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第8話

Author: にゃんこ虫
彼が書き残した言葉の続きを、彼女はあえて考えようとはしなかった。ただ静かに微笑んで、日記を閉じ、元の場所に戻した。

翌日、雪華は茂仁に付き添われて退院した。

「どうせ死ぬなら、一番馴染みのある場所で死にたい」と言った。

ちょうど数日後は彼女の誕生日だ。茂仁は自ら準備をし、かつて夕帆のために開いた宴よりも盛大な誕生日会を開いた。

「あなたが引き下がらないなら、私が目の前で見せてあげるわ。茂仁がどれほど私を愛してるのか、思い知らせてあげる!」

得意げに眉を上げた雪華だったが、夕帆はその挑発に微塵も動じず、まるで何も聞こえなかったかのように落ち着いていた。代わりに、他ののことを聞いた。

「あとで、願い事をするんでしょう?」

「もちろんよ!」願い事の話になると、雪華はさらに得意げに言った。「今の私が願えば、彼は何でも叶えてくれるもの」

夕帆は静かに首を振った。「それなら、これを願ってみて」

そう言って、彼女は小声で雪華の耳元に何かを囁いた。

雪華は息を呑み、信じられないように夕帆を見つめた。

二十分後、大きなバースデーケーキが運ばれ、ろうそくの火が灯された。雪華の目には光が宿っていた。

「茂仁、私が何を願っても叶えてくれるって言ったわよね?」

「ええ」彼は優しく頷いた。

その言葉を確認すると、彼女は夕帆を一瞥し、唇の端をゆるやかに上げて言った。

「じゃあ、私、あなたと結婚したい」

その一言で、場内は騒然となった。

茂仁は息を呑み、なぜか無意識に夕帆の方を見てしまった。

彼の返事がなかなか返ってこず、雪華の目の光は消え、涙が瞬く間にあふれた。

その涙が、まるで大きな金槌のように彼の心を打ち砕いた。もう何も考えられなくなった彼は、ただ焦りながら優しく彼女を宥めた。

「……わかった、結婚しよう」

彼女はようやく笑顔を取り戻し、彼の手を引いてホールの外へと駆け出していった。

「辻本社長が千川さんにぞっこんって噂は本当だったのね」

「そりゃそうよ。昔、千川さんが苦境に立たされたと聞いた辻本社長は、すぐさま私財の半分を投げ打って彼女を支えたんだから」

「今の彼女もずっと一緒にいたんでしょ?でも、やっぱり初恋には敵わないのね。その人が戻ってきたら、何年もの付き合いなんて全部無意味だね」

角に立ち、目を赤くして黙って涙を流していた夕帆を見て、周囲の人は彼女が悔しくて泣いていると思った。

だが、それは違う。

彼女が涙を流していたのは、嬉しかったから。

茂仁が雪華と結婚すると決まって、嬉しかった。

自分の任務が果たされることが、嬉しかった。

そして、ようやく、家に帰れることが嬉しかった!

その夜、賓客が帰った後、茂仁はすぐに夕帆の元に戻り、申し訳なさそうに彼女を抱きしめた。

「夕帆、ごめん......雪華には残り時間がないって医者に言われたんだ。今は、彼女の願いをすべて叶えてあげるべきだと思って......あの結婚もただの形式だけど、怒らないでほしい」

彼は、長く宥めなければならないと覚悟していた。だが意外にも、夕帆はまったく怒っておらず、穏やかに彼を見つめて言った。

「分かってる。今は、雪華さんの方が大事なんでしょう?

結婚式の準備、私がやるわ。お二人に最高の式にしてあげる」

それからの日々、夕帆はドレス、靴、会場、すべての手配に奔走した。

雪華からどんな無理難題を押し付けられても、反論せず、黙って全てをこなした。

最近やつれていった彼女を見て、茂仁の心には罪悪感が広がっていった。

「雪華を見送ったら、その後はずっと君のそばにいる」

彼の言葉に、夕帆はふっと笑った。

その後?

そんなもの、もうない。

茂仁、あなたたちが結婚さえすれば、私はようやく帰れるの。

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