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偽りの愛

偽りの愛

作家:  局所宇宙完了
言語: Japanese
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概要

切ない恋

ひいき/自己中

クズ男

愛人

後悔

偽装死

カウントダウン

娘・芹奈が7歳になった年、私、御堂志乃(みどう しの)はようやく思い知った。夫・御堂蓮司(みどう れんじ)は、私を一度も愛していなかった。 こんな結婚生活は、もう終わりにしよう。芹奈を連れ、二度と蓮司のもとへ戻らないと決めた。 ところが、これまで私と芹奈に見向きもしなかった蓮司が、突然取り乱した。何度も何度も謝り、芹奈が欲しがっていたものを次々と買ってきた。芹奈を喜ばせるため、真夏に着ぐるみ姿で踊ったことさえある。汗だくになったその姿に、私も芹奈もとうとうほだされ、これを最後にもう一度だけ信じることにした。 だが、その帰り道、私と芹奈は突然何者かに拉致された。 私は左耳を、芹奈は片脚を失った。 絶望の中、私たちを救い出したのは蓮司だった。 「一度は間違えた。もう二度と間違えない」 私も芹奈もその言葉を信じ、今度こそ家族3人でやり直せると思っていた。 ある日、芹奈と一緒に蓮司の会社を訪ねた。そこで偶然、蓮司と顧問弁護士・高瀬湊(たかせ みなと)が話しているのを聞いてしまった。 「御堂社長、白石美羽(しらいし みう)さんの息子を救うために、奥様とお嬢様の拉致を仕組み、お二人から移植に必要な部位まで摘出させたんですよ。この件が少しでも外に漏れたら、御堂グループは終わりです。本当に、そこまでする価値があったんですか?」 「ああ。美羽が喜ぶなら、何をしたって構わない」 「では、奥様とお嬢様はどうするんですか?」 蓮司は黙り込み、テーブルに置かれた家族3人の写真を手に取ると、複雑なまなざしを向けた。 「あの二人は、家族そろって暮らしたいだけだろう。それなら、これから一生かけて償う」 蓮司が心を入れ替えたというのは、すべて嘘だった。

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第1話

第1話

オフィスで、蓮司は湊から受け取った事後処理の報告書を念入りに確認し、ようやく肩の荷が下りた。

「今回の拉致の件は、うまく処理してくれたな。志乃も芹奈も何も気づいていない。芹奈の脚も無事に陽向へ移植できた。これで美羽も俺も安心だ」

湊は眉をひそめ、黙っていられず口を開いた。

「御堂社長、いくら白石さんが大切でも、奥様ではありません。奥様との間にはお嬢様もいるんです。まだ7歳ですよ。白石さんを悲しませたくないというだけで、お嬢様の左脚を切断させ、その脚を白石さんの息子さんへ移植させた。それで公平だと、本気で思っているんですか?」

蓮司の目つきが冷たくなり、報告書を机に叩きつけた。

「もういい!美羽を悪く言うな。片脚を失っただけだ。生活できないわけじゃない」

湊は怒りを抑えきれず、蓮司を問い詰めた。

「では、この先ずっと、奥様とお嬢様に真相を隠し通せるんですか?奥様とお嬢様が、自分たちは白石さんのために殺されかけたのだと知ったら、どうするおつもりですか?」

蓮司は黙り込み、やがてスマホを取り出してトーク画面に目を落とした。表示されているのは、私が撮った、朝の挨拶をする芹奈の動画だった。その目からは何も読み取れなかった。

「二人が気づくはずはない。うまく隠したからな。それに……」

蓮司はスマホをしまい、迷いなく言い切った。

「志乃も芹奈も、俺を愛している」

自分の耳を疑った私は、怒りで全身が冷え切り、立っているのもやっとだった。

車椅子の芹奈も口元をぎゅっと押さえ、目を真っ赤にしていた。

芹奈は私に聞きたかったのだ。お母さん、お父さんが言っていたことは本当なの?お父さんは本当に、ほかの人のために芹奈の脚を切ったの?

