LOGIN結婚式の日、ちょうど指輪を交換しようとした時だった。 突然一人の女が駆け寄り、手に持ったナイフで藤堂清也(とうどう せいや)を突き刺そうとした。 藤堂雪乃(とうどう ゆきの)は反射的に身を翻し、清也を庇った。 ナイフが胸に刺さった瞬間、雪乃の身体から力が抜け、そのまま清也の腕の中へ崩れ落ちた。 突き飛ばされた女は、声を振り絞って叫んだ。 「清也、私たちの決着はまだついてない!何が結婚よ!?」 雪乃は、その女が6年前に清也と絶縁した篠原莉子(しのはら りこ)だと悟った。 騒然とする中、押さえつけられていた莉子は突然暴れ出し、その刃先を自分の首に向けた。 「清也、もう疲れたわ。二人の縁も、ここで終わりにしてやる」 雪乃を抱えていた清也は瞳を見開いて手を離すと、莉子のもとへ駆け寄り、素手でナイフを掴み止めた。 その勢いで、雪乃は硬い地面に強く叩きつけられた。 胸からの血が、純白のドレスを真っ赤に染め上げていく。 清也は莉子を強く抱きしめ、傷つけまいとその身を庇っていた。 そして、情緒不安定で気を失った莉子を抱き上げ、目の前を急ぎ足で通り過ぎる清也を見る。 最初から最後まで、清也が自分を振り返ることは一度もなかった。
View More雪乃はやっと振り返り、清也を見た。「清也、あなたを愛していた雪乃は、3年前のあの結婚式で、あなたと篠原さんに殺されたのよ。覚えていないの?」清也はよろよろと一歩後ずさり、何かを言おうとしたが、声は出なかった。「復讐なんてしない。でも許すこともないわ」雪乃の声は静かだった。「今のあなたに、私の人生に関わる資格なんてないもの」清也は魂が抜けたような姿で、病室を後にした。窓の外では雨がやみ、村の復興工事が始まっていた。清也は振り返り、病室の中で笑い合う二人を見て、雪乃を本当に失ったのだと悟った。数日後、清也はこの村を去った。帰宅後、彼は僻地の医療と教育を支援するチャリティー団体を立ち上げた。財産の大部分を団体に投入し、自身はただのボランティアとして、貧困地域を転々と渡り歩いた。しばらくして、雪乃と悠が村で小さな結婚式を挙げたという噂を耳にした。清也は雪乃のネックレスを自分の首にかけ、ペンダントの横にはかつての二人のエンゲージリングを添えていた。戻ってきてから調べさせた悠は、元国際対テロ特殊部隊にいた信頼できる人だった。雪乃を護れる力があるのなら、こっちはただ二人を祝福するだけだ。……2年後、ある僻地でボランティアをしていた清也のもとに、病院から連絡が入った。莉子の容体が急変した、という知らせだった。清也は急いで病院へ駆けつけたが、莉子のバイタルサインはすでに著しく低下していた。医師によれば、これまで持ったのは奇跡的であり、何か執念のようなものに支えられていたのかもしれないという。清也はベッドの脇に座り、じっと莉子を見つめた。「莉子、俺たちの因縁ももう終わりだ。もう君を恨んではいない。確かに、もう愛してもいない。もちろん、雪乃だって俺を愛してはいない。俺たちは長すぎた痛みの中で、周囲の人々を傷つけすぎた。もう罰は受けたはずだ。自分を許してやろう」清也の言葉を聞いた瞬間、心電モニターの波形が大きく跳ねた。閉じた莉子の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。やがて、心電モニターが長い音を奏で、直線へと変わった。清也は静かに病室を後にした。窓の外は、晴れやかな空が広がっていた。数年後、雪乃は悠との幸せな家庭を築き、国内で有名な医療専門家になっていた。雪乃は仲間と共に村の医療
雪乃が目を覚ますと、すぐそばに清也が付き添っていた。記憶の波が3年間の平穏を打ち砕き、過去の記憶が昨日のことのように鮮明に蘇る。「雪乃、大丈夫か……」清也は雪乃の目覚めに狂喜したが、その目に宿る憎悪を見て言葉を失った。「村を助けてくれてありがとう」口調にはこれまでの警戒心とは違い、氷のような冷徹さがあった。その態度に清也は底なしの淵へ突き落とされた気分になり、声を震わせた。「雪乃……すべて思い出したのか?」雪乃は清也に見向きもせず、何も語ろうとはしなかった。清也は無意識に雪乃の腕を掴んだ。「雪乃、すまない。話を聞いてくれ……」雪乃は冷静に手を振り払うと、無言のままベッドを降りて去ろうとした。清也の手が空中で止まり、喉が締め付けられた。恐ろしさと痛みが混ざり合い、息ができなくなる。一方、雪乃は悠の病室へ向かい、その傍らに座って彼の手を握り、静かに見守っていた。部屋の外からその光景を覗き見ていた清也の心は、ナイフで抉られたように痛んだ。ほどなくして悠が目を覚ますと、雪乃はすぐに駆け寄り、状態を診察した。目の下に隈を作った雪乃の姿に気づいた悠が、その頬に愛おしそうに手を触れる。「また休んでいなかったのか?ひどく疲れているじゃないか?」雪乃は悠に微笑んだが、途端に胸が熱くなり、瞳を潤ませた。それは、清也が今まで見たことのない、あどけない温かな笑顔だった。心の動揺を隠せないまま、清也はドアノブに手をかけた。ちょうど雪乃のささやく声が聞こえてくる。「悠、良くなったら、私たち結婚しよう」驚きに目を見開いた悠は、深く頷きながら雪乃の手を握り返した。清也の脳内で、理性の糸が完全に切れた。「ダメだ!」勢いよくドアを蹴り開けると、清也の目は怒りで充血していた。嫉妬で理性を失い、彼は悠を指さしながら雪乃に詰め寄る。「こいつがどれだけ君を騙してきたか知っているのか?こいつの住まいで特殊な衛星通信機を見つけた。辺境の山村で教えている教師が、そんな物を持っているわけがないだろう?」雪乃は驚く様子もなく、冷ややかに清也を無視した。「ええ、知っているわ。悠からすべて聞いたの」雪乃の顔には、悠に向けた幸福に満ちた笑みがあった。「悠は嘘をつかない。もし秘密があっても、必ずそれなりの理由
