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第5話

作者: カレン・W
「少しは楽になりました?」

セレナがトレイを手に、私のオフィスへ入ってきた。トレイの上には水のグラスが一つ置いてあった。

「うん、だいぶよくなったわ。ありがとう」

私は小さく笑ってグラスを受け取る。

セレナは少し迷ったあと、気まずそうに口を開いた。

「……ごめんなさい。うっかり聞こえてしまいまして。さっき、旦那さんと揉めてました?」

「そう。まあ、いつもどおり。いつもどおりの喧嘩」私は肩をすくめる。「原因は――あの女」

遠回しに言う余裕なんて、今日はもう残ってなかった。

セレナは眉を上げて、すぐに軽く笑った。

「人生でクソ女に遭遇しない人なんていませんよね」

「私のは、ちょっと格が違う」

ため息をついて水を一口。喉の奥が少しだけ落ち着く。

「自分でやったこと全部、私のせいにするの」

「タチ悪すぎ」セレナが低く悪態をついた。目が冷える。「それで、旦那さんは?あなたのこと信じないんですか?」

「もちろん。彼にとって私はずっと悪者よ」私は苦く笑う。「たぶん、私が強すぎて扱いきれないんでしょ」

「バカ言わないでください」セレナは顎を上げた。「あなたは有能で、自立してて、仕事だって成功してます。そんな人と結婚できた時点で、彼は陰でガッツポーズしてもいいくらいですよ」

