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第2話

Autor: エリート南の町
真佑は毎日、私を騙し続けている。ホルモン剤を栄養剤だと偽って飲ませているのだ。

かつて私は、心から彼の子供を望んでいた。どんなに薬があっても、希望に満ちた笑顔で飲み込んできた。

今思えば、なんて愚かだったのだろうか。

私は顔を上げ、うつろな瞳で真佑を見つめた。

「私、もう死ぬのかしら。本当のことを教えて。あとどのくらい生きられるの?」

常に沈着冷静な彼の顔に、微かな動揺が走った。彼は突然私を抱きしめ、絞り出すような声を出した。

「馬鹿なことを言うな。君はこれからもずっと、俺のそばにいるんだ」

彼の愛の言葉は、いつだって甘く響く。

この二年間、私が妊娠の話をするたびに、彼は「君に苦労をかけたくないから」と優しく微笑んでいた。

私が子供を産めない体だと知りながら、毎日大量の薬を飲み、苦労を重ね、家族三人の幸せな夢を見ている私を、彼はどんな気持ちで見つめていたのか。

――いいわ。子供がいないなら、私たちを繋ぎ止める絆は何もない。

何ひとつ未練を残さず、彼のもとを去ることができる。

眠りにつく前、真佑は取り憑かれたかのように私を求め、何度も死ぬという言葉を口にするなと命じた。

私は人形のようにそれを受け入れた。すべてが終わり、隣で真佑が眠りについたのを確認すると、ナイトテーブルに置かれた彼のスマホを手に取り、浴室へと向かった。

ロック画面のパスワードは私の誕生日。だからこそ、私は一度も彼のスマホを見たことがなかった。彼は、私のそんな考えを見越していたのだろう。

ラインを開くと、私は凍りついた。妹の菜々美の登録名が「なな」になっていた。

なな。

それは、真佑がベッドの中で私を抱きしめながら、耳元で熱っぽく囁いていた名前だ。

彼は一度も私を呼んだことはなかった。ただ、私を菜々美の代わりとして抱き、自分を慰めていただけだったのだ。

――なんて滑稽な話だろう。

震える指先でチャット履歴を遡った。

私がホルモン剤の副作用で日々吐き気に苦しんでいた時、彼は菜々美のために「ななチャリティー基金」を設立していた。善行を重ねることで、彼女の余生が健やかであるよう願って。

――彼女のために善行を重ねる?それならば、私に対して犯したこの大罪の報いを、一体どう精算するつもりなのか。

目から涙が溢れ、床に滴り落ちた。私は唇を噛み締め、彼らのチャット履歴を一枚一枚スクリーンショットに収めた。心はすでに痛みすら感じないほど麻痺している。

翌日、私はすぐに別の病院で精密検査を受けた。

医師は私の検査結果報告書を見て、深く眉をひそめた。

「岩田奈々子(いわた ななこ)様、これまでに何度手術を受けましたか?片方の肺と腎臓がありません。また、肝臓にも損傷が見られます」

私は自嘲気味に笑った。

「何度も、自分でも数えきれないくらいです。先生、私はあとどのくらい生きられますか?」

医師は明確な答えを避け、ただ溜息をついて、「気楽に暮らし、あまり悩みすぎないようにしてください」と諭した。

病院を出た私は、真佑の会社へ向かった。正式に離婚を切り出すためだ。

受付のスタッフに呼び止められ、私は「社長の岩田真佑の妻です」と告げた。

スタッフは蔑むような視線を私に向けた。

「奥様になりたがる人は山ほどいますけれど、鏡を見てごらんなさい。あなたのような人が奥様を名乗るなんて。本物の奥様は今、上で岩田社長と一緒にいらっしゃいますよ」

心臓が締め付けられた。その場で真佑に電話をかけたが、一度も繋がらなかった。

スタッフの嘲笑はさらに深まった。

私はロビーで静かに待ち続けていた。夜も更け、エレベーターから菜々美を抱きかかえて降りてくる真佑の姿が見えた。

目が合った瞬間、彼は気まずそうに表情を強張らせた。

「君……どうしてここに?その、菜々美が足を挫いてしまって。妊婦だから無理はさせられないだろう。だから助けてたんだ」

菜々美は真佑の腕の中で、しおらしく微笑んだ。

「奈々子、ごめんなさい。主人が海外出張中なので、旦那さんをちょっとお借りしちゃった」

頭の中には「妊婦」という二文字だけが響いている。

菜々美は私の臓器を使って妊娠したのだ。

胸の奥を、ナイフで抉られるような激痛が走り、息が止まりそうになった。

「真佑、話があるの」

「話なら後にしてくれ。菜々美はお腹が空いてる。まずは君たちの実家へ行って、お義母さんと一緒に食事をしよう」

……

実家では、母が菜々美の妊娠を祝うために、彼女の好物をずらりと並べていた。

菜々美が鼻を押さえ、食欲がないとこぼすと、真佑は「奈々子の世話を担当してる使用人を、菜々美のところへ行かせよう」と提案した。

菜々美は口角を微かに上げ、私を指差した。

「やめてよ。ほら、奈々子が不機嫌そうだよ。私のせいであなたたちが喧嘩するのは見たくないもの」

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