氷のCEOは、愛の在処をもう知らない

氷のCEOは、愛の在処をもう知らない

last updateLast Updated : 2025-10-10
By:  灰猫さんきちUpdated just now
Language: Japanese
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地方の図書館で働く結菜は、息子・樹と穏やかに暮らしている。その胸には、一夜を共にした美貌のCEO・智輝への、引き裂かれた想いが眠っていた。 5年前、彼の母親と婚約者に手切れ金を突きつけられたあの日。「君も結局、金目当てだったのか」――愛する人の絶望に満ちた言葉に、妊娠の事実を告げられぬまま結菜は姿を消した。 そして今、彼女の前に再び現れた智輝は、自分と同じ銀灰色の瞳を持つ少年の存在に衝撃を受ける。 「……その子は、誰の子だ?」 氷のCEOが、たった一つの愛を取り戻すために犯した罪を贖う、絶望的な後悔から始まるラブストーリー。

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Chapter 1

01:書斎の片隅で

【プロローグ】

「待って、樹(いつき)! そんなに走ると危ないわよ!」

 柔らかな朝の光が降り注ぐ、地方都市の穏やかな並木道。小さな恐竜のアップリケがついたリュックを揺らし、4歳の息子がきゃっきゃと笑いながら駆けていく。その後ろ姿を、早乙女結菜(さおとめ・ゆな)は少し息を切らしながら追いかけた。

 保育園の門の前でようやく追いつくと、くるりと振り返った息子は、満面の笑みを浮かべていた。額には、うっすらと汗がにじんでいる。

「ママ、はやく!」

「もう、元気すぎなんだから」

 結菜はしゃがみ込み、息子の小さな手を握る。自分とよく似た柔らかな髪の下で、あの人から受け継いだ銀灰色の瞳が、期待に満ちてきらきらと輝いていた。

「だって、きょうは先生に、きょうりゅうの絵本を読んでもらうんだもん!」

 無邪気な笑顔に、結菜の胸がきゅっと愛しさで満たされる。彼女は樹を優しく抱きしめた。小さな子供特有の甘い匂いが、結菜の心を安らぎで包む。

「ママ、お仕事に行ってくるからね。先生の言うことをちゃんときいて、いい子で待ってるのよ」

「うん!」

 元気な返事と共に腕の中から抜け出して、樹は友達の元へと駆けて行った。その小さな背中が見えなくなるまで見送ると、結菜はふっと表情を和らげ、自分の職場である市立図書館へと歩き出す。

(この温かい宝物が、私のすべて)

 今の穏やかな暮らしは、彼女が胸の奥にしまい込んだある一夜の美しい思い出と、引き裂かれるような痛みの上に成り立っていた。

 その始まりは、5年前。大学を卒業して間もない頃。就職に失敗し、派遣社員として働いていた秋のことだった――。

【5年前】

 オフィスライトの白い光が、規則正しく並んだデスクを無機質に照らし出す。

 結菜は、モニターに映し出される数字の羅列を目で追っていた。聞こえるのは、カタカタ、と響く自分のキーボードの音と、周囲の社員たちの当たり障りのない会話だけ。その声も、自分とは無関係などこか遠いもののように感じる。

(今日も、同じ一日が終わる)

 定時のチャイムが鳴った。結菜は誰にともなく小さく会釈をして、席を立った。

 派遣社員である彼女のデスクには、私物と呼べるものはほとんどない。契約はいつ切られるか分からず、そのために周囲の社員と打ち解けることもない。空っぽの引き出しを閉めるたび、自分の居場所がここにはないのだと、改めて突きつけられる気がした。

 もう秋だというのに、東京の気温は高いままだ。

 帰りの電車は、一日の熱気を吸い込んだまま、けだるそうに線路を滑っていく。窓に映る自分の顔は、ひどく色褪せて見えた。柔らかな茶色の髪も、自分では穏やかだと思っている瞳も、この灰色の都会では何の個性も放たない。

(このままで、いいのかな……)

