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第235話

Author: 春うらら
「ええ、事務所で何か解決できないことがあったら、直接電話してちょうだい」

「はい、分かりました」

拓海が去った後、結衣はほむらの方を向いた。

「ほむらも帰っていいよ。この二日間、お疲れ様。もう目も覚めたし、ずっとそばにいてもらわなくても大丈夫だから」

「君一人じゃ心配だ」

「平気よ。それに、ゆっくり休みたいし、ほむらがここにいると……かえって休めないかもしれない」

ほむらは思わず笑みをこぼした。

「分かった。じゃあ、何か食べたいものはあるかい?毎日、食事を届けに来るよ」

「いいえ、結構です。この数日間は、病院の食事で大丈夫ですから」

ほむらは彼女を深く見つめた。

「本当に?」

「ええ」

「分かった。じゃあ、先に帰るよ。どこか具合が悪くなったら、すぐにナースコールを押すんだ」

ほむらが去った後、病室は完全に静まり返った。

結衣はあくびを一つすると、横になって少し眠ることにした。

一眠りして目覚めると、もう夕方だった。

目覚めたばかりの時の吐き気やめまいはかなり和らいでおり、結衣は起き上がって洗面所へ向かった。

まだ少し頭がふらつくので、彼女の動きはとてもゆっくりだった。

ちょうど洗面を終えたところで、看護師が夕食を運んできた。

「汐見さん、こちらが本日の夕食です。もし足りなければ、ナースコールでお呼びください」

「はい、ありがとうございます」

結衣はトレーを受け取り、ソファのそばに腰を下ろした。

じゃがいもの細切り炒めを箸でつまんで一口食べ、結衣は眉をひそめた。諦めきれず、他のいくつかのおかずも試してみる。

最後の一品を味わい終えた後、結衣は箸を置いた。

道理で今日、病院の食事でいいと言った時のほむらの表情が、どこかおかしかったわけだ。今、ようやくその理由が分かった。

どうしてこんなに不味いものが作れるのだろう?

食べ物を無駄にしないことを信条としている彼女でさえ、喉を通らないほどだった。どれほど不味いか、想像に難くない。

結衣は食事に蓋をし、しばらくためらったが、やはりゴミ箱には捨てず、後で本当にお腹が空いてどうしようもなくなったら食べようと決めた。

ベッドに戻り、休もうとした、まさにその時。病室のドアが勢いよく開けられ、詩織が慌ただしく入ってきた。

「結衣、事故で入院したなんてどうして教えてくれなかったのよ
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