こっそり言った先輩の言葉はあまり聞き取れなかった。 スアはという
「さっき車にいた時、パンツ見てたでしょ」 風呂から上がって牛乳を飲んでいるところ、エンナ先輩が隣にやってて、突然言われたのがこれ。 「⋯⋯まさか、んな事するわけないっすよ」 「私が気付いてないと思った?」 人生終わった。 この顔、何もかもバレてる。 落ち着いたところで、言うのを待っていたんだ。 「⋯⋯申し訳ありませんでした。今すぐ出て行きます」 「ふふ、な~にそれ。相変わらずだねぇ、喜志可くんは。あれは"重要な戦略"だよ? 対面でさ、若干見えてムラムラするくらいが、男の人には一番効果的でしょ。自社を気に入ってもらうには、時にはこういった事も大事だからね。それを喜志可くんにも試させてもらったってわけ」 「そんなの俺にしないでくださいよ⋯⋯"ハニートラップ"じゃないですか」 「え~? リラックス効果もあるみたいなんだけど、嫌だった?」 「それは⋯⋯」 実際、癒されたのかムラついたのか、混ざっていてよく分からなかった。 ⋯⋯そんなの口が裂けても言えない 「実は女の人もね、他の人が丈短いとさ、見えないかな~ってちょっと見ちゃうから、これは立派な研究結果の一つなんだよ。だから、喜志可くんは悪くないよ! ただし、盗撮とかはダメだからね?」 パンツちら見えがどれだけ素晴らしいのか、謎の力説を続ける先輩は、突然ミニドレスの裾をたくし上げ、中のパンツを見せつけてきた。 「ほら、見て。正解はただの見せパンでした~。パンツにしか見えなくて可愛いでしょ、薄ピンクのフリルが特にね」 喋りながら、なぜか先輩の顔がどんどん沸騰していく。 ⋯⋯あれって⋯⋯もしかして見せパンではないんじゃ⋯⋯ 「すぐに記憶って消せる? ねぇ、今すぐ消せる?」 真っ赤な顔で間近に迫ってくるエンナ先輩に、俺は「消しましたから!」と思わず叫んでしまった。 すると、一人がやってきて⋯⋯ 「あ、ザイと会長、そんなところで何やってるんですか?」 「な、なななな、なんでもないけど~?」 「会長がそんな焦るの、初めて見ましたけど?」 「い、いいから! 二人は早く食べてきなさ~いッ!!」 一体何の時間だったんだ⋯⋯。 エンナ先輩のあんな様子、俺も初めて見た。 先輩も焦ったりするんだな。どちらかといえば、いつも弄ばれる方だったんだけど⋯⋯。 ただ得
― 天王寺駅 赤と青に様変わりした駅全体と、あべのハルカスが視線を奪う。 もうどこに行ってもこんな状態になっていってる。 「喜志可くんッ!!」 「おわッ!?」 背後から抱き着いてきたのはエンナ先輩だった。 「うん、本物だね。よしよし」 「いや、赤ちゃんじゃないんですから」 言っても止まらず、抱き寄せて頭を撫で続けてくる。 なんか、なんか背中に柔らかい二つの感触が押し付けられて⋯⋯ 「いつまでされてんの」 しっかりとスアに怒られ、引っ張られてしまった。 「スアちゃん! どこも怪我してない!?」 「はい。さっき話した通り、ザイが守ってくれて、モアちゃんもいてくれたので」 「よく頑張ったね、喜志可くんも」 「いえ⋯⋯」 先輩の優しさに安堵していると、モアがこちらへと歩いてきた。 「あ、この子がモアさん?」 「⋯⋯水生(みなお)モアです。よろしく⋯⋯お願いします」 「うんうん、よろしくね! あら、もう一人は?」 ⋯⋯あれ、ケンがいないぞ。あいつどこ行ったんだ? 少し探し回っていると、天王寺駅の中へと入りそうなところを見つけた。 「おい! どこ行ってんだよッ!」 「見たらわかんだろ」 「なんでだよ、こっち来いよ」 「⋯⋯どう見ても、輪に入れそうな空気じゃねぇし」 「んな事ないって。あの人の家は"師斎トップホールディングス社長の豪邸"だ、もう二度と入れないかもしれないぞ?」 その後、ケンがゆっくりと帰ってきた。 「⋯⋯すんません、邪魔になりそうだったら出てくんで」 「そんなの気にしなくていいよ! その代わり、皆とは仲良く、ね?」 「⋯⋯うす」 そして、俺たちは"メタリックブルーのリムジン"へと乗り込んだ。 めちゃくちゃに広い車内、さっきのタクシーがなんだったんだと思うくらいに。 部活の時に乗せて貰った事があるけど、その時よりグレードアップした新車になってる。さすが師斎家はヤバすぎる。 「乗り心地は悪くない?」 「はい、最高です」 「そっかそっか。部活の時以来だよね、こうやって乗るのは。車は新しくなっちゃったけどね」 一番後方にエンナ先輩、スア、モアの女子3人。向かい合う形で、俺とケンが座った。 ここ、目のやり場に困るんだが⋯⋯。近い距離で対面に座った事によって、より強調さ
「やっぱこうなるじゃねぇか、気まずいだろうが⋯⋯」 助手席に座ったケンが呟いた。 「だからって、放って行く訳にもいかないだろ」 「⋯⋯っせぇ。俺は"偽プロ"と違って一人でもやれる」 不貞腐れたように、暗闇へ染まった夢洲都市を見つめるケン。さらに奥には、煌びやかではなくなったカジノが微かに見える。 「あのー、さっきは助けて頂いて、ありがとうございました⋯⋯」 その気まずさを裂くように、モアが一言置く。 「⋯⋯おう」 そういえば、さっきケンは"銃らしきもの?"を持ってたっけ。ちょっと聞いておくか。 「なぁ、ケン。さっき銃を使ってなかったか?」 「はぁ? お前知らねぇのか?」 「⋯⋯何がだ?」 「ついさっきの最新アップデートで、プロ専用のハイスマートグラスが、"簡易小型銃"になるようになったのを」 ⋯⋯そんなのあったっけ? 後ろに座る女子二人も全く知らない様子だった。 この情報はどこを調べても出回っていない、一部しか知らないらしい。 「まぁ、いきなりだったから、見てねぇヤツがほとんどか。今度からは常にチェックしとけ、死にたくねぇならな」 「あ、あぁ⋯⋯」 高低差での有利を活かすために、ハイスマートグラスをよくカスタマイズしているこいつにとっては、このくらい朝飯前だったのかもしれない。 そのアップデート内容とやら、今のうちに確認しておくか。 「ってか、スアちゃんごめんな。後で話したいって言っときながら、いきなりキャンセルしちまって」 「あ、ううん⋯⋯全然いいよ。⋯⋯⋯ケン君、私たちは天王寺駅に向かってるけど、このまま一緒でもいい?」 「⋯⋯俺は途中で降りるわ。スアちゃんの邪魔したくねぇし」 「別にそんな⋯⋯ねぇ、みんな? せっかく助けてもくれたし」 俺は、そっぽ向いたままのケンの方を向いた。 「今だけ睨み合うのはやめようぜ。嫌かもしれないが、協力する時じゃないか」 「⋯⋯ちっ、安全になったらすぐ抜けるからな。んな事より、天王寺駅まで行って何すんだ?」 「知り合いの先輩が迎えに⋯⋯」 その時、一つのメッセージが入った。大会延期のお知らせだった。いくら全体の主催がAI総理とはいえ、運営側が中止を申し出たようだ。 当然だ、明日の大会なんてもの