芹奈は今も、悪い人たちに押さえつけられたときの感覚を忘れていない。痛くて、痛くて、ずっと叫び続けた。

「お父さん、芹奈を助けて!芹奈の脚を切らないで!」

けれど、痛みで気を失うまで、お父さんは現れなかった……

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第1話
オフィスで、蓮司は湊から受け取った事後処理の報告書を念入りに確認し、ようやく肩の荷が下りた。「今回の拉致の件は、うまく処理してくれたな。志乃も芹奈も何も気づいていない。芹奈の脚も無事に陽向へ移植できた。これで美羽も俺も安心だ」湊は眉をひそめ、黙っていられず口を開いた。「御堂社長、いくら白石さんが大切でも、奥様ではありません。奥様との間にはお嬢様もいるんです。まだ7歳ですよ。白石さんを悲しませたくないというだけで、お嬢様の左脚を切断させ、その脚を白石さんの息子さんへ移植させた。それで公平だと、本気で思っているんですか?」蓮司の目つきが冷たくなり、報告書を机に叩きつけた。「もういい!美羽を悪く言うな。片脚を失っただけだ。生活できないわけじゃない」湊は怒りを抑えきれず、蓮司を問い詰めた。「では、この先ずっと、奥様とお嬢様に真相を隠し通せるんですか?奥様とお嬢様が、自分たちは白石さんのために殺されかけたのだと知ったら、どうするおつもりですか?」蓮司は黙り込み、やがてスマホを取り出してトーク画面に目を落とした。表示されているのは、私が撮った、朝の挨拶をする芹奈の動画だった。その目からは何も読み取れなかった。「二人が気づくはずはない。うまく隠したからな。それに……」蓮司はスマホをしまい、迷いなく言い切った。「志乃も芹奈も、俺を愛している」自分の耳を疑った私は、怒りで全身が冷え切り、立っているのもやっとだった。車椅子の芹奈も口元をぎゅっと押さえ、目を真っ赤にしていた。芹奈は私に聞きたかったのだ。お母さん、お父さんが言っていたことは本当なの?お父さんは本当に、ほかの人のために芹奈の脚を切ったの?芹奈は今も、悪い人たちに押さえつけられたときの感覚を忘れていない。痛くて、痛くて、ずっと叫び続けた。「お父さん、芹奈を助けて!芹奈の脚を切らないで!」けれど、痛みで気を失うまで、お父さんは現れなかった……
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第2話
私は今も、集中治療室のベッドに横たわる芹奈の姿を覚えている。芹奈は泣きながら私に聞いた。「お母さん、芹奈、何か悪いことしたの?どうしてあの人たちは、芹奈の脚を切ったの?」私は何も答えられないまま、何度も何度も自分を責めた。どうしてあの日、芹奈を買い物に連れていったのだろう?連れて出かけなければ、私がもっと気をつけていれば……芹奈はこんな目に遭わずに済んだのではないか?私はずっと、自分を恨み続けてきた。けれど、本当に憎むべきだったのは蓮司だ。涙が勝手にこぼれた。しゃがみ込み、芹奈をきつく抱きしめた。車椅子がドアにぶつかり、その音で部屋にいた二人がこちらに気づいた。蓮司が勢いよくドアを開け、目を真っ赤にした私を見るなり、その場で固まった。「芹奈、志乃?二人とも、どうしてここに?」突然顔を合わせ、全員が動揺した。蓮司は緊張のあまり、一瞬息をのんだ。芹奈と目が合うと、二人同時に涙を拭った。「芹奈がお父さんに会いたがっていたから、会社まで連れてきたの。今着いたところよ」蓮司はほっと息をついたが、私の次の言葉に動きを止めた。「弁護士さんと何を話していたの?私にも教えてくれる?」笑みを浮かべて顔を上げたが、蓮司の表情から一瞬も目を離さなかった。蓮司は目を泳がせ、とっさに話題をそらした。「何でもない。仕事の話だ。それより、今日は遊園地に行くんだっただろ?今から行こう」緊張で汗をにじませる蓮司を見て、心が沈んでいった。背を向け、芹奈の車椅子を押して歩き出した。蓮司は一瞬動きを止めたが、すぐに私たちに追いつき、何気ないふりをして切り出した。