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第307話

Author: 雲間探
言い終えると、玲奈は彼に目もくれず、そのまま背を向けて去っていった。

智昭は彼女を引き止めようと一歩踏み出したが、そのとき、携帯が鳴り始めた。

智昭は携帯を取り出して着信表示を確認し、足を止めたまま、車に乗り込む玲奈の背中を見つめながら通話に出た。

礼二は最初、智昭が玲奈を引き止めようとしたのを見て止めに入ろうとしたが、彼が自分から身を引いたのを見て、智昭に一瞥をくれて「ふん」と鼻を鳴らし、玲奈の車に乗り込んだ。

さっき玲奈と智昭が何を話していたのか、礼二にはよく分かっていなかった。

車に乗り込むと、彼は玲奈に尋ねた。「あいつ、どこに行けって?」

玲奈は藤田おばあさんの誕生日パーティーについて話した。

礼二は藤田おばあさんの誕生日のことなんて本当に知らなかった。

湊家と藤田家はそこまで親しいわけじゃないが、今回の藤田おばあさんの誕生日会は盛大に準備されているし、湊家にも招待状は届くだろう。

ただ、彼は普段あまり本家に顔を出さないから、そういう話はまったく耳に入ってこない。

玲奈の話を聞いて、彼は言った。「行かないのが正解だよ」

そう言って彼は眉をひそめた。「智昭って、優里を藤田家の本宅に連れて行って、家族にも紹介したんだよな?なら藤田おばあさんの誕生日にも優里を連れていくはずだ。それなのに、なんで君にまで声をかける?どう考えても、君が行かない方が自然だろ?」

玲奈もそれについては一度考えたことがあった。

でも、彼女は自分と智昭はもう無関係だと割り切っていたし、彼と優里のことに関わるつもりもなかった。納得はしていなかったが、深くは考えなかった。

礼二は少し黙ってからまた言った。「もしかして、前に彼が優里を本宅に連れて行った時に家族が反対して、でもおばあさんが君を気に入ってるのを知ってるから、君さえ了承すれば家族の偏見もなくなって、うまくいくと思ってるとか?」

玲奈は一瞬黙り、淡々と答えた。「そうかもね」

礼二は鼻で笑った。「なるほどね。あいつがわざわざ頭下げてきた理由はそれか。計算が見え見えだな」

玲奈はそれ以上何も言わず、運転に集中した。

その頃。

少し会話を交わした後、智昭は電話を切った。

淳一はその場を離れなかった。

智昭が電話を切ったのを見て、彼は少し間を置いてから尋ねた。「大森さんですか?」

智昭は少し笑って「うん
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優子
クズ男以外の考え方はセリフの後にどう考えてるか説明があるからなんとなくわかるが、クズ男のはセリフの後にどう言った意味があるのかの説明はなく、ただ周りが受け取った考えの説明しかないから本当はちがうのなと勘繰ってしまう。しかーし行動が下衆のためクズ男はクズ男、最低野郎だと思い直しています。
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