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第958話

Penulis: 青葉凛
紫音は意を決し、スマホのアドレス帳から『律』の名前をタップした。

今の律が、血みどろの権力闘争の真っ只中にあり、寝る間を惜しんで多忙を極めていることは痛いほど分かっている。

彼自身の重すぎる問題で疲弊している時に、親友とアシスタントの恋愛トラブルなんて私的なことで巻き込みたくはなかった。

けれど、今の紫音の手札では、この広大な街の中から自力で二人を捜し出すことなど到底不可能だ。律の持つ圧倒的な情報網と人脈を頼るしか、手段がなかった。

コール音が数回鳴った後、低く落ち着いた声が鼓膜を打った。

「紫音?どうしたんだい、こんな時間に」

その変わらない優雅な響きに、張り詰めていた紫音の緊張が少しだけ解ける。

彼女は言葉を急ぎ、浩一の突然の婚約報道と、蘭が行方不明になっていること、そして仕事で窮地に立たされている現状を簡潔に説明した。

電話の向こうで、律は静かに耳を傾けていた。

「……状況は分かった。焦らなくていいよ。すぐに私の部下を動かして、二人の居場所を特定させる。大事には至っていないはずだ。

君のアシスタントも、今はあまりのショックに耐えきれず、誰の目にも触れない場所で
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    パソコンの画面に向かっても、企画書の文字はちっとも頭に入ってこなかった。蘭……お願いだから、返事をして……!紫音は、数分おきにチャットアプリを開いては、蘭へメッセージを送り続けていた。しかし、送ったメッセージには一向に「既読」がつかない。まるで、彼女が存在する世界と通信が断たれてしまったかのように、何の反応も返ってこなかった。心臓が嫌なリズムで脈打つ。律は「命の危険はない」と言ってくれたが、それでも最悪の想像を打ち消すことができない。もしも、彼女がすべてに絶望して、自ら命を絶つようなことを考えていたら……?そんな考えがよぎるたび、紫音は呼吸が浅くなるのを感じた。蘭は、昔からそういう子だった。本当は傷ついているくせに、いつも無理をして気丈に振る舞う。誰かに迷惑をかけることを極端に恐れ、どんなに理不尽な目に遭っても、すべてを一人で抱え込んでやり過ごそうとする。社交界の人間たちがどれほど狡猾で、目的のためなら他人の心など平気で踏みにじる連中か、紫音は身をもって知っている。彼らにとって、家柄の後ろ盾を持たない蘭など、取るに足らない存在でしかないのだ。そんな冷酷な世界で、あんなに不器用で真っすぐな蘭が一人で太刀打ちできるはずがなかった。……ごめんなさい、蘭。もしもあの時、私が浩一さんとの復縁を後押ししなければ。もしも私が、もっと彼女をこの理不尽な世界から遠ざけて守ってあげていたら。こんな残酷な結末にはならなかったのだろうか。後悔と自責の念ばかりが、波のように寄せては返していく。仕事など手につくはずもなく、紫音はただただスマートフォンを握りしめ、祈るような気持ちで画面を見つめ続けていた。気がつけば、窓の外はすっかり暗くなっていた。しかし、夜になっても蘭の行方は掴めないままだった。街の至る所を奔走していた浩一も、絶望的な焦燥感に苛まれていた。母親である貴子には、すでに直接怒鳴り込んで問い詰めた。だが、貴子は「あんな娘の居場所など知るわけがない」と一蹴したのだ。実際、母の言い分には筋が通っている。強引に結衣との婚約発表を済ませ、外堀を完璧に埋めた母にとって、今さら蘭を物理的に排除するようなリスクを冒す必要などないからだ。では、一体誰が……?いや、誰かの仕業ではないのだとしたら、本

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