「志乃、美羽のこと、覚えてるだろ?前に陽向が病気だって話したよな。もうよくなって、そろそろ退院するんだ。美羽には頼れる家族もいないし、何日か、うちに泊めてやれないか?」蓮司は私の表情をうかがい、付け加えた。「もちろん、無理にとは言わない。志乃と芹奈が嫌なら、やめておく」「私は気にしない。うちに連れてくれば?」蓮司は一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。「ありがとう、志乃。本当に優しいな。志乃と芹奈がいてくれて、俺は幸せだ」そう言うと芹奈の車椅子を私から受け取り、驚くほど優しい声で話しかけた。「遊園地に着いたら、お父さんが大好きなバレリー
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第3話
1本目は、蓮司と離婚のことで揉めた日のものだった。芹奈はクマのぬいぐるみを抱きしめ、悲しそうな顔をしていた。「お父さんとお母さん、離婚するんだって。離婚したら、もうお父さんには会えなくなるって、芽衣ちゃんが言ってた。芹奈、お父さんと離れたくない。だから、これから毎日、動画を撮るの。そうしたら、お父さんのこと、忘れないから」3本目は、蓮司が着ぐるみ姿で私たちに許してほしいと頼んだ日に撮ったもので、芹奈は目を輝かせていた。「お父さんってば、ほんとにおバカ。いちごウサギの着ぐるみで踊るなんて。芹奈がいちごウサギを一番嫌いなの、知らないのかな?でも、もういいや……芹奈、いちごウサギも好きになってみる。お父さんって優しい。芹奈、お父さんが一番好き」10本目は、芹奈が病院で目を覚まし、左脚を失ったと知った日の動画だった。画面の中で、芹奈は両目をひどく泣き腫らしていた。「お母さんが、芹奈はもう踊れないって。芹奈、何か悪いことしたのって、お母さんに聞いたの。どうしてあの人たちは、芹奈にあんなひどいことをしたの?でも、お母さんは何も言わないで、ずっと泣いてた。お父さんも泣いて、芹奈をぎゅっと抱きしめて、芹奈のことが大好きだって言ってた」45本目は、傷が治って初めて学校へ戻った日の記録だった。芹奈は口数が減り、すっかり元気をなくしていた。「学校に戻れば少しは元気になれるって、お父さんが言ったの。でも、嘘だった。みんな芹奈のことを笑うの。大地くんはずっと芹奈の車椅子を蹴って、芹奈のことを『片脚しかないやつ』って呼んだの。それから、芹奈を床に突き落として、犬みたいに這えって言った。先生には言えなくて、隠れてずっと泣いてた。でも大丈夫。芹奈にはお父さんとお母さんがいるから。二人とも、芹奈のことが大好きだから」……胸が引き裂かれるように痛んだ。たまらず芹奈を抱きしめ、声を上げて泣いた。「芹奈、お母さんと一緒に行こう。もうお父さんとは暮らさない。それでもいい?」芹奈はうつむき、傷跡を覆うスカートの裾に、涙を一粒、また一粒と落とした。「うん」その一言で、胸の奥が重く沈んだ。そのとき、思い切った計画が頭に浮かんだ。蓮司。芹奈が片脚を失ったくらい、大したことではないと思っているんでしょう?だったら、蓮司のせいで私と芹奈がこの世から
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第4話
そのせいで、蓮司は私と芹奈を置き去りにし、陽向に一晩中付き添った。芹奈は目を覚ますと、泣きながらお父さんに会いたいと言った。せめて顔だけでも見せに来てほしくて、蓮司に電話をかけた。蓮司は、美羽に代わって食事を作っていて手が離せないからと、私からの電話を着信拒否にした。私と芹奈には、これ以上くだらない真似をするなと言い放った。目の奥が熱くなった。芹奈の車椅子を押して立ち去ろうとしたとき、ちょうど蓮司が出てきた。目が合った瞬間、蓮司はあからさまにうろたえた。「いつ来たんだ?どうして連絡しなかった?」私が美羽を見ていることに気づいた蓮司は、慌てて言い訳を始めた。「美羽には前にも会ってるだろ。