 街角で楽しそうに笑い合う家族連れが、ふと目に入る。

 既に両親を亡くした結菜にとって、眩しすぎる光景だった。胸の奥が、きゅう、と小さく痛む。天涯孤独という言葉が、冷たい風のように心を吹き抜けていった。

 感傷を振り払うように、結菜はいつも同じ路地へと足を向けた。

 都会の喧騒が嘘のように静まり返る、入り組んだ裏通り。その先に彼女の聖域はあった。

 蔦の絡まるレンガ造りのレトロな建物が、裏路地の片隅に佇んでいる。アンティークな木製のドアに手をかけると、カラン、と澄んだベルの音が鳴った。

『書斎喫茶 月読(ツクヨミ)』

 一歩足を踏み入れると、古書のインクと深く焙煎されたコーヒーの香りが、結菜の心を優しく包み込む。壁という壁を埋め尽くす本棚と、静かに流れるクラシック音楽。

 カウンターの奥で、無口なマスターが黙って頷いた。結菜を迎える。

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01:書斎の片隅で
【プロローグ】「待って、樹(いつき)! そんなに走ると危ないわよ!」 柔らかな朝の光が降り注ぐ、地方都市の穏やかな並木道。小さな恐竜のアップリケがついたリュックを揺らし、4歳の息子がきゃっきゃと笑いながら駆けていく。その後ろ姿を、早乙女結菜(さおとめ・ゆな)は少し息を切らしながら追いかけた。 保育園の門の前でようやく追いつくと、くるりと振り返った息子は、満面の笑みを浮かべていた。額には、うっすらと汗がにじんでいる。「ママ、はやく!」「もう、元気すぎなんだから」 結菜はしゃがみ込み、息子の小さな手を握る。自分とよく似た柔らかな髪の下で、あの人から受け継いだ銀灰色の瞳が、期待に満ちてきらきらと輝いていた。「だって、きょうは先生に、きょうりゅうの絵本を読んでもらうんだもん!」 無邪気な笑顔に、結菜の胸がきゅっと愛しさで満たされる。彼女は樹を優しく抱きしめた。小さな子供特有の甘い匂いが、結菜の心を安らぎで包む。「ママ、お仕事に行ってくるからね。先生の言うことをちゃんときいて、いい子で待ってるのよ」「うん!」 元気な返事と共に腕の中から抜け出して、樹は友達の元へと駆けて行った。その小さな背中が見えなくなるまで見送ると、結菜はふっと表情を和らげ、自分の職場である市立図書館へと歩き出す。(この温かい宝物が、私のすべて) 今の穏やかな暮らしは、彼女が胸の奥にしまい込んだある一夜の美しい思い出と、引き裂かれるような痛みの上に成り立っていた。 その始まりは、5年前。大学を卒業して間もない頃。就職に失敗し、派遣社員として働いていた秋のことだった――。◇【5年前】 オフィスライトの白い光が、規則正しく並んだデスクを無機質に照らし出す。 結菜は、モニターに映し出される数字の羅列を目で追っていた。聞こえるのは、カタカタ、と響く自分のキーボードの音と、周囲の社員たちの当たり障りのない会話だけ。その声も、自分とは無関係などこか遠いもののように感じる。(今日も、同じ一日が終わる) 定時のチャイムが鳴った。結菜は誰にともなく小さく会釈をして、席を立った。 派遣社員である彼女のデスクには、私物と呼べるものはほとんどない。契約はいつ切られるか分からず、そのために周囲の社員と打ち解けることもない。空っぽの引き出しを閉めるたび、自分の居場所がここにはないのだと、改め
last updateLast Updated : 2025-09-29
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02
 結菜はいつもの指定席である窓際の深い一人掛けソファに身体を沈めて、ほう、と安堵のため息をついた。張り詰めていたものが、ゆっくりと溶けていく。 ここでは店の本を読んでもいいし、持ち込んだ本を読んでもいい。コーヒー1杯で何時間も粘れる、結菜にとっての安らぎの場所だった。(ここだけが、私の世界……) バッグから、一冊の古い本を大切そうに取り出す。少し色褪せた表紙の、亡き父の形見である翻訳小説。 もう何度も読み返してページの端が擦り切れているが、大事なお守りだった。 ページをめくり物語の世界に没頭しようとした、その時。 ふと、視線を感じて顔を上げた。 少し離れた席に座る男性と、目が合ったのだ。 艶のある黒髪。高級そうなスーツを、しかし少しだけ着崩している。