春望~最初の花が開いたなら、その一枝を持って迎えに行きます~

春望~最初の花が開いたなら、その一枝を持って迎えに行きます~

last updateLast Updated : 2025-11-09
By:  46(shiro)Completed
Language: Japanese
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「ぼく」には高校のときから好きな女性がいます。 みんなの憧れ、大学に入ってからは、西館のマドンナとひそかに呼ばれていた女性です。 完璧な彼女は、到底ぼくなんかの手の届く人じゃなくて……。 ずっと、ただの友達の1人でいることに満足していました。 そんなある日、彼女がお見合いをして、結婚をするために大学をやめて故郷に戻るというのを聞いて……。 ※昭和のイメージで書きました。

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Chapter 1

春望~最初の花が開いたなら、その一枝を持って迎えに行きます~

ある多重衝突事故で、私・森上新菜(もりがみ にいな)と夫・早志寛一(はやし かんいち)の人生は、根本から交換してしまった――

目を覚ますと、私たちの体が入れ替わっている!

今、彼は産後ケアセンターのベッドで、胸元に母乳がにじんだ大きなシミが二つできて、顔色を青ざめさせて私を睨みつけている。

「新菜っ!!元の体に戻してくれ、今すぐに!!」

私は、彼の硬く締まった筋肉の体を軽く揺すり、ニヤリと笑みを浮かべた。

そして、寛一の目の前で、彼が持ち歩いていたスマホを手に取り、彼の初恋の相手・星屋素江(ほしや もとえ)に電話をかけた。

電話がつながると、私は気だるげに口を開いた。

「ねえ、素江、新菜は出産したばかりで体がまだ回復してないんだ。前から籍が欲しいって言ってただろ?彼女の世話を完璧にやり遂げたら、そん時は認めてやってもいいぜ」

電話の向こうで、素江は一瞬沈黙したかと思うと、歓喜の叫びを上げた。

「本当!?寛一!やっと分かってくれたのっ!!?

今すぐ行くから!新菜さんをきっと気持ちよくお世話して見せるわ~」

電話を切り、私はさっさとスマホをソファに放り投げた。

振り返って、ベッドの上で顔を歪めている「産婦」を見やる。

寛一は、私の物であるはずの青白く弱々しい顔で、悔しさに歯を食いしばっている。

「新菜……頭がおかしくなったのか?

素江に俺の世話をさせる?一体誰を辱めたいんだ――!?

言っておくが、素江が少しでも屈辱を感じたら、元に戻った後、ただじゃ置かないからな!」

私は足を組み、彼がいつもやっている様子を真似て、たばこに火をつけた。

一口吸っただけで、むせて咳き込み続けた。

寛一はそれを見て、心を痛めた――私ではなく、彼自身の体が心配なのだ。

「やめろ!肺に悪いだろ!」

私は笑って、煙の輪を吐きながら。

「あら、心配?昔、私があなたの前で血を吐くまで咳き込んでた時、どうして気にならなかったんだ?」

寛一は言葉に詰まり、目が泳いだ。

「あの時は会社のストレスが……わざとじゃなかったんだ。

頼むからもうやめてくれよ……こっちはもう、死にそうな痛みなんだぁあ!!」

彼は胸を指さした。妊娠のせいで石のように硬く張っている。

涙が彼の目尻ににじんでいる。

「看護師を呼んで、詰まりを取ってもらってくれ……ほんーとに耐えられない」

あの高飛車だった社長が、今やこんなことですすり泣いている。

私は歩み寄り、上から見下ろすように彼を見た。

「看護師さんたちは手いっぱいなの。だから、素江をお呼びしたわけ。

あなたの最愛の人なんだから、彼女が『嫁としての価値』を証明する、これ以上ない機会じゃない。そんなの、見逃すなんてあり得ないわ」

寛一が罵ろうとした時、ドアベルが鳴った。

素江はあっという間に到着した。しかもフルメイクに、濃厚な香水までまとって。

入ると、彼女はすぐさま私の胸に飛び込んできた。

「寛一!会いたかった!」

私は吐き気をこらえ、彼女を押しのけず、むしろその腰に手を回した。

「俺もだよ、素江」

寛一がベッドの上でこの光景を睨みつけ、目玉が飛び出そうになっている。

素江は甘えた声で私の胸にすり寄ると、ようやくベッドの上の「新菜」を嫌そうに見た。

「あらあら、新菜さん、顔色がひどいわね」

私はぽんと素江の肩を叩いた。

「乳腺が詰まって、苦しんでるんだ。

さっき『証明する』って言ったよね?ほら、新菜の詰まりを取ってあげて」

素江の笑顔が一瞬固まった。

「え?そんな汚れ仕事……看護師がいるんじゃないの?」

私は寛一が怒る前の表情を真似た。

「何だ?嫌か?