陽向がこの学校に転校してきたばかりで、学校のことがまだよく分からないんだ。だから、校内を案内していただけだ。別に……」「分かってる」蓮司の言葉を遮り、芹奈の車椅子を押して背を向けると、美羽が足早に私の前へ回り込み、平然と声をかけてきた。「志乃、久しぶり。芹奈も病気なの?かわいそうね」美羽はそばにいた陽向を引き寄せた。「陽向、芹奈に挨拶して。二人って、本当に縁があるわね」陽向は芹奈に近づき、物珍しそうに眺めたかと思うと、いきなりスカートをめくり上げた。その下から、片方だけ空になったズボンの裾がのぞき、陽向は嫌そうに顔をしかめた。「お母さん、この子、足が1本しかないよ。気持ち悪い!」芹奈はさっと顔色を失い、自分の姿を隠すように私の背中へ身を寄せた。私も怒りで全身が震えた。蓮司はさっと美羽の前に立ち、どこかぎこちない口調で私をなだめた。「志乃、怒るなよ。陽向はまだ子供で、何も分かってないんだ。子供のしたことに、大人がムキになるわけにもいかないだろ?」どの言葉も、陽向をかばうためにしか聞こえなかった。芹奈は蓮司を振り返り、信じられないとでも言いたげな目を向けた。昨日は、誰かが芹奈をからかうような一言を口にしただけで、蓮司はその場で激怒した。それなのに今は、芹奈を傷つけた陽向を堂々とかばっている。相手が違えば、芹奈のことなどどうでもいいのだ。芹奈の瞳から、少しずつ光が消えていった。芹奈は私の手を握り、泣きそうな顔でかすかに笑った。「お母さん、帰ろう」私はもう迷わず、芹奈の車椅子を押して足早
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第5話
家に入った蓮司は、開いたままのスーツケースを見て一瞬固まった。すぐに陽向の手を放すと、慌ててその前に立ちふさがった。「何で荷造りなんかしてるんだ?芹奈を連れて、どこに行くつもりだ?いつ帰ってくる?」蓮司は途方に暮れた顔で私を見つめていた。その目には、本気の怯えが浮かんでいた。けれど、深く考える気にもなれず、適当な理由でごまかした。「芹奈の傷がまた痛むの。先生に入院したほうがいいと言われたから、必要なものをまとめていただけよ」蓮司はほっと息をついた。「それならいい。てっきり……」そこまで言いかけて、蓮司は自分でも取り乱しすぎたと思ったのか、自嘲気味に笑った。私と芹奈があれほど蓮司を愛しているのだから、出ていくはずがない。そう思っているのだろう。蓮司は首を振ると、私の横を通り過ぎ、美羽と陽向を連れて2階へ向かった。私は気にも留めず、スーツケースを裏口に置いた。10分後、2階から突然、子供の泣き声が聞こえた。胸が跳ね、すぐに階段を駆け上がって芹奈の部屋へ飛び込むと、陽向が興奮した顔で、得意げに車椅子を踏みつけていた。パジャマ姿の芹奈は床にうつ伏せになり、裾で傷口を隠そうと必死になっていた。「見ないで。見ないで……」陽向は舌打ちし、勝ち誇った顔で言った。「片脚しかないくせに。見るったら見る!ほら、早く脚がないところを見せろよ。こんな気持ち悪いもの、見たことない。見せろ!」そう言うなり、陽向は芹奈の服をめくり上げようと手を伸ばした。「やだ、やだ!触らないで!お母さん、お父さん、早く助けて……」芹奈が泣けば泣くほど、陽向はますます興奮した。とうとう、芹奈のクマ柄のパンツにまで手をかけ、引っ張り始めた。次の瞬間には二人の間へ飛び込み、陽向を力任せに引きはがすと、芹奈を腕の中へ強く抱き寄せた。私に気づいた陽向は、一瞬ぎくりとした。何か物音が聞こえたらしく、すぐにわっと泣きだした。その姿を見るなり、美羽は私に手を上げようとしたが、途中で何かを思い出したように動きを止め、意地悪く尋ねた。「志乃、陽向はずいぶんしっかり歩けるようになったと思わない?前に、陽向が遊んでいて2階から落ちたことがあるの。先生には、脚を切断することになるかもしれないって言われた。それを知った蓮司は、すごく慌ててた。
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第6話
