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第1702話

Autor: 栄子
一方、安人は書斎から出て、リビングを見渡した。

ヨガマットはまだ敷いたままだけど、桜の姿は見えない。

彼は踵を返し、まっすぐ主寝室へと向かった。

ドアを開けると、部屋の電気はついていた。でも、ここにも桜はいなかった。

安人は足を止めた。

「桜?」

安人はバスルームのドアまで行き、ノックをした。「桜、中にいるのか?」

しかし、バスルームからも何の返事もなかった。

彼は眉をひそめ、バスルームのドアを開けた。

バスルームは使った形跡がある。でも、桜はいない。

すると、安人はスマホを取り出し、桜に電話をかけた。

コールが数回鳴った後、やっと繋がった。

桜の声がスマホから伝わってきた。「もしもし?」

安人は寝室を出ながら尋ねた。「桜、どこにいるんだ?」

「下にちょっと物を取りに来てるの」スマホ越しの桜の声はいつも通りだ。「仕事、終わったの?」

「ああ、今終わったところだ」

「じゃあ、先にお風呂入ってて。私もすぐ上に行くから」

その言葉を聞いて、安人はそれ以上は何も聞かなかった。わかった、と返事をして電話を切った。

それから、彼は寝室に戻り、パジャマを手に取って
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  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1702話

    一方、安人は書斎から出て、リビングを見渡した。ヨガマットはまだ敷いたままだけど、桜の姿は見えない。彼は踵を返し、まっすぐ主寝室へと向かった。ドアを開けると、部屋の電気はついていた。でも、ここにも桜はいなかった。安人は足を止めた。「桜?」安人はバスルームのドアまで行き、ノックをした。「桜、中にいるのか?」しかし、バスルームからも何の返事もなかった。彼は眉をひそめ、バスルームのドアを開けた。バスルームは使った形跡がある。でも、桜はいない。すると、安人はスマホを取り出し、桜に電話をかけた。コールが数回鳴った後、やっと繋がった。桜の声がスマホから伝わってきた。「もしもし?」安人は寝室を出ながら尋ねた。「桜、どこにいるんだ?」「下にちょっと物を取りに来てるの」スマホ越しの桜の声はいつも通りだ。「仕事、終わったの?」「ああ、今終わったところだ」「じゃあ、先にお風呂入ってて。私もすぐ上に行くから」その言葉を聞いて、安人はそれ以上は何も聞かなかった。わかった、と返事をして電話を切った。それから、彼は寝室に戻り、パジャマを手に取ってバスルームに入った。……その頃、27階の主寝室。桜はベッドの端に腰掛けていた。彼女は片手にスマホを、もう片方の手には通帳を握りしめているのだった。通帳にはまだ20億円の残高がある。この中には、康弘のために大きな家を建てるためのお金も含まれていた。もともと、夏頃に実家に帰ったときに、康弘にちゃんと話すつもりでいた。でも今、彰人は1億円を要求してきた。桜はわかっていた。彰人は一度きりで満足するはずがない。一度払えば、必ず二度目がある。彼の欲を満たすことなんて、永遠にできない。本当のところ、一番賢いやり方は安人に助けを求めることだとわかっていた。でも、彼と出会ってから、ずっと助けてもらってばかりだ。彼が優しい人なのは知っている。だからこそ、あまりにも一方的に迷惑をかけてばかりで申し訳なく思えてしまうのだ。そう思って、桜はこの件を自分の力で解決したかった。それに、13歳の時に起きたあの出来事を、安人に言う勇気もなかった。桜は、彼が自分を蔑んだりしないとわかっていた。でも、彼女自身のプライドが許せなかった。あんな惨めな目に遭った

