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5. 天守≪NeoCastle≫

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-07-30 17:38:32

 ― アフターバンパクシティ

 2025年の大阪万博終了後、地下跡地へと新しく作られた、最新AIで駆動している地下都市。あらゆる都市機能の超高度化・効率化したものの導入を目指し、全てAIによって賄われているそうだ。

 1ヵ月前くらいから開業したんだっけか。動画で予習してきたから、どの辺に何があるかは何となく分かる。このまま真っすぐ歩いて、突き当たりを左、その次の突き当りを右だ。まぁ、マップ開けば分かる話なんだけど。

 ここの面白いところは、特定の壁に近付くと、その壁へ小さくマップ表示できるようになっているところ。他にもいろんなアクションが施され、どんな人でも散策できるようになっている。

 大阪万博で人気だったパビリオンの一部紹介も行われており、一日中歩き回ってる人がいるのも頷ける、食い物とかも安いし。

 それにしてもデカい。地下でこんな都会があるなんて、暇しないだろうな。

「あ、見えてきたよ! ザイ!」

 ― 竜星天守閣

 その名の通り、屋根から竜の顔が数体飛び出し、星のように輝いている。派手な近未来城の見た目から、離れていてもすぐに気付く外観。こんな場所にこんなの、よく作ろうと思ったな⋯⋯

 今日はここで≪急催R.E.D.//SUMMIT≫の一つ、"L.S.専用ARゲームのLast Twilight 4"の対戦イベントが行われる。そして、一番最後には、AI総理のスペシャル対談が控えている。他にも竜星天守閣外では、最新AIの体験や展示会やゲームイベントがあり、これらを一括りにしたのが、この≪急催R.E.D.//SUMMIT≫

 メインはAI総理の対談だけど、それに負けないくらいに盛り上げたい。これ目当てに見に来てる人だって、いるはずだから。

「意外と近かったね」

「ここに入って5分くらいか」

「ね。これなら皆も来やすくていいね」

 既に何人も入っていってる。このエリアは今日から解禁だから、何があるのか分かっていない。

 入った瞬間、変なロボットがこっちに向かってやってきた。左が猫耳で右が兎耳の、謎なマスコットキャラのようなのが。

『喜志可ザイ様、白神楽スア様、お待ちしておりましたウニャ! この"ウサネッコ"に付いて来てもらえますかウニャ!』

 ぺこりと一礼した後、この小さなマスコットキャラは、テンション高そうにまた二足歩行し始めた。

「可愛いね、ウサネッコだって」

 付いていくスアは、愛でるように"アレ"を見ている。可愛いとは思うが⋯⋯コンセプト謎すぎないか⋯⋯?

 奥の招待者専用エリアへと入ったところで、ウサネッコは足を止めた。

『ザイ様の楽屋は4番! スア様の楽屋は8番! となっておりますウニャ! 1~4が男性専用、5~8が女性専用室となっておりますので、注意するウニャ! それでは始まるまで、ご自由にどうぞウニャ! 城内を好きに回ってもいいウニャ!』

 ⋯⋯ウニャってなんだ、シュールすぎだろ

 そして俺とスアは一旦別れ、4の部屋へ入ろうとした時だった。

「お、"偽プロ"じゃん」

 3の部屋から、ツーブロックヘアーの悪そうなのが現れた。

「⋯⋯」

「冗談ですやん。効くなよ、そんくらいで」

 "八花(はっか)ケン"は鬱陶しいが、見た目ほど悪いヤツじゃない。たまにチームを組んでやるくらいの仲ではある。

「なぁ、調子はどうよ?」

「⋯⋯まぁまぁ」

「ふ~ん。トーナメントとカジュアル対戦を交互にやっていくんだからよ、気を抜かねぇようにしねぇとだ」

 そう。この対戦イベント、交互に行われていく。ガチ大会と来場者含むエンジョイバトルと。

 ちなみに、呼ばれたプロは16名ほどだそうで、全員大阪出身者。そこでトーナメント、ダブルエリミネ―ション方式で行われていく。つまり、負けてもLOSERSトーナメントから這い上がる事が出来る。