「誰にも気づかれずに、陽向を無事に育てるためよ。蓮司はね、私と陽向のために、あなたたちを犠牲にしたの!」美羽は狂気じみた顔で、興奮に目をぎらつかせていた。見ているうちに、こちらまでおかしくなりそうだった。芹奈は聞いていられなくなり、私の腕の中から振り返って、美羽を叩こうと手を伸ばした。「悪い人!そんなこと言っちゃだめ!お母さんをいじめないで!」美羽はかっとなり、芹奈の手をつかんで力任せにひねった。「片脚しかないくせに!」我を忘れ、芹奈を守ろうと美羽を力いっぱい突き飛ばした。次の瞬間、パシンと頬を思いきり張られた。駆けつけた蓮司は、赤くなった手のひらを見つめたまま、愕然としていた。「志乃、違う……わざとじゃない。叩くつもりなんてなかった」目を赤くし、心配そうに私の頬に触れた。「痛いか?本当に、わざとじゃ……」「蓮司!」美羽は蓮司の手をつかみ、涙をこぼしながら訴えた。「蓮司、怖い……」陽向も蓮司の脚にしがみつき、泣きそうな顔で訴えた。「お兄ちゃん、この人たちが僕とお母さんをいじめた!」蓮司はわずかに体をこわばらせたが、美羽たちには目もくれなかった。赤くなった私の目をじっと見つめ、震える声でもう一度尋ねた。「志乃、痛くないか?」私は何も答えず、冷え切った目で蓮司を見ていた。蓮司がさらに何か言おうとしたとき、美羽が陽向を突き飛ばした。陽向は床に倒れ、脚を抱えて泣き始めた。「お兄ちゃん、脚が痛いよ。病院に連れていって」蓮司は迷っていたが、美羽は突然その場にひざまずいた。「蓮司、お願い。助けて」蓮司は陽向を放っておけず、結局は抱き上げ、そのまま部屋を出ていった。そのとき、ポケットの中でスマホが激しく震えた。【御堂様、ご依頼いただいた遺体2体の準備が整いました。すでにご自宅へ運び込んであります】【今すぐお子様を連れて家を出てください。あとは火災事故に見せかけ、すべてこちらで処理いたします】画面を消し、芹奈に服を着せた。用意しておいた遺書を予約送信に設定し、最後に芹奈を連れ、暗闇に紛れて裏口から家を出た。その頃、蓮司は美羽と陽向を病院へ送り届けていた。美羽のか細い泣き声に、蓮司は初めて苛立った。一刻も早く家へ帰り、私と芹奈にきちんと謝ることしか考えていなかった。
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第7話
湊が言い終わる前に、蓮司は電話を切った。震える指で、お気に入りの一番上にある私の番号をタップした。「志乃、頼む……電話に出てくれ。ちゃんと説明するから」短い呼び出し音が2回続いたあと、冷たい自動音声が流れた。「おかけになった電話は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、かかりません」胸が強く締めつけられ、蓮司はよろめきながら出口へ急いだ。診察室を出たところで、美羽が蓮司の腕をつかんだ。「蓮司、騙されないで。こんな写真、どう見ても加工されてる。今、陽向には蓮司が必要なの……」蓮司はその手を振り払い、冷え切った目を向けた。「陽向は大事で、芹奈はどうでもいいのか?」後ろから、陽向がぴょんぴょん跳ねながら近づいてきた。その姿を見た蓮司の目に、美羽への嫌悪がにじんだ。「こんな真似はもうやめろ。二度と信じない!」スマホの通知音が立て続けに鳴る中、蓮司は傷ついた顔をする美羽には目もくれず、病院を出た。車に乗り込むと、私とのトーク画面を開き、素早く文字を打ち込んだ。【志乃、芹奈とどこにいる?二人とも無事に逃げられたのか?】【もうすぐ家に着く。安全な場所で待っていてくれ】【志乃、頼む。これ以上心配させないで、何でもいいから返事をくれ】いつもなら10秒もしないうちに返事が来るのに、29件ものメッセージを送って30分たっても、既読すらつかなかった。蓮司の脳裏に、先ほど、私が覚悟を決めたように荷物をまとめていた姿が浮かんだ。平手打ちしたときに向けられた、憎しみと絶望のまなざしも。