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第 3 話

Autor: 水守恵蓮
last update Última actualización: 2026-02-10 13:39:01
3

私の父は銀行マンで、私が中学一年生の時、ロンドン支店の副支店長に昇進した。

家族四人で渡英し、私は高校卒業まで六年ほどロンドンで過ごした。

姉はその時に培った語学力を生かし、フリーランスで通訳の仕事をしているけど、私は普通のOLだ。

父が勤める銀行と同じグループの総合リース会社で、事務職として働いている。

所属は海外拠点の管理・統括を行う国際部。

周りはみんな当たり前に英語を喋れるから、私の語学力は特別でもなんでもない。

見た目も存在感も、姉とは違って平凡そのものだ。

黒目がちの丸い目に、ちょっと低めの鼻、小さな唇。

地味な顔立ちでも清楚、内気な性格でも控えめという評価を得られるよう、服装は砕けすぎず堅すぎないオフィスカジュアルを心掛けている。

平日五日間、気を張っている反動から、休日はもっぱら家で過ごす。

父も母も、年頃になってもデートの約束一つない私を、姉とは違う意味で心配していたのだろう。

でも、だからと言ってお見合いなんて。

恋愛ですら臆病になっているのに、結婚なんて考えられない。

しかも、お見合いを回避するために、姉の元カレとの偽装婚約を持ちかけられるとは――。

私は姉と別れて帰宅した後、自室でベッドに横になった。

思考回路が追いつかず、ぼんやりと天井を仰ぐ。

煌々と灯った電気が眩しくて、目を閉じた。

そうすると、網膜に焼きついた瞬君の顔が、残像のように浮かび上がる。

『恵麻、綺麗になったね』

どうせ軽いお世辞。

真に受けて浮かれたりはしないけど、瞬君、本当に眩しそうな目で私を見てたな……。

十年前、姉と同じ大学の学生寮で生活していた瞬君は、よくうちにご飯を食べに来ていた。

姉によると、彼はロンドンでも屈指の名門大学で、外国人ながらトップクラスの成績を誇っていたそうだ。

なのに偉ぶったところがなく、気さくで礼儀正しい彼を、私の両親は今時珍しい好青年だと気に入っていた。

仲がよく、絵に描いたような美男美女カップルは、恋を知らない高校生の私にとって理想だった。

なのに、瞬君は浮気した。

姉は激怒し、他の学生が遠巻きに見ているキャンパスのど真ん中で、彼を『浮気者』と罵倒して振ったそうだ。

当然ながら、それ以降瞬君がうちに食事に来ることはなく、私も彼とはそれっきり――。

「っ……」

私は勢いよく起き上がり、ベッドの上で膝を抱えた。

十年前、もう一生会うことはないと思った人だ。

突然の再会に驚いたし、動揺が収まらないのに、彼と偽装婚約なんて……こんな現実があっていいの?

強まる混乱から、心臓がドクンドクンと拍動を速める。

本当のところ、瞬君はどう思ってるんだろう。

もしかしたら、偽装婚約もその相手が私というのも、昔の罪悪感から、姉の提案に異を唱えなかっただけかもしれない。

結論を委ねられたのは私だけど、瞬君の真意を確認するのが先決かもしれない――。

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