ある多重衝突事故で、私・森上新菜(もりがみ にいな)と夫・早志寛一(はやし かんいち)の人生は、根本から交換してしまった――
目を覚ますと、私たちの体が入れ替わっている!
今、彼は産後ケアセンターのベッドで、胸元に母乳がにじんだ大きなシミが二つできて、顔色を青ざめさせて私を睨みつけている。
「新菜っ!!元の体に戻してくれ、今すぐに!!」
私は、彼の硬く締まった筋肉の体を軽く揺すり、ニヤリと笑みを浮かべた。
そして、寛一の目の前で、彼が持ち歩いていたスマホを手に取り、彼の初恋の相手・星屋素江(ほしや もとえ)に電話をかけた。
電話がつながると、私は気だるげに口を開いた。
「ねえ、素江、新菜は出産したばかりで体がまだ回復してないんだ。前から籍が欲しいって言ってただろ?彼女の世話を完璧にやり遂げたら、そん時は認めてやってもいいぜ」
電話の向こうで、素江は一瞬沈黙したかと思うと、歓喜の叫びを上げた。
「本当!?寛一!やっと分かってくれたのっ!!?
今すぐ行くから!新菜さんをきっと気持ちよくお世話して見せるわ~」
電話を切り、私はさっさとスマホをソファに放り投げた。
振り返って、ベッドの上で顔を歪めている「産婦」を見やる。
寛一は、私の物であるはずの青白く弱々しい顔で、悔しさに歯を食いしばっている。
「新菜……頭がおかしくなったのか?
素江に俺の世話をさせる?一体誰を辱めたいんだ――!?
言っておくが、素江が少しでも屈辱を感じたら、元に戻った後、ただじゃ置かないからな!」
私は足を組み、彼がいつもやっている様子を真似て、たばこに火をつけた。
一口吸っただけで、むせて咳き込み続けた。
寛一はそれを見て、心を痛めた――私ではなく、彼自身の体が心配なのだ。
「やめろ!肺に悪いだろ!」
私は笑って、煙の輪を吐きながら。
「あら、心配?昔、私があなたの前で血を吐くまで咳き込んでた時、どうして気にならなかったんだ?」
寛一は言葉に詰まり、目が泳いだ。
「あの時は会社のストレスが……わざとじゃなかったんだ。
頼むからもうやめてくれよ……こっちはもう、死にそうな痛みなんだぁあ!!」
彼は胸を指さした。妊娠のせいで石のように硬く張っている。
涙が彼の目尻ににじんでいる。
「看護師を呼んで、詰まりを取ってもらってくれ……ほんーとに耐えられない」
あの高飛車だった社長が、今やこんなことですすり泣いている。
私は歩み寄り、上から見下ろすように彼を見た。
「看護師さんたちは手いっぱいなの。だから、素江をお呼びしたわけ。
あなたの最愛の人なんだから、彼女が『嫁としての価値』を証明する、これ以上ない機会じゃない。そんなの、見逃すなんてあり得ないわ」
寛一が罵ろうとした時、ドアベルが鳴った。
素江はあっという間に到着した。しかもフルメイクに、濃厚な香水までまとって。
入ると、彼女はすぐさま私の胸に飛び込んできた。
「寛一!会いたかった!」
私は吐き気をこらえ、彼女を押しのけず、むしろその腰に手を回した。
「俺もだよ、素江」
寛一がベッドの上でこの光景を睨みつけ、目玉が飛び出そうになっている。
素江は甘えた声で私の胸にすり寄ると、ようやくベッドの上の「新菜」を嫌そうに見た。
「あらあら、新菜さん、顔色がひどいわね」
私はぽんと素江の肩を叩いた。
「乳腺が詰まって、苦しんでるんだ。
さっき『証明する』って言ったよね?ほら、新菜の詰まりを取ってあげて」
素江の笑顔が一瞬固まった。
「え?そんな汚れ仕事……看護師がいるんじゃないの?」
私は寛一が怒る前の表情を真似た。
「何だ?嫌か?
今さっき誰が『証明する』って言った?こんな小さなこともできずに、早志家に入れると思う?」
素江はびっくりして、慌てて手を振った。
「嫌なんかじゃない!やる!やるわ!
寛一のためなら、何だってする!」
彼女は10センチのハイヒールを鳴らし、カツカツとベッドまで歩いた。
嫌な気持ちに満ちた寛一の顔を見て、素江の目に一瞬、悪意が走った――
この女を片付けて、寛一に気に入られさえすれば、早志夫人の座は自分のものだ。
「新菜さん、ちょっと我慢してね~~私、力が強いから」
寛一は恐怖に駆られ後退りたい衝動にかられたが、次の瞬間、帝王切開の傷跡が鋭い痛みを放ち、彼はその場に釘付けにされた。
「あっちへ行け!触るなっ――!!」
彼は私の声で叫んだが、それは無力に響いた。
素江は冷笑すると、私の方を見て、「ね、見てて」と言わんばかりの目配せをした。
私がうなずくのを確認すると、彼女は思い切り、その胸を押しつぶした。
「ぎゃあああ──!」
耳をつん裂くような悲鳴が、産後ケアセンターに響き渡った。
寛一は痛みで全身を痙攣させ、冷や汗が一瞬で枕を濡らした。