思い返すほど眉間のしわが深くなり、焦りが募った。遠くから、何かが焼ける臭いが漂ってきた。車が角を曲がると、自宅のほうで炎が高く燃え上がっているのが見えた。空気まで燃えているようで、熱気に息が詰まった。周囲から聞こえてくる見物人たちの声が、一言一言、蓮司の胸をえぐった。「この家の親子、前にも拉致されたらしいよ。お母さんは片耳を、娘さんは片脚を失ったんだって」「娘さん、バレエの才能があったらしいのに。かわいそうに……」「誰かに恨まれてたのかな。それにしても、ひどすぎる」蓮司は車のドアを開けたが、降りようとした途端、膝から力が抜けてその場に崩れ落ちた。それでも狂ったように火の中へ飛び込もうとする蓮司を
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第8話
震える手で金庫を開けた蓮司は、中身を見た途端、動きを止めた。顔を覆い、力なくその場に座り込み、苦しそうにむせび泣いた。小さな金庫に入っていたのは、すべて蓮司のものだった。取れたボタン、蓮司が使っていたライター、それから丁寧に包まれたタブレット。蓮司は乱暴に涙をぬぐい、電源ボタンを押した。短い起動音が鳴り、画面が明るくなった。ロック画面に映ったのは、家族3人で撮った写真だった。バレエ衣装姿の芹奈が、ひときわ明るく笑っている。蓮司は何度かパスコードを入力したが、どれも違っていた。「志乃の誕生日でも、芹奈の誕生日でもない。だとしたら……」まさかと思いながら、震える指で自分の誕生日を入力した。カチッ。ロックが解除されると、すっきりと整理された、いかにも私らしいホーム画面が現れた。蓮司は無意識にアルバムを開き、ひと目見た途端、全身が震え始めた。私が離婚を切り出した日から、芹奈は毎日の出来事や気持ちを動画日記に残していた。私が芹奈を抱きしめ、動画日記を見て泣き崩れていた頃、蓮司は美羽のことしか見ていなかった。芹奈がどれほど自分の気持ちを抑えていたか、蓮司は一度も気づかなかった。そもそも、芹奈に目を向けていなかったのだ。片脚を失ってからでさえ。気づけば、蓮司は再生ボタンを押していた。「芹奈、お父さんと離れたくない。だから、これから毎日、動画を撮るの。そうしたら、お父さんのこと、忘れないから」……「お父さんって優しい。芹奈、お父さんが一番好き」……「お父さんも泣いて、芹奈をぎゅっと抱きしめて、芹奈のことが大好きだって言ってた」……「でも大丈夫。芹奈にはお父さんとお母さんがいるから。二人とも、芹奈のことが大好きだから」……蓮司は目を真っ赤にしたまま、芹奈の声を聞いていた。芹奈がこれほど自分を慕っていたとは、思ってもみなかった。動画の中には、蓮司を責める言葉など一つもなかった。最新の動画は、3時間前のものだった。芹奈は目を赤くし、カメラの前で大粒の涙をこぼしていた。「お父さん、芹奈の脚が今は陽向の体についてること、もう知ってるよ。どうしてお父さんがそんなことをしたのか、お母さんに聞きたかった。でも、お母さんが泣いてるのを見たら、聞けなかった。陽向は芹奈のことを気持ち悪いっ
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第9話
美羽はスマホを強く握りしめ、その目は憎しみに満ちていた。「絶対、あの女が何かしたのよ!そうじゃなきゃ、蓮司が私にあんな態度を取るはずない!でも、もうあの女も、あのガキも死んだ。これからは、あの二人のものは全部、私のものよ」……飛行機が着陸し、スマホの電源を入れると、すぐに1本の動画が届いた。偽装死を依頼した業者が撮影した蓮司の動画だった。動画の中で、蓮司は取り乱し、燃え盛る家へ飛び込もうとしていた。続く映像では、芹奈の部屋で泣き叫びながら、焼け焦げて顔も判別できない2体の遺体を抱きしめていた。そのまま遺体を手放そうとせず、救急隊員に、二人を病院へ運んで助けてくれと必死に懇願していた。私は口元をゆがめ、動画を削除した。自業自得だ。