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第2話

Auteur: 小木
安奈はどうして俺を待っていなかったんだろう。一人で帰るなんて、とても危険だ。

心がざわつき、無意識にスピードを上げた。

街道には時折数台の車が通り過ぎるだけで、細かな雨がしとしとと降り続け、この街全体が灰色の霧に包まれているようで、不気味だった。

車を運転して小さな路地に差し掛かったとき、雨音の中に何か別の音が混じっているのに気がついた。その音に引き寄せられるように車を停め、暗い路地の中を覗き込んだ。

「ウウウ……」

女の子のか弱い声が風に乗って耳に届き、思わず心が揺れた。

記憶が遡り、その声は俺を15歳のあの日へと引き戻した。

ある夜、バイト帰りに通りかかった路地から、女の子の叫び声が聞こえた。

その頃の俺はまだ若気の至りで、社会の厳しさを知らなかった。ただ正義感に駆られ、近くに落ちていた棒を拾って路地に飛び込んでいった。

結果として、その女の子は不良たちの報復を恐れ、俺が彼女をいじめたと嘘をついた。

そのせいで、俺は怪我だらけの体で数千円の罰金を支払い、警察に数日間拘留された。

さらに、その一件が原因で祖母が急に倒れ、そのまま息を引き取った。

それ以来、俺は冷淡になった。倒れた老人を見ても、助けずに見て見ぬふりをして通り過ぎるようになった。

再び路地から聞こえてきた女の子の怯えた息遣いに、暗い路地を見つめた俺は、それがまるで獣の大きな口のように感じた。

歯を食いしばり、心を鬼にしてその路地を通り過ぎる。

安奈だけが俺の唯一の大切な存在だ。くだらない正義感のために、今の平穏な生活を壊すわけにはいかない。

そう自分に言い聞かせ、無理やり自分を納得させようとしたが、実際には怯えていたのだ。

震えが止まらない手が、あの時の「正義感による惨事」が今も心に深い傷を残していることを示していた。

また傷だらけにされるのが怖い。

また濡れ衣を着せられるのが怖い。

また辱めを受けるのが怖い。

数え切れない恐れが正義を否定させたが、一番の原因は、やっぱり自分の心の弱さだった。

ようやくアパートに到着し、鍵も抜かずに急いで5階へ駆け上がった。

罪悪感と不安に突き動かされ、まるで何かに追われるかのように息を切らしながら階段を上る。

「安奈!安奈!お兄ちゃんが帰ったよ!安奈……」

片手でドアを叩き続け、もう一方の手で慌ててポケットから鍵を探し出した。

カチャリと音を立てて鍵が開き、ドアを勢いよく開けた。しかし、部屋の中が真っ暗なのを見て、胸の中が冷たく沈んだ。

「安奈はきっと寝ているんだ、絶対にそうだ……!」

そう自分に言い聞かせながら、明かりをつけて濡れたレインコートを脱がずに、妹の部屋へと駆け込んだ。

きれいに整えられたベッドカバー、きっちりと畳まれた布団、きちんと並べられた椅子……

俺の視線が部屋の隅々をさまよい、まるで壁に穴を開けるかのように見つめた。

「じゃあ、きっとトイレにいるんだ。間違いない!」

そうつぶやき、ぎこちなく笑みを浮かべながらトイレへと走った。

「安奈、安奈、お兄ちゃんが帰ったよ……」

トイレのドアを開けると、狭く閉塞感のある空間が目に入った。中は空っぽで、妹のピンク色のタオルが揺れながら床に落ちた。

部屋中を探し終えた後、俺は絶望感に打ちひしがれ、その場にへたり込んだ。

「安奈、お兄ちゃんとかくれんぼしているの?そうなんだろ?」

無意識にそうつぶやきながら、目は部屋の隅々をさまよった。

その時、路地で聞いた女の子の声が突然頭の中に蘇り、絶望と痛みが胸を貫いた。

