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第40話

Author: 風羽
舞が入ってくると、正明も伊野夫人も驚きの色を隠せなかった。

この状況を見れば、誰にでも二人の間に過去があることは察せられた。

夕風が熱く吹きつける。

強い風が正明の髪を揺らし、伊野夫人の華やかなドレスを翻らせ、舞の腕にふわりと触れた。桑絹の質感が、驚くほど柔らかく、なめらかだった……

沈黙がしばし流れたのち、伊野夫人はかすれた声で言った。「少し気分が悪くて、京介夫人、部屋まで付き添っていただけるか」

舞は微笑みながら頷いた。「ちょうどそのつもりで来たんです。ずっとご体調が気になっていました」

伊野夫人は少し気を緩め、舞の手の甲を軽く叩いた。「あなたがいてくれると、心が軽くなるわ」

舞はやわらかく微笑み、伊野夫人を支えてその場を後にした。

背後では、正明が去っていくかつての恋人を見つめ、この先もう二度と話す機会がないかもしれないと思い、込み上げる思いに任せて口にした。「彼がお前に与えられるものなら、俺にもできる」

言い終えて、すぐに後悔が押し寄せた。

伊野夫人は足を止め、伏し目がちに冷笑した。「あなたの口先だけで何ができるっていうの?」

傍らで、舞が小さく咳払いをした。

正明は元恋人に突き放され、さらにその場に京介の妻もいたことで、顔が火照るほど恥ずかしさに襲われた……

けれど、彼の気持ちなど、伊野夫人の関心の範囲にはなかった。

……

舞は伊野夫人を支えながら主寝室へ入っていった。

広々とした部屋には、白を基調に金彩をあしらった家具が整然と並び、淡い色のオーガンジーのカーテンが揺れていた。壁には伊野夫人のポートレートがいくつも飾られており、伊野の深い愛情がひしひしと伝わってくる空間だった。

伊野夫人はベッドに身を横たえた。

彼女は舞の手をそっと引き寄せて優しく言った。「今日は恥ずかしいところを見せてしまったわね」

舞はその気持ちをよく理解して、穏やかに慰めた。「誰だって過去はありますよ!でも、過去の人や出来事に縛られ続ける必要はない。大切なのは、今目の前にある幸せをちゃんと大事にすることです」

伊野夫人の目に熱い涙が浮かんだ。「あの人には、未練なんてこれっぽっちもないわ。ただ心残りは、行方のわからなくなった子どもなの。京介夫人、あの子は私の体の一部だった。いなくなったあの日から、私は一生心に穴が開いたまま。あの子が見つからない限
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Comments (1)
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良香
うわ!母娘揃って同じセリフを投げられるとは 笑笑。多分伊野夫人はお母さんだよね。 え?それで言えば九郎は白石と同じ立ち位置になっちゃうの?えーーー、ちょっと可哀想。 この人は一途に好いてくれると思うんよなぁ。 今一番の推し。
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