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第243話

Author: 雲間探
長墨ソフトは淳一や辰也との協力をすでに確定させていたが、それでもまだ一部の業務では適切なパートナーを見つけられていなかった。

適切な協力先を一刻も早く見つけ、会社の露出を増やし、成長を促進するために、長墨ソフトではしばらく前から準備を進めていたビジネス説明会を月曜の朝に正式に開催した。

朝、玲奈は茜を学校に送ったあと、そのまま会社主催の説明会が行われるホテルへと車を走らせた。

彼女が到着した頃には、礼二たちはすでに現地に到着していた。

まもなく玲奈は会社の中核技術者として登壇し、スピーチを行った後、メディアからの質疑に答えることになっていた。

玲奈と礼二は、舞台裏で段取りを確認していた。

そのとき、辰也もやって来た。

彼が席に着いて間もなく、淳一も姿を現した。

二十分ほど経ち、礼二と玲奈がステージに上がり、スピーチを始めた。

礼二が話している間は淳一も真面目に耳を傾けていたが、玲奈が登壇すると、淳一は眉をひそめた。

製品や技術の紹介という重要な場面を、礼二はまさか玲奈に任せたのか?

玲奈は淳一を一切気にすることなく、会社の製品紹介もメディアからの技術的な質問も、落ち着いた柔らかい声でテンポよく丁寧にこなし、一切緊張を見せなかった。

玲奈が登壇して以降、淳一は集中を欠き、玲奈の話にはまったく耳を傾けようとしなかった。

玲奈が技術に関する質問に答えているのを聞きながら、どうせ長墨ソフトに事前に台本でも渡されていたんだろうと高をくくっていた。

気が散っていた彼が何気なく横を向くと、辰也が前方をじっと見つめていて、その視線の先には玲奈がいた。

自分とは違って、辰也は真剣に聞いているようだった。

「……」

別に深くは考えなかったが、辰也という男はこういう見せ方がうまいのだなと、ただそう思った。

説明会が終わった後も、玲奈と礼二はさらに忙しくなった。

淳一は午後、藤田総研にも寄る予定があり、長居はせず、礼二に軽く挨拶してその場を後にした。

午後、藤田総研に到着した時、智昭はまだ来ていなかった。

淳一は優里たちが働いている部屋へ向かった。

入口まで来たところで、中がとても賑やかな様子であることに気づいた。

彼の姿を見て、増山がすぐに声をかけた。「徳岡社長」

淳一は軽く頷き、それを見た優里も振り返って言った。「智昭はあと10分くらいで
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