تسجيل الدخول桜はダイニングテーブルに歩み寄り、テーブルの上の朝ごはんに目をやった。そこには、パンとおかずが並んでいた。家政婦の野田真紀(のだまき)がトレーを手に現れ、桜を見るとすぐに笑顔で挨拶した。「おはようございます、桜様」桜はきょとんとしてお手伝いさんを見て、少し恥ずかしそうに小さく頷いた。「こんにちは」「碓氷様はもうすぐお戻りになるはずです。朝食は10時にと仰っていたので、さきに用意してからお呼びにあがろうと思っていたところなんです!」桜は尋ねた。「彼は会社に行ったの?」「はい、碓氷様は会議のために会社へ行かれましたが、もうすぐお戻りになるはずです」桜は頷いた。「なんとお呼びすればいいですか?」「碓氷様からは野田と呼ばれております」「じゃあ、私も野田さんとお呼びしますね」桜は真紀ににっこりと笑いかけた。「先に顔を洗ってきます。朝食ありがとうございます」「いえいえ、桜様、ご丁寧にとんでもないです。今朝、碓氷様から、桜さんのことをこの家の奥様だと思って接するようにと、すでに言いつかっておりますから。これからは何か私にしてほしいことがあれば、何でもお申し付けください。あなた様と碓氷様のお世話をさせていただくのが、私の仕事ですので」奥様!?桜は衝撃を受けた。ただ彼氏の家に一晩泊まりに来ただけなのに、どうして奥様になってしまったんだろう?でも真紀は明らかに安人の言葉を心に刻んでいるようで、桜は何も言えなかった。……そして、主寝室のバスルームには、洗面台に新しい洗面用具が揃えられていた。しかもピンク色だ。桜は昨日の夜、自宅から持ってこようとしたけど、安人は必要ないと言った。彼がすでに新太に買い揃えるように頼んであるから、それで真紀が用意してくれたのだろう。そして、新しいバスタオルやバスローブまで、安人は事前にすべて用意してくれていた。安人が彼女のために揃えてくれた日用品は、ほとんどがピンク系やキャラクターものだった。こうして、シンプルな寒色系のバスルームが、桜のピンクの日用品のおかげで、少しだけ柔らかく暖かい雰囲気を帯びていた。やっぱり桜も女の子だ。こういうピンクで可愛い、さわやかなものが大好きだった。それらを見ていると、桜は暖かい気持ちになった。……そして、桜が身支度を終えてバスルームか
トラちゃんは、慣れた我が家に帰ってきて、すごく興奮していた。桜のお気に入りのカーペットに駆け寄ると、お腹を上にして寝転がって、まるっとした体をすりすりさせたのだった。桜はその様子を見て、思わず笑ってしまった。トラちゃんを指さしながら安人を振り返って、「見てよ、あの子たら」と笑いかけた。安人も口角を上げて言った。「やっぱり君が一番よく分かってるね。確かに、慣れた環境の方が嬉しいみたいだ」「M市ではずっと閉じ込められて、実家では叩かれてばっかりだったから。やっと自分の縄張りに帰ってこれて、嬉しいんでしょうね」桜は部屋に入りながら言った。「先に猫砂を用意してあげないと。移動中、ずっと我慢してたから」桜は棚から猫砂を取り出すと、トラちゃん専用のハウスを開け、トイレに新しい猫砂を注ぎ入れた。猫砂の音を聞きつけると、トラちゃんはすぐに起き上がり、ハウスの中に駆け込んだ。桜はキャットフードも補充すると、急いでハウスから離れた。オス猫のおしっこの匂いはやっぱり少しキツイものがあるから。こうして、彼女はそそくさとハウスのドアを閉めた。このドアは改造してあって、トラちゃんが自由に出入りできるよう、下の方に専用の小さなドアが作られていた。桜がリビングに戻ると、安人がベランダで電話をしているのが見えた。彼女は邪魔をせず、自分のスーツケースを主寝室に運んだ。一方、電話を終えてリビングに戻った安人は、桜が主寝室へ行ったことに気づいた。彼は一瞬足を止め、主寝室の方へ歩いていった。主寝室で、桜はちょうどウォークインクローゼットから寝具セットを抱えてきたところだった。安人の姿を見て、彼女は言った。「明日、家政婦さんが来たら私の部屋に連れてきてくれる?猫砂とかキャットフードのことを説明しなきゃいけないから」安人はベッドに置かれた寝具セットに目をやると、かすかに眉を上げて尋ねた。「今夜はここに泊まるつもりなのか?」桜はボックスシーツを広げようとしていた手を止め、彼を振り返った。「そのつもりだけど、何か?」「ここはしばらく誰も使ってないし、今から片付けるのは大変だろ」安人は彼女を見て言った。「明日にはM市に戻るんだし、今夜一晩、俺の家に泊まりなよ」桜は一瞬ためらったが、考えてみると、彼の言うことにも一理あると思った。それに、今自分は安
