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第53話
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秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第100話
ほむらは彼の言葉を無視し、単刀直入に言った。「友人に弁護士がいるんだが、経験豊富で、今日勤め先の事務所を辞めたばかりなんだ。そっちで離婚弁護士は足りてるか？」「足りてないわけじゃないが、一人増えたところでどうってこともない。お前にわざわざ電話させるなんて、珍しいな。男か？女か？」「女性だ」相手はそれを聞いて、途端に興奮した。「ほう、彼女か？」ほむらの喉仏が上下し、声が一段と低くなった。「違う」「じゃあ、まだ口説いてる最中ってわけか？女を口説くのに、俺を利用して恩を売ろうってのに、見返りもなしか？少し薄情すぎないか？」ほむらはソファに寄りかかり、気だるそうな姿勢で言った。「何が望みだ？」「お前の車庫にある、あの限定版のカリナンを貸してくれ」「贈ってやる」「本気か？！」相手の声が急に高くなり、その口調には信じられないという響きがあった。何しろ、以前ほむらのところへ行った時、あの車に触ろうとしても触らせてもくれなかったのだ。それが今、くれてやると？どうやら、あの女性に本気らしいな！「明日取りに来い。そうだ、彼女には僕たちが知り合いだとは言うな。あの子は、人に借りを作るのが嫌いなんだ」相手は軽く笑った。「そこまで考えてるなんて、本気なんだな？」ほむらは答えず、電話を切った。一方、電話を切られた男はスマホを置き、金縁の眼鏡の奥の双眸が好奇心にきらめいた。あの氷のほむらが本気になるなんて、一体どんな女性なのか、本当に興味がある。そう思っていると、スマホが鳴り、ほむらから相手の個人情報が送られてきた。「汐見結衣」という名前を見て、男の口元の笑みが固まった。彼は信じられないというように目を見開き、ほむらが送ってきたのが間違いなく「汐見結衣」という名前であることを再三確認し、ようやく現実を受け入れた。ほむらが誰を好きになろうと勝手だが……よりによってこの女を好きになるなんて！以前、裁判所で何度か結衣とやり合ったが、法廷ではいつもやり込められてぐうの音も出なかった。今思い出しても、まだ恥ずかしい……最初は、ただの弁護士一人を事務所に入れるだけで、ほむらの限定版カリナンと交換なんて、ちょっと申し訳ない気もしてたけど、今はもう全然そんなこと思わないな。あれは手
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第99話
ほむらは結衣が抱えている箱を見て、目に意外の色を浮かべた。「退職したのか？」結衣は頷いた。「まあ、そんなところね」「じゃあ、近いうちに新しい仕事を探すつもりは？」「まだよ。しばらく休んでから考えますわ」涼介とのことが完全に片付くまでは、どんな仕事を探したって、涼介がきっと邪魔をしてくるだろう。それに、渉が大学院に進むのもいいと言っていた。そのことも考えている。大学時代、結衣は専門科目の成績が優秀で、本来なら推薦で大学院に進学できた。しかし、涼介がずっと起業準備をしていて資金が必要だったため、卒業後は就職し、彼の夢のために資金を稼いだのだ。大学院に進学できなかったことはずっと彼女の心残りだった。ちょうど今、その機会が巡ってきたので、このまま仕事を続けるか、大学院入試を受けるか、じっくり考えようと思っていた。「そうか。いくつか法律事務所の責任者と知り合いなんだ。仕事を探すなら、紹介できるよ」結衣は彼を見た。「ほむらさん、ありがとう」しかし、ほむらに頼るつもりはなかった。彼に迷惑をかけたくなかったのだ。涼介の性格からして、今回は簡単に仕事を見つけさせてはくれないだろう。ほむらも結衣が本気にしていないことを見抜き、それ以上その話題には触れず、彼女の手から段ボール箱を受け取って後部座席に置くと、車を発進させた。四十分ほどして、ほむらの車が結衣のマンションの前に停まった。車の窓越しに、二人は涼介の車が少し離れた場所に停まっているのを見た。ほむらの眼差しがわずかに冷たくなり、低い声で言った。「上まで送るよ」「いいえ、大丈夫。ちょうど彼に話がありますから。送ってくれてありがとう」ほむらはハンドルを握る手をゆっくりと固くしたが、何も言わなかった。結衣は彼の異変に気づかず、車を降りて後部座席のドアを開け、自分の箱を抱え下ろすと、ゆっくりとマンションの棟の入口へと向かった。棟の入口まで数歩というところで、涼介に行く手を阻まれた。結衣が手にしている段ボール箱を見て、涼介の眼差しが沈んだ。「退職したのか？」たかがネットの投稿一つで、退職するほどのことか？結衣は無表情で顔を上げた。「これがあなたの望んだ結果でしょう？」涼介は眉をひそめた。「結衣、どういう意味だ？ネット
