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第152話

Penulis: 雲間探
空はすっかり暗くなっていた。

山の気温もどんどん下がってきていた。

携帯をしまい、辰也は振り返って戻り、寄り添って食事をしながら話している玲奈と有美の姿を見て、テントに戻り、大きいのと小さいの、二着の厚手の上着を持ってきた。

大きいほうを玲奈に渡した。

玲奈はそれを見て言った。「寒くない——」

「羽織っとけ」彼は上着をぱっと広げて、彼女の肩にふわりとかけ、そのあと小さいほうを有美に着せた。

実際に玲奈は寒くなかったが、上着を羽織ったことで山の風をだいぶ防げて、たしかに暖かくなった。それ以上断る理由もなかった。

焼き肉を食べ終わった頃には、キャンプファイヤーがそろそろ始まる時間になっていて、三人はそちらへ向かった。

ちょうど到着した彼らを見て、誰かが思わず言った。「いやあ、この三人家族、ほんとに目立つなあ」

玲奈は一瞬黙ってから言い添えた。「家族じゃないです」

その人たちはにこにこ笑いながら、たとえ今は家族じゃなくても、いずれ家族になるかもしれないと勝手に思っていた。

しばらくすると、有美は近くにいた同年代の子たちと遊びに行ってしまった。

他の人たちはみんな家族や友達と来ていて、4、5人で集まっておしゃべりしたり、トランプしたり、雪だるまを作ったり雪合戦したりして、にぎやかな雰囲気だった。

玲奈と辰也の間に親しさはなく、有美がいなくなると二人の間には静寂が落ちた。

実際、話すことなど特になかった。

家族の話になれば、智昭や優里のことに触れることになる。それは玲奈にとっては禁忌だった。

仕事の話をする?藤田総研時代の不快な記憶がよみがえるかもしれない。

そんな中、辰也が口を開いた。「長墨ソフトには、もう慣れたか?」

玲奈は退屈には感じていたが、辰也と深入りするつもりはなかった。

辰也との間に沈黙が訪れることは、むしろ望ましいことだった。

辰也が話しかけたとき、玲奈は退屈しのぎに枯れ草で蝶を編んでいて、淡々と答えた。「慣れてる」

「湊はあなたのこと、ずいぶん気にかけてるな」

「うん」

「大学ではAIを専攻してたのか?」

「うん」

「湊とは、どうやって知り合ったんだ?」

その問いに、玲奈は答えなかった。

辰也は彼女がこれ以上会話を続ける気がないこと、そして最初から自分に距離を置いていることを察した。

その理由も彼にはわ
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