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4. 入場≪Admission≫

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-07-28 17:32:55

『お待ちのお客様、12の席が動きます。座ったままお待ち下さい』

 夢洲駅のとある回転寿司。

 アナウンスが流れると同時に、俺とスアのL.S.へと、ホログラムメッセージが伝う。案外早く席が空いたようだ。

「うわ、ほんとに動いた!」

 驚く彼女の顔は期待感に溢れている。この回転寿司店、さっそく面白いのが、【12】と書かれた待機スペースに座っていると、席がそのまま自動で動いて連れて行ってくれる。会計した場合はというと、また席が動き、反対側から出口へと向かってくれる。つまり、店舗内で歩く必要が無く、他の人と会う事も無い。さっきまで【12】にいた人はもういないだろう。

 席へ到着するやいなや、お寿司マークの可愛らしい自動ドアによって、俺たちだけのプライベートスペースが完成した。当然、誰からもじろじろ見られる事は無い。が、代わりに「たった今、マグロが注文されました!」というメッセージとコミカルな動画がドアビジョンに流れる。こうしてリアルタイムで人気ネタを伝え、購買意欲を促しているとの事。

 さて、頼むのはもちろん"サーモンマグロ"。この2匹が一体化した魚とはどんなものなのか、やっと食べられる日が来た。

 "残りあと50皿"と、自分のオーダー用非接触パネルに明記されている。スアの方の注文画面にも、同じ物が出ているだろう。

 それにしても、この非接触パネルは、L.S.のホログラムタッチパネルの下位互換ではあるが、まだまだ便利だなと思う。自分の角度からしか見えないタッチパネルビジョンの技術、これが一気に普及したからこそ、L.S.という化物デバイスが出てきたのだから。

「どんな味なんだろうね、サーモンマグロ」

「白神楽スア様のおかげで食べられます。ありがとうございます」

「⋯⋯どしたの? 私のとこの病院行く?」

「はい、行かせて頂きます」

「食べた過ぎて壊れちゃってるし」

 だって、朝に来てなかったら絶対売り切れてる。感謝しかないだろこんなの。

 そして、サーモンマグロはやって来た。

 ⋯⋯ネットで見た通りのやつだ!

 こんな魚がいるのが未だにピンと来ない。サーモンとマグロが交互にボーダー柄のようになっている。レビューでは、"とにかく2匹のいいとこ取りの味"とあったが、分かるかいそんなの。

「では、ザイさんからどうぞ!」

 屈託のない笑顔で言うスアは、俺の感想を待っている。

「⋯⋯よし、ならお先に、頂きます!」

 ゆっくりと口に入れた瞬間、一つの食レポが浮かび上がった。

「これ⋯⋯2匹のいいとこ取りの味だ!」

「な~にそれ、レビューのまんま!」

「それしか出てこねぇって。今すぐ食ってみてくれ」

「んじゃ、いただきま~す」

 彼女がもぐもぐしながら目を見開き、飲み込んでこう言った。

「⋯⋯2匹のいいとこ取りだね」

 出てこないんだよな、これしか。食べてみて欲しい、こいつを。その時にはもう売り切れかもしれないけど。

 その後は、いろんな期間限定の寿司を食い尽くした。どれもすぐ溶けてしまう程の旨味が広がり、また食べに来たくなった、この"夢見寿司(ゆめみずし)"に。

「ここのお寿司もさ、始めは毛嫌いしてたんだよね。人間の味覚や食感を把握したAIでオート開発されたっていうから、機械的な味なんだろうなぁって。魚もさ、サーモンとマグロを配合させて育てるなんて、どうかなって思ったし。でも、やっぱり凄いねぇ今のAIって。満足感ヤバいもん」

「これからはこういった時代なんだろうな。AIを上手く使うだけじゃなくて、人間の好みに合った"発想の取捨選択"も大事になってくるみたいな」

 夢洲駅からさらに地下へ進むと、小型の新幹線のような乗り物がやってきた。

 これ、地面すれすれで宙に浮いないか⋯⋯?

 まるで当たり前のように、他の人たちが乗って行く。こんなに多く入っても、この小型新幹線はビクともせず、宙に浮き続けている。

「ほら、行こ」

「あ、あぁ」

 刹那、視界に近未来な異世界が広がった。立体プロジェクションマッピングでゲームのような亜空間が敷き詰められ、それが車両によって世界観が全く違う。

 ラッキーな事に、今日から試運転開始だそうで、初お披露目だという。このサミットが終わり次第、公に使って行くとの事。

 いや、とんでもない事なってんな。【楽しくリアルで異世界を歩こう】をテーマにしていると広告があるが、これはまさにそれを実現しようとしている。家で完結する事ばかりになったけど、企業も工夫してるんだなぁ。

 さらに凄さを感じたのがここからだった。この中でのゲームを遊んでクリアすると、なんとお金として入金されるシステムになっていた。

 新ゲームのテスターとしてさせつつ、広告費を抑えてこっちに回している。こんなの公に出たら、外に出るやつがどんどん増えちまうぞ⋯⋯!

 しっかり楽しんだ頃にはサミット前へ到着。

 待ってくれ、俺はまだまだやれる、まだ降りたくねぇ⋯⋯

 惜しい気持ちのまま、黙って降りるしかなかった。

「スア、いくら稼げた?」

「う~ん、1500円くらいかなぁ。ザイは? 結構いってなかった?」

「最後にボス倒して4000円いった」

「おぉ~! 寿司のもと取ってる!」

「こんなの帰りも乗るしかねぇ。次はもっと⋯⋯もっとだ!」

「すっかりハまっちゃって。帰りも楽しみだねぇ」

 こんなに遊んでていいのか、ここからが本番なのに。いや、金を稼ぐのが一番大事だろ、何言ってやがる。

 自問自答しながら、俺は"会場がある地下都市"へと入場した。

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