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第98話
「奥様、お嬢様が出ていらっしゃいました」静江は目を凝らして見ると、果たして結衣の姿が見えた。結衣は段ボール箱を抱え、ゆっくりと歩いている。この様子では、おそらくクビになったのだろう。なんて役立たずなのかしら！麻雀の仲間にこの子がクビになった話が知れたら、きっと陰でどんな笑いものにされることか。静江は怒りを抑え、ドアを開けて結衣の前に歩み寄った。「さっき電話では随分と口が達者だったじゃないの。どれだけ立派だと思ったら、あっという間にクビになるなんて。汐見家の顔に泥を塗る以外、あなたに何ができるというの？！」静江がこんなに長く外で待っているとは思わず、結衣の目に一瞬驚きがよぎったが、すぐにその瞳は冷淡なものに変わった。「静江さん、改めて申し上げる必要がありますか？私と汐見家はもう縁を切ったはずでしょう。ご心配なく、私が恥をかいたとしても、汐見家に関係ありませんから。他にご用がないのでしたら、どうか道を開けてください。邪魔ですので」静江の顔が険しくなった。「血の繋がりが、あなたが断ち切ると言えば本当に断ち切れるとでも思っているの？ネット上のあなたのあの悪い噂のせいで、今ごろ誰もが汐見家の笑い話にしているんじゃないの？！」「それは汐見家のことであって、私には関係ないことでしょう」結衣が静江を避けて歩き出すと、静江に腕を掴まれ、その拍子に箱が地面に落ち、中身が一瞬にして散らばってしまった。さすがの静江もこうなるとは思わず、一瞬顔がこわばり、無意識に結衣の手を放した。結衣は静江を見ようともせず、しゃがんで地面に散らばった物を一つ一つ拾い始めた。静江は歯を食いしばって、不機嫌そうに言った。「ただのガラクタなのに、拾う価値があるの？！」書類を拾う結衣の手が一瞬止まったが、すぐに無表情で拾い続けた。静江にとって、地面に散らばったこれらの物どころか、結衣自身も、人生における拭い去れない汚点に過ぎないのだ。それなのに、皮肉なことに、二人の間には最も近しい血の繋がりがあり、それを断ち切ることはできない。時々、結衣は願ってしまうのだ。もし汐見家の人々が満が取り違えられた子供だと気づかず、自分を探しに来なければ良かったのに、と。そうすれば、あんなにも余計な期待を抱くことも、何度も失望し、悲しい思
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第97話
退職手続きを済ませると、もうすぐ六時だった。結衣はパソコンの電源を落とし、拓海と奈緒に声をかけると、段ボール箱を抱えて事務所を出ようとした。拓海が追いかけてきた。「汐見先生、下まで送りますよ」「いいのよ、大した荷物じゃないから。あなたはこれからしっかり仕事して、早く一人で案件を受けられるようになりなさい」「はい」拓海は何か言いたげに躊躇していたが、その時、エレベーターが到着した。結衣は彼を見上げて言った。「じゃあ、お先に行くわね。またね」「汐見先生……」拓海の言葉が終わらないうちに、少し離れたところから杏が突然彼を呼んだ。「柏木先生、金森先生がお呼びです」ちょうどその時、結衣もエレベーターに乗り込んだ。一階のボタンを押すと、彼女は笑顔で拓海に手を振った。「もういいわよ。金森先生が呼んでるんでしょ、早く行きなさい」エレベーターのドアがゆっくりと閉まっていくのを見つめる拓海の顔に、一瞬、挫折感がよぎった。金森おじさん、どうしてよりによってこんな時に俺を呼ぶんだよ。せっかく勇気を振り絞ったというのに、杏のあの一言で、それもあっという間に消え失せてしまった。次に会う時まで待つしかないな。彼は踵を返し、執務室のドアの前まで行くと、ノックして中に入った。「金森おじさん、何か用？」その口調から、渉は拓海が自分に対してかなり不満を抱いていることを聞き取った。「どうしたんだ？私が何か君の気に障ることでもしたか？」拓海は不機嫌そうに唇を尖らせた。「分かってるくせに。汐見先生の下で働き始めてまだ数日なのに、彼女、辞めちゃったじゃない。これから俺はどうすればいい？」「だからこそ、君を呼んでこの件を解決しようとしているんじゃないか。これからは奈緒につくといい。奈緒も経験豊富だし、民事事件なら何でも受ける。彼女につくのも悪くない選択だと思うぞ」「どっちでもいいですよ。どうせこの事務所もその程度なんでしょ。事務所で一番腕の立つ弁護士さえ守れないんだから」彼のぼやく声は大きすぎも小さすぎもせず、ちょうど渉の耳に届いた。渉は少し困ったように言った。「この小さな事務所が万能だとでも思っているのか？」涼介を怒らせでもしたら、この事務所はもうやっていけなくなる。彼だって結衣に辞め
