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第229話

Author: 春うらら
「今や汐見家は他の三大家族に大きく遅れを取っています。この数年で多くの新興企業も台頭してきました。このままでは、汐見家はいずれ他の三大家族に完全に引き離されてしまいますよ」

時子は冷笑した。

「あの子も賢いものね。そんな方法を考えつくなんて。そうすれば、わたくしが汐見家の大局を考えて、あの子の入社を認めるとでも思ったのかしら?」

明輝は眉をひそめた。

「母さん、満のことをそんなに悪く言わないでください。あの子だって、会社のためを思ってのことなんですから」

「会社のためですって?会社のためなら、華山グループを丸め込んで、契約は彼女としか結ばず、今後のやり取りも彼女が担当すると言わせられるとでも?わたくしを馬鹿だと思わないでちょうだい!」

時子の顔が暗く沈む。満の野心がこれほど大きいとは思ってもみなかった。今、会社に入社して、次の一手は株を要求することかしら?

「母さん、満は元々、静江の弟の会社と入社契約を結んで、もうすぐ入社する予定だったんです。ところが、華山グループ側が突然、彼女と契約したいと申し出てきた。

もし満を信用できないなら、適当な役職を与えて、この提携が終わったら、また辞めさせればいいじゃないですか」

結衣が客間に入ってきた。彼女の姿を見て、明輝の目に不快な色がよぎる。結衣が涼介を拒絶した件で、彼は今、結衣にひどく不満を抱いていた。

汐見家の娘でありながら、家に何の利益ももたらさず、わがままに振る舞い、自分のことしか考えない。極めて利己的だ!

今や涼介は秘書と結婚するという。フロンティア・テックとの提携も、おそらくご破算になるだろう。そう考えると、明輝は不機嫌そうに言った。

「お前は、ここに何をしに来たんだ?!」

時子は冷ややかに彼を一瞥した。

「わたくしが来させたのよ。あなたに何の関係があるの?この本家が、いつからあなたの思い通りになる場所になったというの?」

明輝は言葉に詰まり、その顔はさらに険しくなった。

「もういいわ。お帰りなさい。この件は少し考えさせて。考えがまとまったら電話するから」

時子が折れたのを見て、明輝もそれ以上は追及せず、立ち上がって言った。

「分かりました。ですが、華山グループの方々は清澄市に数日しか滞在されません。できるだけ早くお考えください。

この機会を逃せば、汐見グループがいつ他の三大家族
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