ただそこにいるだけで、周囲の空気を支配するような強い存在感があった。(きれいな人) 顔立ちはとても美しい。普段は撫でつけているであろう髪を下ろして、リラックスしている様子が見て取れる。 高い鼻梁と秀でた額は日本人離れしていて、西洋の血が混じっているのではないかと結菜は思った。 何よりも結菜の目を奪ったのは、彼の瞳の色だった。アンティークランプの灯りを映してきらめく、不思議な銀灰色。その美しい色の奥に、自分と同じ種類の深い孤独の影が揺らめいているように見えた。 彼の美しさと近寄りがたい雰囲気に、結菜は一瞬息を呑む。心臓がとくん、と跳ねた。(あまり、じろじろ見ては失礼だわ) 自分だけの静かな聖域に、予期せぬ侵入者が現れたような緊張が全身を走る。 戸惑いから慌てて視線を本へと戻したが、指先は微かに冷たくなっていた。◇ どれくらい時間が経っただろうか。静かに彼が席を立つ気配がして、結菜は無意識に身を固くした。足音が、自分のテーブルの前で止まる。「失礼。その本は、エリアス・バークの初版本ではありませんか?」 穏やかだが、芯のある声だった。 結菜は驚きに目を見開いて顔を上げた。エリアス・バーク。彼女が父から譲り受けた本の作家である。あまりにマイナーで、今まで誰一人としてその名を知る者はいなかった。 少し古い時代の作家なので、著作は全て絶版になっている。父の形見のこの本も、もう手に入らないのだ。「……ご存知、なのですか?」 それだけ尋ねるのが精一杯だった。「ええ。ずっと探していました
last updateLast Updated : 2025-09-29
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03
 作家のエリアス・バークという共通の言語を得たことで、2人の間の見えない壁は、静かに溶けていった。 1つの話題が尽きれば智輝が自然に次の糸口を見つけて、結菜がそれに言葉を重ねる。まるで昔からの知り合いのように、会話は穏やかに、途切れることなく続いていった。「バークに影響を受けた作家だと、レイモンド・アトウッドの初期作品もどこか通じるものがありますね。特に、風景描写に託す登場人物の心情の描き方が」「分かります。アトウッドの『海の見える丘』は、何度も読み返しました。……本が、私にとっては家族みたいなものだったので」(あ……しまった) ぽつりと漏れた言葉に、結菜は内心で小さく首を振った。 普段なら、見知らぬ相手にこんな個人的な感傷を匂わせることは決してない。けれど彼の前では、心の内の柔らかな部分がいとも簡単に顔を覗かせてしまう。 智輝は、結菜の過去を探るような真似はしなかった。ただ銀灰色の瞳に深い理解の色を浮かべて、相槌を打つ。「本は、何も言わずにただそこにいてくれる。立ち去ることも、裏切ることもない」 その一言に、結菜は胸を突かれた。(智輝さんも、誰かを喪った経験があるのだろうか。それとも、裏切られたことが……) その孤独の深さを思い、結菜はますます彼に惹かれていった。 コトリ。小さな音を立てて、新しいコーヒーがテーブルに置かれた。 マスターは、2人の会話が深まるのを見守っていた。さりげない心遣いで、客たちがこの店で特別な時間を過ごせるようにしている。 結菜が目礼すると、マスターはわずかに微笑んだ。◇ 夜が更けて、アンティークランプの灯りが店内に落ちる影を濃くしていく。智輝はコーヒーカップを片手に、ふと真剣な眼差しを結菜に向けた。「不躾な言葉をお許しください。あなたは……1人でいることに慣れているけれど、本当は寂しい人ではないですか」 核心を突く言葉だった。彼の瞳は結菜の心の一番奥深く、誰にも見せたことのない場所をまっすぐに見透かしているようだった。「それは……」 図星を指された結菜は、言葉を失う。反論の言葉が見つからずに、ただ小さく頷くことしかできなかった。(そうだ。私はいつも寂しかった。お母さんは小さい頃に亡くなって、お父さんはずっと忙しくて。そのお父さんも、大学に入った後に亡くなってしまった。本だけが私に寄り添ってくれて
last updateLast Updated : 2025-09-29
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04:夢のような時間