「そんなはずない!そんなはずない!」

ふらつきながら立ち上がり、再び階段を駆け下りた。

空はこの悲劇を見たくないかのように目を閉じ、漆黒の闇が絶望感をさらに深めた。激しい雨が地面を叩きつけ、雨夜の狂想曲を奏でているようだった。

俺は車を走らせ、雨のカーテンに突っ込んでいった。雨が視界を遮っても、この道を何百回と通った経験がある俺には、次にどの角を曲がるべきか目を閉じていても分かる。

「そんなはずない、そんなはずない、安奈じゃない……」

車を止め、慌てて降りると、バイクはそのまま地面に倒れ、ミラーが割れ、その割れたミラーに映る自分の姿は、まるで心の中のようにバラバラだった。

つぶやきがどんどん小さくなり、雨音が俺の絶望をかき消していく。

路地の入口に立つと、鼻先に雨水の匂いと鉄錆のような匂いが混じって感じられた。

「そんなはずない、そんなはずない……」

俺は暗い路地へと駆け込み、闇に呑まれていく。散乱した物につまずいて倒れ込み、その手には血のような生臭い液体がべっとりとついていた。

ここはあまりにも暗く、街灯の光さえ入りたがらない。

手探りを続けると、濡れた髪が顔に張り付いた頭に触れた。

思わず身を乗り出し、ポケットからスマホを取り出してスイッチを押し、白い光が目の前の顔を照らした。

その顔を見た瞬間、瞳孔が開き、手からスマホが落ちそうになった。

「安奈!お兄ちゃんが来たよ!お兄ちゃんが来たよ!」

スマホを操作する手は震え、雨水で視界がどんどんぼやけていく中、救急車の番号を押し込んだ画面を凝視した。

「もしもし、こちらは……」

電話が繋がり、女性の声が聞こえてきた。

「さくら通りの福運商店です。ここに怪我人がいます。どうか急いで来てください!」

彼女の話を遮り、震える声で住所を伝え、救急車が早く来るよう懇願した。

スマホがジリジリと音を立てた後、画面が完全に消え、路地は再び暗闇に包まれた。

手が震え、小さな体を抱きかかえたくても、下手に触ることでさらに彼女を傷つけてしまうのではないかと恐れた。

レインコートを脱ぎ、小さな身体の上にそっと掛けて支え、心の中で焦燥を抱えながら、聞き慣れたサイレンの音を待ち続けた。

どれだけ経ったのか、耳をつんざくサイレンが雨の中を突き抜け、凍えた心臓がまた鼓動を取り戻した。

「ここだ!ここに怪我人がいる!」

レインコートを支えながら、路地の外に向かって大声で叫んだ。雨水が頬を伝い口の中に流れ込む。

おかしいな。雨って、こんなにしょっぱいのか?

まばゆい光が路地を照らし、本能的に目を閉じたが、それでも「助けてください!お願いです、彼女を助けてください!」と叫び続けた。

医療スタッフの一人が私を脇に連れ出し、担架に乗せられる妹を見つめながら、手に握りしめたレインコートを放さなかった。

大丈夫だ。きっと大丈夫だ。

妹は、将来私にお嫁さんを見つけてくれるって言ってたんだ。

彼女がそう言ったんだ。

閉ざされた扉を見つめながら、不安に駆られて手術室の外を行ったり来たり。拳を握ったり開いたりしながら待ち続けた。

この瞬間、時間はひどくゆっくりと過ぎていき、まるで何世紀も経ったように感じた。

なぜ中に入らないのだろう。せめて通報だけでもすればよかったのに。

自分は本当にクズだ。兄としての資格なんてない。

内心の罪悪感が溢れ、頭を拳で叩き続けた。そうすることで、手術室に飛び込む衝動を抑えているようだった。

白い扉が開き、私はすぐに近づいて行った。期待に満ちた目で出てきた医者を見上げる。

「先生、妹はどうなったんですか?」
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