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周知④

Author: 藍沢咲良
last update publish date: 2026-09-30 19:34:30

「あの、莉子さん……」

「ん? どしたの、りおちゃん」

「ちょっとご相談が」

莉子さんは壁時計に目をやった。

「じゃ、ランチ、今日一緒に行こっか」

「はい」

即決だった。

助かった。今日は莉子さん、お弁当じゃなかったのね。

こんな相談は、莉子さんにしかできない。

アオパ社員行きつけの定食屋は避けて、少し歩いた先にあるカウンターだけのパスタ屋へ入った。

目の前でマスターがスパゲティを茹でて、手際よく仕上げてくれる店だ。

……莉子さんとマンツーマン相談のはずだったのに、なぜか蒼くんまでついてきたけど。

「……で、氷室のこと?」

「今週末、挨拶に行くことになりまして」

「おっ! ご実家訪問じゃん。いいねえ、教科書通りに進んでんね」

「はい……。で、服装とか、髪型とか、菓子折りとか、悩ましくて」

「りおさんの私服だったら、どれでもオッケーじゃないですか? うちの親だったら問題ないですよ」

蒼くんが、なぜか当然みたいな顔で口を挟む。

「蒼くん、“どれでもオッケー”ってわけじゃないのだよ」

莉子さんは、目の前に置かれたペペロンチーノを食べ始めた。

にんにくのいい匂いがする。

「だって、りおさん基
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    「あの、莉子さん……」「ん? どしたの、りおちゃん」「ちょっとご相談が」莉子さんは壁時計に目をやった。「じゃ、ランチ、今日一緒に行こっか」「はい」即決だった。助かった。今日は莉子さん、お弁当じゃなかったのね。こんな相談は、莉子さんにしかできない。アオパ社員行きつけの定食屋は避けて、少し歩いた先にあるカウンターだけのパスタ屋へ入った。目の前でマスターがスパゲティを茹でて、手際よく仕上げてくれる店だ。……莉子さんとマンツーマン相談のはずだったのに、なぜか蒼くんまでついてきたけど。「……で、氷室のこと?」「今週末、挨拶に行くことになりまして」「おっ! ご実家訪問じゃん。いいねえ、教科書通りに進んでんね」「はい……。で、服装とか、髪型とか、菓子折りとか、悩ましくて」「りおさんの私服だったら、どれでもオッケーじゃないですか? うちの親だったら問題ないですよ」蒼くんが、なぜか当然みたいな顔で口を挟む。「蒼くん、“どれでもオッケー”ってわけじゃないのだよ」莉子さんは、目の前に置かれたペペロンチーノを食べ始めた。にんにくのいい匂いがする。「だって、りおさん基本清楚じゃないですか。ももちゃんにも、もうちょい、うちの親の前では大人しい服着てほしいですもん」「それは幼馴染だからセーフなんじゃないか?」「いやあの、私の服装について考えてほしいんですけど」私の前には、ほうれん草とベーコンのホワイトソース。蒼くんの前にはカルボナーラが置かれた。……おいしそう。「ワンピースでよくない? パステルカラーの。ほら、薄いパープルのワンピース、こないだ着てたじゃん。リボンタイのやつ。あれ、いいと思う」薄いパープルのワンピースは、推し色を意識して買ったものだけど。……いいだろうか。「いいと思います。で、髪型も今日と同じでよくないです?」「うん、ハーフアップは最強。でも編み込みは入れずに、シンプルな方が無難かもね。初対面?」「それが……こないだスーパーで、ばったりご両親に」「ありゃ」「所長のお母さんの感じ、どうでした?」「軽く挨拶した直後に、お刺身の値引きが始まっちゃって。私も氷室さんのお母さまも、挨拶そこそこに夕方のセールへ……」莉子さんが、口の中のパスタを危うく吹き出しかけて堪えた。蒼くんも笑いを噛み殺している。え?何か私、

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      「いーらっしゃいませえ!さあ、夕方のセール始まりますよー!本日のご奉仕はこちら!サーモン!サーモン、今から値引きしますよー!」威勢のいい声が、店内に響く。瑛のお母さまと目が合ったまま、二人して固まった。その次の瞬間。……サーモン、値引き。欲しい。あっという間に、サーモン売り場に客が群がり始める。「また改めて、うちへいらっしゃい」(サーモンの値引き、行くわよね?)「はい、伺います」(はい、もちろん)微笑みを交わす。瑛のお母様の視線が、すっとサーモン売り場へ向いた。ああ、行きたいんだな。私も行きたい。「あなた。また詳しい話は後日で。瑛もそれでいいわね」「あ、ああ……」「それじゃ、またね」瑛のお母様の目は、もうサーモンしか見えていないみたいだった。私も、さっき見たあのサーモンを値引きしてほしい。「失礼いたします」微笑んで軽く礼をして、私はすかさずカゴの中からサーモンを手に取り、店員さんのもとへ急いだ。瑛のお母様は、すでにサーモンを2パック確保している。さすがだ。私も多めに買おうかな。「ねえ、瑛さん」「……ん?」「鯵の刺身も欲しい?」「あ、ああ……そうだな」サーモン売り場から少し離れた場所に、瑛とお父様は避難していた。若干引いていた気がしたのは、きっと気のせいだ。「ふう……」シートベルトをかちりと閉めて、ひと息ついた。お刺身だけ買うつもりだったのに、野菜もお肉も新鮮で安くて、ついあれこれ買い込んでしまった。「お前、母さんと何を通じてた?」「え?」「初対面の動きじゃないだろ。それも、結婚する相手の親との」「ああ……」緊張の初対面の空気に、サーモンの値引きが割り込んできた、あれか。「あれはしょうがなくない?」「しょうがない?」「だってサーモン値引きだよ? 半額近かったじゃん」「……でも」「瑛のお母さまだって2パックキープしてたよ?」「それは……父さんの好物だからな」「瑛もでしょ? サーモン」「……否定はしない」お父さまもサーモン好きなのか。瑛も刺身の中では、サーモンをいちばん嬉しそうに食べる。……そういうところ、やっぱり親子なんだな。お母さまはお父さまのために。私は瑛のために。あの主婦の戦場に飛び込んだ。瑛やお父さまみたいに、少し離れたところで見ているだけじゃ、美味

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