芹奈の脚を切らせたときは、顔色一つ変えなかったくせに、今さら泣きわめいたところで、誰が信じるというのか。何より、蓮司がカメラに向かって口にした謝罪の言葉を一つ思い返すだけでも、吐き気がした。現地での暮らしの準備を終えると、芹奈の手を握って病院へ入った。蓮司のしたことを知ってから、これまで頼ってきた病院はもう信じられなかった。念のため、現地でも有数の私立病院を予約し、芹奈に改めて詳しい検査を受けさせた。義足を装着するための手術も、そこで受けさせるつもりだった。長い検査が終わると、医師が結果を持ってきて、慎重な口調で説明を始めた。「御堂さん、検査の結果、お嬢さんの脚は、切断面がきれいに整えられていました。何者かが衝動的に切断したものとは考えにくく、外科手術による切断とみるのが自然です」覚悟はしていたが、事実を突きつけられた瞬間、膝から力が抜けて倒れそうになった。医師がすぐに私を支え、しばらく言いよどんだあと、続きを告げた。「当時の手術では、麻酔が使われなかった可能性があります。また、切断部周辺の神経損傷は、それほど深刻ではありません。義足を装着すれば、ほかのお子さんと変わらない生活を送れる見込みは十分にあります」麻酔も使わずに、どれほど痛かっただろう。あんな父親のせいで、芹奈の心はどれほど傷ついただろう。しばらく何も考えられず、ようやく医師に礼を言った。医師の姿が見えなくなると、もう立っていられず、壁に背を預けたまま崩れ落ちた。全部、私のせいだ。蓮司の愛なんて
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第10話
今日7回目の電話をかけると、聞き慣れた着信音が少しずつ近づいてきた。やがて姿を見せた蓮司は、苛立たしげに眉をひそめ、電話を切った。美羽は蓮司をちらりと見やり、気づかれないようあとをつけた。オフィスでは、湊が落ち着かない様子で歩き回っていた。その声には不安と苛立ちがにじんでいた。「この件を漏らしたのは、いったい誰なんですか?今、ネットでは、御堂社長が愛人のために奥様とお嬢様を死に追いやったと、大騒ぎになっています。当時の事件の詳しい経緯まで出回っているんですよ。危険すぎるからやめるべきだと、最初から言いましたよね。それなのに、御堂社長は隠し通せると言い張ったじゃないですか。これからどうするおつもりですか?」蓮司は深いため息をついた。「もう逃げるしかない。俺が渡した金を持って、できるだけ早く海外へ逃げろ。二度と戻ってくるな」湊は声を荒らげた。「御堂社長、私を馬鹿だとでも思っているんですか?今ここで逃げたら、私がやったと認めるようなものじゃないですか!まさか、罪を全部私と白石さんにかぶせて、ご自分だけ逃げ切るおつもりですか?」蓮司の目がすっと冷え、かすかな殺気がにじんだ。「高瀬、お前に罪をかぶせるつもりなら、こんな手間はかけない。これまでお前が関わった件を少し調べるだけで、いくらでも証拠は出てくる」湊は顔をこわばらせ、鋭い口調で問い詰めた。「今はマスコミもこの件に注目していて、私たちの説明を待っています。対応を誤れば、御堂社長も私も、あの子まで無事では済みませんよ!」ドアの外で聞いていた美羽は、とうとう耐えきれず、甲高い声を上げて中へ飛び込んだ。「今の話、どういうこと?どうして外に漏れたの?」美羽を見る蓮司の目には、隠しきれない嫌悪がにじんでいた。美羽が余計なことさえしなければ、自分は志乃と芹奈を傷つけることも、幸せな家庭を失うこともなかった。こんな女をそばに置いておけば、また何をしでかすか分からない。いっそ、志乃と芹奈のあとを追わせればいい。そう考えた瞬間、蓮司の声が冷えた。「誰がここへ来いと言った?」美羽は再び傷ついたような顔を作ったが、声には焦りが残っていた。「蓮司、どうしても連絡がつかなくて、会社まで来るしかなかったの……」蓮司は額を押さえた。「美羽、もう俺に付きまとうなっ
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