 約束の日、結菜の心は朝からずっと落ち着かなかった。 土曜日で仕事は休みだったが、部屋の掃除も読書も何一つ手につかない。「昨日、智輝さんと出会ったこと。今日の約束。本当に現実だったのか、自信がなくなってきた」 呟いてため息をつく。 夕方が近づくにつれて、緊張はどんどん高まった。 結菜はクローゼットの前で、数少ない服を前に腕を組んで立ち尽くしていた。(彼に会うのに、こんな服でいいんだろうか……) 普段は動きやすさしか考えない自分が、ワンピースの色や形で真剣に悩んでいる。その事実が、智輝という存在の特別さを物語っていた。(やっぱり、やめておいた方がいいのかもしれない。私と彼とでは、住む世界が違いすぎる) ふと、そんな弱気が心をよぎる。けれど、脳裏に浮かぶのは彼の寂しげな銀灰色の瞳。 彼をもっと知りたい。その強い想いが、結菜の不安を振り払った。 彼女は意を決して、一番大切にしているアイボリーのワンピースに袖を通した。清潔感のある一着だった。◇ 待ち合わせ場所に指定されたのは、格式高いホテルのラウンジだった。 こんな場所、結菜は一度も来たことがない。恐る恐る足を踏み入れれば、磨き上げられた大理石の床に自分のヒールの音が響いて、思わず足がすくむ。 高い天井から吊るされたシャンデリアの、クリスタルの一つひとつが気品のある光を放っていた。(待ち合わせの場所、ここで間違いないよね?) どこを見ていいのか分からず立ち尽くしていると、静かな足音と共に、制服に身を包んだボーイがそばに立った。「お客様、何かお伺いいたしましょうか?」 丁寧すぎる物腰に、結菜はびくりと肩を揺らす。(場違いすぎる!)「あ、あの、待ち合わせで……」 場の雰囲気に呑まれながら、やっとのことで待ち合わせだと言おうとした時。「――こちらだ」 声のした方を見ると、ラウンジの入り口近くで智輝が片手を上げていた。 昨日のスーツ姿とは違う。上質でシンプルなネイビーのニットに細身のパンツを合わせた彼は、より柔らかく、隠しきれない気品を放っていた。 智輝に導かれてラウンジに入ると、そこはさらに別世界だった。厚い絨毯が足音を吸い込んで、グランドピアノが奏でる静かなジャズの旋律が、上品な会話の合間を縫うように流れている。 そんな彼女を、智輝は窓際の席へとエスコートした。「来てく
last updateLast Updated : 2025-09-29
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05:銀灰色の夜
 結菜の唇に触れたのは、驚くほど柔らかく、少しだけためらいがちな感触。 それはお互いの孤独な魂が、壊れ物に触れるようにそっと寄り添うような、優しくも切ないキスだった。 口づけがわずかに深まる。熱い吐息がため息のように、頬にかかる。 街の喧騒を遠くに聞きながら、2人はただお互いの存在を確かめ合っていた。 ゆっくりと唇が離れた後も、智輝は結菜から目を離さなかった。言葉はない。けれどその銀灰色の瞳はどんな言葉よりも雄弁に、彼女への強い想いを物語っていた。 智輝が結菜の髪を慈しむように優しく梳きながら、囁く。「結菜……俺の本当の書斎を、君にだけ見せたい」 その誘いは、彼の心の最もプライベートな場所へ招き入れることを意味していた。結菜は一瞬戸惑ったが、彼の瞳に宿る真摯な光に、抗うことのできない引力を感じて頷いた。◇ タクシーが滑るように停まったのは、結菜が今まで見上げることしかなかった、都心の高層マンションの前だった。 結菜は場違いさに少し気後れするが、智輝と絡めた指が心強くて、歩き続けた。 その最上階、ペントハウスに2人は入る。広大なリビングと長い廊下を通り過ぎ、書斎に足を踏み入れた瞬間、結菜は息を呑んだ。「わあ……!」 華美な装飾は一切ない。しかしその部屋の本質は壁にあった。三方の壁が、床から天井までを埋め尽くす作り付けの本棚で覆われている。そこに収められた膨大な蔵書は、特殊なUVカット加工が施されたガラス扉によって、静かに守られていた。 厳選されたアンティークの家具と、柔らかな間接照明。そして残る一面の壁は全面が窓になっており、天の川が地上に降りてきたような夜景が広がっていた。ここは智輝が『月読』で探していた安らぎを、彼自身のためだけに作り上げた、完璧な聖域だった「ここが、俺が唯一、何者でもなくいられる場所だ」 智輝はそう呟くと、結菜の手を取った。彼は結菜の手を引くと、あるガラス扉の前で立ち止まって小さな鍵で錠を開けた。恭しく取り出したのは、一冊の古書である。「君が読んでいたものと同じ、エリアス・バークだ。これは、彼が友人に贈ったサイン入りの初版本らしい」「エリアス・バークの! 私、手持ち以外では初めて見ました」 結菜もつい興奮の声を上げた。 智輝は普段の落ち着いた姿からは想像もできないほど、その声は熱と喜びに満ちている。彼は本
