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第3話

作者: 春野月
少女に別れを告げながら、私は真剣な口調で伝えた。

「近いうちに必ず新作を出しますよ。あんまり待たせないようにしますね」

背後から重い足音が近づいてきて、蒼介が眉をひそめながら私の前に立った。

「一体何をぐずぐずしてるんだ?水着も選ばない、サングラスも興味ない。

いい加減その顔やめてくれよ。十六夜湖なら次は絶対付き合うから、それでいいだろ?」

私の番はいつも「次」で、葵にはいつも「今すぐ」が用意されていた。

彼女がシャネルの新作バッグを欲しがれば、蒼介は街中を駆けずり回って高値で取り寄せ、その日のうちに手に入れさせた。

私がニコンの新型レンズを欲しいと言えば、彼は友人に代理購入を頼むと約束してくれた。けれど、心待ちにして一週間、荷物がまだ届かないと聞くと、彼は「忘れてた」の一言で済ませた。

蒼介にとって、私はとうに取るに足らない存在になっていたのだろう。

私の顔色があまりに悪かったのか、蒼介の口調がふと和らいだ。

「満月、葵はお前の妹だろ。そんなにむきになる必要ないだろ」

私は黙って頷き、彼の言葉に同意した。

満足げに笑った彼は、私の肩を抱き寄せて誓った。

「十六夜湖に着いたら、アシスタントに一番いいウェディングフォトの店とヘアメイクを手配させる。

お前の夢を全部叶えてやる。もう一度、世界で一番きれいな花嫁にしてやるから」

葵と陽向が、両手いっぱいの紙袋を提げて息を切らしながら出てきた。

「もう帰ろうよ。この店の商品、あらかた買い占めちゃったわ」

蒼介が甘い眼差しで、葵から荷物を受け取る。

モールを出ると、激しい雨が降り出し、雨粒が私のスカートの裾を叩いた。

数え切れないほどの紙袋が、私の席と助手席を埋め尽くしていた。

雨が窓を叩きつける中、葵が申し訳なさそうに顔を出す。

「お姉ちゃん、タクシーで帰ってもらえる?もう席がないの」

陽向が私の手を振り払うように、力任せに車のドアを閉めた。

指の骨に鋭い痛みが走り、手を引いた拍子に足を滑らせて、ヒールが側溝に挟まってしまった。

蒼介は一瞬車を降りようとしたが、葵が心配そうに口を挟んだ。

「雨がひどくなってきたし、これ以上暗くなったら運転危ないよ」

彼はエンジンをかけ、「気をつけて」と一言残して走り去った。

大粒の雨が体に打ちつけて冷たかった。私は唇を噛み締め、泣きたい気持ちを堪えた。

このヒールは、蒼介がわざわざパリの職人に特注してくれた、結婚八周年の贈り物だった。

もがくうちに、かかとの皮膚がすり切れて血がにじんだ。まるで私たちの愛が、長い年月の中で少しずつ色褪せていったように。

私はヒールを脱ぎ捨て、裸足のまま冷たい泥水に足を踏み入れた。

産後うつが最も重かった頃、私はベランダによじ登ったことがある。

あのとき蒼介は、全身を震わせながら涙を流し、早まった真似はしないでくれと懇願した。

「子供には母親が必要だ、俺にもお前が必要なんだ」と蒼介は言った。

私は飛び降りなかった。裸足のまま、蒼介の前まで歩いていった。蒼介は片膝をついて私に靴を履かせ、両手で私の足首を包むように温めてくれた。

「満月、冷えたら俺が辛いから」

あの日と同じように、今夜も雨は私を骨の芯まで濡らし、風が吹くたびに体が震えた。

けれど今の蒼介は、もう私が寒いかどうかなど気にもかけていないのだろう。

自嘲するように笑い、スマホを取り出してタクシーを呼ぼうとした。だが水没していたスマホは、一瞬光を放っただけで完全に沈黙した。

ヒールは相変わらず側溝に挟まったまま、私はバス停に立って雨が止むのを待った。

どれくらい時間が経っただろうか。雨が少しずつ弱まっていく。

清掃員のおばさんが私を呼び止めた。

「あら、その靴、もういらないですか?」

私は小さく笑い、何にも縛られていない自分の足元を見下ろした。

「うん、もういらないんです」

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