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1701話

    あんな人間のクズこそ、死んでしまえばいいのだ!「お金は渡さないわ」桜は息を深く吸い込んで、冷たく言った。「どうせ逃げられないんだから、早く自首したらいいじゃない?そうすれば、罪も少しは軽くなるでしょう!」「俺に自首しろだと?」彰人は鼻で笑った。「桜、お前は本当に、痛い目を見ないと分からないんだな。俺がこんなリスクを冒してまで金の話を持ち掛けたのに、何の準備もしてないと思うか?」その言葉に、桜は眉をひそめた。「どういう意味よ?」「ポスターを見たぞ。6日、お前の公演があるな」彰人の声は悪魔のようだった。「金をもらえなくても構わないさ。俺の手には、お前に関するすごいネタがあるんだ。公演が終われば、もっとお前に注目が集まるだろ?その時、このネタをマスコミに売ったら……いくらになるかな?」それを聞いて、桜は黙り込んだ。芸能界で活動してきた間、彼女は後ろめたい取引には一切応じてこなかった。だから、自分にそんなネタはないと確信していた。「彰人、脅したって無駄よ。そんな手には乗らないわ」「お前が13歳の時、康弘……あいつが、なぜ漁船を売らなきゃならなかったか。まさか、忘れたわけじゃないよな?」桜は息を呑んだ。「桜、大した額じゃない。たったの1億円だ。金を渡せば、お前のことは見逃してやる!」彰人の声は、陰湿で不気味だった。「追い詰めたいわけじゃないんだ。でも、俺にはもう後がない。そもそも、お前たち親子がいなければ、俺が翠とこんなことになるはずもなかった。これは、お前たちが俺に作った借りなんだよ。お前の母親はもう死にかけてるし、今さら彼女が助けてくれるのは期待できないからな。だから桜、お前が助けてくれるなら、俺はあの件を永遠に闇に葬ってやる。さもないと、本当に週刊誌にリークするしかない。お前はもうただの女優じゃない。北城の大物、碓氷さんの彼女なんだぞ?もし、お前が13歳の時のあの件がバレたら……碓氷さんは国中の笑いものになるんじゃないか?」そう言われ、桜の顔から血の気が引いた。スマホを握る彼女の手が、かすかに震え始めた。脳裏にいくつもの光景がよぎった。断片的で、苦しくて、血に染まったような光景が……苦痛と怒りに満ちた康弘の叫び声が、桜の頭の中で響き渡る——「この子はまだ13歳なんだぞ!この人でなしが!殺してやる

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1700話

    その時、真紀は夕食の準備を終えると帰っていった。桜と安人は、誰にも邪魔されずに二人きりで夕食をとった。新婚夫婦のような、穏やかで甘い時間が流れる中、食事を終えた桜は、少し休んでからヨガウェアに着替え、リビングでトレーニングを始めた。明後日には初公演が控えている。だから、彼女は一瞬たりとも気を抜けないのだ。そして、彼女がトレーニングをしている間、安人は書斎で仕事をしていた。9時ごろ、桜はトレーニングを終えたが、安人はまだ書斎から出てこなかった。桜はしばらく待ってみたが、彼がまだ出てこないので、先に部屋に戻ってシャワーを浴びることにした。シャワーを浴びて出て来ると、ベッドの上でスマホが震えていた。またあの知らない番号からだった。桜は一瞬ためらったが、通話ボタンを押した。すると、電話の向こうから、陰気でしゃがれた男の声がした。「桜か、俺だ」桜は息をのみ、スマホを握る手にぐっと力が入った。彰人だ。よくも、電話をかけてこられたものだ。「今どこにいるの?人を殴って逃げて、警察に指名手配されてるって分かってるの?!」「逃げなきゃ捕まるだろ!」彰人は怒鳴った。「お前たち親子のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ!お前たちがいなければ、俺は翠に弱みを握られることもなかったし、一文無しで追い出されることもなかった!全部お前たち親子のせいだ!」そう言われ、桜はあまりの馬鹿馬鹿しさに、思わず鼻で笑った。「それで?今さら電話してきて、まさか私にお金でもせびる気?」「海外に高飛びする予定だ。お前が金を用意してくれ!」「お金なんてないわ」桜はきっぱりと断った。「ふざけるな!」彰人は怒鳴った。「お前が安人にとり入っているのは知ってるんだ!あいつが京子のために専門家チームを手配してあげたから、京子は一命をとりとめたんだろ!どうせ安人は金持ちなんだから、お前が頼めばいくらでも出してくれるはずだ!」「たとえ彼がくれると言っても、私からは絶対に頼まない」桜の声は氷のように冷たかった。「どうして私があなたにお金を渡さないといけないの?あなたは父親として、これまで私に何をしてくれた?プライドを捨ててまで、あなたのためにお金を無心できるわけないでしょ?それに、あなたは今、指名手配中の犯罪者よ。手助けしたら共犯になっちゃうじゃない」