last updateLast Updated : 2025-09-30
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06
 割り開かれた唇から、舌が入り込む。柔らかで温かい粘膜の感触に、結菜の頭はくらくらとしてしまった。 絡まる舌が、混ざり合う唾液がひどく甘い。 智輝の舌が上顎の敏感な場所に触れれば、結菜は思わずびくりと体を固くした。 そんな彼女を蕩かすように、智輝はさらにキスを深めた。しっかりと結菜の頬と頭を押さえて、逃げられないようにして。 くちゅくちゅと口の中で響く水音が、彼らの熱を煽る。(気持ちいい。キスって、こんなに気持ちいいものだったんだ) 孤独を抱えた結菜は、今まで誰にも心を許したことはない。男性経験どころか、キスさえ初めてだった。 智輝の背に回していた結菜の手が、気持ちよさのあまりくたりと力を失って落ちる。「は……」 少し離れた唇から、ため息のような吐息が漏れる。 熱に溶けた目で彼を見上げれば、智輝もまた愛情と熱情の入り混じった瞳で彼女を見つめていた。「ベッドに行こう。――いいね?」「……はい……」 問いかけの形を取っていたけれど、それはただの確認。 2人は指を絡ませながら、書斎からベッドルームへと移動した。 ベッドに腰掛けるや否や、智輝は結菜をどさりと押し倒す。性急さに少しばかり驚くが、智輝は意に介さなかった。「君が欲しい。一つになりたい」 再び落とされる口づけに、結菜はあっという間に溶けてしまう。 智輝の手がワンピースのボタンに伸びて、順に外した。ブラジャーのホックを外せば、豊かな白い乳房がまろび出る。「やぁ……恥ずかしい」 恥ずかしさのあまり結菜が服をかき上げようとすると、智輝はその手を押さえた。「とてもきれいだよ」 耳元で囁いて、それから乳首をぺろりと舐める。「……っ!」 ぴりぴりと甘い刺激が走り、結菜はぎゅっと目をつぶった。やわやわと両の乳房を揉まれれば、じんわりと熱が高まってくる。 下腹部が切なく甘く重くなり、結菜は思わず膝をすり合わせた。「もう、感じてしまった?」「そ、それは」 太ももをもじもじとしていると、智輝の膝で割り開かれてしまった。彼の指が伸びる。その先は、しっとりと濡れていた。「あ、あのっ! 智輝さん、私、初めてで……」 羞恥心に耐えきれなくて、結菜は思わず声を上げた。「だから、どうしていいか分からなくて……」 真っ赤になる結菜を、智輝は少し身を起こして眺めている。片手で彼女の内も
last updateLast Updated : 2025-09-30
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07
「……っ、はあっ、はぁ……」 少し離れた唇の隙間から、乱れた息が漏れる。間近の男を見上げれば、ひどく楽しそうに笑っていた。「キスしたままやるのもいいけれど、可愛い声が聞こえないからな」 彼は最後にもう一度軽くキスを落として、今度は結菜の足の間に座る。「――あぁんっ!」 濡れそぼった秘所に指を一本突き入れられて、その動きに合わせて花芯をこねられる。強い刺激に思わず声が上がり、結菜は慌てて口を押さえた。(何、今の甘ったるい声! 私の声じゃないみたい)「声を我慢しないでくれ。可愛い顔も見せて」 口を押さえた手を、智輝にどけられる。彼の指から自分の愛液の匂いがふわりと香った。 彼の手が再び肉ひだをなぞると、それだけで結菜の体は反応し、蜜をこぼしてしまう。「初めてなのに、感じやすいね」 智輝が意地悪な口調で言うので、結菜は目を逸らしながら答えた。「智輝さんの手が、気持ちいいから……」 彼の動きがぴたりと止まった。不思議に思った結菜が少し身を起こすと、たちまち組み敷かれてしまう。 乳房が彼の胸板で押しつぶされて、結菜は思わず息を呑んだ。「智輝さん?」「あまり、可愛いことを言わないでくれ。愛おしくてどうにかなりそうだ」 低く耳元で囁かれて、それだけで腰がくねってしまう。 再び指が突き入れられた。今度は2本。