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第986話

Auteur: 栄子
一方、真奈美は伏し目がちに、役所の前で立ち止まった。

その時、白いベンツが目の前に停まった。

運転席のドアが開き、清彦が書類袋を持って車から降り、真奈美の隣に立った。

「新井社長、協議書が完成しました。碓氷社長も確認済みです。もう一度ご確認ください」

真奈美は落ち着いた声で言った。「山本先生と碓氷社長の手腕は信頼しています。石川社長にお渡しください」

「承知しました」清彦は軽く頷き、大輝の方へと向かった。

真奈美はすぐには後を追って行かなかった。

大輝は、彼女がまだ自分と向き合えないことを分かっていた。

車から降りてから、一度も自分を見ていないのだから。

大輝の心は苦痛に満ちていたが、受け入れるしかなかった。

清彦は大輝の前に立ち、書類袋を渡した。「石川社長、こちらは新井社長から委託された新しい離婚協議書です。問題がなければ、署名と捺印の上、こちらで公証役場で手続きを行なわせていただきます」

大輝は書類を受け取り、中身を確認した。

新しい協議書では、真奈美は大輝に一銭も要求していなかった。

二人の財産は、きっぱりと分けられていた。

そして、すべてを断ち切っていたかのようだった。

彼女は子供の親権も放棄していた。

内容を確認した大輝は眉をひそめ、清彦を見上げた。「なぜ条件が変更されているんですか?私が提示した協議書では、私が全て放棄するはずでした」

「新井社長が同意しませんでした」清彦は説明した。「二人の子供が石川家で暮らしていることを考慮し、教育や成長に必要な費用は石川社長が管理した方が良いです。いずれ成人すれば、子供たちのものになるのですから」

「今持っている財産を全て彼女に渡したとしても、私は子供たちに素晴らしい環境を与えられます。彼女が心配する必要はありません」

「新井社長はもちろん石川社長の能力を理解しています。それに石川家は裕福なので、子供たちが不自由することはないでしょう。ですから、なぜ新井社長がこの財産を受け取らないのか、お分かりでしょう」

大輝はハッとした。

真奈美は、こんな形で償いを求めていないのだと、彼は理解した。

しかし、この方法以外に、今更自分にできることがあるだろうか?

ない。何もない。

18年前、自分が彼女から背を向けた時から、全ては決まっていたのだ。

大輝は協議書を握りしめ、車のそばで待
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