LOGIN「航。これで最後にする。私たちにはもう、何の関係もないの」あの日のあと、航は西湖市を離れた。ただ、忘れ物があるからと時折メッセージを送ってくる。最初は送ってほしいと返していたが、のちには返信もしなくなった。生活は再び元の軌道に戻った。ただ、そこに航はいなくなった。そんなある日、会社を出るとき、思いがけない人物が目の前に現れる。陽菜だ。彼女は目を赤く腫らし、何日も寝ていないような顔をしている。私を見るなり、陽菜は狂ったように飛びかかってくる。警備員がすぐに彼女を取り押さえる。彼女は憎々しげに大声で叫ぶ。「このクソ女!私と先輩がクビになって、それで満足なわけ!?」その時初めて知った。
それから数日、航は毎日のように会社の前で待ち伏せしていた。人事の担当者が私のところへ来て、遠慮がちに言う。「神崎さん、外にいるあの人とどういう関係ですか?毎日外に立たれていると、会社としても少し困りまして……」「すみません。できるだけ早く解決します」外はまだ雨が降っているが、航は相変わらず雨の中に立ち尽くし、ひどくみすぼらしい姿になっている。私が姿を現わすと、彼は目を輝かせた。「仕事しなくてもいいの?いったいどうしたら、私につきまとうのをやめてくれるの?」航はかすれた声で言う。「食事に付き合ってくれないか?ちゃんと話し合いたいんだ」レストランに入ると、航はさりげなく椅子を引いてくれ
そのあとの2日間、航はずっと上の空だ。時々寧々にメッセージを送り、ブロックが解除されていないか確かめる。メッセージを入力しては消し、何度もためらった末、結局送ることはなかった。航には分からない。今までずっとこんなふうに仲直りしてきたのに、なぜ今回は駄目なのか。そんなとき、奈緒の投稿を見た。寧々は異動が決まったあと、奈緒と一緒に西湖市へ行き、ついでに数日間観光を楽しんでいた。【嬉しい反面、少し寂しいな。これからは自立して生きていくのね!一番の親友である私を差し置いて、他の子と親友になってはだめよ!】9枚並んだ写真の最後の1枚には、寧々と峻也の後ろ姿が写っている。奈緒が横でこっそり笑っ
自分の言い方がきつすぎたと気づいた航は、しばらく沈黙したあと、私を抱きしめた。「ごめん。俺が悪かった。最近、ちょっと調子が悪くて」私は体を強張らせたまま、動かなかった。そのとき、航のスマホにメッセージが届いた。彼は一瞬固まり、次の瞬間、顔を輝かせた。そして、慌てて陽菜に電話をかけた。「解決した、全部解決した!やっぱり、今朝お前がくれたあのブレスレットのおかげだ……きっとそうだ。待ってろ、今すぐそっちに行く」航はコートをつかむと、そのまま家を出ていった。まだ温かいミルクを長いこと見つめてから、それをゆっくりと水道に流した……「寧々?」峻也の声に、意識が現実へと引き戻される。笑顔を
だから、私の選択を尊重してほしい」航は鼻で笑った。「今度は別れるって脅すのか?いつまでこんなことを続けるつもりだ?俺と陽菜は一緒に仕事をしてるんだから、関わらないなんて無理に決まってるだろ。俺に仕事を辞めろっていうのか?」私はただ静かに彼を見つめる。「まだ分からないの?私はもう、航を愛してないよ」航の表情がこわばる。このところ起きたことが、走馬灯のように彼の脳裏をよぎったのだろう。彼は深く考えることすら恐れるように、少しよろめきながら背を向ける。人一倍プライドの高い航は、決して頭を下げることはない。「自分で言ったんだからな。あとで泣きながら戻ってきて、俺にすがるなよ!」そう言い捨
化粧水と乳液、睡眠サプリ、パジャマ……荷物を一つずつ確認していく。大掛かりな作業になると思っていたが、航と一緒に3年間暮らしたこの小さな部屋から、私が持ち出すのはスーツケース一つ分だけだ。残りのものは、彼との過去と同じように、もう全部いらない。そのとき、玄関から暗証番号を入力する音が聞こえる。航は私の姿を見ると、ほっとしたように息をつきながらも、少し不満そうに言う。「やっぱり帰ってきたのか?」あの一件以来、航と一緒にいるのが嫌で、私はずっと友達・福原奈緒(ふくはら なお)の家に泊まっていた。心配する様子も、悪びれる様子もなく、航は口を開くやいなや非難してくる。「メッセージを送っ