質量を増した異物にかき回されて、結菜は身を固くする。「力を抜いて。楽にして」「はい…………あぁんっ!?」 不意に智輝の指がナカで曲げられて、イイところを引っ掻いていった。「ん。ここがいいのか」 彼は宝物を見つけた子供のような顔になって、そこを何度もこすりはじめた。もう片方の手で花芯をぐりぐりといじる。「あっあっ、ああぁ、いや、いやーっ!」 結菜はもう声を止められない。艶めかしく腰を揺らめかせ、涙を浮かべて初めて与えられる快楽に耐えようとしている。 智輝は舌なめずりをしながら、手を止めようとしない。「いや、じゃないだろう?」「で、でもっ、何か変なの。変になっちゃう!」 結菜は意識が高く持ち上げられるような錯覚にとらわれた。気持ちよさが爆発するようで、頭が真っ白になる。「――っ!?」 意識が弾けた。体が弓なりになる。愛液がどっとあふれ、秘所の内部がひくひくと引きつって、止められない。「よしよし。上手にイケたな」 智
last updateLast Updated : 2025-10-01
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08
 それから結菜は、何度も何度も絶頂に導かれた。 花芯の皮を剥き、敏感になったそれを指で直接こねられて。 指を浅く出し入れされて、イイところを執拗にこすられて。 乳房を揉まれ、乳首を摘まれ、ぎゅっとつねられて。 片足を高く上げられて、秘部を丸出しにしながら指を抜き差しされた。 智輝は意地悪く笑う。「結菜、分かるか? 大事な部分がよく見える」「や、やめて……」「やめてと言うが、濡れ方がすごいぞ。こんな格好でも感じるとは」 そのたびに結菜の体は敏感になって、与えられる快楽に溺れていく。あふれ出た愛液はシーツを濡らし、小さな水たまりを作る有り様だった。「あああっ――」 乳首と花芯を同時にいじられて、結菜はまた達してしまった。 焦点の合わない視界の中で、愛しい男が笑っている。いかにも楽しそうに、少しだけ必死な様子で。「智輝さん……」「うん?」 涙の膜が張った目で、結菜は彼の名を呼ぶ。「私だけ、気持ちよくなって、駄目です。あなたも……」 結菜は智輝の半ば勃ち上がった男根に、ふらふらと手を伸ばした。すりすりと愛おしそうに撫でていく。「男の人は、ここが気持ちいいんですよね。どうすればいいの?」 智輝は結菜を見た。何度となく達した彼女はとろんと蕩けた顔で、彼のペニスに頬ずりしている。 その姿を見て、ペニスがさらに膨れ上がった。半勃ちから硬さを増して、その大きさに結菜が目を丸くしている。「分かったよ」 智輝は苦笑した。「もっと君をいじめたかったが、このくらいにしておこうか。これ以上は我慢できなくなりそうだ」 智輝は結菜を横たえて、足の間に座り直した。 濡れそぼった入口に亀頭をぴたりとつける。「んっ――」 指とは比べ物にならない質量が入り込んできて、結菜は眉を寄せた。「大丈夫か? 力を抜いて」「うん、大丈夫」 心配させたくなくて、結菜は強がってみせる。 智輝は彼女の腰を持ち上げ、さらに挿入を進めた。 処女の狭い膣道がみしみしと音を立てて押し広げられていく。(痛っ……!) 体を内側から裂かれるような痛みに、結菜は内心で悲鳴を上げた。 思わず智輝を見上げれば、彼は心配そうに彼女を見ていた。心配そうに、でも余裕のない顔で。 その顔が愛おしくて、結菜は力を抜いた。「大丈夫。来て」 無理に笑ってみせる。手を伸ばして彼を抱
last updateLast Updated : 2025-10-01
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09
(こんなに奥で、彼を感じる) 痛いけど、苦しいけど、不思議な幸福感が結菜を包んだ。 見上げればキスを落とされた。そのまましばらく抱き合う。「動くぞ」 智輝が言って、腰を動かし始めた。始めはゆっくりと、だんだんと激しく。 指でさんざんこすられた浅い場所と、初めて突かれる深い場所。 最初は浅い場所が、何度も突かれるうちに徐々に深い場所も快楽を感じ始めた。「う、あ――」 声を押し殺そうとして、我慢するなと言われていたのを思い出す。「あっあっ、ああんっ、智輝さん、智輝さんっ――!」 思わずすがりつけば、力強く抱き返される。「結菜、結菜。愛している」「私、も。愛してる、智輝さん!」 