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1699話

    「はい、わかりました」電話を切ると、桜はなぜかざわつきが収まらない胸をなでて、ため息を一つこぼした。きっと公演が近いから、緊張しているだけ。だから、余計なことばかり考えてしまうんだわ。寧々と康弘は実家にいるんだから、何かがあるわけないじゃない?そう思って、桜はスマホを置いて、スーツケースからロボット犬を取り出したあと、ベッドのそばにある窓の前にそれを置いた。すると、ベッドの上に置かれたスマホが震え始めた。桜は立ち上がって、ベッドに歩み寄ってスマホを手に取った。知らない番号からだった。桜は眉をひそめて、電話に出るべきか迷った。その時、玄関のインターホンが鳴った。夏帆がドアを開けに行った。「あ、碓氷さん……桜様は部屋にいます。どうぞお入りください」外の物音に気づいて、桜はスマホを置いてすぐに部屋を出た。スマホは鳴り続けていたが、やがて自然に切れた。……リビングでは、トラちゃんが安人の姿を見つけるとすぐに駆け寄った。そして、まんまるな頭を安人のズボンの裾にすりつけて、にゃーにゃーと甘えた声で鳴いた。トラちゃんのその情けない姿を見て、桜は呆れながらも笑ってしまった。「トラちゃん、そんなに甘えちゃって。安人に毛がいっぱいついちゃうでしょ!」そう言って、桜はトラちゃんのそばに歩み寄ってしゃがみこみ、その頭を指でつんつんと突いた。トラちゃんはもう、すっかり安人を自分の飼い主だと思っているようで、桜にからかわれても、彼に甘えるのをやめなかった。桜は仕方なく、トラちゃんを追い払った。そして、安人の高そうなスラックスに、びっしりと猫の毛がついているのを見て、桜はやれやれと首を振った。「野田さんが夕食を作ってくれている」そう言われ、彼の言葉に隠された意味を、桜はすぐに理解した。桜は夏帆を見て、少し気まずそうに言った。「夏帆、今夜は戻らないかもしれないんだけど、一人で大丈夫?」夏帆は頷いた。「はい、私は大丈夫です。桜様は、碓氷さんと安心してデートしてきてください!」桜は思わず、返す言葉がなくなった。……それから、桜は安人と一緒に、28階の彼の部屋へ向かった。キッチンでは、野田さんが忙しそうに料理をしていた。今回、桜は何も持ってこなかった。なぜなら、安人がここにすべて用意してくれて

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1698話

    そして、ウェストコートレジデンスに帰ってきた桜は、見慣れた部屋を眺めていると、ふと寧々に会いたくなった。寧々は実家に帰ってから、なんだか忙しいみたいだった。桜が時々電話をかけても、いつも出なくて、後で「忙しかったの」とラインを送って来るだけだった……最初は、桜も特に気にしていなかった。でも、もう2週間も経って、寧々のお父さんの容体も落ち着いたはず。なのに、どうしてまだそんなに立て込んでいるのだろう?一方、トラちゃんは夏帆が見慣れないからか、少し警戒している様子で、彼女の周りをぐるぐる回って、しきりに匂いを嗅いでいるのだった。それを見て、桜はしゃがんで、そのまん丸い頭を撫でてやった。「寧々ちゃんは実家に帰ったの。いつ戻ってくるか分からなくてね。夏帆さんは、私の新しいアシスタントよ。これからここに一緒に住むから、仲間なんだよ。威嚇しちゃだめ」「にゃーん」トラちゃんはとても賢い猫で、桜の言葉をいつもちゃんと分かっているみたいだ。桜は立ち上がると、夏帆の方を向いた。「主寝室の隣が、前に寧々が使ってた部屋なの。その隣はずっと空いてるゲストルームだから、そこを使ってくれるかな?」「はい、どこでも大丈夫です」夏帆は答えた。「では、先に荷物を部屋に運びますね」「ええ、そうして」夏帆がゲストルームに入っていくのを見届けてから、桜も自分のスーツケースを主寝室に運び込んだ。しばらく留守にしていたのに、部屋は変わらず綺麗に片付いていた。きっと安人が、事前に家政婦の真紀に頼んで掃除を済ませてくれていたのだろうと桜は気が付いていた。シーツや布団カバーは取り替えられたばかりで、部屋には爽やかなアロマの香りが漂っていた。北城での公演が終わると、次の巡業先はJ市だ。これからの二ヶ月、彼女は劇団と共に全国を飛び回ることになる。桜は心待ちにしていたが、同じくらい緊張もしていた。それに、あの京子の件も引っかかっている。どういうわけか、胸騒ぎが止まらず、落ち着かなかった。この気持ちを誰かに打ち明けたかった。でも、安人にはもう十分助けてもらっている。彼も忙しいのに、これ以上心配をかけたくはなかった。そう思って、桜は、寧々に電話をかけてみた。しかし、寧々はやはり電話に出なかった。彼女は寧々にラインを送った。「まだ忙しい?北城での

