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第2話

作者: 春野月
陽向は写真を家族のグループチャットに投稿した。あどけない声の裏に、濃い悪意が滲んでいた。

「ママのお腹のムカデ、気持ち悪いよね。なんでいつもみっともなく、葵さんのお気に入りの服を横取りするんだろ」

指先まで冷たくなるのを感じながら、私は隣の試着室から出てきた葵の姿を目にした。

彼女は私と同じ水着を着ていて、その体のラインは誰の目にも眩しいほど整っていた。

店内の視線が、一斉に彼女へ吸い寄せられる。

「うわ、スタイルよすぎない?肌も白くてきれいだし、ウエストのくびれもすごい。女神かよってレベルじゃん」

「その隣にいるの誰?お腹に妊娠線びっしりで、脇も黒ずんでて……ちょっと引くんだけど」

服を剥ぎ取られたような気分になって、私は縋るように蒼介を見た。

彼の視線は熱っぽく葵に注がれたまま、私の居たたまれなさになど気づきもしなかった。

親戚のグループLINEでは、母親のくせに色気を出すなんて恥さらしだと、私への攻撃が止まらなかった。

逃げるように試着室へ戻ると、涙が大粒でこぼれ落ちた。

陽向を産んでから、私はずっとお腹に残った妊娠線と傷跡を消す方法を探していた。深刻な体型不安に陥り、軽い抑うつ状態にまで陥っていたこともある。

あの頃、蒼介は「それは愛した証だ」と慰めてくれた。

物心ついたばかりの頃の陽向も、よく「世界で一番きれいなママだよ」と言って励ましてくれたものだった。

やっと塞がりかけていた傷が、再び生々しく引き裂かれる。息が詰まって苦しかった。

ドアの外から、蒼介と陽向の忍び笑いが聞こえてきた。

「前に親戚のグループで葵さんが物を散らかしたって叱られてたよな。今回、ママに恥をかかせたのはその仕返しってことで」

力が抜けて壁に寄りかかり、ずるずると座り込む。蒼介に呼ばれるまで、私はドアを開けられなかった。

店を出るとき、葵が挑発するように私を睨みながら、パンパンに膨らんだ紙袋を揺らしてみせた。

「お姉ちゃん、次から服買うときは先に聞いてよね。おそろいになったら気まずいでしょ」

陽向が噴き出すように笑い、我先にと葵の荷物を持とうとする。

蒼介が、おまけの粗末なパールのヘアピンを私に押しつけてきた。

「もう若い子じゃないんだから、少しは自分の体型がどんなものかくらい分かるだろ。

パールみたいな、丸くて上品なものの方がお前には似合う」

爪が手のひらに食い込む。私は込み上げる苦さを押し殺した。

パールが似合うんじゃない。蒼介の中で、私はもう「おまけ」で十分な存在なのだ。

葵が甘えるように蒼介の腕に絡みつき、こちらへ目配せしてくる。

「お姉ちゃん、私まだサングラス買ってないんだけど」

蒼介が私の手首を掴み、乱暴に後ろへ引っ張った。

「まだ帰るなよ、もう一軒あるから」

よろけた拍子に、腕を紙袋の鋭い縁で切ってしまった。

血がじわりと滲み出て、痛みに思わず顔を歪めた。

それでも蒼介と陽向は私を一瞥もせず、葵と一緒にモールへ引き返していった。

耳元でくぐもった小さな悲鳴がして、通りすがりの少女がバッグから絆創膏を取り出し、私に差し出してくれた。

「もしかして……三日月先生ですか?」

心の中に小さな波紋が広がる。戸惑いながらも、私は頷いた。

少女は興奮した様子で私を抱きしめた。

「先生の作品、全部見てます!大ファンなんです。

でも……もう八年も新作出してませんよね」

十年前、私は名の知れたプロの写真家だった。

私が撮る写真には、被写体それぞれがもつ独自の生命力が映し出されていた。

蒼介は私の作品に惚れ込み、あらゆる手を尽くして連絡先を探し当てた。

朝には花を、昼には手作りの弁当を、夕方には温かいココアを一杯届けてくれた。

その誠実さに心を動かされ、私は彼のプロポーズを受け入れた。

結婚後、彼の仕事は右肩上がりに軌道に乗り、私は家庭と外の世界の間を行き来する日々を送っていた。

だが陽向が生まれつき体が弱かったこともあり、私は専業主婦になることを余儀なくされ、それきりカメラに触れることもなくなった。

私が旅行の行き先として十六夜湖を譲らなかったのは、蒼介がかつて「二人が結ばれたこの場所で、ウェディングドレス着て、記念写真を撮ろう」と約束してくれていたからだ。

彼はその幸せへ向かう約束を忘れてしまった。だから私は、一人で歩き出すことにした。

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