……一方、A国のとあるホテルのスイートルームで、安人は新太に電話をかけ、明日の午後、M市行きの飛行機を予約するように頼んだ。そして電話を切ったとたん、父の誠也から電話がかかってきた。安人は通話ボタンを押した。「お父さん」「安人、お母さんが俺を無視するんだ」そう言われ安人は一瞬ぽかんっとした。「まったく、なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ?」誠也の声は不満げだ。「今夜は書斎で寝ることになりそうだよ」それを聞いた安人は一瞬黙ったあと言った。「それで、今回はなぜなんだ?」「お前のせいだ」すると、安人は驚いて言葉を失った。「詳しいことは言えないが、とにかく覚えておけ。絶対にできちゃった結婚みたいな真似はするなよ。さもないと、この俺がとばっちりを受けて、この先ずっと書斎で寝ることになる」それを聞いて、安人は呆れて笑えそうになった。彼は、こめかみを押さえながら言った。「お父さん、もう少しちゃんと説明してよ」「これ以上どう説明しろって言うんだ?」誠也は呆れたように笑った。「お前、彼女ができただろ?お母さんがな、あの子はまだ若いし、仕事が大事な時期だからって。ちゃんと避妊しろ、それに彼女は人前に出る仕事なんだから……まあ、とにかく、これからは節度を考えろ!」安人は一瞬戸惑ったが、ふと桜の体にあった赤い痕を思い出した……そういうことだったのか。それに気づくと、安人は少し呆れたようにも思えた。まだ結婚もしていないのに、母はすでに将来の嫁の味方だ。「わかったよ」安人はそう思ってても、これは両親が桜を大切に思っているからこそこんなプライベートな話題まで持ち出して心配してくれているのだと分かっていた。安人自身も、両親の心配をよく理解していた。なにしろ、妹の優希が、できちゃった結婚で急いで式を挙げた過去があるからだ。もちろん優希は哲也を愛していたが、当時の彼の状況は特別で仕方なかったのもあるが、辛い思いをしなかったと言えば嘘になるだろう。結局、新しい命のために責任を取るという前提で始まった結婚は、女性にとって公平とは言えないのだ。両親は自分の桜がそういう経験をしたからこそ、その辛さを知っている。だから、しっかりした後ろ盾のない桜に同じような思いをさせたくないのだろう。そこまで考えて、安人は真剣な低い
綾は誠也の方を向くと、軽くため息をついた。「あなたの大事な息子のせいよ」誠也はきょとんとして聞き返した。「安人は、彼女を口説きに行ってるんじゃないのか?」「ええ、その通りよ!」綾はフンと鼻を鳴らした。「だけど、付き合った途端に、女の子を海外に連れ回して、おまけに」綾はあの子のことを気遣って、それ以上はっきり言うのをためらった。そして、彼女は言葉を選んで続けた。「ただ、あの子はまだうぶだから心配なのよ。安人が、ちゃんと女の子を守るってことを分かっているのかしら?」誠也は少し考えて、ようやくその言葉の裏にある意味を悟った。彼は困ったように口元を緩めた。「俺たちの息子が、そんな基本的なことも知らないはずないさ。お前は心配しすぎなんだよ」綾は眉をひそめ、誠也を見た。「本当に、私が心配しすぎなだけかしら?」「俺たちの教育に自信を持ってよ」誠也は妻を抱き寄せ、優しく諭した。「安人は昔から賢い子だ。それは俺たちがちゃんと教えきたのもあるけど、元々の性格もある。あの子は昔から、自分が大切にしている人たちに強い責任感を持ってるだろ。その気持ちがあれば、理性を失ったりはしないさ」綾は夫の言葉に頷いたものの、まだ不安は拭えなかった。逆に今まで苦労してきた環境で育った桜が、自分に自信が持てず、安人を好きだという気持ちだけで、何でも彼の言う通りになってしまうんじゃないかと心配で堪らなかったのだ。