思わず、乾いた笑いが漏れた。

「正直に言いますが」セレナは肩をすくめる。「そんな扱いされてるなら、あなたの男を見る目がちょっと……悪気はないですけど」

「いいの」私は静かに言った。「本当だし。男を見る目は、まあ最悪……友だちを見る目もね」

それに――と、心の中で自嘲する。母親としての目も、たぶん壊滅的なんだろう。そうじゃなきゃ、実の息子に寝物語の悪役みたいに扱われたりしない。

「そういうこと考えるの、やめません?」セレナが優しく声をかけた。「何か食べます?お持ちしますので」

「いい。まだお腹空いてない」

私はバッグから薬瓶を取り出し、錠剤を一粒落とした。

セレナがラベルを見て、ぴたりと動きを止める。

「……抗うつ剤ですか?」

私の指が一瞬固まった。

――見られた。

空気が急に重くなる。長いこと隠してきたものを、日なたに引きずり出されたみたいな感覚。

私は無理やり笑った。

「うん……内緒にしてくれる?」

「もちろんです」セレナは頷いて、ふっと息を吐く。「ただ……意外なんです。あなたはずっと、強い方に見えましたから。何があっても倒れない、そんなふうに」

「誰だって限界はあるよ」

わざと軽く肩をすくめる。

「心配しないで。まだ大丈夫」

セレナが何か言いかけた、そのとき。

ドアが乱暴に押し開けられて、「バン!」と壁にぶつかった。

エリオットが飛び込んできた。スマホを握りしめ、顔は怒りで真っ赤に染め上がっていた。

「さっき俺に送ってきたあれは一体何なんだよ!」

怒鳴りながら迫ってきて、スマホを私の目の前に突きつける。

「あなたが聞いたとおりよ」私は落ち着いて言い、薬瓶をしまった。「証言の音声。聞いたでしょ?」

彼の目が一瞬揺れた。罪悪感が、ほんの一瞬だけよぎる――でも、すぐに顔を背けた。

その背後から、ライラが入ってくる。無垢な目。そしてかすかに震える唇。

「どうして私に、こんなことができるの……?」

深く傷ついたみたいに言って、息を呑む。

「オリヴィア、あなたが私を憎んでても……昔のことを捏造するなんて。人を使って証言を偽造させるなんて!」

私は二人を見る。エリオットは私を見ようともしない。ライラは無垢をまとい、あくまでも平然とした顔だ。

「それで、彼女まで連れてきたの?」私は淡々と聞いた。

エリオットは曖昧に答える。

「メッセージ開いたとき、たまたま隣にいて……」

――当然そうなる。

ライラは大げさに口を尖らせ、瞬きを繰り返す。涙が今にも落ちそう。

「あなたが私のことを嫌いなのは分かってる、オリヴィア……でも録音を捏造?さすがに卑劣すぎるわ……あなたでも、それはダメ」

私は冷たく彼女を見つめた。一分間ずっと。

……ああ、お可愛いこと。本物の卑劣さを、あなたはまだ知らないのね。

「捏造してない。分かってるでしょ、ライラ」私は平坦に言った。

セレナが一歩前に出る。彼女にしては勇敢すぎるくらい。

「オリヴィアさんが録音を捏造する暇なんてありません」彼女の目が鋭い。「病院から戻ったばかりですので」

エリオットの瞳孔が縮む。

「病院?聞いてないぞ……お前、具合悪かったのか?」

「カジノのロビーで倒れたんです」

セレナは露骨に鼻で笑い、わざとライラとエリオットへ視線を滑らせた。

「てっきり、愛してる旦那さんと親友なら知ってると思ったんですけど。私の勘違いでしたね」

エリオットが私の手を掴もうとする。急に、心配そうな優しい顔に切り替えて。

「ごめん。俺、本当に知らなくて……」

私は何事もない顔で手を引いた。冷たく、遠く。

「大したことじゃない」私は言う。「それに、お二人の恋を邪魔する気もない」

その言葉が刺さったのだろう。エリオットの身体が硬直し、気まずさで頬が赤くなる。

怒鳴るかと思ったのに、彼は弱々しい笑みを作り、もう一度手を伸ばした。

「なあ、お願いだ。そういう言い方はやめてくれ。記念日のディナー忘れたのは俺が悪かった。埋め合わせする。約束するから」

私が反応しないと、彼は本気で焦った顔になる。

「俺がわざわざ来たのに、それでも足りないのか?オリヴィア、お前は俺にどうしてほしいんだよ?」

そして声を落として、いつもの一言。

「……俺がいなきゃ、誰がお前をこんなふうに愛してくれる?」

私は彼を見た。その厚かましさに、言葉が一瞬消える。

誰が私を愛する?私はニューヨークで一番成功しているカジノを持ってる。彼の憐れみなんて要らない。ましてや愛なんて――彼は一度だって、まともにくれたことがないのに。

「自分が何言ってるか分かってる?」声は驚くほど静かだった。でも危険なほどの冷徹が混じる。「私が、あなたなしじゃ生きていけないって?この私が?」

「違う、そういう意味じゃ……」エリオットは慌てて弁解し、また手を伸ばす。

私は一歩下がった。もう限界だ。

ライラはまだ彼の後ろに立っている。優しくて分別のある人の仮面。大きな目。儚い唇。怯えたように黙っている顔。

私がそれを見抜けないとでも思ってるの?

私は視線をライラに釘付けにする。「私のカジノから消えて」

ライラの唇が震え、涙が時間どおりに浮かぶ。

「わ、私はただ……あなたが大丈夫か心配で来ただけ。怒らせるつもりなんて、ほんとに……」

そしてエリオットへ向き直る。あからさまに「味方して」の目。

――でも今回は、エリオットは乗らなかった。

彼はライラを見て、それから私を見る。

「先に帰れ、ライラ。俺はここにいる。俺だけでいい」

危うく笑いそうになった。

「だったら」私は甘く、冷たく言った。「あなたも帰って。二人そろってね。私のオフィスから、私のカジノから出ていって。でないと、警備にご案内してもらう」

ずっと黙っていたセレナが、低く笑った。

「こういう人って、人の言葉が理解できないんですよね」

私は驚いて瞬きをした……でも、つられて笑ってしまう。

エリオットがセレナに向き直り、顔を曇らせた。

「お前、誰だ。よくそんな口が利けるな。俺はお前のボスの夫だぞ。クビにしてほしいのか?」

セレナは眉を上げ、まっすぐ私を見る。

「オリヴィアさん、私、出しゃばりました?外に出たほうがいいですか?」

私はゆっくり、はっきり笑った。

「出なくていい。あなたは私の友だち。ここは、あなたならいつでも歓迎よ」

それから侵入者二人へ視線を戻す。

「あなたたち――さっき言ったよね。出て行って……それと、私の友だちに二度と手を出さないで」

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