今さっき誰が『証明する』って言った?こんな小さなこともできずに、早志家に入れると思う?」

素江はびっくりして、慌てて手を振った。

「嫌なんかじゃない!やる!やるわ!

寛一のためなら、何だってする!」

彼女は10センチのハイヒールを鳴らし、カツカツとベッドまで歩いた。

嫌な気持ちに満ちた寛一の顔を見て、素江の目に一瞬、悪意が走った――

この女を片付けて、寛一に気に入られさえすれば、早志夫人の座は自分のものだ。

「新菜さん、ちょっと我慢してね~~私、力が強いから」

寛一は恐怖に駆られ後退りたい衝動にかられたが、次の瞬間、帝王切開の傷跡が鋭い痛みを放ち、彼はその場に釘付けにされた。

「あっちへ行け!触るなっ――!!」

彼は私の声で叫んだが、それは無力に響いた。

素江は冷笑すると、私の方を見て、「ね、見てて」と言わんばかりの目配せをした。

私がうなずくのを確認すると、彼女は思い切り、その胸を押しつぶした。

「ぎゃあああ──!」

耳をつん裂くような悲鳴が、産後ケアセンターに響き渡った。

寛一は痛みで全身を痙攣させ、冷や汗が一瞬で枕を濡らした。

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春望~最初の花が開いたなら、その一枝を持って迎えに行きます~
 その日、ぼくは少し不安な気持ちで門への道を急いでいました。今日の講義は2時限と4時限。午後はオフです。 ノートや参考書の詰まったスクールバッグにちょっと苛立ちもあったんですが、何よりはやはり蝋梅 の香りでしょう。ぼくはひとより少しばかり鼻が利くせいか、どうもああいう香りには敏感なわけです。 少し、喘息気味でもありました。 ずっしりと重いバッグが食い込む肩の痛みがだんだん強くなって。堪えきれず、小休止しようと思い、葉をたくさんつけた常緑樹の木の下で立ち止まったときです。だれかがぼくの名を呼びました。 振り返ると、ちょうど吹いた強い風にざわざわとさざめく枝葉越しに、友人の正樹の姿が見えました。 彼は、彼を待つぼくの元へと走り寄ってきて、そして言ったのです。「おまえ、聞いたか!? あの西館のマドンナが、結婚しに田舎へ戻るんだと!」 冬の終わりの、2月も半ばのことでした。◆◆◆ 『西館のマドンナ』とは、ぼくの高校時代からの知り合いの1人です。そのころからクラス内でも頭ひとつ抜けて秀でた女性で、すっきりとした顔立ちとはきはきと話す口調は聞いていて心地よく、当時、クラスだけでなく学年の男子生徒のほとんどが、彼女に少なからず好意を寄せていました。また、人望も厚く、高校時代は生徒会副会長を務め、男たちだけでなく女たちからも好かれていて、何ひとつ取っても優れた、そしてそれを鼻にかけない、すばらしい女性……です。 ぼくもまた例にもれず、ずいぶん前からひそかに彼女の姿を目で追うようになっていました。 気づかれないようにと細心の注意を払って、いつも、いつも。 この大学を選んだのも、実は、学びたい科があったからだけではなく、クラス委員として希望進路表を集めた際に、彼女のものが偶然見えたからではないかと、思ってもいます。 緑なす黒髪が風に揺れ、梳く指の所作まで美しく、彼女の笑声が聞こえるだけで胸の動悸は高まり――けれどぼくは彼女の数多くいる友人のうちの1人であり、恋人ではありません。 彼女のような女性に、ぼくのような男は不似合いです。 彼女を知ってからもうじき6年……。なぜか彼女は特定の恋人をつくらず、定期的に流れるうわさはあくまでうわさでしかありませんでした。 もちろん交際を申し込んだ男たちはいたはずです。高校時代も、大学へ入ってからも。ぼくの
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