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第413話

Author: 藤原 白乃介
誠健はそう言いながら、ゆっくりと大きな手で知里の頬を撫でた。

整った男の顔がだんだんと近づき、情熱的な瞳には淡く光が揺れ、唇には挑発的な笑みが浮かんでいる。

熱を帯びた吐息が頬にかかり、知里の胸の鼓動は早鐘のように跳ね上がった。

唇と唇が触れそうになった、まさにその瞬間――

知里はハッと我に返り、慌てて手で誠健の唇を塞いだ。

「男って、ロクなやついないんだから!

このスキにキスしようとか、甘い夢見てんじゃないわよ!」

誠健は眉を上げ、呆れたように見つめ返す。

「俺が言ってたお返しって、キスのことだと思ってたの?」

知里は眉をひそめて答える。

「違うの?」

誠健は低く笑ってみせた。

「元々は、メシ作ってくれたらいいって思ってたけど? でもキスって形のお返しでも、俺的にはまあ……ありがたく受け取るけどね」

そう言うが早いか、再び唇を近づけてくる。

知里は真っ赤な顔で慌てて立ち上がり、誠健の腕から逃げ出した。

「バ、バカッ!そんなのあげるわけないでしょ!ちょっと、下に行って何か食べ物探してくる!」

そう言って、ぷいっと顔を背けて部屋を飛び出していった。

ドアが閉まるのを見届けると、誠健は唇にそっと指を当てて、いたずらっぽく微笑んだ。

「小バカ……俺が欲しかったのは、まさにそれなんだけどな」

――

その頃、別の場所で。

佳奈は、まるで長い夢を見ていたようだった。

夢の中で、誰かが彼女に語っていた。

「あなたは清司の娘じゃない。遠山家の本当の令嬢だ」と。

夢の中の彼女は殴られ、火に包まれそうになった。

でも彼女の中には、ただひとつの思いしかなかった。

――絶対に死ねない!お腹の子どもを守らなきゃ!ここから生きて出なきゃ!

そして、最後の力を振り絞って酒瓶を美桜の頭に叩きつけ、彼女を柱に縛りつけた。

火が迫る中、佳奈は救命浮き輪を抱えて海へ飛び込んだ。

それから、どれくらい漂ったのか分からない。

何度も朝日を見て、何度も夜に包まれた気がした。

そして、意識を失った。

目を開けたとき、彼女の目に映ったのは激しい波でも、灼熱の炎でもなく、質素な木造の小屋だった。

古びた家具、男物の所持品。

ようやく彼女は気づいた――助かったんだ、と。

すぐに彼女は自分のお腹に手を当てた。

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