そして、綾は今や、陰で桜を支える立場でもあるから、仕事でも、もっと成功してほしいと願っているのだ。それと同時に、未来の姑になるかもしれないからこそ、心からあの子を案じていた。精神的に自立するまでは、結婚だけが人生のゴールだなんて思ってほしくない。女の子は、どんな時だって、まず自分を愛して強くならなくちゃいけないのだ。そこまで考えると、綾は言った。「ねえ、あなた。こういう話は母親からはしにくいから、安人に話してくれない?遠回しでいいの。女の子をちゃんと守れって念を押してちょうだいよ。だってあの子はまだ未熟で、成長が必要なのよ。だから安人にも彼女を守れるような立場になって欲しかった。すぐに結婚して子供を作るのはやっぱり避けたいのよ」これを聞いた誠也は、呆れたように笑った。「お前なあ、若い連中は有り余るくらい元気なんだ。少しくらい羽目を外すのが
桜は言葉を失った。まさか安人も、疲れるなんてことがあるんだな!そして、桜は唇を引き結び、安人の方へと歩いていった。しかし、桜が安人のそばまで行くと、彼にいきなり腰を抱き着かれ――そのまま自然に彼の膝の上に座る形になったのだ。このように親密な関係になった後、安人はことあるごとにこうして抱きついてくるようになった。それには桜も少し慣れてきていた。そこで、安人が尋ねた。「こっちの仕事はもう終わった。君は8日に劇団に戻るんだから、7日にはM市に帰らないとだめなんだろう?」彼がそんなことまで覚えてくれているとは思わなくて、桜はこくりと頷いた。「そうよ。さっき、寧々にもいつ帰るのか聞かれたところ」「いつ帰りたい?」「明日帰るのはどうかな?」桜は言った。「明日は一旦実家に戻ってトラちゃんを連れて北城に帰ろうと思ってね。やっぱり、猫を飼うとやっぱり少し匂いがするから、トラちゃんを私の家いさせるよ。家のオートロックの暗証番号は後で教えるから、夜、家に帰る時にエサをあげてくれるだけでいいの」「でも、俺は出張で何日も家を空けることがあるから」と安人は言う。「だから、俺の家に置いておくほうが便利だよ。うちは決まった家事代行の人が毎日掃除に来てくれるから、その人に猫の世話も頼めるし」「私が心配なのは、あの子が慣れない環境で粗相しないかってこと。私の家なら、環境に慣れてるから、いたずらもしないと思うの」それを聞いて、安人は少し間を置いてから言った。「それなら、君の家に置いてもいい。でも、俺が出張の時は、家事代行の人に君の家に行ってトラちゃんの世話をしてもらわないと」「じゃそうしましょう。あなたが選んだ家事代行の人なら、信頼できるはずだから!」その言葉に、安人は彼女の鼻をつまんだ。「本当に、そんなに俺を信頼してるのか?」「うん!」桜は彼の首に腕を回し、甘い笑顔を見せた。「私にとって、あなたは誰よりも信頼できる人よ!」その言葉に安人は上機嫌になり、かがんで桜の綺麗な目にキスをした。「やっぱり君は人を見る目もあるな」桜はきょとんとしたが、すぐに彼の言わんとしていることに気づいて思わず吹き出してしまった。「安人、あなたもそんなナルシストな冗談を言うのね!」「君の目には、俺は堅物でつまらない人間に映ってるのか?」「そんなこと
それから、安人は、桜の小さな足をそっと握った。その小さな足は彼の大きな手で、すっぽりと包み込めてしまいそうなほどだった。すると、乾いた温かい彼の手のひらから熱が伝わってくるの感じて、その温もりは足の裏から体中を巡っていくように感じた桜は頬を赤く染めていった。桜は恥ずかしくなって布団の中に足を引っ込めると、眠たげな瞳で彼を見つめて「カーペットが敷いてあるから大丈夫」と言った。「カーペットがあっても、スリッパは履きなさい」安人はそう言いながら、彼女の首筋や鎖骨に残る痕に目を落とすと、またもや胸が高鳴るのを感じた。そして、これじゃ母さんに叱られても仕方ないな、確かに、少しやりすぎてしまったようだとと反省するのだった。しかし、どれだけ我を忘れても、彼は最低限の配慮を忘れていなかった。桜はまだ若い。こんなに早く妊娠にさせるわけにはいかなかったからだ。