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第96話
拓海が立ち上がって執務室へ向かおうとするのを見て、結衣は慌てて彼を引き止めた。「拓海くん、声を落として。このことは金森先生には関係ないわ。先生のところへ行っても無駄よ」「でも、汐見先生は何も悪いことしてないじゃないですか！どうして辞めなきゃいけないんですか！」「とにかく座って」拓海は一瞬ためらったが、それでも素直に聞き入れて腰を下ろした。「金森先生のところへは行かないで。先生も板挟みで辛い立場なのよ。それに、私が辞めるのは、私の個人的な事情が仕事に影響したからで、金森先生のせいじゃないわ」「汐見先生が辞めてしまったら、事務所で俺を指導してくれる弁護士がいなくなっちゃいますよ。もう少し待ってください、きっと何か別の方法がありますって」いざとなったら、自分は恥を忍んで父さん母さんに頼み込んででも……「他の先生方もとても優秀よ。それに、金森先生は知り合いの弁護士が多いから、きっとすぐに新しい指導役の先生を見つけてくれるわ」「嫌です。汐見先生に指導してもらいたいんです」拓海の拗ねたような顔を見て、結衣は思わず微笑んだ。「もう、分かった、分かったから。一時的に辞めるだけで、この業界から完全に足を洗うわけじゃないのよ。これからだってきっと会えるし、もしかしたら、そう遠くないうちに、また戻ってくるかもしれないわ」「子供扱いして、ごまかしてるだけじゃないですか？」「さあ、私は荷物をまとめないと。どの先生についてもらいたいか考えて、後で金森先生に相談してみなさい」拓海は不承不承頷いた。「分かりました……こんなことなら、髪、黒く染め戻さなきゃよかった」結衣は思わず首を横に振った。この話し方、本当に子供みたいだわ。結衣はそれ以上何も言わず、荷物をまとめ始めた。奈緒が会議から戻ってくると、結衣の机の上がほとんどもぬけの殻になっているのに気づき、顔色を変えて慌ててどういうことか尋ねた。結衣が退職することを伝えると、奈緒は憤慨した。「長谷川涼介って、頭おかしいんじゃないの？！別れたくせに、狂犬みたいにしつこく付きまとって！それでも男なの？！」「奈緒さん、私が辞めた後、拓海くんのことをお願いね。あの子は賢いから、将来きっと優秀な弁護士になるわ」奈緒は呆れたように結衣を一瞥した。「自分のこと
秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座！？ 第95話
「あんた！」静江は怒りで顔を真っ青にさせたが、次の瞬間には冷笑を浮かべた。「たいしたものね。ここ数年、勝手気ままに暮らして、随分と口が達者になったじゃないの。全くしつけがなっていないわ！」最初から満を残しておいて本当に良かった。でなければ、毎日結衣と顔を合わせていたら、とっくに気が狂っていたことでしょう！「私にしつけがなっていないとしたら、それは両親が教えてくれなかったからよ。産んだだけで育てないなんて、確かに親の資格はないわ」そう言うと、結衣は一方的に電話を切った。電話から聞こえるツーツーという音を聞きながら、静江の顔は青くなったり白くなったりし、怒鳴った。「もう一度かけなさい！」一体どこが育てなかったというのか、問い詰めてやらなければ気が済まない。当時、汐見家に引き取ってから、食べるものも着るものも、満と比べて何一つ不自由させたことなどなかったはずだ。あの子自身がどうしても涼介と一緒になると言い張ったから、汐見家もあの子と縁を切ったのではないか。どの口が「産んだだけで育てない」なんて言えるというの？！浩が再び電話をかけると、通話中と表示された。「奥様……お嬢様は、私の番号をブロックされたようです……」静江の顔が瞬時に険しくなった。本当に、たいした度胸だこと！ここ数年外にいて、ますます行儀が悪くなったわね。運転手に車をUターンさせて帰ろうかと思ったが、先ほどの電話での明輝の警告を思い出し、無理やり怒りを抑え込んだ。「ここで待ちなさい！」結衣がスマホを置いた途端、奈緒からメッセージが届き、執務室へ来るようにとのことだった。結衣は立ち上がって執務室のドアの前まで行き、ノックした。「どうぞ」結衣がドアを開けて入っていく。「金森先生、何か御用でしょうか？」「汐見先生、座って」結衣が渉の向かいに腰を下ろして初めて、渉はため息をついて口を開いた。「汐見先生、事務所に圧力がかかってきた。あなたを解雇するようにと」結衣は顔を上げて渉をまっすぐ見た。「長谷川涼介ですか？」渉は首を横に振った。「具体的に誰かは分からない。本来なら、あなたを解雇することには反対だったが、知っている通り、事務所は私一人でやっているわけではない。共同経営者も二人いるので」渉個人とし