 エンジョイの方はというと、来場者とプロがタイマン。一定のハンデがあり、来場者が勝てば、ここ限定の豪華プレゼントが待ってるだとか。

 ケンと適当に話し終わり、楽屋を確認すると、運の悪い事に相部屋は"秘桜アマ"らしい。

 これ、俺が大人しそうだからって理由でここに突っ込んだだろ、話した事無いけど。ファンがめっちゃうるさいんだよな、コイツのところは。

 楽屋内では、さらに二つの部屋に区別されていた。

 これは会う事すら少なそう。人間関係で衝突が起きないようにまで、考慮されているのかも。

 さて、せっかくだから空き時間は、この"竜星天守閣"を見て回ってみようかな。なんたって、解禁されたばかりの場所。写真もいっぱい撮っておこう。

 そう思い、4の部屋から出た瞬間、

「あ! ちょうど出てきたぁ!」

 右奥にスアと、もう一人"清楚ギャル?"の女の子が立っていた。

「ういっす。そっちはどうすんだ? 空き時間の間」

「お店もたくさんあるし、モアちゃんも呼んで行こうかなって! ザイも、もちろん来てくれるよね?」

「いや行くけどさ。その言い草、元から俺を呼ぶ予定だっただろ」

「そりゃそうだよ~。ザイがいないと、変なのに絡まれたら面倒だもん」

「⋯⋯よろしく⋯⋯お願いします」

 スアの隣の清楚ギャルが、軽く一礼してきた。

 胸元を大きく開けている彼女からは、グレーの下着が⋯⋯

「あ、あぁ、よろしく。そのー⋯⋯今の角度で礼はしない方が⋯⋯」

「?」

 そんな疑問を浮かべた顔で首傾げられても⋯⋯いや言い辛すぎだろ!

 いや、狙ってるやってるかもだ、下手に触れない方が賢明か⋯⋯!

「モアちゃんね、私たちの1個下なんだって! 可愛いからって手を出しちゃダメだよ?」

 何も気付いていない様子のスア。これは⋯⋯黙っておこう。

「⋯⋯しねぇよ、んな事。それじゃ行くか」

「あ、あああ、あのー!」

 行こうとした時、不意にモアが叫んだ。

「サ、サイン⋯⋯貰えませんか⋯⋯?」

「⋯⋯え、俺の?」

「はい⋯⋯。ファン⋯⋯なので」

 頬を染めながら彼女が呟く。

 聞くに、俺と"三船コーチ"の訓練動画や大会配信を見ているそうで、銃の使い方がかっこよくて好きだそうだ。

「このユニフォームに、お願いします⋯⋯!」

 まさかの彼女は選手ユニフォームを出してきた。そこには、様々な企業スポンサーや、事務所名"Hanged Girl Gaming"のロゴが大きく載っている。

「いや、いやいやいや、それはやめた方が」

「大丈夫です! 事前に確認はしてますので⋯⋯! スポンサー名に被らなければ、好きにしていいと言われてますので⋯⋯!」

 強引に彼女に押され、仕方なくユニフォームの端っこに小さく書く事にした。これならあまり目立たないだろう。

「後で俺、怒られないかな⋯⋯」

「あたしの父が経営してる事務所なので、そんな事はありえません! もしそんな事があったら、すぐあたしに言ってください、"HGG"やめるので」

「モアちゃんやめたらお父さん泣いちゃうよ~。看板娘でしかも一番強いんだから~」

「でも、ザイ先輩に迷惑かけるくらいだったら⋯⋯」

 んー⋯⋯経営してる親が言ってるなら大丈夫そうか。

 一悶着が落ち着いた所で、改めて三人で竜星天守閣内を回る事にした。

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