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第9話

Author: 雨模様
遥の鼓動が、激しくなる。

「紗絵、一体何を考えて――」

言葉を言い終える前に、紗絵が仏間へと駆け込んだ。

仏壇には一年中蝋燭が灯されており、その周辺に置かれている仏具も、ほとんどが紙製や木製なので、火の粉が飛べばすぐに燃え上がるはずだ。

遥が追いた時には、すでに紗絵が供え物の燭台を倒したところだった。

周辺の仏具に火が移り、木枠のドアや障子もすぐさまに炎に包まれた。

炎が紗絵の顔を照らし、その温和に見えた素顔をゆがませる。

「狂ってる!」遥は消火しようと駆け寄ったが、濃い煙に咳き込んだ。

紗絵はただ笑っていた。

「ええ、もう狂ってるのかもしれません。だって、あなたがいるせいで、みんなは私をあなたと比べるんですもの。なぜなんですか?朔さんがずっと守ってるのは、明らかに私なのに……みんな、あなたを神宮寺家の嫁って言うんですから……」

そう言うと、紗絵は側にあった重たい銅の香炉を持ち上げ、遥の後頭部を目がけて叩きつけた。

突き抜けるような激痛が走る。

遥の意識はそこで途切れ、そのまま崩れ落ちた。

再び目を覚ますと、そこは屋敷の広間だった。

両手は縛られ、額の辺りがジンジンと痛む。あたりにはまだ焦げた臭いが残っていた。

正面には、顔色は青ざめさせた久美子が座っている。

「仏間に火をつけたのは誰だい!」

紗絵がここぞとばかりに泣き出した。

「遥さんです!彼女は神宮寺家から後継ぎのプレッシャーを受けるのが耐えられない……仏間も家訓も全部目障りだって言って……私は止めようとしたんです。でも、止められなくて……」

そんな紗絵を見ても、遥は不思議と怒りすら感じなかった。

遥は顔を上げ、煙を吸い込んだせいで枯れた声で告げる。

「仏間には監視カメラがありますよね?それを確認すれば、誰が火をつけたか、すぐに分かると思いますが」

久美子がすぐに執事を振り返る。

「監視カメラの映像を確認して」

紗絵の顔から血の気が一気に引いた。

紗絵は本能的に、そばにいた朔を見つめる。

遥も朔を見た。

もはや期待などしていなかった。

それでも、胸の奥で、小さな希望が顔を出す――

今度こそ、もしかしたら彼は真実を語ってくれるのでは?

朔は少し黙り込み、そして口を開いた。

「確認する必要はない」

その場の全員の視線が彼に集まる。

灯りの下に立つ朔の横顔は冷たく、その声は一切の私情を排したように淡々としていた。

「騒ぎがあった時、俺はちょうど仏間の横を通りかかったから、一部始終を見ていた。

火をつけたのは、遥だ」

その瞬間、遥の息が止まる。

朔が紗絵の肩を持つことは分かっていたし、紗絵をかばうことも分かっていた。

しかし、監視カメラという証拠がある状況で、躊躇いもなく自分に罪を被せるとは思ってもみなかった。

「朔」朔を見つめ、震える声で尋ねる。「もう一度言って」

朔は遥から視線をそらした。

「火をつけたのは、お前だ」

その言葉が、遥の中に残っていた最後の心を粉々に砕く。

久美子も怒りに震え始めた。

「遥!あんたってやつは!病院では騒ぎ、紗絵には薬を盛り、挙句には仏間まで燃やすなんて!北条家がついているからって、調子に乗るんじゃないよ」

久美子は手に持っていた数珠を強く握る。

「中庭に引きずり出しておしまい!そこで一晩中反省させるんだよ!私の許しがない限り、毛布もストーブも渡しちゃならないからね」

遥が中庭に引きずり出された頃には、かなり雪が激しくなっていた。

石畳が刃のように冷たい。強制的に白砂の上に正座させられた。袖口や襟元からは冷風が流れ込み、骨の髄から冷えていく。

しかし、屋敷の中には暖かく、明るい光が灯っていた。

そして障子の向こうでは、朔が紗絵を慰めている影がゆらめいている。

紗絵の肩に置かれた彼の手は、まるで壊れ物を扱うように優しげで。

それに引き換え、自分は……

まるで、雪の中に投げ出された罪人のようではないか。

それでも、時はゆっくりと過ぎていく。

抜糸前の手のひらの傷口は寒さで痛み、先ほど紗絵に殴られた額の血は乾いて固まっていた。

だが、そんなことはもうどうでもいい。

心がもう本当に冷めきってしまっていたのだ。

夜も更けた頃、ついに支えきれず、遥は雪の中に倒れ込んでしまった。

再び目が覚めた時、そこはいつもの病院だった。

いつもの消毒液の臭い。

そして、いつものように朔がベッドの側に座っている。

朔は遥の青白い顔を見つめ、数秒沈黙した後、低い声で言った。

「今回のことは、忘れるなよ」
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