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第183話

Author: 春うらら
結衣が部屋に入ってきてから、静江はずっと怒りを抑えていた。しかし、結衣はますます態度を悪化させ、何度も自分たちの顔に泥を塗ってくる。

これ以上我慢したら、憤死してしまう。

結衣は頷いた。

「静江さん、その通りです。わざとあなたたちを不快にさせています。だって、先に私を不快にさせて、無理やりこの食事に来させたのは、あなたたちではありませんか」

静江はもう一刻も結衣の顔を見たくなかった。これほど憎らしい人間が、自分の実の娘だと思うだけで、うんざりする。

立ち上がって席を立とうとしたが、隣にいた明輝が冷たく彼女を一瞥した。

「座れ。お客様がまだいらっしゃるのに、席を立つとはどういうことだ!」

静江は立ったまま動かなかったが、数秒後、かろうじて怒りを抑え込み、再び席に着いた。

結衣はご飯を二、三口かき込むと、席を立とうとした。その時、明輝が口を開いた。

「結衣、今日お前を呼んだのは、長谷川さんとの結婚について話すためだ」

結衣の立ち上がる動きが止まり、顔を上げて明輝を見た。

「私がいつ、彼と結婚するなんて言いましたか?」

「彼と八年も付き合って、彼と結婚しないで誰と結婚するつもりだ?」

「誰とでもいいです。とにかく、彼とだけは絶対に結婚しません」

明輝は彼女がただ腹立ち紛れに言っているだけだと思い、全く意に介さなかった。

結衣が涼介と別れた理由は、以前、涼介から聞いていた。ただ涼介が外に女を作ったというだけで、大したことではない。

上流階級の男で、外に女を囲っていない者などいるものか。家にまで騒ぎを持ち込まない限り、見て見ぬふりをすればいいだけだ。

「結婚とは本来、親が決めるものだ。

以前、我々がお前と彼が付き合うことに反対したのは、まだ若すぎると感じたし、長谷川さんも当時は安定した事業を持っていなかったからだ。

今や彼は起業に成功したのだから、お前たちの結婚もそろそろ具体的に進めるべきだろう」

結衣は笑った。

要するに、当時は涼介が何の取り柄もない貧乏学生だったから、反対しただけじゃない。

もし涼介が長谷川家の隠し子ではなく、どこかの財閥の跡取りでもあったなら、彼らはきっと大喜びで、その日のうちにでも彼女を嫁がせたことだろう。

「そんなに長谷川さんと縁を結びたいなら、汐見家にはもう一人娘がいるじゃありませんか。

満の親孝行な
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Comments (1)
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千恵
偉そうに何をほざいてんだ?この男!! 何年も浮気して 結衣を虐げた行動してたよね? 復縁出来ると思ってんの? 頭イカれてる
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