少し離れた場所で手伝っていた清也が、村人が慌てふためいて駆け寄ってくるのを目にした。「大変です!佐伯先生が……佐伯先生が人を助けようとして、岩の下敷きになりました!」清也は心臓が跳ね上がるような衝撃を受け、即座に指示を出すと、現場へ急行して村人たちと一緒に悠を押し潰していた巨岩をどかした。「担架だ!急げ!」彼らは悠を慎重に担架に乗せ、全力で診療所へ運び込んだ。診療所の中に運び込まれた悠の姿を見た雪乃は、その場に立ち尽くした。つい先ほどまで話していた相手が、今は全身を血に染めて横たわっている。「悠!」雪乃は駆け寄り、震える手で悠の頚動脈を探った。まだ、鼓動はある。無理やり心を落ち着かせ、雪乃は迅速に傷を確認した。「肋骨を何箇所か骨折していて、すぐに手術が必要」雪乃の言葉に、周囲は静まり返った。手術?最低限の薬すら尽きかけているこの場所で、どうやって手術をするというのか?弱まっていく悠の呼吸を前に、雪乃の声は涙で震えた。「手術なんて無理……機材も麻酔もない、血液も……救えない……」清也は崩れ落ちそうな雪乃の姿を見て、それから悠の容態を見やった。先ほど悠の家の前を通った際、彼が電話をかけていた姿が清也の頭をよぎった。通信機器はすべて故障していたはずなのに、見間違いだろうかと当時は思ったが。その時、ある可能性が脳裏をよぎった。清也は駆け寄って雪乃の肩を支えた。「耐えるんだ。俺が何とかする」そう言うと、清也は診療所を飛び出し、悠の住居へと一直線に向かった。ドアを開けると、机の上にプラスチックの袋が置いてあり、中には衛星通信機が入っていた。清也は迷わず、和真へ連絡を入れた。「ありとあらゆる手段を使え。ヘリで最速で医療隊と手術セット、血液、そして薬を送ってくれ」……雪乃は懸命に応急処置を続けた。しかし、悠の生命反応が次第に弱まっていくのを前に、立ち尽くすことしかできなかった。雨音を切り裂き、ヘリの音が近づいてきた。「ヘリコプターだ!」一人の村人がドアから飛び出し、空を指さして信じられないという様子で叫んだ。サーチライトが暗闇を射抜き、十数機のヘリが村の上空で旋回している。悠と清也がそれぞれ要請した救助が同時に到着したのだ。村人たちから、助かった喜
あの女は一体、誰なの?また頭が痛み出し、雪乃は頭を振って考えるのをやめた。窓の外を見ると、激しい雨が窓を叩き、今にもガラスを粉々に砕いてしまいそうだった。風は唸り声を上げ、木々が折れる不穏な音が重なる。世界全体が、この猛烈な嵐の中で崩れ去るかのようだった。ゴロゴロ!轟音とともに雷鳴が夜空を引き裂き、山壁の険しい表情を浮かび上がらせる。雪乃の心臓が激しく波打ち、強烈な胸騒ぎに襲われた。ほぼ同時刻、村の広報スピーカーが鳴り響く。「山津波発生!全員避難せよ、急いで高台へ向かえ!」その言葉が終わらぬうちに、大地が大きく揺れ動いた。雪乃は足元が激しく揺れ、立っていられなくなる。窓枠を掴み必死で耐える中、目の前では泥流が家屋を紙細工のように押し流し、次々と飲み込んでいくのが見えた。「雪乃!」部屋のドアが激しく開き、悠が飛び込んできて雪乃の手を強く握り締めた。「診療所へ行こう、あそこが一番高いんだ」雪乃は正気を取り戻すと、悠に引きずられるように土砂降りの外へと駆け出した。泥水が足首まで迫り、冷気が骨まで凍みる。雪乃はよろめいて転びそうになった。それを見た悠はすぐさま雪乃をおぶい、泥に足を取られながらも必死で診療所へと走った。「他のみんなも助けなきゃならない」診療所に辿り着き雪乃を下ろすと、悠はまた振り向いて嵐の中へ駆け戻っていく。「気をつけて!」悠が嵐の中に消えていくのを確認し、雪乃はすぐさま医療用ガウンを着込んだ。まもなく負傷者が次々と運び込まれるはずだ。今のうちに準備を整えておかなければならない。それから間もなく、怪我をした村人たちが次々と運ばれ、診療所の中はたちまち人で溢れかえった。「小林先生!壁が崩れて妻の腕が折れちまったんです!」「小林先生!息子の頭が……」雪乃はすぐさま懸命に救命処置を始めた。しかし、あまりにも負傷者が多すぎる。診療所にあった備蓄品や医薬品は、目に見える速さで消えていく。その時、脚を鋭い枝で貫かれた男性が担ぎ込まれてきた。血は止まらず、顔色は青ざめ始めている。雪乃は心中穏やかではなかったが、すぐさま応急処置を施した。村長に向かって、雪乃は尋ねた。「村長!外と連絡は取れますか?ここはもう限界です。この人……すぐ輸血しないと手遅れにな
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