それに、彼女にはまだ成し遂げたいことがあるのを、安人はよく分かっていた。そして、安人は腕時計に目をやり、「ルームサービスを頼むけど、何が食べたい?」と聞いた。お腹は空いていたが、喉もなんだかイガイガすると、体もだるかったから、桜は少し考えて、「消化のいいものがいいな」と答えた。こんな時は、康弘さんの特製のお漬物があったら最高なんだけどな。でも、ここは海外だ。桜はそう思うだけだった。一方、安人はホテルに、和風だしのうどんといくつか付け合わせのおかずを用意するように頼んだ。だが、桜は寝室にずっといるのは嫌だったので、外で食べたいと安人に伝えた。それから、スイートルームのリビングでは、安人がローテーブルで仕事をしていると、桜は一人でダイニングテーブルで食事をすることになった。時折、キーボードを叩く音だけが部屋に響く中、桜は食事をしながら、ラインをチェックしていた。昨夜から今朝にかけて、寧々からラインが何件か届いていたのだ。ホテルに来る途中で「無事着いたよ」とだけ返信して、その後のメッセージは今になってやっと確認できた。長い間返信がなかったことで、寧々も状況を察してくれたようだった。最後のメッセージは、「ちゃんと避妊はするのよ!」という念押しだった。桜はそのメッセージを見て、恥ずかしくて唇をきゅっと結んだ。確かに安人は、ああいうことになると少し強引で加
「お兄さん!」詩乃は浩平の胸に手を当て、甘い声で焦ったように言った。「覚えたわよ!もう大丈夫だから!」浩平は口の端を上げた。「そうか?じゃあ、今から早速、試させてもらおうか」詩乃は黙り込んだ。すると、彼は切れ長の目をいたずらっぽく細めて言った。「俺を慰めてくれるって言ったのは、あなただろ?」さすがの詩乃でも分かった。浩平はわざとやっているのだ。「お兄さん、ずるい!」詩乃は彼を睨みつけた。「あなたが辛そうだったから、私は本気で心配したの。本当に、ただ慰めたかっただけなのに......」「分かってる」浩平は低く掠れた声で言った。「でも、あなたとこうしてイチャイチャするのが、
詩乃は、何も説明する気になれなかった。彼女はどうしても一人で両親と顔を合わせたくなかったのだ。以前なら一人でも平気だった。でも、今は違う。お腹に赤ちゃんがいるのだ。両親が今回やってきたのは、きっとお腹の赤ちゃんが目当てだということも分かっていた。彼女はすでに浩平から、もし男の子が生まれたら、その子は我妻家の跡継ぎとして成和の養子に出すと父と約束したのだと聞いていたのだから。もちろん、それは浩平の単なる時間稼ぎだけど、父は疑り深い性格なのだ。それに彼は昔、目的のためなら手段を選ばず、我妻家の跡継ぎの座を手に入れてきたのだから跡継ぎ問題となると、さらに慎重かつ強引になるに決まっ
「誰もあなたを責めてない」浩平はため息をついた。「いったん手を放してくれ。二階に車のキーを取りに行ってくる」それを聞いて、蛍はゆっくりと手を離すと、心細そうに彼を見つめた。「あなたが病院に送ってくれたら、詩乃さんはどうするの?」「花梨さんがついてるから大丈夫さ」浩平はそう言って部屋を出ると、急いで二階へ向かった。そして二階にあがると、浩平は部屋のドアをあけて入っていった。すると詩乃は体を起こして尋ねた。「彼女はどうだった?」「酷い熱だ。うわ言まで言ってる」浩平は引き出しから車のキーを取り出すと、詩乃を見て言った。「市内の病院に連れて行くから、少し時間がかかるかも。俺のことは
詩乃は唇を噛みしめ、うつむいたまま、どう説明すればいいのか分からずにいた。浩平に近づきたくない、あの夜のことを思いだしてしまうのが怖い......なんて、言えるはずがない。その頃、輝と他の人は、花嫁の靴を探していた。部屋の中は、とても賑やかだった。一方で、詩乃と浩平は部屋の隅に立っていた。二人は向き合っていたが、微妙な空気が流れ、周りの賑やかさとは不釣り合いだった。澪央は視線を向けると、浩平が一人でいることに気づき、内心ほくそ笑んだ。彼女は賑やかな人混みから抜け出し、浩平の方へ向かった。しかし、近くまで行くと、浩平の隣に女性が立っていることに気づいた。女性はうつ