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1697話

    そう言われ、桜は言葉を失った。夏帆は言った。「冗談ですよ。テコンドー以外に自分に合う仕事が見つからなくて、最終的にアシスタントを選んだんです。こういった護身術はタレントを守ることにも繋がると思いまして」それはそうかもしれない。夏帆の理由は完璧なものだったから、桜もそれ以上踏み込まなかった。……一方、咲希は公演を降板したものの、昴は安人の機嫌を損ねないように、結局CMスポンサーから撤退することはしなかった。それだけでなく、安人は個人的な名目で追加出資をしたので、これは劇団全体にとって、まさにこの上なく有難いことだった!そして、公演が目前に迫り、桜はなんとか気持ちを切り替えた。咲希が去った途端、劇団の雰囲気はすぐに元に戻った。みんな、これから始まる全国ツアーをとても重要視していて、一人ひとりが最高のコンディションで臨んでいた。一週間後、京子は完全に命の危機を脱し、集中治療室からVIP個室へと移された。その一週間で、北城では多くの出来事が起こった。咲希は不倫が暴露されたうえ、度重なる整形の失敗で顔が潰れてしまったことが報道された。そして、金吾は不正取引の容疑で逮捕され、確たる証拠によって、彼の株や資産は凍結され、死刑判決が下される見込みだ。前田家も内部紛争が収束され、翠が咲希の叔父と手を組み、彰人を会社から追い出し、前田グループは勤によって引き継がれた。彰人が会社を去ったあと、翠はまとまったお金を手に入れ、世間の批判を浴びて顔を損傷した咲希を連れて、海外へ移住した。一方、彰人は京子に怪我を負わせた後、その日の夜に逃亡し、今も行方が分かっていない。京子は一命を取り留めたが、もともと体が弱かったところに、彰人から酷い暴力を受けたのだから、命は助かったものの、意識はまだ戻っていないのだ。病院によると、このまま植物状態になる可能性が極めて高いらしい。桜もこの結果は、安人が全力を尽くしてくれたからだと分かっていた。そして母である京子の生命力にも自信があった。今のこの状況は、むしろ自分と京子にとって、ある種の緩和期間なのかもしれない。北城巡演の2日前、つまり4日に、桜は由美子や劇団のメンバーと一緒に北城へ戻ってきた。安人はこの数日とても忙しかったので、新太に空港まで桜を迎えに行かせた。空港を出ると、桜

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1225話

    日和は自分の耳を疑った。「由理恵さん、あれは事故です。蛍が亡くなって、オーナーもひどく悲しんでいます。どうしてそんなことが言えるんですか!」「あなたは何もわかってないんですよ!」そう言って、由理恵は日和を睨みつけた。「あの子は私を、ずっと恨んでいますよ!私を恨んでるから、蛍を殺したんですよ!これは私への復讐です!」「由理恵さん、デマカセを言わないでください。そんな話、誰かに聞かれたら、オーナーがまたあらぬ疑いをかけられてしまいます......」「デマカセではありません!」由理恵は叫んだ。「浩平の私への態度は、あなたたちも見ているでしょう。いつも名前を呼んで、嫌悪の感情を隠そうともし

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1214話

    詩乃は正期産で陣痛が始まったけれど、初産だったから、子宮口はなかなか開かなかった。その日、彼女が家でお昼ご飯を食べていた時、突然、足の間から透明で温かいものが流れ出たのだ。それはあまりに突然の破水だった。清水とベビーシッターは、急いでKに車を用意させると、詩乃を支えながら車に乗せた。そして、入院バッグを持って、彼女らもすぐ病院へと向かった。その間、清水はまず音々に電話をし、その後に浩平に連絡を入れた。音々もその知らせを受けると、すぐに丈に電話をかけ、急いで病院へ向かった。詩乃は車の中で横になっていたけど、破水したこと以外、お腹に痛みはまだなかった。その一方で、清水は

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1263話

    もし哲也が寸前で止めてくれなかったら、今ごろ二人はもう......ううん、これ以上考えちゃダメ。優希は手で、熱くなった自分の頬をぱんぱんと叩いた。今までこんなこと考えたこともなかったのに。付き合い始めた途端、こんなにいやらしいことばかり考えるようになっちゃうなんて、だめだめ、もっとおしとやかにしなくちゃ。でも、哲也のお腹は綺麗に割れてて、まるで彫刻みたいだった。それでいて、鍛えすぎな感じがし、そう思うと彼女は、前に、そういう話が好きな友達の佐野梓(さの あずさ)が、男の人の腹筋について熱心に語ってくれたことがあるのを思い出したのだ。写真で見たけど、哲也みたいなのは理想的

  • 碓氷先生、奥様はもう戻らないと   第1217話

    それを聞いて、詩乃は唇を引き結び、何も言わなかった。その時、二人のもとへ、華やかで美しい女性が歩み寄ってきた。「詩乃さん」女性の明るく甘い声がした。詩乃と音々は、声のした方へ目を向けた。すると淡いピンクのドレスを着た蛍が目に入った。それは、今日の詩乃のドレスと同じ系統の色だった。それを見て、詩乃は、かすかに眉をひそめた。さっきまで、蛍はこんなドレスは着ていなかったはずだ。詩乃の視線に気づいた蛍は、笑って説明した。「詩乃さん、誤解しないでください。わざとじゃないんです。さっき人にぶつかられて、ドレスにワインをこぼしてしまって、そしたら浩平さんが、わざわざ新しいドレスに

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