今までの体の外側や、浅い場所とは比べ物にならない深い快感が、腰から脳へと電流のように走り抜ける。 求め、求められる。 愛情と快楽と、欠けてしまった心を埋め合わせるように。失った半身を取り戻すように。(ああ、こんなにも必死に求めてくれている) 寂しそうだった智輝の銀灰色の瞳は、今は結菜だけが移っている。必死に余裕をなくして、彼女を求めている。 結菜の深いところまで、彼がいっぱいにしてくれる。 体の奥を激しく突かれるたび、魂まで震えるようだ。 結菜の中は彼で満たされて、深い快感の波が押し寄せてくる。「――――」 やがて限界を超えた快楽に、結菜の体から力が抜けた。「くっ……搾り取られる……」 深く達した膣内は、愛する男の精を得ようとうねって、智輝もまた達した。 倒れ込んだ女の上に、男は肌を重ねる。熱い吐息が混じり合って、どちらのものかも分からなくなる。 ずる、と膣内からペニスが引き出された。達したばかりだというのに、既に硬さが戻りつつある。 智輝は少し笑ってゴムを取り外し、新しいものを用意した。「結菜。まだ終わりじゃないぞ」「え……」 結菜はぼんやりと彼を見上げた。◇「あんっ、あんっ、ひぁ――っ!」 パン、パンと肉を打つリズミカルな音と、女の嬌声がベッドルームに響いている。 四つん這いになった結菜に、智輝は隙間なく覆いかぶさって腰を打ち付けていた。 少し前まで処女だったそこは、今はすっかり智輝を受け入れて蜜をあふれさせ続けている。 ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響いて、智輝の熱をさらに煽った。「あひぃっ!?」 結菜の乳房はなかなか
last updateLast Updated : 2025-10-02
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10
(いや……体だけの問題じゃない) 彼女の口から愛が囁かれるたび、彼の心に根付いていた孤独が解けていくよう。 大会社のCEOとしての責任も重圧も、幼い頃から抱えていた疎外感も、彼女と会話を重ね、こうして肌を合わせることで春の雪解けのように氷解していくのを感じる。 それがどれほど得難いものか。長らく孤独の中で生きた彼にとって、結菜は奇跡のような存在だった。「愛してる。手放したくない」 背中にぴたりと覆いかぶさり、耳元で囁く。 過度の快楽に蕩けきった結菜は、もう返事ができない。艶めいた嬌声を上げ続けている。「愛してる」 智輝が腰を深く突き入れれば、結菜の体が跳ねた。彼女の弱点を見つけた彼は、にやりと笑って責め立てる。「愛してる、愛しているよ、結菜」「あっ、ああぁ、あんっ、ひっ、あぁ――っ」 弱いところばかりを執拗に抉られて、結菜はいやいやと頭を振った。次から次へと愛液があふれて、2人の太ももをぬらしていく。 乳房を握りつぶすように強く握り、きつく立った乳首を指の間で転がす。 びちゃびちゃ、ぐちゅぐちゅといやらしい水音が響き渡る。 智輝は彼女の首筋を強く吸いながら、腰を突き入れた。「――――!!」 結菜が声にならない悲鳴を上げる。腟内がひときわ強くうねって、とうとう智輝も精を吐き出した。 荒い息を吐きながら、2人でしばらく抱き合った。こんな時間でさえ幸せで、智輝は彼女を抱きしめる。 だが少し休めば、智輝のペニスは再び硬さを取り戻してくる。「まいったな。いつもはここまでじゃないんだが」 白濁した液を溜め込んだゴムを外す。新しいものを取り出そうとした時、結菜が顔を上げた。「今度は、私が頑張る」「え?」「智輝さんばっかり、動いていたから。今度は私」 度重なる快楽と絶頂の余韻で、結菜の瞳は蕩けたままだ。白い肌には智輝がつけたキスマークが散っている。 結菜はとろんとした表情のままで、硬くなり始めた智輝自身を握った。彼女の細い指で何度かしごかれると、あっというまにむくむくと勃ち上がってしまう。「んっ……」 結菜は横たわる智輝の上にまたがって、自分から男根をナカに埋めた。彼女の大事な部分が、ずぶずぶ――と音を立てるように肉棒を飲み込んでいく。 結菜はすっかり馴染んだ感触に、猫のように目を細めていた。「ま、待て、結菜。ゴムが……」
last updateLast Updated : 2025-10-02
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